short.1
「じゃ、お疲れさん」
下忍の簡単な任務を終え、アカデミーに報告書を出しに向かおうした時。
「カカシ先生!」
最近毎日のように呼び止めてくる声に振り向くと、サクラが近づいてくる。
「アカデミー行くんでしょ?私も行っていい?」
「いいよ」
嬉しそうに笑うサクラに当たり前のように左手を差し出すと、サクラも当たり前のようにその手を小さな手で握る。
それからサクラは昨日最後に会った後から今までにあった出来事を歩きながら話して、オレはそれに相槌をしたり大袈裟に驚いたり笑ったり。
1日のほとんどを共に過ごしているのにサクラは話す内容が絶えないらしい。
時折、サクラがオレを見る視線が変わる時がある。
教え子としてではない、別の意味が込められている視線。
オレはその視線にいつも気づかないふりをしてイチャパラを読みながらサクラの話を聞いていた。
いつからだっただろうか。
オレを見るサクラの瞳が女に変わったのは。
いつも異性から向けられる好意の視線を横を歩く少女から感じとった時から真っ直ぐ翡翠の瞳を見れなくなった。
もし見てしまったら。
今の居心地のいい関係を失ってしまう。
オレもサクラは好きだ。誰よりも大事だ。
でもそれは仲間として、師として。
オレの好きとサクラの好きは交わることはない。
その瞳を見てしまったらこの時間が終わってしまうと確信していた。
****
ある日、いつものように解散の合図を出してアカデミーに向かおうとした時。
「なぁなぁサクラちゃん、この後一楽行かない?もちろんオレの奢りだってばよ!」
サスケが帰り、ナルトも帰ると思いきやサクラを誘い出す。
サクラもいつも通りオレに付いてくると思いきや。
「いいわよ?」
まさかの承諾に、ナルトは両腕を挙げて大袈裟なほど喜ぶ。
驚いてサクラを見ていると、気づいたサクラがオレを見てニコリと微笑む。
「じゃあまたね、先生。明日こそは遅刻しないでよ」
「あ、あぁ・・・」
サクラは手を振ってナルトを連れて去って行った。
オレは2人の背中を見送り、1人歩く。
人波の中を歩きながら、先ほどのサクラの背中が頭から離れない。
あれだけ毎日オレに付いて来ていたというのに。
まぁ当然と言えば当然か。
好意を受け取ろうとしない男より好意を向けてくれる男に気持ちが傾いてしまうのは。
ましてはサクラはまだ12歳の子供。
恋に恋する乙女なのだ。
こうなるように仕向けたのは自分なのに、何故落ち込んでいるんだろうか。
ふぅ、とため息を吐いて、ふと、自分の手を見る。
右手には愛読書が、左手はポケットの外に出ていた。
普段は癖でポケットに手を突っ込んでいるのに。
ジッ、と左手を持ち上げて見る。
いつもと変わらないはずなのに、物足りなく、冷たい。
昔聞いたのか本で見たのか、『居なくなってからその人の大切さに気づく』というフレーズが頭の中をよぎる。
本当にその通りだな、と苦笑する。
気づかない内にサクラがオレの中を埋め尽くしていたらしい。
──会いたいな。
さっきまで一緒に居たというのに。
とりあえず先に報告書を出して、それから──。
顔を上げて前を見た時、視界の端にチラッと見えた色。
目で追いかけてると、人波から外れる薄紅色と黄色を見つける。
あの道を真っ直ぐ行くと一楽に辿り着く。
オレは人波を縫うように進み、少年と楽しそうに笑う少女に手を左手で掴んだ。
大きな目を丸くしてこちらを見る翡翠の瞳には情けない顔のオレが囚われていた。
下忍の簡単な任務を終え、アカデミーに報告書を出しに向かおうした時。
「カカシ先生!」
最近毎日のように呼び止めてくる声に振り向くと、サクラが近づいてくる。
「アカデミー行くんでしょ?私も行っていい?」
「いいよ」
嬉しそうに笑うサクラに当たり前のように左手を差し出すと、サクラも当たり前のようにその手を小さな手で握る。
それからサクラは昨日最後に会った後から今までにあった出来事を歩きながら話して、オレはそれに相槌をしたり大袈裟に驚いたり笑ったり。
1日のほとんどを共に過ごしているのにサクラは話す内容が絶えないらしい。
時折、サクラがオレを見る視線が変わる時がある。
教え子としてではない、別の意味が込められている視線。
オレはその視線にいつも気づかないふりをしてイチャパラを読みながらサクラの話を聞いていた。
いつからだっただろうか。
オレを見るサクラの瞳が女に変わったのは。
いつも異性から向けられる好意の視線を横を歩く少女から感じとった時から真っ直ぐ翡翠の瞳を見れなくなった。
もし見てしまったら。
今の居心地のいい関係を失ってしまう。
オレもサクラは好きだ。誰よりも大事だ。
でもそれは仲間として、師として。
オレの好きとサクラの好きは交わることはない。
その瞳を見てしまったらこの時間が終わってしまうと確信していた。
****
ある日、いつものように解散の合図を出してアカデミーに向かおうとした時。
「なぁなぁサクラちゃん、この後一楽行かない?もちろんオレの奢りだってばよ!」
サスケが帰り、ナルトも帰ると思いきやサクラを誘い出す。
サクラもいつも通りオレに付いてくると思いきや。
「いいわよ?」
まさかの承諾に、ナルトは両腕を挙げて大袈裟なほど喜ぶ。
驚いてサクラを見ていると、気づいたサクラがオレを見てニコリと微笑む。
「じゃあまたね、先生。明日こそは遅刻しないでよ」
「あ、あぁ・・・」
サクラは手を振ってナルトを連れて去って行った。
オレは2人の背中を見送り、1人歩く。
人波の中を歩きながら、先ほどのサクラの背中が頭から離れない。
あれだけ毎日オレに付いて来ていたというのに。
まぁ当然と言えば当然か。
好意を受け取ろうとしない男より好意を向けてくれる男に気持ちが傾いてしまうのは。
ましてはサクラはまだ12歳の子供。
恋に恋する乙女なのだ。
こうなるように仕向けたのは自分なのに、何故落ち込んでいるんだろうか。
ふぅ、とため息を吐いて、ふと、自分の手を見る。
右手には愛読書が、左手はポケットの外に出ていた。
普段は癖でポケットに手を突っ込んでいるのに。
ジッ、と左手を持ち上げて見る。
いつもと変わらないはずなのに、物足りなく、冷たい。
昔聞いたのか本で見たのか、『居なくなってからその人の大切さに気づく』というフレーズが頭の中をよぎる。
本当にその通りだな、と苦笑する。
気づかない内にサクラがオレの中を埋め尽くしていたらしい。
──会いたいな。
さっきまで一緒に居たというのに。
とりあえず先に報告書を出して、それから──。
顔を上げて前を見た時、視界の端にチラッと見えた色。
目で追いかけてると、人波から外れる薄紅色と黄色を見つける。
あの道を真っ直ぐ行くと一楽に辿り着く。
オレは人波を縫うように進み、少年と楽しそうに笑う少女に手を左手で掴んだ。
大きな目を丸くしてこちらを見る翡翠の瞳には情けない顔のオレが囚われていた。
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