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short.1

里に戻る道を歩いている時から嫌な予感はしていた。
単独の任務を終え、阿吽の門を通ったとき。

「カカシ先生!!」

門のそばにいたナルト、サイ、ヤマトが近づいてくる。
1人足りない。
オレの、大切な恋人が。

「・・・サクラは、どうした」

心臓が早鐘を打つのを3人に気づかれないように冷静を装う。
平静を保てていないナルトの肩をヤマトが掴み、代わりにヤマトが口が開く。

「先輩。サクラは──」



****



「戻ったかカカシ」

病室に入ると、そこには腕を組んで肩越しにこちらを見る綱手様と、その横に控えるシズネ。
そして・・・。

「サクラ・・・」

青白い顔でベッドで横になるサクラに近づいて頬を撫でる。
いつもなら撫でれば現れる翡翠の瞳は固く閉ざされている。

「敵の攻撃を受けたが命には問題はない。・・・命にはな」

ため息混じりの言葉に振り向き綱手様を見る。

「何があったんです」
「任務中に敵と交戦した際に、サクラは敵の攻撃で気を失い・・・目覚めた時には声が出なくなっていた」
「声が・・・?すぐに治るんですよね」
「難しいね。毒なら解毒が出来るが、全く知らない術だ。こればかりは時間をかけて見ていくしかないね」
「そんな・・・」

弱々しく眠るサクラの顔に奥歯を噛み締める。

「心配するな。言っただろう、命には問題ないと。私も文献を漁ってみるから、お前はサクラの側にいてやれ。分かったな」
「・・・はい」

弱々しく返事をすると綱手様は頷いて、シズネを連れて病室を出て行った。
オレは備え付けのパイプ椅子に座り、眠るサクラの顔を見つめる。

「サクラ・・・守ってやれなくてごめんな・・・」

サクラの危機に側にいなかった自分に怒りを感じながら可愛らしい額に唇を落とした。




夜。
落ち着かなくてあれからずっと病室で椅子に座ったまま休んでいる。
任務終わりもあってウトウトしているとズボンを引っ張られ、ゆっくりと眼を開けると翡翠の瞳がこちらを見ていた。

「サクラ・・・!」

慌てて体を起こしてサクラの手を取る。

「体は大丈夫か?」

そう聞くと、サクラは微笑んで頷く。
口がオレの名を呼ぶが、声に出ず可愛らしい声を聞くことが出来なかった。
顔を歪めて喉を押さえるサクラにオレも苦痛を覚える。

「綱手様は時間とともに治るだろうと仰っていた。辛いだろうけど・・・」

サクラは首を横に振り、オレの手を取って頬に当て擦り寄せる。
可愛らしい唇が『大丈夫』と動き、安心させるように微笑む。
どんなに自身が苦境に立たされても、相手を思いやれる優しい恋人。
掴み手を逆に引き寄せ、口布を下げてその可愛らしい手のひらにキスをする。

「オレが付いてる。絶対大丈夫だ」

サクラは満面の笑みで頷いた。



****


あれから数日。
時間があるときはサクラの病室に赴き、サクラと話に花を咲かせる。
と言ってもサクラはまだ声が出ないので、サクラの綺麗な字で書かれた紙を見て話す、という形だが。
元に戻るまで任務も修行もお預けのサクラの世界は病室だけ。
お見舞いにくる仲間たちの話を聞くのがサクラの今の楽しみなんだとか。

サクラの楽しそうに笑う顔を見てるだけで幸せだけど。
やはり鈴のようなあの可愛らしい声を聞きたい。



****



「カカシ先生ーー!!」

Sランクの任務を数日かけて終わらせて里に戻ると、ナルトが大きく腕を振りながら駆けてくる。
すごく既視感があり、また早鐘を打ち始める。

「ナルト、どうした」
「サクラちゃんが、サクラちゃんが!!」

慌てた様子で話すナルトの言葉を最後まで聞かずに屋根に飛んで病院へと急いだ。



「サクラ!!」

勢いよく病室を開けると、綱手様やヤマト、サイに囲まれてベッドで上半身を起こしたサクラが目を丸くし、目が合うと頬を緩ませる。

「おかえり、なさい」

長く声を出せなかったせいで拙くはあったが、久方ぶりに聞くサクラの声に、ゆっくりと近づいて頬に手を添える。

「・・・サクラ、声が」
「徐々に術の効果が薄れてきてるようでね。ただ、まだ人の名前は発せれないようだけど」
「そうですか・・・良かった」

全快とは言えなくてもようやく声が聞こえただけでも嬉しい。
頭を撫でるとサクラは嬉しそうに笑った。

「とにかくだ。お前はまだ全快じゃないんだ。完全に治るまで仕事も禁止。抜け出すんじゃないよ」
「・・・はい」

睨む綱手様にサクラは身を縮ませている。
オレの知らぬ間に抜け出したのだろうか。

「あとは任せたぞカカシ」
「はい」

返事をすると皆がゾロゾロと部屋を出ていく。
やっと追いついて肩で息をするナルトもそのまま追い出された。
気を使ってくれた仲間達に感謝をし、オレはパイプ椅子を持ってきてサクラの側に座り、
暫く喋れなかった時間を埋めるようにオレたちは夜遅くまでお喋りに花を咲かせた。


それからサクラはだんだん皆の名前を呼べるようになった。
ナルト、綱手様、いのちゃん、ヤマト、サイ。
嬉しそうに皆の名前を話すサクラに、オレも嬉しくなった。

しかし、サクラはオレの名前だけ呼べずにいた。

名前を呼んでもらえなくても。
それでも、声を聞けるだけで良かった。





次の日の昼、次の任務まで時間が出来てサクラの顔を見に行った時だった。
驚かせようと静かに病室のドアを開けると、サクラが顔に手を当て、声を殺して泣いていた。
その姿を見た時、泣いている理由がすぐに分かった。
オレのことだと。
心配かけないように皆の前では気丈に振る舞っていたんだ。
何でそれを見抜けなかったんだ。
拳を握ると爪が手に食い込む。
1人で泣いているということはきっと見られたくないのだろう、オレにも。
そっ、と扉を閉めて病室を後にした。



****



任務が終わり里に帰ってきた時には日付が変わり、人々は眠りにつく。
その足で病院に向い、看護師に無理を言って病室へと向かう。
電気の消えた部屋のドアを静かに開ける。
ゆっくり部屋の中を進み、部屋の真ん中にあるベッドの側で足を止める。
規則正しく眠る愛おしいサクラ。
そっと髪を掬い、手を開くとサラサラと薄紅色の髪が流れる。

「サクラ・・・」

何度も何度も髪を掬い、鼻を埋めると花の良い香りがする。
オレを魅了する、サクラの香り。
愛おしそうにオレの名前を呼ぶサクラの可愛らしい声。
もう、ずっと聞いていない。

サクラ、サクラ・・・。

「オレの名前を呼んでくれ、サクラ・・・」

オレは眠るサクラの唇をそっと塞いだ。
起きてほしいようで、起きてほしくない。
オレの名前が呼べなくてサクラに辛い思いをしてほしくない。
もう一度、サクラの額にキスをして病室を出ようと踵を返した時。


鈴の音が聞こえた。


恐る恐る振り返ると、ゆっくり上半身を起こすサクラが口を開く。

「カカシせんせい」
「・・・サクラ」

体をサクラに向けるとサクラが手を伸ばしてきてその手を取る。

「サクラ、名前を呼んで」
「カカシせんせ」
「もっと呼んで」
「先生、カカシ先生」
「もっと」

何回もオレの名前を紡いでくれるサクラの唇を塞ぎ、押し倒して何度も角度を変えて貪り。
甘さに酔いしれる。

「はっ、はぁ・・・」

苦しそうに肩で息をするサクラは可愛らしく睨んでくる。

「も、先生のバカ・・・」
「ごめん」

軽く謝るオレにサクラは涙を滲ませながら頬を膨らませ、オレへと腕を伸ばす。
お互いに背中に手を回し、隙間を埋めるよう、ピッタリと離れないように抱きしめ合い。


「カカシ先生、大好きよ」




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