short.1
「お。おーい、サクラー」
任務が終わってアカデミーの廊下を歩いていると、ある一室から教え子の1人が出てくる。
両腕に大量の書類を抱えたサクラは呼ばれてこっちを見て、「ゲッ」と言いたそうな嫌な顔をした。
「ちょっと、なーにその顔は。恩師に対して失礼なんじゃないの」
「恩師・・・?常に1時間以上遅刻してきて子供の前で如何わしい本を読んでる人が、恩師・・・?」
「サクラ冷たい・・・昔は優しい子だったのに」
ジトっと責める視線を向けられて、シクシクと顔に手を当てて泣き真似をする。
「すみませんね、優しくなくて。師匠のとこに早くこれ持っていかないといけないのでこれで失礼します」
書類が落ちないように小さく頭を下げる礼儀を見せながら、フンっと鼻を鳴らして去っていくサクラ。
そんなサクラに小さく笑って見送り、ふぅと息を吐く。
「・・・本当、冷たくなっちゃって」
ナルトとサスケが里からいなくなって、サクラも綱手様に弟子入りをしてから七班は活動休止状態になってオレは上忍として任務をこなすようになった。
毎日のように会っていたのが懐かしくなるほどサクラに会っていないな、と思っていたのに、久しぶりに会ったら忍としての礼儀を身につけていた。
綱手様の元でちゃんと成長しているのは嬉しいけど、ああやって素気なくされるのは寂しい。
小生意気にオレに文句を言っていた頃が懐かしい。
我儘で可愛い、小さい忍たち。
昔に思いを馳せていると、サクラが出てきた部屋の扉がまた開く。
「あれ、カカシさんじゃないですか」
イズモとコテツが出てくる。
サクラと同じように書類を持っていることから、火影の補佐役の2人と一緒にサクラも作業をしていたのだろう。
時々3人一緒に歩いているのを見かける。
「よ、お疲れさん。サクラは迷惑かけてないか?」
「迷惑どころか、すごく助かってますよ。修行と病院の方もしているのに補佐業務もこなしてるんですよ、サクラ。それで自分の方が疲れてるだろうにすごく気が利いて。コテツより仕事出来てますよ」
「なに!?・・・まぁ確かにサクラが来てから楽にはなったな。さすがカカシさんの教え子ですね」
「・・・オレは何もしてないよ。それはサクラが最初から持ってた気質と、綱手様のおかげ」
そう、オレは何もしていない。
九尾のナルトとうちはの生き残りのサスケの監視を言いつけられ、緩和剤として何のしがらみもない、一般家庭のサクラが選ばれて。
オレはナルトとサスケばかりで、2人との差にサクラが悩んでいたことを気づいていながら何もしてやれず、綱手様に頼った。
本当、こんなのが恩師とかおこがましいな。
「ところで、カカシさんこんなところでどうしたんですか?」
「あー、そうだった。今日飲みに行かないか?」
「あー・・・今日は無理ですね。さっきまで綱手様が逃亡してたおかげで仕事が溜まりまくってるんですよ」
「何やってるんだあの人は・・・今日は1人飲みかぁ。ゲンマにもさっき振られたんだよね」
「アスマさんと紅さんは?」
「2人とも泊まりの任務だってさ」
「じゃあガイさん」
「ガイ?ガイは『青春合宿だー!』とか言ってリーくんと逆立ちして門に向かっていくの見かけたよ。その後ろをテンテンとネジくんが恥ずかしそうに付いていってた」
「あの人も相変わらずですね・・・」
2人と呆れて笑っていると、後ろから肩が叩かれる。
「話は聞かせてもらったわよ」
****
「あははは!美味しかったー!」
顔を真っ赤にして千鳥足で店を出たアンコの後から続いて店を出る。
飲兵衛のアンコによって財布の中がスカスカになってしまった。
だからアンコとは飲みたくなかったんだよ・・・。
「さぁカカシ!次!次に行くわよ!」
「もうお前無理だって・・・家まで送るから」
「まだ全然余裕だっての!」
アンコは陽気に笑いながら歩いていくので、オレは肩を落として後を付いていく。
「ねぇ、カカシ」
「なーに?」
アンコの後をイチャパラを読みながら歩いていると、アンコは止まってある方向を指さす。
「あれ、あんたの生徒じゃないの?」
「え?」
指差す方を見ると、確かにそこにはサクラがいた。
しかし1人ではなく──。
「離して、ください・・・っ!」
男に腕を掴まれたサクラが怒鳴る。
酔っ払っているのか、2人組の男はサクラを近づいてフラヘラ笑っている。
「えー?もう暗くて心配だから家まで送るって言ってるだけでしょー?」
「結構です・・・!1人で帰れます!」
「大丈夫、大丈夫。お兄さんたち優しいから。ほら行こー」
「や・・・っ!」
1人はサクラの腕を引っ張り、もう1人は嫌がるサクラの背中を押して促す。
オレはその男の肩を掴んだ。
「・・・何アンタ」
「この子に触るな」
サクラを押していた男はいきなり現れたオレにガンを飛ばしてくる。
前の2人も振り向いて、涙目のサクラはオレを見て目を丸くする。
「カカシ先生・・・」
「先生?」
教師の登場に驚いたのか男の手が緩んだのを見てサクラの腕を引っ張って男たちから引き離す。
こいつらからサクラの顔が見えないように肩を掴んで胸元に押しつける。
「この子に何か用?」
「用っていうか、こんな暗い中で1人危ないから送ってあげようってしただけですよ〜センセ〜」
「そーそー!」
男たちはゲラゲラと耳障りな声で笑う。
「──あぁ、確かにお前らみたいなやつがいるしね」
「・・・は?」
オレが冷たく笑うと男たちはオレを睨み、一触即発の空気が流れる。
視界が封じられたサクラの体が強張ったのが分かり、安心させるようにグッと更に体を引き寄せる。
その時。
「はいはい。そこまでー」
オレたちの間にアンコが割り入る。
「はぁ?あんた誰だよ!」
「まぁまぁ。あんた達、もしかして里の外から来たわけ?」
「・・・だったら何だよ」
アンコは男達に内緒話するように近づく。
胸元が開いているから男たちはそこに釘付けになって大人しくなった。
男とは残念な生き物だな。
「あの男ね、木ノ葉で1番強いって言われてる忍なのよ。敵の手配書にも載るぐらい。君たち、殺されちゃうかもね〜」
「──え」
アンコの言葉に顔を強張らせた男たちに、オレはほんの少しの殺気を込めて冷笑を送った。
すると面白いぐらいに顔面蒼白になって、「くそっ」と舌打ちを打って背中を向けて逃げていった。
アンコも笑いながら男たちを見送り、こちらに向き合う。
「アンコ。ありがとね」
「お礼は団子でよろしく!」
親指を立ててくるアンコに苦笑するも、本当にアンコには助かった。
危うくここが血の海になるところだった。
殺しはしないよ?瀕死程度に。
「てかさ。その子大丈夫?息してる?」
「え?」
アンコの言葉に大人しくなってすっかり存在を忘れていたサクラを見る。
オレの胸元に顔を埋めて、何故か耳が赤くなっていた。
「サクラ?大丈夫か?」
体調でも悪いのかと肩に置いていた手を離すと、サクラは勢いよくオレから離れた。
「だ、大丈夫、です!追っ払ってくれてありがとうございました!アンコさんも!」
サクラは耳だけではなく顔も真っ赤にしてお礼を言ってくる。
アンコは「どういたしまして〜」と笑う。
「・・・本当に大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫よ!そ、それじゃあまた!」
「あっ」
サクラはそう言って走り去って行った。
呼び止めようとした手は宙を彷徨い、その手で首裏を押さえて息を吐く。
「あ〜らら。あんな初心な子まで誑かすなんてねぇ」
「・・・何のこと?」
アンコが茶化すように言ってきたので、オレはアンコを見ずに返事をすると「ケッ」とアンコは吐き捨てる。
「ほ〜んと、アンタってつまらない男ね」
ほら次行くわよ!とアンコは1人、サクラが去って行った方とは別の方へと歩きだす。
アンコの後に続こうとするも足を止め、後ろを振り向く。
気づいてるよ、サクラの表情の意味を。
それはサクラがサスケに向ける顔と同じだったから。
でもきっとそれはいっときの気の迷いだ。
それにオレも気持ちを受け入れるつもりはない。
──でも。
もし、次会った時。
いつもの表情が違っていたら。
どこか楽しみな自分がいた。
任務が終わってアカデミーの廊下を歩いていると、ある一室から教え子の1人が出てくる。
両腕に大量の書類を抱えたサクラは呼ばれてこっちを見て、「ゲッ」と言いたそうな嫌な顔をした。
「ちょっと、なーにその顔は。恩師に対して失礼なんじゃないの」
「恩師・・・?常に1時間以上遅刻してきて子供の前で如何わしい本を読んでる人が、恩師・・・?」
「サクラ冷たい・・・昔は優しい子だったのに」
ジトっと責める視線を向けられて、シクシクと顔に手を当てて泣き真似をする。
「すみませんね、優しくなくて。師匠のとこに早くこれ持っていかないといけないのでこれで失礼します」
書類が落ちないように小さく頭を下げる礼儀を見せながら、フンっと鼻を鳴らして去っていくサクラ。
そんなサクラに小さく笑って見送り、ふぅと息を吐く。
「・・・本当、冷たくなっちゃって」
ナルトとサスケが里からいなくなって、サクラも綱手様に弟子入りをしてから七班は活動休止状態になってオレは上忍として任務をこなすようになった。
毎日のように会っていたのが懐かしくなるほどサクラに会っていないな、と思っていたのに、久しぶりに会ったら忍としての礼儀を身につけていた。
綱手様の元でちゃんと成長しているのは嬉しいけど、ああやって素気なくされるのは寂しい。
小生意気にオレに文句を言っていた頃が懐かしい。
我儘で可愛い、小さい忍たち。
昔に思いを馳せていると、サクラが出てきた部屋の扉がまた開く。
「あれ、カカシさんじゃないですか」
イズモとコテツが出てくる。
サクラと同じように書類を持っていることから、火影の補佐役の2人と一緒にサクラも作業をしていたのだろう。
時々3人一緒に歩いているのを見かける。
「よ、お疲れさん。サクラは迷惑かけてないか?」
「迷惑どころか、すごく助かってますよ。修行と病院の方もしているのに補佐業務もこなしてるんですよ、サクラ。それで自分の方が疲れてるだろうにすごく気が利いて。コテツより仕事出来てますよ」
「なに!?・・・まぁ確かにサクラが来てから楽にはなったな。さすがカカシさんの教え子ですね」
「・・・オレは何もしてないよ。それはサクラが最初から持ってた気質と、綱手様のおかげ」
そう、オレは何もしていない。
九尾のナルトとうちはの生き残りのサスケの監視を言いつけられ、緩和剤として何のしがらみもない、一般家庭のサクラが選ばれて。
オレはナルトとサスケばかりで、2人との差にサクラが悩んでいたことを気づいていながら何もしてやれず、綱手様に頼った。
本当、こんなのが恩師とかおこがましいな。
「ところで、カカシさんこんなところでどうしたんですか?」
「あー、そうだった。今日飲みに行かないか?」
「あー・・・今日は無理ですね。さっきまで綱手様が逃亡してたおかげで仕事が溜まりまくってるんですよ」
「何やってるんだあの人は・・・今日は1人飲みかぁ。ゲンマにもさっき振られたんだよね」
「アスマさんと紅さんは?」
「2人とも泊まりの任務だってさ」
「じゃあガイさん」
「ガイ?ガイは『青春合宿だー!』とか言ってリーくんと逆立ちして門に向かっていくの見かけたよ。その後ろをテンテンとネジくんが恥ずかしそうに付いていってた」
「あの人も相変わらずですね・・・」
2人と呆れて笑っていると、後ろから肩が叩かれる。
「話は聞かせてもらったわよ」
****
「あははは!美味しかったー!」
顔を真っ赤にして千鳥足で店を出たアンコの後から続いて店を出る。
飲兵衛のアンコによって財布の中がスカスカになってしまった。
だからアンコとは飲みたくなかったんだよ・・・。
「さぁカカシ!次!次に行くわよ!」
「もうお前無理だって・・・家まで送るから」
「まだ全然余裕だっての!」
アンコは陽気に笑いながら歩いていくので、オレは肩を落として後を付いていく。
「ねぇ、カカシ」
「なーに?」
アンコの後をイチャパラを読みながら歩いていると、アンコは止まってある方向を指さす。
「あれ、あんたの生徒じゃないの?」
「え?」
指差す方を見ると、確かにそこにはサクラがいた。
しかし1人ではなく──。
「離して、ください・・・っ!」
男に腕を掴まれたサクラが怒鳴る。
酔っ払っているのか、2人組の男はサクラを近づいてフラヘラ笑っている。
「えー?もう暗くて心配だから家まで送るって言ってるだけでしょー?」
「結構です・・・!1人で帰れます!」
「大丈夫、大丈夫。お兄さんたち優しいから。ほら行こー」
「や・・・っ!」
1人はサクラの腕を引っ張り、もう1人は嫌がるサクラの背中を押して促す。
オレはその男の肩を掴んだ。
「・・・何アンタ」
「この子に触るな」
サクラを押していた男はいきなり現れたオレにガンを飛ばしてくる。
前の2人も振り向いて、涙目のサクラはオレを見て目を丸くする。
「カカシ先生・・・」
「先生?」
教師の登場に驚いたのか男の手が緩んだのを見てサクラの腕を引っ張って男たちから引き離す。
こいつらからサクラの顔が見えないように肩を掴んで胸元に押しつける。
「この子に何か用?」
「用っていうか、こんな暗い中で1人危ないから送ってあげようってしただけですよ〜センセ〜」
「そーそー!」
男たちはゲラゲラと耳障りな声で笑う。
「──あぁ、確かにお前らみたいなやつがいるしね」
「・・・は?」
オレが冷たく笑うと男たちはオレを睨み、一触即発の空気が流れる。
視界が封じられたサクラの体が強張ったのが分かり、安心させるようにグッと更に体を引き寄せる。
その時。
「はいはい。そこまでー」
オレたちの間にアンコが割り入る。
「はぁ?あんた誰だよ!」
「まぁまぁ。あんた達、もしかして里の外から来たわけ?」
「・・・だったら何だよ」
アンコは男達に内緒話するように近づく。
胸元が開いているから男たちはそこに釘付けになって大人しくなった。
男とは残念な生き物だな。
「あの男ね、木ノ葉で1番強いって言われてる忍なのよ。敵の手配書にも載るぐらい。君たち、殺されちゃうかもね〜」
「──え」
アンコの言葉に顔を強張らせた男たちに、オレはほんの少しの殺気を込めて冷笑を送った。
すると面白いぐらいに顔面蒼白になって、「くそっ」と舌打ちを打って背中を向けて逃げていった。
アンコも笑いながら男たちを見送り、こちらに向き合う。
「アンコ。ありがとね」
「お礼は団子でよろしく!」
親指を立ててくるアンコに苦笑するも、本当にアンコには助かった。
危うくここが血の海になるところだった。
殺しはしないよ?瀕死程度に。
「てかさ。その子大丈夫?息してる?」
「え?」
アンコの言葉に大人しくなってすっかり存在を忘れていたサクラを見る。
オレの胸元に顔を埋めて、何故か耳が赤くなっていた。
「サクラ?大丈夫か?」
体調でも悪いのかと肩に置いていた手を離すと、サクラは勢いよくオレから離れた。
「だ、大丈夫、です!追っ払ってくれてありがとうございました!アンコさんも!」
サクラは耳だけではなく顔も真っ赤にしてお礼を言ってくる。
アンコは「どういたしまして〜」と笑う。
「・・・本当に大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫よ!そ、それじゃあまた!」
「あっ」
サクラはそう言って走り去って行った。
呼び止めようとした手は宙を彷徨い、その手で首裏を押さえて息を吐く。
「あ〜らら。あんな初心な子まで誑かすなんてねぇ」
「・・・何のこと?」
アンコが茶化すように言ってきたので、オレはアンコを見ずに返事をすると「ケッ」とアンコは吐き捨てる。
「ほ〜んと、アンタってつまらない男ね」
ほら次行くわよ!とアンコは1人、サクラが去って行った方とは別の方へと歩きだす。
アンコの後に続こうとするも足を止め、後ろを振り向く。
気づいてるよ、サクラの表情の意味を。
それはサクラがサスケに向ける顔と同じだったから。
でもきっとそれはいっときの気の迷いだ。
それにオレも気持ちを受け入れるつもりはない。
──でも。
もし、次会った時。
いつもの表情が違っていたら。
どこか楽しみな自分がいた。
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