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暗部の任務が終わり、頑張ってくれた忍犬たちを里にある森の中で遊ばせている時だった。

「いやーーー!」

甲高い悲鳴が聞こえ、忍犬たちの耳がピンと立つ。
里の中だから敵国の忍が忍び込んでいるとは考えられないが、犬たちが今にも駆け出そうとしている。
オレは動物の仮面を付け直して、一気に駆け出す。



「やだ、やだ!こないでってば!!」

薄暗い森の枝の上を走っていると、少女と犬を見つける。
少女は泣き叫び、野良らしき犬は今にも飛びかかろうとジリジリ近づいている。
オレはブルに目配らせ、ブルは大きく息を吸い込み。

「バウッ!!!」
「キャン!!」

ブルの吠えに野良犬は悲鳴を上げ、尻尾を巻いて逃げていく。
少女は一瞬の出来事に呆然としていたが、木の上からオレたちが降りてきたことに大きく体を跳ねさせて大きな瞳がまた潤み出す。
そりゃ仮面を付けた男が犬を連れて上から降ってきたら怖いだろう。
規則違反だがしょうがない、とオレは仮面と口布もずらして目が合うようにしゃがむと、珍しい髪色をした5、6歳の少女は何故か頬を染めていた。

「お前、こんなとこで何してんの」
「サクラ」
「・・・サクラ、何してたの」
「サクラね、いのちゃんにきれいなおはなをあげたいとおもってね、ママにないしょでここにきたんだけど・・・」

迷子になって野良犬に絡まれたのか。
子供にはこの森は広すぎる。
また泣きそうなサクラという少女の頭を撫でると、顔を上げて嬉しそうに笑う。
初対面の男にこの気の許し方は危ないのではないか?
とにかく、この少女を森の外に出さなければまた野良犬に嗅ぎつけられるかもしれない。
オレはサクラを抱え上げて外へと歩き出す。

「どこいくの?」
「森の外」
「おはな・・・」
「花はお母さんと一緒に来な。また犬が来たら怖いだろ」

こくん、と頷いたサクラはオレの顔を見て徐にオレの目の傷に触れる。

「いたい?」
「・・・痛くないよ」

触られても痛くないのは本当だ。
痛いのは別のとこ。
胸の奥にあるところがずっとズキズキしている。

「でもおにいちゃん、いたそうなおかおしてる」
「・・・・・・」
「いたいのいたいの、とんでけー!」

サクラは目をバシバシ叩いて手を上げる。
その行為の方が痛かったが、満足そうに笑う少女にオレも思わず笑った。
それからサクラがずっと喋り、オレはただ相槌を打っていると森の外に出る。
そっとサクラを降して背中を押す。

「じゃあな」
「うん、またね!」

サクラは腕を大きく振って、また会うみたいに言いながら人の中へと走っていった。
また、なんて来るはずないのに。
光にいるサクラと、闇の中にいるオレがまた交わることなどないのだ。
ブルの頭に乗っているパックンが何か言いたそうな顔をしていて、その頭を撫でてまたオレ達は森の中に消えていく。




それから数年後。
何の因果かオレは上忍師となり、その教え子の1人があの時の少女など、その時のオレは想像も出来ていなかった。



****



「──んせ、カカシ先生起きてったら」

顔をバシバシ叩かれ、眉間に皺を寄せながら目を開けると薄紅色の少女が顔を覗かせて微笑む。

「おはよう先生」
「・・・はよ」
「朝ごはん出来てるから顔洗ってきて」

そう言いながらサクラはパタパタとキッチンに向かうのを見て体を起こす。
我が物顔で朝からいるサクラだが、彼女ではない。ただの教え子。

オレの部下に付くときに火影様から見せられた3人の写真、微笑むサクラの顔があの時の少女とソックリで。
まさかな、と思いながら配属の日、アカデミーの教室でナルトからの黒板消しの悪戯を受け、顔を上げて目を丸くするサクラを見た瞬間、あの時の子供だと確信した。
サクラもあの時のことを覚えていたらしく、その日からサクラはオレに付きまとうようになった。
毎朝勝手にオレの家に入り込んで一緒に朝食を食べて一緒に橋まで行って。
任務が終わればアカデミーにも付いてきて、帰りにスーパーに寄って買い物をして、そしてまたオレの家に来て一緒に夕飯を食べる。
もちろん泊まらせたことはない。
サクラは毎日甲斐甲斐しくオレの家と自分の家を行き来しているのだ。
どうしたものかとアスマと紅に相談すると、

『まるで通い妻ね』

紅のとんでもない発言にオレは頭を抱えた。



****



結局良い案も出ず、それからもサクラは押しかけ女房のように居座っている。

「なぁ・・・サクラ」
「なに?」

椅子に座り、お茶を啜りながらベッドの上で寛ぐサクラに話しかける。

「何で毎日オレのところに来るんだ?」

率直な質問をすると、雑誌を読んでいたサクラは何か考えている顔をして、ニンマリと笑う。

「あのね、私、昔から王子様のお嫁さんになりたかったの」
「ん?」

脈略のない答えに首を傾げる。

「でね、あの日・・・犬から助けてくれたカカシ先生が王子様に見えたの」
「ぶっ!!」

とんでもない発言に思わずお茶を吹き出す。
王子?オレが?
その言葉が頭の中でグルグル回り続ける。

「それで、あの時のお兄ちゃんが忍だって知って、私も忍者になったらまた会えるかもって思ったら、まさかこんなに早く会えるなんて思わなかった」

サクラはベッドから降りて、咳き込むオレの頬に手を添えて目が合うように上を向かされる。

「カカシ先生。私の王子様。私の夢、叶えてくれる?」

サクラの指がオレの口布を下げる。
愛おしそうに微笑む顔がだんだん近づいてきて。

こんな汚れたオレのことを王子様なんて馬鹿なことを言うやつはサクラ以外にいないだろう。
でも、こんなオレが誰かを幸せに出来るなら──。


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