short.1
「はいチーズ」
カメラをカカシ先生に向けて、声をかけてボタンを押す。
すぐに写真が印刷されてくるタイプのカメラで、出来立てホヤホヤの写真を見て顔を顰める。
「・・・カカシ先生、またぶれてるんだけど」
写真の中のカカシ先生は勢いよく顔を動かしたお陰で誰か分からない。
眉間に皺を寄せて睨むも、こちらを見ない先生にため息を吐く。
さっきからこの調子なのだ。
カカシ先生と付き合って数ヶ月。
先生にはよく写真を撮られるが先生の写真は持ってないことに気づいた。
お父さんからカメラを借りてきて朝から写真を撮っているというのに。
1枚もまともに写真が撮れていない。
カメラを向けるとすぐに顔を背けるカカシ先生。
バレないようにこっそり向けても何故かバレてしまうのだ。
机の上にあるのは全部がボケている失敗の数々。
「もう、いい加減ちゃんと撮らせてよ」
「それがねー、はたけ家に代々伝わる家訓があってさ」
「・・・なに」
「魂を取られるから写真に写るなってね」
「・・・・・・」
何も言わず、据わった目で見ているとすぐに「まぁ、嘘なんだけど」と発言を撤回する。
この男は息を吸うように嘘をつくな。
「何でそんなに嫌がるのよ」
「だって恥ずかしいじゃない?自分の姿が客観的に見えるのって」
「女々しい・・・」
「聞こえてますけどー?」
ボソッと呟くと私の両頬をつねってくる。
聞こえるように言ったんだもの。
「カカシ先生の写真が欲しいのに・・・」
「なんでそこまで」
「だって、今のカカシ先生を残していたいんだもん」
頬を膨らませて不満気な顔をする私に先生は頭をかく。
「・・・まぁ、オレが死んでも写真で子供に覚えてもらえるか」
──何でそんなこと言うの。
ボロボロと涙が溢れ、驚いた先生は私の涙を拭う。
「別に泣かなくても・・・」
「だって!何でそんな寂しいこと言うのよ!」
泣き顔を見られたくなくて手で顔を覆っていると、そのまま先生に抱きしめられる。
「だってオレたちの世界じゃ当たり前のことだろ?笑い合った仲間が次の日には死んでるかもしれない。オレは上忍だから死の危険は更に上がるのはお前も忍なんだから分かってるでしょ?」
「そうだけど、そうだけど・・・!」
もう自分の命を諦めたみたいな言い方に腹が立って、先生のお腹を何回も殴る。
「痛い、痛いって」と言われるが止めてやらず、最後は背中を叩く。
「諦めないでよ・・・」
先生の胸に顔を埋めて、背中をギュッと掴む。
子供が産まれて、慣れない子育てに慌てるカカシ先生が見たいのに。
一緒に年を取っていきたいのに。
「ごめん・・・。じゃあさ、一緒に撮ろうよ」
「え?」
「オレだけよりサクラも一緒だったら花もあるし。毎年撮って、どんどん歳とっていくのを楽しもう」
「うん・・・」
優しく微笑む先生の言葉に嬉しくて胸にグリグリ顔を押し付ける。
「じゃあカメラ見てー」
先生はカメラを斜め上に持ち上げる。
上を向いてレンズを見た時、さっき泣いたことを思い出す。
きっとひどい顔してる!
「ま、待って!洗面所行ってくる!」
「気にしなくてもいつもと同じで可愛いのに」
「そういう問題じゃないのよ!」
慌てて洗面所に向かう私を先生はおかしそうに喉の奥で笑っていた。
****
「おばあちゃん、なにみてるの?」
床に座ってテーブルの上に広げたアルバムを見ていると黒髪の少女が話しかけてくる。
「昔の写真見てたのよ」
「このひと、おばあちゃん?かわいー!となりのひとは?」
「おじいちゃんよ」
「え!おじいちゃん!?かっこいいね!」
ビックリして目を丸くする少女のイケメンセンサーに引っかかったらしく、まさしく自分の血を引いてるなと苦笑いをする。
すると、少女の後ろから同じ顔をした少女が顔を覗かせる。
「なにみてるのー?」
「むかしのおばあちゃんとおじいちゃんだって」
「へー!」
楽しそうにアルバムを捲る2人にサクラは微笑む。
あれから数十年。
サクラは結婚して子供を産み、その子供も結婚して3年前に双子の女の子を出産した。
髪の毛は父親似の黒髪で、顔は母親譲りの翡翠の瞳に、姉は右に、妹は左の目の下に泣きぼくろがある。
端正な顔立ちはどことなくあの人を彷彿とさせる。
「あ、みて。おじいちゃん、ワンちゃんときもちよさそうにねむってるの」
「ほんとだー」
妹が指差した写真は、床でパックンと大の字になって眠るカカシ先生を隠し撮りした写真。
この写真を撮ったのはもう遠い昔の出来事。
懐かしく、寂しくて。
「いまとおんなじねー」
感傷に浸っていると、姉がおかしそうに笑いながら後ろを見る。
そこには縁側で大の字になって寝ているカカシ先生と、パックンのひ孫のパグ犬が写真と同じように寝こけていた。
同じようで違うのは年を重ねたこと。
髪は白髪が混ざり、顔もお互い皺だらけ。
カカシ先生は76歳、私は62歳。
気づいたら50年共に人生を歩んできた。
最初はただの師弟だったのに恋人になって夫婦になって家族になって。
アルバムも10冊は優に超えている。
最初は私やカカシ先生の写真だけだったのに写る人数がどんどん増えて。
そして今、また私たちだけの写真が増えた。
しわくちゃの顔で笑う2人。
きっとどちらかがこの世を去るまで続く、幸せの写真。
カメラをカカシ先生に向けて、声をかけてボタンを押す。
すぐに写真が印刷されてくるタイプのカメラで、出来立てホヤホヤの写真を見て顔を顰める。
「・・・カカシ先生、またぶれてるんだけど」
写真の中のカカシ先生は勢いよく顔を動かしたお陰で誰か分からない。
眉間に皺を寄せて睨むも、こちらを見ない先生にため息を吐く。
さっきからこの調子なのだ。
カカシ先生と付き合って数ヶ月。
先生にはよく写真を撮られるが先生の写真は持ってないことに気づいた。
お父さんからカメラを借りてきて朝から写真を撮っているというのに。
1枚もまともに写真が撮れていない。
カメラを向けるとすぐに顔を背けるカカシ先生。
バレないようにこっそり向けても何故かバレてしまうのだ。
机の上にあるのは全部がボケている失敗の数々。
「もう、いい加減ちゃんと撮らせてよ」
「それがねー、はたけ家に代々伝わる家訓があってさ」
「・・・なに」
「魂を取られるから写真に写るなってね」
「・・・・・・」
何も言わず、据わった目で見ているとすぐに「まぁ、嘘なんだけど」と発言を撤回する。
この男は息を吸うように嘘をつくな。
「何でそんなに嫌がるのよ」
「だって恥ずかしいじゃない?自分の姿が客観的に見えるのって」
「女々しい・・・」
「聞こえてますけどー?」
ボソッと呟くと私の両頬をつねってくる。
聞こえるように言ったんだもの。
「カカシ先生の写真が欲しいのに・・・」
「なんでそこまで」
「だって、今のカカシ先生を残していたいんだもん」
頬を膨らませて不満気な顔をする私に先生は頭をかく。
「・・・まぁ、オレが死んでも写真で子供に覚えてもらえるか」
──何でそんなこと言うの。
ボロボロと涙が溢れ、驚いた先生は私の涙を拭う。
「別に泣かなくても・・・」
「だって!何でそんな寂しいこと言うのよ!」
泣き顔を見られたくなくて手で顔を覆っていると、そのまま先生に抱きしめられる。
「だってオレたちの世界じゃ当たり前のことだろ?笑い合った仲間が次の日には死んでるかもしれない。オレは上忍だから死の危険は更に上がるのはお前も忍なんだから分かってるでしょ?」
「そうだけど、そうだけど・・・!」
もう自分の命を諦めたみたいな言い方に腹が立って、先生のお腹を何回も殴る。
「痛い、痛いって」と言われるが止めてやらず、最後は背中を叩く。
「諦めないでよ・・・」
先生の胸に顔を埋めて、背中をギュッと掴む。
子供が産まれて、慣れない子育てに慌てるカカシ先生が見たいのに。
一緒に年を取っていきたいのに。
「ごめん・・・。じゃあさ、一緒に撮ろうよ」
「え?」
「オレだけよりサクラも一緒だったら花もあるし。毎年撮って、どんどん歳とっていくのを楽しもう」
「うん・・・」
優しく微笑む先生の言葉に嬉しくて胸にグリグリ顔を押し付ける。
「じゃあカメラ見てー」
先生はカメラを斜め上に持ち上げる。
上を向いてレンズを見た時、さっき泣いたことを思い出す。
きっとひどい顔してる!
「ま、待って!洗面所行ってくる!」
「気にしなくてもいつもと同じで可愛いのに」
「そういう問題じゃないのよ!」
慌てて洗面所に向かう私を先生はおかしそうに喉の奥で笑っていた。
****
「おばあちゃん、なにみてるの?」
床に座ってテーブルの上に広げたアルバムを見ていると黒髪の少女が話しかけてくる。
「昔の写真見てたのよ」
「このひと、おばあちゃん?かわいー!となりのひとは?」
「おじいちゃんよ」
「え!おじいちゃん!?かっこいいね!」
ビックリして目を丸くする少女のイケメンセンサーに引っかかったらしく、まさしく自分の血を引いてるなと苦笑いをする。
すると、少女の後ろから同じ顔をした少女が顔を覗かせる。
「なにみてるのー?」
「むかしのおばあちゃんとおじいちゃんだって」
「へー!」
楽しそうにアルバムを捲る2人にサクラは微笑む。
あれから数十年。
サクラは結婚して子供を産み、その子供も結婚して3年前に双子の女の子を出産した。
髪の毛は父親似の黒髪で、顔は母親譲りの翡翠の瞳に、姉は右に、妹は左の目の下に泣きぼくろがある。
端正な顔立ちはどことなくあの人を彷彿とさせる。
「あ、みて。おじいちゃん、ワンちゃんときもちよさそうにねむってるの」
「ほんとだー」
妹が指差した写真は、床でパックンと大の字になって眠るカカシ先生を隠し撮りした写真。
この写真を撮ったのはもう遠い昔の出来事。
懐かしく、寂しくて。
「いまとおんなじねー」
感傷に浸っていると、姉がおかしそうに笑いながら後ろを見る。
そこには縁側で大の字になって寝ているカカシ先生と、パックンのひ孫のパグ犬が写真と同じように寝こけていた。
同じようで違うのは年を重ねたこと。
髪は白髪が混ざり、顔もお互い皺だらけ。
カカシ先生は76歳、私は62歳。
気づいたら50年共に人生を歩んできた。
最初はただの師弟だったのに恋人になって夫婦になって家族になって。
アルバムも10冊は優に超えている。
最初は私やカカシ先生の写真だけだったのに写る人数がどんどん増えて。
そして今、また私たちだけの写真が増えた。
しわくちゃの顔で笑う2人。
きっとどちらかがこの世を去るまで続く、幸せの写真。
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