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short.1

チョコに想いを込めるようになったのはいつからだっけ。


確か最初は第七班が結成された時のバレンタイン。
サスケくんのチョコだけを作るつもりだったけど、前日までナルトが毎日のように強請ってきてウザかったから、カカシ先生の分も合わせて3人分用意したんだった。
ナルトには小さいのを、先生には普通サイズを。
サスケくんには少し恥ずかしかったけどハートのチョコを用意した。
当日、先に2人に渡して最後に勇気を出して差し出したけどそれは受け取ってもらえなくて。
それを見ていたナルトは怒鳴りながら帰るサスケくんの後を追いかけて。
私は我慢出来ずに泣いていると、後ろからカカシ先生が頭を撫でて慰めてくれた。
大丈夫。先生はそう言って私が泣き止むまで頭を撫でてくれたのを今でも覚えてる。


それから怒涛の1年を過ごして2回目のバレンタイン。
私はチョコを3つ作った。
ナルトとサスケくんは里に居ないけど、どうしても3つ作りたかった。
そうしないと私たちの絆が切れてしまいそうだったから。
それにもう1人は里にいる。
上忍としての任務で受けるようになったから里にいるのは奇跡なようなものだったけど、師匠に聞いてこの日は里にいると教えてもらったから、先生にはちゃんと渡したかった。
修行の合間を縫って待機所に行くと、来ることが分かってたかのようにすぐに目があって手招きしてくる。
微笑む先生に、私は「はい」とチョコを渡して先生は「ありがとう」と言って受け取ってくれる。
待機所は上忍ばかりで下忍の私には居心地が悪く、「それじゃ」と部屋を出ようとしたら先生に呼び止められた。
振り返ると手を差し出してきていた。
なに?、と首を傾げると、「2つも貰うよ」と言ったのだ。

──あぁ、この人には敵わないな。

そう思いながら、私は鞄から2人の分を取り出して、先生の手に乗せた。
甘い物苦手なくせに、微笑む先生の顔を見たら我慢していた涙が溢れて、その年も先生に慰められるバレンタインだった。
次の日、いつもより背を曲げて胃を摩りながら歩くカカシ先生の姿がおかしくて。
来年は甘さ控えめにして量減らしてあげようかな、と私は久しぶりに心から笑えた気がした。


それから次の年も、その次も先生に3つチョコを渡して。

ナルトが帰って来た年。
私はチョコを5つ作った。
ナルトとサイとヤマト隊長、カカシ先生の分と。
ここにいない彼の分。
任務に行く前に3人に渡して、最後にカカシ先生に渡した。
今まで通りなら残りも渡すんだけど、みんなの手前渡し辛くて。
それから隊長の合図でみんなが歩き出して、私は先生の後を歩く。
いつ見ても大きく追いつけないな、そんなことを考えてながら見ていたら先生は後ろ手に差し出していることに気づいた。
言葉が無くても分かり合えるほど私たちは2人より長く一緒にいる。
私がその手に最後のチョコを乗せると、先生が肩越しに私を見て優しく微笑んだ。
その笑顔が嬉しくて、私はまた少し泣いてしまった。


それから本当に色んなことがあった。
世界の危機を第七班で救って、サスケくんが里に戻ってきて。
暫くしてサスケくんは1人、旅に出た。
今までの罪を見つめ直すために。
結局今年もサスケくんがいないバレンタインを迎えたのだけど。
今年、私は作るチョコを1つ減らした。
いつか帰って来た時にちゃんと渡したいから。
七班のみんなに渡した時、先生には1つだけ渡した。
いつもみたいに貰おうとしなかったから、きっと分かってたんだと思う。
それに先生は火影になって色んな女の人にたくさん貰えるんだから。
そう考えた時、何故か胸が少し痛かった。






****



「はぁ・・・」

私は今、頭を悩ませていた。
原因は目の前にあるお菓子作りの本。
それをペラペラ捲り、チョコのページで止まる。
いくつか載っている様々なチョコのレシピを見て、

「はぁぁぁ・・・」

私は本の上に俯した。

新年を迎えてナルトが七班で集まろうと言い出して文をサスケくんと大蛇丸を監視しているヤマト隊長に飛ばし、数日で2人は里に戻ってきて、6人でお祝いをした。
その時、バレンタインには帰ってこれないと思ったので2人に早めのバレンタインを渡した。
チラっとサスケくんを様子見ると、薄く笑って受け取ってくれた。
あれから毎年チョコを作っているのにやっと受け取って貰えたことに感極まって泣いちゃって。
みんな慌てる中、カカシ先生は私の頭を優しく撫でてくれた。
見上げると先生は火影になっても変わらない微笑みを浮かべて私を慰めてくれて。
もう隠す必要のない両目で『良かったな』と伝わってきた。
その優しさに私の心にあった感情に気づいてしまった。



あれから1ヶ月経ち、あと少しで今年のバレンタインが来る。
恋人が出来たナルトとサイには、いのとヒナタも一緒に食べれるようにガトーショコラを作る予定。
つまり残るのは──。

「どうしよう・・・」

これが私の最近の悩みだ。
毎年同じのを贈っていたのに、あの日気づいてしまったことで私はいつものを作れなくなってしまった。
だって、あれは義理だもの・・・。
きっと同じのを作ればいつものように義理だと思うだろう。
手の込んだのを作って本気だとバレて受け取って貰えなかったら?
今まで通りに接して貰えなくなったら?
でも他の人に先生を取られるのは嫌だ。

「う〜〜・・・」

俯す私の目尻に涙が滲んだ。



****



「はぁ・・・」

バレンタイン当日。
仕事終わり、ナルトとサイを呼び出してチョコを2つずつ渡して私は1人帰路につく。
あれから結局あの人へとチョコを決められず作れなかった。
毎年作っていたチョコを初めて作らなかった。
今日は先生に会いたくなくて他の人に報告を任せて私は逃げるように病院を出た。
普段は嫌がる同期たちに奪い合われて少しよれていた報告書。
勝ち取った子の手には綺麗にラッピングされたチョコがあったのを見てしまい、胸が痛くなった。
きっと本命だったんだろうな、と俯きながら一人暮らしをする家に向かう。
明日ぐらいに先生が私のところに来てチョコを強請るだろうから、忙しくて作れなかったとでも言おう。
先生のことだからそれ以上言及してこない。

大丈夫、この想いはずっとこの小さな胸の中に入れて出さない。
これからも先生と生徒の関係でいればいいのだ。

また泣きそうになるのを堪えて我が家が見える路地を曲がると。


「サクラ」


今は聞きたくなくて、でも聞きたい、そんな声が前から聞こえてきて胸が高鳴る。
恐る恐る顔を上げると、やはり昔から変わらない師が私のアパートの前で手を上げている。

「・・・カカシ先生」

先生が近づいてきて、目の前で止まる。

「どうか、したんですか?もしかして報告書に不備が?」

今日は私が出しに行かなかったしすぐに病院を出たから、わざわざ私の家まで来てくれたんだろうか、と考える。
そう、これは火影としての──。

「ん?いや、今日オレは休みだったんだよ」
「え」
「いやねー、今日は執務室にいられたら面倒だから休めって昨日シカマルに言われてさー。だから久しぶりのお休み。もしかして今日執務室行ってない?」
「あ・・・ちょっと、忙しくて他の子に任せちゃって」
「そっか、そっか。ま、サクラだから不備はないでしょ。何たって五代目とオレの弟子なんだから」

先生は嬉しそうに笑って私の頭を撫でる。
思わず下がりそうになったけど、怪しまれたくなくて踏ん張った。
私の心臓が跳ねまくり、先生の側が落ち着かないなんて思う日が来るなんて。
私は気持ちを落ち着かせるために深呼吸する。

「・・・なら、どうしてここに?」
「今日がバレンタインだからサクラに会いたくて?」

貰えるのが当たり前に手を差し出してくる先生。
私の気持ち知らないで・・・。
でも休みなのにわざわざ私に会いにきてくれたのが嬉しいと思ってしまう私もいて。
本当恋って。

「・・・今年は、ちょっと作れなくて」
「あれ、そうなの?さっきナルトに会ったときに自慢されたんだけど」

──ナルトぉぉぉぉぉ!!
来年はもうアイツの分は作らないと心の中でナルトを殴り倒す。

握り拳を震わせていると、何かを察したカカシ先生が一歩下がる。
それに気づいて顔を上げると、寂しそうに笑う先生の顔にドキッとした。

「・・・悪い。もうオレは必要ないか」
「・・・え?」
「もうアイツも帰ってきて本命も渡したし、オレもお役御免か。急に来てごめんな」
「ま、待って!」

何か勘違いしてる。
背を向けて帰ろうとする先生のベストを慌てて掴む。
肩越しにこちらを見てくる青灰の瞳に、もう誤魔化せないと覚悟する。

「ち、違うの。サスケくんに渡したのは、もう本命じゃなくて」
「そうなの?」

体をまたこちらに向ける先生に頷く。
真っ直ぐ見つめてくる瞳が落ち着かなくて目が泳ぐ。

「先生のチョコを用意出来なかったのは、作りたいのが決まらなくて・・・」
「去年と同じで良かったのに」
「そうなんだけど、今年は、その・・・」

ハッキリ言えなくて指をグルグル回す。
今の自分の頭の中もグルグルでグチャグチャだ。
先生も何も言わず、暫くお互い無言でいたら先生が喉の奥で笑った。

「サクラが吃るなんて珍しいね。何かオレに言いたいことがあるんじゃないの?」
「う・・・」

この言い方はきっと分かってる。
昔から先生に隠し事出来た試しがないもの。
でも、でも・・・。


それでも唸っていると先生の手が私の頬に添えられて肩が跳ねる。
驚いて顔を上げると、長い指でゆっくりと口布を下げている先生と目が合う。
現れた薄い唇とその横の黒子に目が奪われて目を見開いていると先生が小さく笑う。

「ほらサクラ。早く言わないとオレの好きにするよ?」

そう言いながら近づいてくる端正な顔に、先生が何をしようとしているのか分かり、顔が真っ赤になる。

「ま、待って先生!」
「うん?」

お願いしても先生の顔は止まらず、あともう少しで唇が合わさる距離まできている。
言わなきゃ、言わなきゃ。
そう思っているのに口も体も動かなくて。

きっと会った時からこうなることを望んでいたのかもしれない。


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