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ー恋と愛の違いってなんなんだろう




医務室長の命令でいのとサクラは研究室でここ数日とある研究をしていた。
資料を探すために席を立って暫くすると、
ーコン、コン、コン
とドアをノックする音が聞こえた。
ドアの向こうによく知った気配を感じたが、サクラは反応しなかった為いのが返事をする。

「どうぞー」

ガラガラとドアがスライドすると、そこにはやはり六代目火影・はたけカカシが立っていた。

「あれ、室長いないの?」

カカシは頭を掻きながらいのに問いかけてくる。
相変わらずサクラはカカシを見ずにキャビネットから取り出した資料を読んでいた。

「室長は火影室に行くって言ってましたよー」
「あらぁ、入れ違いかぁ」

カカシはお礼を言ってドアを閉め去って行った。
ーサクラを見ずに。

「もう・・・一体どうしたのよ・・・」

重たい雰囲気が去り、いのは息を吐きながらサクラに問いかける。

(私もどうしてこうなったのか分からないわよ・・・)


火影・はたけカカシとその弟子・春野サクラが恋人同士。
そう発表されたときは里中に激震が走った。

サクラが自分の家とカカシの家を行き来する半同棲状態になって早数週間。
火影であるカカシが帰宅出来るのは数日に1度だけで、それに合わせてサクラがご飯を作り、カカシが帰宅して一緒にご飯を食べる。
サクラと一緒に過ごすために家でも仕事をするカカシに寂しくはあったが我慢をしていた。
ご飯を食べるときはちゃんとサクラと向き合ってくれてたから嬉しかった。

でも。

ここ数日、大規模な遠征があるためカカシは休む暇もなかった。
それでも家には帰ってきてくれていたが、ご飯中にも仕事を持ち出すようになり、話しかけても曖昧な返事ばかりでちゃんと会話が出来ていなかった。
我慢の限界がきたのだ。

「もう、先生!私の話聞いてた?」
「聞いてたよ」
「嘘!!」

聞いてた、聞いてないの押し問答を繰り返していたが、とうとうカカシがため息をついた。

「しょうがないでしょ。明日からの遠征の最終チェックしないといけないんだから。これぐらい許してよ」
「それでもご飯の時間はちゃんとお話して欲しいの!」
「明日からはちゃんと聞くから今日は我慢して」

今までだって我慢してきたのに、それを分かってくれないカカシにどんどん怒りが湧いてくる。
だからつい言ってしまった。

「・・・・・・サスケくんだったら忙しくてもちゃんと話聞いてくれるわ」

サクラがアカデミー時代から同じ班のうちはサスケに恋をしていたのは誰でも知っていることだった。
それは担当上忍のカカシはもちろん知っていて、アプローチを身近でずっと見てきていた。
そして、いつの間にかサスケへの想いが恋愛から友愛に変わり、カカシへは敬愛から恋愛に変わっていた。
サクラからカカシに告白をして恋人同士になった今でも、カカシはサスケを意識していることはサクラは知っていた。
だから時々サスケの名前を出してカカシがヤキモチを妬いてくれるのが嬉しかった。
この日も思惑通り、カカシの片眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。
でもまさか、こんなことになるとは思わなかった。

「・・・だったら、サスケと付き合えばいいだろう」

暫くカカシが何を言ったのかが理解出来なかった。

(・・・・・・サスケくんと付き合えって言った・・・?)

それはカカシと別れるということだ。

「・・・なんでそんなこと言うのよ」

サクラの問いかけを無視し、カカシはまた資料を読み始める。
その態度に腹が立ったサクラは立ち上がり、鞄を持って玄関に向かう。

「じゃあサスケくんと付き合うから!さようなら!!」


ーバタン!!
勢いよくドアが閉まった音が響いた。
どこかでカカシが追いかけてきてくれるんじゃないかと期待していたが、カカシは来てくれなかった。


「はぁ・・・六代目もひどいけど、あんたの方がもっとひどいわ。別の男、しかも初恋の男の名前を出すなんて」

喧嘩の出来事をいのに話すとため息混じりに言われた。

「だって・・・先生が動揺するの見たくなるんだもん・・・。いつも言ってたことなのに、急にあんなこと言うなんて・・・」

擁護して貰えると思っていたのに、まさか責められると思って思っていなかったので肩身が狭くなる。

「もうさっさと謝ってくればぁ?今なら火影室にいるでしょ」

喧嘩して3日。
あれからカカシの家に行ってないし、カカシも会いに来なかった。
私が一方的に怒ってもカカシがすぐに謝って仲直りしてきたから、喧嘩でこんなに会わないのは初めてだった。
1日目は後悔でずっと泣いていたが、だんだんとイラ立ちが増してきた。

「嫌」
「嫌って・・・」
「絶対私から謝らない。もう関係ないもの」

サクラを見ると何か決心した表情をしていた。

「私、サスケくんと付き合うわ」
「付き合うって・・・六代目と別れるの?」
「カカシ先生がサスケくんと付き合えって言ったのよ。そうさせてもらうわ。仕事終わったらサスケくんのところ行ってくる」

ここで負けん気の強いサクラが出てきて、変な意地を張ってるなといのはため息をついた。

「後悔しても知らないからね」



定時に仕事を終え、サスケを探し里中を歩いていると遠くの方で歩いているのを見つける。

「サスケくん!」

少し大きな声で呼びかけると、片目を髪で隠したサスケが振り返り、少し微笑んだ。

「サクラか。どうした」
「うん。まだだったら一緒にご飯でも食べないかなって」
「・・・・・・2人でか?」

サスケは周りを見渡したが誰も顔見知りがいなかった。

「うん。2人で。ダメかな」

サクラは昔から得意とする上目遣いでお願いする。

「・・・俺は別にいいが」
「じゃあ行きましょう!いつもの定食屋でもいい?」
「ああ」

そう言って2人並んで定食屋へと歩き出す。
横目でサスケを見ると、なんだか懐かしい気持ちになった。
ほんの昔、私たちがまだ下忍だったとき。
任務帰りにナルトがカカシ先生にラーメンをねだって4人で一楽に向かうときにサスケくんの隣を歩いていた。
私が話しかけても相槌をうつか無視をしていたのに、今はちゃんと会話をしてくれることに嬉しくてなる。
昔は同じぐらいの身長だったのに、いつの間にか見上げないといけないぐらい身長が伸びてる。
昔と全然違うのに同じように安心出来る感じがして、ふと思ってしまった。

ーもし、今でもサスケくんのことが好きだったらどうなってたんだろう。

サスケくんが里抜けして、ナルトとカカシ先生とで取り戻すために奔放した日々を思い出す。
最初は止められなかった好きな人を助け出すために追いかけてたのに、気づいたら仲間として助けに行ってた。
それは、隣でずっと見守ってくれて助けてくれる存在に気づいてしまったから。
もし、サスケくんの想いが変わらず、カカシ先生への想いに気づかなかったら、こんな風に彼の隣を歩いていたのかなって考えてしまったけど。
たぶん、カカシ先生への気持ちは絶対気づいていた。
こうなる運命だったんだ。


2人で定食屋でご飯を食べながら他愛もない話をして店先で別れた。
その後も度々サスケを探してはご飯に誘ったり、偶にサスケから誘われたりする日々を送っていた。



そんな日々を送っていると、こんな噂が里中で立っていた。

『春野サクラとうちはサスケが最近よく2人でいる。
逆に、カカシとサクラが一緒にいるのを全く見ない。
はたけカカシと春野サクラは別れたんじゃないか』



そんな噂もつゆ知らず、サスケとご飯を食べにいくのが日課になった頃、ナルトが研究室に乗り込んできた。

「サクラちゃん!!サスケと付き合ってるって本当!!?」
「は!?」

いのが診察で1人で研究に没頭しているとナルトがノックもなしに入ってきていきなり変なことを言ってきた。
カカシが言っていた遠征に選ばれていたため、身なりはボロボロで、里に帰ってきてそのままここに立ち寄ったようだった。

「なに、急に。とゆうか、ちゃんとノックしなさいよ」

サクラは背が高くなりナルトの頭を叩けないので、ナルトのお腹を殴る。

「だ、だって・・・帰ってきたら里中でそんな噂が流れてたから・・・」
「噂?」
「カカシ先生と別れてサスケと付き合ってるって」
「はあ・・・」

ここ最近、研究が忙しく家と研究室を往復するだけで、人と関わるといったらいのぐらいだった。
時々火影に報告をしないといけないときも、事情を知ってるいのに任せっきりだった。
いのもきっと噂を知っていたんだろうけど、気を使って話さなかったのだろう。

「まだ付き合ってないわよ」

サクラは再び研究に戻ろうとすると、ナルトがテーブルを叩き覗き込んでくる。

「ま、まだって!!付き合うつもりなの!?カカシ先生はどうするんだってばよ!!」
「・・・別に関係ないでしょ。それより、ちゃんと六代目に報告しに行ったの?」

わざとカカシの名前を呼ばないサクラに気づかないナルトではなかったが、敢えて気づかないふりをした。

「行ったってばよ・・・でも、ここずっと忙しいらしくて、機嫌がめっちゃ悪くてさ・・・あんまり話し出来なくて。・・・噂のことも聞きたかったけど」

カカシに聞けなかったからサクラのところに来たんだろう。
そんなナルトにため息をついた。

(仕事・・・忙しいのか。家にも帰ってないんじゃないかな・・・。ちゃんとご飯食べてるのかしら)

あんな喧嘩別れしても、心の中ではいつもカカシのことを考えてる。
サスケといても、カカシはこうだった、カカシはこんな感じだったなって考えてしまう。
忘れようとすればするほど、どんどんカカシとの思い出が蘇ってきて、瞳に薄い膜を作ってしまった。
それを感じ取ったナルトは何も言わずに部屋から出ていき、1人で泣いた。


あんな風にナルトに気を使わせてしまい、今度サスケと3人でご飯に行こうと考えながら火影室に向かう。
今日は定期報告の日。
いつもはいのにお願いしてるが、いのは診察日で、しかも今日は忙しいらしい。
そんないのに頼むのも申し訳なく自分で行くことにした。
火影室のドアの前に立つもノックする勇気がなかなか出ずに佇んでしまった。
前までは仕事でもカカシに会えるのが嬉しかったのに、今はあれ以来会っていないカカシに会うのが憂鬱だった。
それでも報告はしないといけない為に勇気を出して3回ノックをした。

「はい」

心臓が跳ねた。
久々に聞いた愛しい人の声。

「医務室の春野サクラです。定期報告に参りました」
「どうぞー」

失礼しますと言ってドアを開けると、補佐役のシカマルはおらず火影机で仕事をするカカシ。
それと黒髪の綺麗な女の人がカカシの横に立っていた。
報告なら机の前に立って行うのに、横という親しい者のみ許された距離にいる彼女に目が離せなかった。

「サクラ?」

いつまでもドアの側から離れないサクラに不審がるカカシの声で我に返り、机の前まで歩みを進めた。

「えっと・・・今回の研究の報告書です」
「ありがとう。研究の進捗はどんな感じ?」
「あ・・・あともう少しで終わりそうです」
「そう。残りもお願いね」

そう言って報告書を受け取ったカカシは、先程まで作業していた資料を目を向けていた。
いつもなら優しい顔をして雑談をするのに、私の顔をまともに見ようとしてくれなかった。

「サクラ、まだ何かあるの?」

未だに動かないサクラに、突き放すように言ってきた。
先程跳ねた心臓を今度は突き刺されてまた泣きそうになった。

「別にいいじゃない、そんなに部屋から追い出そうとしなくても」

さっきまで静かにカカシの側にいた女性がサクラの顔をみてニッコリと笑っていた。
近くで見ると尚更綺麗さが分かる。滑らかな肌に誘われそうなぷっくりとした真っ赤な紅をひいた唇。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、まさに理想な女性だった。
それとは逆にサクラは良く言ってスレンダー、悪く言って貧相な体付き。
同期のいのとヒナタとは大違い。
本当、何でカカシは付き合っているのかが分からない。
あ、いや、もう過去形かと心の中が荒んでいく。

「サクラだって仕事があるんだから引き止めたら悪いだろ」

(今までだって何回も引き止めてたじゃない)

「サクラちゃん?お仕事忙しいの?」
「あ、いえ、今日はもう終わりです・・・」

そう言ってチラとカカシを見ると、ため息をついて仕事を再開していた。

(何よ。早く私を追い出したいの?そんなにこの人と2人でいたいの?)

気が緩んだら涙が出そうで唇を噛み耐える。

「ねぇ、サクラちゃんってカカシと付き合ってる子なんでしょ?噂で聞いたわ」

(カカシ)

「あ・・・まあ・・・」

今の関係を付き合ってると言っていいのか分からず曖昧に答える。

「いくつ?」
「えっと・・・20です」
「わっか!!え、一回りは離れてるじゃない?見た目若いとは思ってたけど…カカシもやっぱり若い子がいいのねぇ」
「別にいいでしょうが」
「はぁ・・・ねぇ、どうやってこんなおじさんと出会ったの?そうそう近づける雰囲気の男じゃないわよね?」

女性は興味津々でサクラに詰め寄ってきて、それを見たカカシはまたため息をつく。

「私が下忍になったときの担当上忍だったんです」
「え!!カカシ、生徒に手を出したの!?やば・・・ロリコンだったのね・・・」

女性は軽蔑の目をカカシに向けるが、カカシは無関心で仕事をしていた。
サクラはなんとかカカシの名誉挽回しようとしたが、女性の迫力に負けてしまった。

「ねぇ、そのぐらいの年だったら同い年ぐらいに好きな人いたんじゃない?」

今の2人にとって禁句の言葉に体が跳ねた。
思わずカカシを見るが助け舟を出そうとはしていなかった。

「あ・・・はい。同じ班の男の子のことが・・・」

それ以上言葉が続かなかったが、それだけで女性には分かったらしい。

「同じ班だったの!なんか修羅場を感じるわ・・・」

女性は色々考えているが、その時は恋愛関係はなかったのだから、当然修羅場など起こるわけがなかった。
さすがにこの雰囲気に耐えられなくなったときに、火影室のドアか開いた。
そこにはよく知っている顔だった。

「サクラ、ここにいたのか。いのが探してたぞ」

サクラを探しているらしいいのと下忍時代同じ班で、六代目の補佐役をしているシカマルだった。

「ほら、そろそろサクラを解放してやれって。サクラもすまなかったな」

やっとサクラを見たカカシは眉を八の字に下げて笑っていた。
それはいつもサクラに向ける笑顔だった。

「いえ・・・失礼します」

そう言ってサクラは火影室を出た。
研究室に戻るといのは慌ててサクラに駆け寄る。
何故ならサクラは瞳に涙を溜めていたから。
いのの姿を見て限界がきて、いのの胸の中で赤ん坊のように泣いた。

カカシの心の中が分からない。
あんなにサクラを突き放したように接してたのに、最後の最後に、2人きりのときだけに見せる顔を向けてくるなんて。

(カカシ先生の本当の気持ちが知りたい・・・)



ある日の夕方、気を使わせてしまったナルトへのお詫びにサスケも誘い、サクラの奢りで飲みに行くことになった。
いつもの飲み屋の前で待ち合わせしており、定時に上がったサクラは急いで向かうと既にナルトが居た。
しかし、ナルトはサクラが近づいてくるのにも気づかずに、ある一点を見ていた。

「ナルト?」

サクラはナルトの肩を叩くと大袈裟に驚き振り向く。

「サ、サクラちゃん!!早かったね!」
「早くないわよ。時間ギリギリ。なに、何を見てたの?」

慌てるナルトの体を押し、ナルトが見ていた方を見てみると、
カカシが女の人と腕を組んで歩いていたのだ。
その女の人がこの間火影室でサクラに色々聞いてきた人だとすぐ分かった。

(ああ、そういうことか)

なんで横に立っていたのか。
なんであんなに親密だったのか。
なんであんなにサクラを追い出そうとしたのか。
その光景を見て空いていた穴にスッポリ入った感じがした。
もうカカシの中で私は過去の女なんだ。
最後に見せたのは、ただ元生徒に向けた笑顔。
それを私が勘違いしてただけ。

ああ・・・なんかスッキリした。

ナルトはまた私が泣くんじゃないかと心配そうにしていたが、そんなナルトに笑顔を向けると驚いた顔をした。
そしてタイミングよくサスケが現れたので、2人の腕を掴む。

「今日はお酒買ってサスケくんの家で飲みましょう!」

事態を把握していないサスケは驚いていたが、眉毛の下がったナルトとから元気の私、そして遠くで角を曲がるカカシを見つけて納得してくれた。
両手に花状態でお店にお酒を買いに行くと、昔から私たちを知ってる店主が懐かしそうな顔をしてサービスしてくれた。
それからサスケの家に上がり込み、お酒とサービスしてもらったおつまみ、それとサスケが作ってくれた料理を食べながら昔話に花を咲かせていた。



「ーサクラ、起きろ」
「・・・んん・・・せんせい・・・」

気持ちよく寝ているところを肩を揺すられ起こされる。
それはよくカカシが起こしてくれる行為だった。

「悪いがカカシじゃない」

その言葉に目を見開くと、間近にサスケの顔があり飛び起きた。
そしてここがサスケの部屋であり、寝ているのがベッドだと気づいた。

「あ・・・ごめんなさい・・・いつの間にか寝てたのね。とゆうか、何でベッドに・・・」

とある想像をしてしまったが、衣服はちゃんと着ていた。

「急に眠たいって立ち上がってベッドにダイブしたからだ」
「あ・・・ご迷惑をおかけしまして・・・な、ナルトは?」
「あいつもそのまま寝そうだったから帰らせた。お前も日付変わる前に 帰れ」

時計を見ると23時前だった。
飲み会を始めたのは18時ぐらいだっから結構長居をしてしまった。

「そ、そうだね・・・本当ごめんなさい。そろそろ帰るね」
ベッドから立ち上がると、もう酔いも覚めたのかしっかりとした足取りで歩けた。

「送っていく」
「ううん、大丈夫。ちゃんと帰れるから。ごめんなさい、迷惑かけて」
「別に迷惑じゃない」

ぶっきらぼうに話すサスケに笑みが溢れる。

「じゃあ、また今度飲み直しましょ。ちゃんと奢るから」
「ああ」

お互いにおやすみと挨拶をして帰路へと向かう。
こういう時に仲間って大事だなって思う。
サスケも色々あったけど、旅に出て色々考えることがあったのだろう。
こうやって日々は流れ変わっていく。
カカシとの関係も前と同じ上司と部下に戻るだけ。
カカシと私も新しい恋人を見つけて、それぞれの道を歩んでいくだけ。
カカシは優しいからきっとこれからも変わらない。
大丈夫、色々乗り越えてきた。
今回だって時間をかけてでも乗り越えられる。
自然と笑みがこぼれ、ようやく一人暮らしをする我が家が見えてきた。
階段を登り自分の部屋の前にたどり着くと、
そこには銀の髪を靡かせる長身の男が立っていた。

「おかえり」
「・・・・・・なんで」
「恋人の部屋の前で待ってるのがそんなにおかしい?」

その言葉にまた心臓が跳ねるが、すぐに落ち着いてドアの鍵を取り出し開ける。

「とりあえず入って」

こんなところ誰かに見られたらまた変な噂が立つ。
先に自分が入り後にカカシが続く。
鞄を置いて電気を付けた瞬間。
後ろからカカシに抱きしめられた。

「ちょ・・・、先生!?」

いきなりのことにビックリして体を離そうとするが、さらに力強く抱きしめられて動けなくなる。
そしてカカシはサクラの首筋に鼻を埋め匂いを嗅いできた。

「・・・サスケの匂いがする」

首元で喋るから息がかかり体が跳ねる。

「せ・・・先生!離してよ!!」
「サスケとなにしてたの」

なおも首元で話す言葉に怒気が含まれてビクッとなる。

「別に何もしてないわよ。サスケくんの部屋でナルトと3人で飲んでただけ」
「それだけでこんなにサスケの匂いが付くと思ってるの?ナルトが帰ってから何かしてたんじゃないの」

サクラは目を見開く。
何故カカシがナルトが先に帰ったことを知っているんだろうか。

「・・・ずっと部屋を見てたの?」
「質問に答えて」

有無を言わさないカカシの雰囲気に少し怖くなる。

「何もしてないってば。酔っ払って・・・サスケくんのベッドで寝かせて貰ってただけ」
「ふーん。男のベッドで寝てたんだ。男と2人きりの部屋で呑気に」
「・・・なによ。サスケくんは昔から知ってるじゃない」
「サスケでも男だ。男は狼だよ」

抱きしめられる腕に力が入る。
これは明らかに嫉妬だ。
まだ嫉妬してくれるのが嬉しくなったが、カカシの夕方の行動を思い出す。

「何よ・・・先生だって女の人と腕組んでたじゃない」
「あれは砂の大使だよ。彼女も酔っ払ってたから腕を貸してたんだ」

すぐに答えたところを見ると、あの場所に3人がいたことを知っていたのだろう。
この人は人の気配に敏感だ。

「だからって腰に手を回す?」
「介抱してたんだって。それにあの後は彼女の実家に送ってったから」
「・・・実家?」

(砂の人じゃないの?)

サクラが疑問に思っているのを感じとったカカシは答える。

「あの人は元々木ノ葉の忍びだよ。俺の同期。で、砂に嫁いでいった。子供もいるよ」
「そう・・・なんだ」

砂の大使とは見せかけだけで、要はカカシにこの間産まれたばかりの赤ん坊の写真を見せに来ていたらしい。
だからあんな不自然に横に立っていたのだ。
あんなにサクラを追い出そうとしてたのも、好奇心旺盛の彼女にサクラが振り回されないようにということだったらしい。

「俺はいつもサクラのこと考えてたのに、サクラはいのに報告させて会いに来ないし、サスケには会いに行くし」
「・・・先生だって会いに来なかったじゃない」
「仕事が忙しくてずっと泊まり込みだったんだよ。帰れても会いに行ける時間がなかった」
「・・・・・・それに、先生がサスケくんと付き合えって言ったんじゃない。だから・・・」
「そうだよ。俺が言った」

カカシはさらにサクラを強く抱きしめる。
少し苦しい。

「今までだってサクラとサスケが隣にいるのを見てきた。だから平気だと思ったんだ」
「でも、サクラを知った今、男が隣にいるってだけで気が狂いそうだった」

少し腕が緩るみ、驚いで振り返ると泣きそうに眉毛が下がったカカシの顔があった。

「今までも俺がヤキモチ妬くためにサスケの名前を出してるのが分かってたから平常心でいられたんだ」

(バレてたんだ・・・)

私の考えを知ってたことに顔が熱くなる。

「それはサスケが旅に出てたからだ。でも今は側にいる。いつでもサスケと付き合える状況にあるんだ。サクラは今でもサスケが好きなんじゃないかって、そればかり考えたらどんどん辛くなってきた」

ーだから爆発した。

いつも余裕綽々としてるカカシの弱ってるところを見るのは初めてで、この人は本当にカカシなんだろうかと体ごと振り返り頬に手を添えた。
手が当たり、ピクっとなったカカシに自然と頬が緩む。

「馬鹿ね。私から先生に告白したんだからそんな心配する必要ないじゃない。私は先生が好き、ヤキモチ妬いて欲しいぐらい大好きなんだから」
「サクラ・・・」
「私の方がいつも不安よ。この間の女の人が先生の近くに立ってるし、親密そうに呼び捨てで呼んでるし、先生も気さくに話してるし。気が気じゃなかったわ」

頬を膨らませてカカシを睨むと、ようやくカカシの顔にも笑顔が出た。

「知ってる。ずっと百面相してた」

そう言ってカカシもサクラの頬に手を添えた。

「ねぇ、サクラ」
「なに」
「サスケと俺、どっちが好き?」

サクラは驚いて目を見開くが、カカシはただサクラを見つめていた。

「・・・・・・たぶん、私は今でもサスケくんが好き。初恋の人だし大事な仲間だもの。・・・それに、カカシ先生は好きじゃないわ」

眉間に皺を寄せるカカシに笑みが溢れる。

「私はカカシ先生を愛してるのよ」

カカシはいつも眠そうな眼を力いっぱい見開き、顔を真っ赤に染める。

「俺も・・・サクラを愛してる」

カカシはそう呟いて顔を近づけてくる。
サクラは目を閉じて、唇に落ちてくる恋人の愛を受け入れた。



次の日、砂の大使が帰るということでカカシと一緒に阿吽の門までお見送りに出た。
そのときに赤ちゃんの写真を見せて貰ったが、目がクリクリした女の子で将来はお母さん譲りの美人になりそうだった。

「それじゃ、そろそろ行くわ。またね、サクラちゃん」
「はい。今度は娘さんにも会いたいです」

そう言うと、女性は意味ありげに微笑みサクラの耳元に顔を寄せた。
サクラだけに呟いた言葉に、一瞬で顔が真っ赤に染まった。

「ふふ。じゃあ、またね!!」

女性は大きく手を振り、門の外へ歩き出した。
サクラは真っ赤な顔をして手を振っていると、カカシは不思議そうな顔をしてサクラの顔を覗き込んだ。 

「なに、どうしたの?」
「う、ううん!!何でもない!!」

更に顔を真っ赤にしてカカシから離れようとすりサクラに、カカシはサクラの手を掴んで、さっきの女性と同じようにサクラの耳元に顔を寄せた。

「早くその日が来るといいね」

サクラが顔を真っ赤にして口をパクパクさせ、カカシはその様子に破顔した。


『次会う時は、お互い子供を連れてきましょうね』


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