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「カカシ先輩!」

1日の授業が終わり、さあ帰ろうと鞄を持って昇降口に向かっていると後ろから呼び止められる。
この気の強そうな声にはすごく聞き覚えがあり、ため息を吐いて後ろを振り返ると、眉と目を吊り上げた薄紅の髪の少女がこちらを睨んでいた。

「どこ行くんですか。図書室そっちじゃないですよね」

上履きを鳴らして近づいて上目遣いで睨みを効かしてくる表情に、敬語を使っているものの全く敬っていないのが分かる。

「・・・今日は用事があるんだよ」
「前の当番の日もそう言ってましたよ。今日という今日はちゃんと図書委員の仕事してください!!」

1学年下で同じ図書委員の春野サクラはオレの鞄の紐を掴んで図書室の方へと連れて行こうとする。

「別に2人もいらないでしょ。滅多に人来ないんだから」
「それでも任された仕事はちゃんとしないとダメなんです!!」

鞄では埒が明かないと、春野はオレの腕に自分の腕を絡ませて引っ張る。
何故こいつはこんなにもしつこいのか。
他の奴がサボった時も怒るがこんなふうに連れて行こうとはしない。
なのにオレの時はわざわざ授業が終わると迎えにくるのだ。
だから春野と同じ当番の日は憂鬱で仕方がない。
本は好きだが、図書委員になる気なんて更々なかった。
幼馴染みの2人が委員決めの時間に居眠りしているオレの名前を勝手に書いたせいだ、と心の中で悪態をつく。

「今日は本当に用事があるんだよ」
「どんなご用事ですか」

散々嘘を吐いて仕事をサボってきたので、見上げてくる翡翠の瞳は完全疑いの目を向けていた。
今日は何て嘘を吐こうかと考えていると、あることを思いつきマスクの下でほくそ笑む。

「分かった。今日は行くよ」
「本当ですか!」
「ただし、条件がある」
「・・・条件?」

キラキラ輝かせていた目がまた疑いの目に戻る。
コロコロ表情が本当面白い。

「うん。でも大きな声じゃ言えないから耳、貸して」

手招きすると、恐る恐る耳を近づけてくる。
口布を下げて、耳に口を寄せる。

「終わったらご褒美にえっちさせて」
「!?」

春野は顔を真っ赤にして、耳を抑えて飛び退く。
オレは口布を戻しながら揶揄うように笑う。

「ダメなら今日も行かないかなぁ」

真面目な春野がこの条件を飲むはずがないと分かっているからオレはこの提案をしたのだ。
今日ものんびり家で本を読みながら過ごそうと踵を返して昇降口に向かおうとすると、後ろからジャケットを引っ張られる。
振り向くと、春野は耳まで真っ赤に染めてスカートを握りしめ、こちらを見ずに口を動かす。

「・・・いいですよ」
「──は」

思いもよらぬ返事に目をこれでもかというぐらい見開く。
やっとこっちを見た春野の表情に、

思わず喉を鳴らしていた。

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