年末年始
今日の目覚めは最悪だった。
部屋の外からガヤガヤと人の声が聞こえてきて眉間に皺を寄せて瞼を薄く開ける。
今日は寝る時間が遅かったからもうちょっと寝てたい。
目を瞑り寝返りを打つと、自分ではない寝息が聞こえて目を開ける。
そこにはカカシの腕を枕にして気持ちよさそうに眠るサクラ。
付き合い始めて何回もこんな朝を迎え、そして毎回同じ気持ちになる。
好きな人と迎える朝はこんなにも幸せなのかと。
カカシはサクラの頭を撫でると、眠るサクラは口角を上げる。
ずっとこのまま過ごしていたいがそうもしていられない。
「サクラ」
優しく呼びかけても翡翠の瞳は現れない。
しょうがない、とカカシはサクラの頬を指で突く。
「サクラちゃーん」
「ん、んぅ・・・」
眠りの邪魔をされて綺麗な眉が寄り、カカシの胸に顔を埋める。
いつもなら目覚めの良いサクラだが、昨晩は散々無体なことをされて疲れているのだろう。
「サクラー、今日はお雑煮食べて初詣に行くんじゃなかったのか?」
その言葉にゆっくりと瞼が上がり、ずっと見たかった翡翠の瞳と目が合う。
「・・・おはよう、先生」
「おはよう」
はにかんで微笑むサクラが可愛くて、愛おしい額にキスをする。
サクラは上半身を起こしてキャミソール姿で大きく背伸びをする。
「今何時?」
「ん〜・・・10時」
「もうそんな時間?今からお雑煮食べたらお昼までにお腹空かないわよね。軽く食べて初詣に行ってから食べる?」
「そうだな」
サクラは頷いてベッドから降り、床に落ちている服を手に取って離れていく。
「あ、そうだった」
起きるか、とカカシもベッドに腰掛けると、何かを思い出してようにサクラが戻ってきて頭を下げる。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「おめでとう。今年もよろしく」
カカシも頭を下げて新年の挨拶をすると、サクラは嬉しそうに笑って洗面所の方に向かっていった。
こうやって新年の挨拶をするのはまだ気恥ずかしくなる。
暗部にいた頃は目の前の仲間が明日には死んでいることが普通で。
形だけの挨拶はしていたが、よろしくなんて言えるところではなかった。
4人で初めて新年を迎えたとき、サクラとナルトが満面の笑みで挨拶をしてくるのを見て、冷え切っていた心が温まるのを感じたのを今でも覚えている。
まぁ、その後にお年玉を集られたんだが。
また4人であの日のように新年を迎える為には迷子のアイツを迎えに行かなきゃな、とカカシは立ち上がってサクラがいる洗面所に向かった。
****
それから今年もカカシに着付けて貰って、綺麗に着飾ったサクラは私服のカカシと手を繋いで毎年行く近所の小さな神社に向かう。
今年は新調して、白の振袖にピンクの花が描かれた、少し大人っぽいのを着てみた。
どうかな、とカカシに聞くと、嬉しそうに微笑んで頷いてくれてサクラも同じように笑った。
指を絡めて楽しそうに手を繋いで歩くサクラを横目に、カカシは内心それどころではなかった。
サクラの新しい着物を見た時から嫌な予感がしていたのだ。
ここ数年でサクラはどんどん綺麗になった。
身長も伸びて、顔も少女から女性へと変わろうとしていて、体つきも子供の時とは違い、女特有の柔らかさを感じさせて。
今日は更に着物に合わせて化粧もして綺麗に着飾っているせいで、すれ違う男たちがチラチラとサクラを見てくるのに睨みをきかせる。
何故この恋人は無意識に男を魅了してしまうのか、とカカシが小さくため息を吐いたことにサクラは気づいて見上げてくる。
「どうかした?」
「いいや?」
曖昧に微笑むと少し首を傾げて、また幸せそうに笑うサクラ。
この笑顔は自分だけの特権だ、と小さな手を強く握った。
それから神社に着いてお参りをし、甘酒を飲んだ。
ここの甘酒は美味しくてチビチビと飲む。
「捨ててくるよ」
「うん」
カカシはサクラの紙コップを手に取って人混みの中に入ってくる。
履き慣れない下駄だから極力私が歩かないで良いように気を使ってくれているのだ。
そんな優しさに1人微笑んでいると。
「おね〜さん」
隣から声が聞こえて見ると、サクラと同年代の男2人組が話しかけてきた。
「お姉さん、着物すごく似合ってるね」
「え、ありがとう、ございます?」
何で疑問系、と笑う2人にサクラは愛想笑いをしながら頭を働かせる。
──知り合いだっけ?
綱手に弟子入りをして病院で働くようになってから様々な人と関わるようになった。
もしかしたらそこに来た患者さん?
だとしたら無碍に扱えないな、とサクラは笑顔の仮面を貼り付ける。
「ねぇ、お姉さん1人?良かったら一緒に回らない?」
「は、いや、あの・・・」
どう断ろうかと考えていると手を掴まれ、その瞬間、背筋が凍りそうなほどの殺気が飛んできた。
男達が顔を真っ青にして振り向くと、カカシが歩いてくる。
「オレの連れに何か用?」
言葉は優しいのに、男達を睨む目は視線だけで殺せそうなほどだった。
「あ、す、すみませんでした!!」
上忍の殺気をモロに受けた2人組は涙目になり、サクラから手を離して逃げ去った。
「行くよ」
あっという間の出来事にサクラは唖然としていると、カカシはサクラの手を握って歩き出す。
カカシはサクラの手を引っ張り人混みの中を歩いて神社の鳥居を潜って外に出る。
普段はサクラに合わせてゆっくり歩いているカカシがサクラに見向きもせず、気が急いているように歩く。
「あっ!」
履き慣れない草履で頑張って付いて行っていたが、躓いて草履が脱げてしまった。
ようやくカカシは足を止め、転がる草履を見て眉を下げる。
サクラを座れるところに連れて行き、代わりに草履を取りに行ってサクラの足元に置く。
「・・・ごめん」
足元で屈むカカシは俯いて謝る。
普段が見上げることが多いカカシが、子供のように落ち込んでいる姿が可愛くて微笑んで、同じようにしゃがむ。
「ヤキモチ焼いたの?」
「うん」
口を尖らせているカカシがサクラの左手を手に取り、薬指を撫でる。
「綺麗なサクラをみんなに見てほしい。でも誰の目にも入れたくない。オレのサクラだってみんなに言いたい」
いつも飄々としているカカシがサクラのことを思うほど嫉妬で苦しんでいる姿が嬉しくてしょうがない。
サクラは指を撫でる手を包み込むように握る。
「今しなきゃいけないことは、サスケくんを連れ戻すことでしょう?」
「・・・うん。そうだな」
カカシは弱々しく頷く。
「私、頑張るわ。絶対サスケくんには帰ってきてもらいたいの。ナルトとサスケくんに祝福されて先生と結婚したい」
「・・・それ、結構難しくないか?」
「でしょうね。お父さんより大変だと思うわよ?ナルトはきっと正気取り戻して明日ぐらいに突撃してきそう」
「サクラのお父さんは二言で許してくれたからな・・・こりゃ、すぐに結婚なんて無理そうだなー」
吹っ切れたように笑うカカシに、サクラは「あ、あとね」と付け足す。
「私が一人前の忍になるまで結婚はしないから」
「は!?それっていつ!」
「んーと、私が上忍になって、シズネ先輩に病院のことを任せて貰えるようになって・・・あ、それと師匠にも認めてもらえないとダメだからね」
「綱手様も・・・?それ、どんどん壁高くなっていくんだけど・・・」
また肩を落とすカカシにサクラは小さく笑う。
サクラとカカシが付き合っていることを快く思っていない綱手は、どうにかして別れさせようとカカシに意地悪しているのだ。
そんな綱手に認められるのは至難の業だろう。
「こんなことで諦めるの?先生の私への愛はその程度なんだ?」
「いや、諦めるなんて言ってないから。絶対認めさせるよ」
「その意気よ。頑張って旦那様」
サクラは立ち上がり、口を開いて呆然としているカカシの手を取って立ち上がらせる。
それでも惚けているカカシの手を引っ張って歩く。
「・・・サクラ、今のもう1回言って」
「だーめ。その日までもう言いません」
「サクラ〜・・・」
情けない未来の夫の声にサクラは笑って振り向く。
「ねぇカカシ先生、あの桜、今年も咲いてるかしら」
「見に行ってみるか?」
「うん!」
サクラはカカシの腕に引っ付いて、ゆっくりと毎年初詣の帰りに行く道を歩いた。
部屋の外からガヤガヤと人の声が聞こえてきて眉間に皺を寄せて瞼を薄く開ける。
今日は寝る時間が遅かったからもうちょっと寝てたい。
目を瞑り寝返りを打つと、自分ではない寝息が聞こえて目を開ける。
そこにはカカシの腕を枕にして気持ちよさそうに眠るサクラ。
付き合い始めて何回もこんな朝を迎え、そして毎回同じ気持ちになる。
好きな人と迎える朝はこんなにも幸せなのかと。
カカシはサクラの頭を撫でると、眠るサクラは口角を上げる。
ずっとこのまま過ごしていたいがそうもしていられない。
「サクラ」
優しく呼びかけても翡翠の瞳は現れない。
しょうがない、とカカシはサクラの頬を指で突く。
「サクラちゃーん」
「ん、んぅ・・・」
眠りの邪魔をされて綺麗な眉が寄り、カカシの胸に顔を埋める。
いつもなら目覚めの良いサクラだが、昨晩は散々無体なことをされて疲れているのだろう。
「サクラー、今日はお雑煮食べて初詣に行くんじゃなかったのか?」
その言葉にゆっくりと瞼が上がり、ずっと見たかった翡翠の瞳と目が合う。
「・・・おはよう、先生」
「おはよう」
はにかんで微笑むサクラが可愛くて、愛おしい額にキスをする。
サクラは上半身を起こしてキャミソール姿で大きく背伸びをする。
「今何時?」
「ん〜・・・10時」
「もうそんな時間?今からお雑煮食べたらお昼までにお腹空かないわよね。軽く食べて初詣に行ってから食べる?」
「そうだな」
サクラは頷いてベッドから降り、床に落ちている服を手に取って離れていく。
「あ、そうだった」
起きるか、とカカシもベッドに腰掛けると、何かを思い出してようにサクラが戻ってきて頭を下げる。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「おめでとう。今年もよろしく」
カカシも頭を下げて新年の挨拶をすると、サクラは嬉しそうに笑って洗面所の方に向かっていった。
こうやって新年の挨拶をするのはまだ気恥ずかしくなる。
暗部にいた頃は目の前の仲間が明日には死んでいることが普通で。
形だけの挨拶はしていたが、よろしくなんて言えるところではなかった。
4人で初めて新年を迎えたとき、サクラとナルトが満面の笑みで挨拶をしてくるのを見て、冷え切っていた心が温まるのを感じたのを今でも覚えている。
まぁ、その後にお年玉を集られたんだが。
また4人であの日のように新年を迎える為には迷子のアイツを迎えに行かなきゃな、とカカシは立ち上がってサクラがいる洗面所に向かった。
****
それから今年もカカシに着付けて貰って、綺麗に着飾ったサクラは私服のカカシと手を繋いで毎年行く近所の小さな神社に向かう。
今年は新調して、白の振袖にピンクの花が描かれた、少し大人っぽいのを着てみた。
どうかな、とカカシに聞くと、嬉しそうに微笑んで頷いてくれてサクラも同じように笑った。
指を絡めて楽しそうに手を繋いで歩くサクラを横目に、カカシは内心それどころではなかった。
サクラの新しい着物を見た時から嫌な予感がしていたのだ。
ここ数年でサクラはどんどん綺麗になった。
身長も伸びて、顔も少女から女性へと変わろうとしていて、体つきも子供の時とは違い、女特有の柔らかさを感じさせて。
今日は更に着物に合わせて化粧もして綺麗に着飾っているせいで、すれ違う男たちがチラチラとサクラを見てくるのに睨みをきかせる。
何故この恋人は無意識に男を魅了してしまうのか、とカカシが小さくため息を吐いたことにサクラは気づいて見上げてくる。
「どうかした?」
「いいや?」
曖昧に微笑むと少し首を傾げて、また幸せそうに笑うサクラ。
この笑顔は自分だけの特権だ、と小さな手を強く握った。
それから神社に着いてお参りをし、甘酒を飲んだ。
ここの甘酒は美味しくてチビチビと飲む。
「捨ててくるよ」
「うん」
カカシはサクラの紙コップを手に取って人混みの中に入ってくる。
履き慣れない下駄だから極力私が歩かないで良いように気を使ってくれているのだ。
そんな優しさに1人微笑んでいると。
「おね〜さん」
隣から声が聞こえて見ると、サクラと同年代の男2人組が話しかけてきた。
「お姉さん、着物すごく似合ってるね」
「え、ありがとう、ございます?」
何で疑問系、と笑う2人にサクラは愛想笑いをしながら頭を働かせる。
──知り合いだっけ?
綱手に弟子入りをして病院で働くようになってから様々な人と関わるようになった。
もしかしたらそこに来た患者さん?
だとしたら無碍に扱えないな、とサクラは笑顔の仮面を貼り付ける。
「ねぇ、お姉さん1人?良かったら一緒に回らない?」
「は、いや、あの・・・」
どう断ろうかと考えていると手を掴まれ、その瞬間、背筋が凍りそうなほどの殺気が飛んできた。
男達が顔を真っ青にして振り向くと、カカシが歩いてくる。
「オレの連れに何か用?」
言葉は優しいのに、男達を睨む目は視線だけで殺せそうなほどだった。
「あ、す、すみませんでした!!」
上忍の殺気をモロに受けた2人組は涙目になり、サクラから手を離して逃げ去った。
「行くよ」
あっという間の出来事にサクラは唖然としていると、カカシはサクラの手を握って歩き出す。
カカシはサクラの手を引っ張り人混みの中を歩いて神社の鳥居を潜って外に出る。
普段はサクラに合わせてゆっくり歩いているカカシがサクラに見向きもせず、気が急いているように歩く。
「あっ!」
履き慣れない草履で頑張って付いて行っていたが、躓いて草履が脱げてしまった。
ようやくカカシは足を止め、転がる草履を見て眉を下げる。
サクラを座れるところに連れて行き、代わりに草履を取りに行ってサクラの足元に置く。
「・・・ごめん」
足元で屈むカカシは俯いて謝る。
普段が見上げることが多いカカシが、子供のように落ち込んでいる姿が可愛くて微笑んで、同じようにしゃがむ。
「ヤキモチ焼いたの?」
「うん」
口を尖らせているカカシがサクラの左手を手に取り、薬指を撫でる。
「綺麗なサクラをみんなに見てほしい。でも誰の目にも入れたくない。オレのサクラだってみんなに言いたい」
いつも飄々としているカカシがサクラのことを思うほど嫉妬で苦しんでいる姿が嬉しくてしょうがない。
サクラは指を撫でる手を包み込むように握る。
「今しなきゃいけないことは、サスケくんを連れ戻すことでしょう?」
「・・・うん。そうだな」
カカシは弱々しく頷く。
「私、頑張るわ。絶対サスケくんには帰ってきてもらいたいの。ナルトとサスケくんに祝福されて先生と結婚したい」
「・・・それ、結構難しくないか?」
「でしょうね。お父さんより大変だと思うわよ?ナルトはきっと正気取り戻して明日ぐらいに突撃してきそう」
「サクラのお父さんは二言で許してくれたからな・・・こりゃ、すぐに結婚なんて無理そうだなー」
吹っ切れたように笑うカカシに、サクラは「あ、あとね」と付け足す。
「私が一人前の忍になるまで結婚はしないから」
「は!?それっていつ!」
「んーと、私が上忍になって、シズネ先輩に病院のことを任せて貰えるようになって・・・あ、それと師匠にも認めてもらえないとダメだからね」
「綱手様も・・・?それ、どんどん壁高くなっていくんだけど・・・」
また肩を落とすカカシにサクラは小さく笑う。
サクラとカカシが付き合っていることを快く思っていない綱手は、どうにかして別れさせようとカカシに意地悪しているのだ。
そんな綱手に認められるのは至難の業だろう。
「こんなことで諦めるの?先生の私への愛はその程度なんだ?」
「いや、諦めるなんて言ってないから。絶対認めさせるよ」
「その意気よ。頑張って旦那様」
サクラは立ち上がり、口を開いて呆然としているカカシの手を取って立ち上がらせる。
それでも惚けているカカシの手を引っ張って歩く。
「・・・サクラ、今のもう1回言って」
「だーめ。その日までもう言いません」
「サクラ〜・・・」
情けない未来の夫の声にサクラは笑って振り向く。
「ねぇカカシ先生、あの桜、今年も咲いてるかしら」
「見に行ってみるか?」
「うん!」
サクラはカカシの腕に引っ付いて、ゆっくりと毎年初詣の帰りに行く道を歩いた。