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クリスマス

『今年のクリスマスも2人で過ごそう』


師走の忙しい中、執務室で久しぶりに会った恋人に耳打ちでクリスマスの約束をしてもらった。
去年、私が嘘をついて先生の家を押しかけて一緒にご飯を食べてケーキを食べて。
お店で先生に似合いそうなマフラーを見つけてプレゼントを渡したら、先生から何かしてもらいたいことはないか、と言われて。
その言葉にずっと秘めていた恋慕を伝えた。
そしたらまさかの先生も私が好きで、たくさんキスをしてくれて、そしてそのまま愛し合って──。



その時のことを思い出して、ここが職場だということも忘れて顔が赤くなる。

「春野先生、顔赤いですけど風邪ですか?」

更衣室で着替えていると入れ替わりで帰宅の準備をしている看護師に声をかけられる。

「あ、ううん。大丈夫よ。ちょっと来る時寒かったからかしら」

えっちなこと考えてました、なんて言えなくて愛想笑いをする。

「確かに昨日の晩から一気に冷え込みましたよね。朝起きたら雪が積もっててビックリしましたよ」
「本当ね。まさにホワイトクリスマスだわ」

白衣を着ながら言うと、看護師は口に手を当てて含み笑いをしている。

「なに?」
「春野先生も、今夜はクリスマスデートですか?」
「へっ!?」
「だって今日はいつもよりお洒落な服で出社されてたから」

さすが目敏い。
彼女が言うように、今日は普段も何倍も時間をかけて洋服を選んだ。
だって久しぶりのデートだし、クリスマスだし!!
でも色々選んでいるときにそのまま床に寝落ちしてしまい、寒さで目が覚めた。
そのせいか頭がボーとする。

「それより今日はどんな感じ?」
「あ、はい。雪で滑って怪我をした人が何人か来てますね。たぶん今日はいつもより多そうです」
「そう。ありがとう」

お礼を言って色々聞かれる前に退散した。
1年前、六代目火影と私が付き合っているということがすぐに広まり、私は仲間たちから根掘り葉掘り聞かれた。
ただでさえ里一番の出世頭である火影の妻を里の女性達は狙っていて、しかもイケメンという噂もあったことでカカシ先生は女性達から注目の的だった。
そんな中、教え子の私と付き合っているとなったら好奇心やら嫉みやらで暫く大変だったことを今でも覚えている。

とりあえず今は目の前の仕事だ。
すでに待合室にいる患者見て、頭を切り替えて診察室に入った。



****



病院全体に18時を知らせる音が響く。

「春野先生、お疲れ様でした・・・」
「お疲れ様・・・」

仕事を終え、更衣室で服を着替えていると、同じように仕事を終えた看護師に声をかけられる。
お互いげっそりした顔で、はは、と笑ってため息を吐く。
やはり今日はいつもの何倍もの患者が訪れ、診察時間を1時間過ぎてようやくさばき終わった。
ほとんどが雪に滑って怪我をしたり挫いたりだったけど、木ノ葉じゃめったに雪が積もらないから怪我をしやすいのだ。

私は仕事着から私服に着替えながら何回もため息を吐く。
何だか朝より頭が、体が怠いかも。
昼に眠くならない薬を飲んだけど、全く効いてない。
いつもなら真っ直ぐ家に帰って寝たいとこだけど、今日は特別な日。
自分の体に鞭を打って、看護師に声をかけて部屋を出た。



執務室に行かなきゃ、と痛む頭でそう考えながら病院の関係者出入り口のドアを開ける。

「サクラ」

よく知ってる声に呼ばれて、聞き間違え?と思ったけどこの大好きな声を間違えるはずがない。
パッと顔を上げると、そこには去年あげたマフラーを付けて片手を上げるカカシ先生が立っていた。
まさか居るとは思わなくて目を見開いて駆け寄る。

「カカシ先生、どうしたの」
「シカマルが気を利かせてくれてね、早く上がらせてくれたんだ。だからお姫様のお迎えにあがりました」

先生はキザみたいなことを言ってウインクをしてくる。
普段なら何馬鹿なこと言ってるの、と言いたいところだが今日はクリスマス。
嬉しくなってしまうのはしょうがない。
でも素直に嬉しいと言えなくて、ニヤけるのを我慢していると、さっきとは違う声色で名前を呼ばれる。

「サクラ。何か顔赤くないか」
「えっ」

顔に出ていたのだろうか。
冷やかされると思ったら、その顔は真剣そのもので先生の手が額に当てられる。
その手は外にいたからかひんやりしていて気持ちがいい。

「やっぱり。熱がある」
「せ、先生の手が冷たいからよ」
「いいや。オレは誤魔化せないよ」

さっきまでの甘々な雰囲気はどこへやら。
先生は上忍師をしていた時を思い出させる顔をしてくるので、私は誤魔化せないと諦める。

「・・・朝から少し身体が怠くて」

そう素直に言うと、先生は大きくため息を吐く。
先生が怒っているのが分かり、肩身が狭くなる。

「今日はもう帰ろう」
「え、でも、デートが・・・」
「帰るよ」
「はい・・・」

有無を言わさない雰囲気に私は素直に先生に手を引っ張られて歩いた。



****



そのまま先生の家に連れてこられて、ベッドに寝かしつけられる。

「お粥は食べられそう?」
「うん・・・」

腕を捲る先生に素直に頷く。
忙しくて昼は簡単に済ませられる兵糧丸しか食べていないから、お粥というワードにお腹が小さく鳴る。
小さい頷いた先生はキッチンに向い、私は聞こえないようにため息を吐く。

せっかくのクリスマスなのに。
せっかく先生が迎えにきてくれたのに。
日頃先生には健康管理が云々と偉そうに言っておきながら自分がこうなっては元も子もない。
弱っているから情けない自分にどんどん涙が溢れ、隠れるように泣く。
あぁ。
どれだけ大きくなっても私は泣き虫サクラだ。

「う・・・うっ・・・」

泣いてるのが聞こえないように毛布を頭まで被っていると、それが徐に取り払われる。
気づいたら先生が側に立っていて、眉を下げて見下ろしてくる。

「泣いてるのか」
「先生・・・」

情けない顔を見せたくなくて毛布をまた被ろうとするも、先生の手がそれを許さない。
ベッドに腰掛けた先生が私の頬を流れる涙を拭う。

「何で泣いてるの」
「だ、だって・・・せっかくの、クリスマスが・・・」
「クリスマスはこれから何回も来るんだ。こんな年があっても良いだろ?」
「これから・・・何回も」

微笑む先生に嬉しくなる。
だって、これからもずっと一緒にいてくれるってことなんだもん。

嬉しくて恥ずかしくて。
また毛布を被る。
考えていることが分かったのか今度は毛布を取られなかった。


「──カカシ先生」
「ん?」

目だけ毛布から出して話す。

「心配かけて、ごめんなさい」
「うん。また体調悪いの隠したらもう心配で、仕事ほったらかしてずっとサクラの側にいるかもしれない」
「それはシカマルに怒られるから気をつけます・・・」

優秀な補佐で同期の怒る顔が容易に想像出来てしまう。
そんなことを考えてると、口布を下げた先生が顔を近づけてくる。
先生が何をしようとしてるのか分かり、先生の口に手を当てる。

「だめよ・・・風邪移しちゃう」
「少しなら大丈夫だよ」
「でも・・・」
「お願い」

眉を下げて懇願されたら断れるわけがない。
諦めて目を閉じ、唇を塞がれる。


その後はベッドでお粥を食べて、先生に抱きしめられて朝まで眠って。
せっかくのクリスマスなのに用意していたことは何も出来なかったけど。
これから何回もカカシ先生とクリスマスを迎えるのだ。
こんなクリスマスもいいものだな、と私もそう思えたのだった。


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