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トリックオアトリート

『カカシ先生、トリックオアトリート』
『もうお菓子持ってないよ』
『ならイタズラね』



あの日から1ヶ月半。
何事もなく日々が過ぎている。
オレの唇を奪ったサクラは今までと本当に変わりなく、ナルトを怒り、オレに文句を言い、サスケにくっ付いている。
何もかもが今まで通りで、あれはハロウィンの魔女が見せた夢だったのではないかと思うようになった。
上忍待機所でイチャパラを読みながら大きくため息を吐く。
最近は至福の時間のはずだったこの本も全く頭に入ってこない。


「あ、いたいた。カカシ」

呼ばれて顔を上げると紅が近づいてくる。

「アスマとガイは一緒じゃないのね」
「いつも一緒にいるわけじゃないし・・・何か用?」
「さっき上から話があったのよ。この間のハロウィン人気だったでしょ?だからまた下忍達にクリスマスイベントで盛り上げて欲しいって」
「クリスマス?もうそんな時期なのか・・・うちの子が危険に晒されたんだから許可出来ないんだけど」
「そう。それも上が反省してるらしくて、今回は整理券を用意して女の子たちとの握手会はどうかってことらしいのよ」
「あ、握手会?」

どこのアイドルだ。

「あの子達みんな可愛いでしょう?だから需要はあると思うのよね。握手とちょっとしたお菓子も渡すらしいの。それであの子達にはもう話してて、ヒナタは私が説得して他の3人はもうやる気充分よ。後は教官のあんた達の許可だけ」

いつもモジモジしている日向の子はともかく、ガイとアスマのとこと、うちのサクラは俄然やる気を出すだろうな。
ハロウィンの時もそうだったし。

「サクラがやる気ならオレがダメって言えないでしょ」
「そう。それじゃあ後はあの2人ね。見かけたら私が探してたって言っといてちょうだい」
「りょーかい。あ、そういやそれっていつすんの」
「12月23日よ」
「当日じゃないんだ」
「流石に当日はあの子達も可哀想よ。クリスマスぐらい好きな子と過ごしたいだろうし」
「好きな、子・・・」
「何?」
「あ、いや、ありがとう」

お礼を言うと立ち去る紅を見て窓の外を見る。
すっかり秋から冬になって肌寒い季節になり、空は今にも雪が降ってきそうな分厚い雲に覆われていた。

「好きな子、ねぇ」

普通は同世代の男を好きになる。
ずっとサクラがサスケを追いかけていることは知っていたのに。
当たり前のことを忘れて勘違いをしていた自分が恥ずかしくなった。



****



クリスマスイベント当日。
数日かけて準備した簡易テントの中を4つに分け、男子たちは入り口で整理券をチェック、教官は女の子たちの後ろで待機。

「カカシ先生!」

警備を担当している奴から話を聞いていると後ろから呼ばれ、振り返ればこの日のために作られたサンタのコスチュームを着たサクラが走って近寄ってくる。
担当者との話終わらせてサクラに向き合う。

「どう?」
「うん、可愛い」

目の前でクルッと回って可愛くポーズを取るサクラの頭を撫でながら褒める。
嬉しそうに笑うサクラの格好は赤いワンピースに赤いケープ。
端などに白いモフモフしたのが付いていて、頭の額当ても今日は赤いリボンを付けている。
前からサクラは赤い服が似合うと思っていたからサンタコスがすごく似合っている。

しかし。

スカートの丈、短くないか?
いつもはスパッツを履いているが、今日は履いていない。
だからいつもは隠されている白い滑らかな太ももが見えて落ち着かない。
その部分を凝視していると、サクラが目線を遮るように手で太ももを隠す。

「ちょ、ちょっと・・・見過ぎ!」
「あ、悪い悪い」

顔を真っ赤にして睨むサクラに笑いながら謝る。

「サスケには見せに行ったのか?」
「え、サスケくん?」
「そう。サスケはムッツリスケベだからきっと見せに行ったら喜ぶぞ」
「うん・・・」

興味ないふりしてチラチラ横目で見るサスケが容易に想像でき、きっとサクラも喜ぶと助言したのだが何故か浮かない顔をしていた。

「サクラ?どうした、体調悪いのか?」
「え!?ううん、大丈夫。そろそろ行かない。変なことされたらちゃんと守ってよね」
「もちろん」

ビッ、と指を指してくるサクラに頷くと、嬉しそうに笑って手を振ってテントへと走って行った。
今までなら一直線にサスケのとこに行くはずなのに。
サクラの不可解な行動が気になったが、そろそろ始まるのでオレもテントに向かった。



****



それから男たちの厳しい関門を通り抜けた人とサンタガールとの握手会が始まった。
ほとんどが成人男性だったが、親と一緒にきた小さい女の子が可愛く着飾ったサクラを見て目を輝かせ、「私もお姉ちゃんみたいなサンタさんになりたい!」と言われ嬉しそうに笑うサクラにオレも嬉しくなった。




それからイベントは無事に終わり、後の片付けは主催者側に任せて打ち上げをしようということになった。
サクラにも伝えようとコートを持って探していると親御さんと一緒にいるのを見つける。
どうやら娘の可愛い姿を写真に納めようとしているらしく、終わるまで少し離れたところで見守っているとサクラが気づいて手を振ってくる。
あちらの親御さんが会釈をしたのでオレも頭を下げる。
親御さんと少し話してサクラが駆け寄ってくる。

「お待たせ!」
「もういいのか?」
「うん!お父さん達が先生によろしくって」
「そうか」

寒さで頬と鼻を赤くしているサクラに持っていたコートをかける。
ケープは見た目を良くするためのもので防寒用ではない。

「えへへ、ありがとう」
「イベント頑張ったご褒美に焼肉Qで打ち上げしようってなってね。みんなもう行ってるから」
「先生たちの奢り!?」
「そうだぞ。ありがたく食べるよーに」
「やったぁ!」

嬉しそうに飛び跳ねて走り出すサクラ。
迷子にならないように呼びつけ、戻ってきたサクラの手を握って歩く。
その手はいつもより熱い気がした。



「あ、見て先生」

サクラに言われて指差す方を見ると、里で一番大きい木がイルミネーションされていた。

「綺麗・・・」

うっとりして木を見ているサクラを盗み見る。
オレにはイルミネーションよりサクラの方が綺麗だと思えた。

「・・・なぁサクラ」
「なに?」

呼ばれて顔を上げるサクラの瞳と目が合う。
光に照らされていつもと違う魅力を持った翡翠の瞳。

「クリスマスプレゼント、欲しくないか?」
「え!くれるの?欲しい欲しい!」

プレゼントの単語にサクラは目を輝かせる。
その表情に悪戯心が湧いてしまった。


「じゃあ少しだけ早いけど」

口布を下げて身を屈め、サクラに顔を近づける。

「──え?」

最後まで閉じられることのなかった丸い瞳に心の中でほくそ笑みながら、
サクラの赤い唇を塞いだ。


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