同居生活
朝。
自分の部屋から出てコソコソと隠れるように玄関に忍足で向かう。
「あれ、サクラ。今日も早く出るの?」
もう1つの部屋のドアがタイミングよく開いて話しかけてきた声に大袈裟なほど肩が跳ねる。
きごちなく笑って振り向く。
「う、うん。まだ師匠に頼まれてたことが終わってなくて」
「ふ〜ん。大変だね。朝食は食べたのか?」
「うん。それじゃあ行ってきます!」
「あ、うん。行ってらっしゃい・・・」
先生の声を背中で聞きながら振り返らず玄関を閉めた。
「・・・お腹空いた」
小さく鳴るお腹を摩りながらため息を吐いた。
先生に告白されてから数日。
いつも通りの先生と違い、私は先生を避けていた。
朝は今日みたいに早く家を出たり、夜は一緒に食べるけど前みたいに喋れなくて、片付けが終わったらすぐに自分の部屋に戻る。
だって・・・気まずいじゃない!
今までただの上司と思っていたのにいきなり男の顔をするんだもん!
あの目で見つめられたら・・・。
顔が熱くなり、拳を握って机を叩く。
「サクラ」
低い声で名前を呼ばれ、大袈裟なほど肩が跳ねる。
その声は背筋が凍るような感覚で。
「あんた、いい度胸だね。大事な書類をグシャグシャにしてさ」
「し、師匠・・・」
恐る恐る顔を向けると、頬杖を付いて綺麗な顔でこちらを見るのは、医療忍術の師匠にして木ノ葉の長、綱手様。
微笑んではいるけど、すごい怒っているのが分かる。
師匠の言葉通り、書類整理をしていた紙は拳を叩きつけたおかげでグシャグシャになっていた。
「どうも仕事に集中出来てないみたいだねぇ」
「す、すみません・・・」
これは鉄槌がくだると素直に謝ると、師匠はニッコリと微笑み。
「今日中にここに書かれた書類を探してこい!」
「はいぃぃ!!」
ドンっと机を叩いた綱手様が差し出す紙を受け取って慌てて部屋を飛び出した。
「はぁー・・・あれは当分機嫌悪いなぁ・・・」
資料室に着いて書類を探す。
たくさんある書類の中から目的の紙を探すのは骨が折れそうだ。
これもそれも、いきなり告白してきたカカシ先生が悪いのだ。
頭の中で先生に八つ当たりをしていると、出入り口の方からよく知っている声が聞こえて耳を澄ます。
「サクラいる?」「奥の部屋にいますよ」と同じように書類整理をしていたイズモさんの声が聞こえ近づいてくる足音。
「あ、いたいた」
「か、カカシ先生・・・」
部屋の中を覗いて私と目が合うと嬉しそうに笑うので思わずときめいてしまった。
「よく私がここにいるって分かりましたね」
「執務室に寄ったら綱手様が教えてくれてね」
師匠・・・。
きっとカカシ先生が私に告白したことは風の噂で知っているだろう。
きっと私を揶揄うために教えたんだ。
先生と出来るだけ目を合わせないよう書類を手に取り忙しいふりをする。
「で、何か用ですか?」
「うん。今日飲み会になったから帰り遅くなるんだよね。だからちゃんと戸締りしといて」
「分かりました・・・」
しゅんと肩を落とす。
顔は合わせれないけど、いないと思うと寂しくなる。
気づいたら先生が側に立っていて、頭をポンっと撫でてくる。
「出来るだけ早く帰るから」
何で考えてることが分かったんだろう。
頬が赤くなるのが分かり、頭に乗る先生の手を振り払う。
「別にゆっくりしてくればいいじゃない!私も久しぶりに1人になれるんだし」
「ふ〜ん?そっか」
意地悪気に微笑んだ先生はまた私の頭をポンポンと撫でて部屋を出ていった。
なんでこう素直になれないんだろうか、と自分の性格を恨んだ。
****
その日の夕飯は昨日の残り物。
椅子に座って黙々と食べる。
チラッと先生の席を見るももちろん先生は飲み会でおらず、つまらなくて何回もため息を吐いていた。
それからお風呂に入り、ソファーの上で膝を抱えてTVを見る。
今話題の恋愛ドラマが流れているのに先生のことで頭がいっぱいで全然頭に入ってこない。
今日何度目かのため息を吐いた時、玄関の方がガチャガチャと音が聞こえてきて背筋を伸ばす。
「ただ〜いま」と控えめな声に、私が寝てると思っているのだろう。
ソファーから立ち上がって玄関に向かう。
「・・・おかえりなさい」
「あれ〜、サクラまだ起きてたの?」
「うん。だってまだ23時前だし」
「あ〜そっかそっか〜」
いつもより間延びした声に変だなって眉間に皺を寄せていると、
「サクラ〜」
先生に抱きしめられていた。
いきなりのことに思考が止まる。
先生の匂いと一緒にアルコールの匂い。
「・・・え!?ちょ、ちょっと先生!」
「ん〜、サクラ良い匂いする」
先生は私の頭に顔を埋めて匂いを嗅いでくるので恥ずかしくて涙が滲む。
「や、やだ!やめて!」
「やだ?」
「やだ!恥ずかしい!」
「恥ずかしがるサクラも可愛い」
チュッと頭に柔らかい物と音に耳まで赤くなる。
「も、先生!!」
「あはは、ごめ〜んね。酔い覚ましてくるよ」
胸を押すと簡単に体が離れる。
頬を膨らませて睨むと、先生は笑いながら洗面所の中に入っていった。
あれは私が避けてるのを知ってて揶揄ったな。
私は先生がいる洗面所を睨んでキッチンに向かった。
****
「ふ〜・・・、あれ?」
ものの数分で浴室から出てきてタオルで頭をガシガシ拭きながらリビングに戻ってきた先生は、テーブルに置いてあるのを見つける。
「お茶漬け、作ってくれたのか?」
「うん。先生が飲み会行った次の日の朝、いつもお茶碗が洗ってあったからお腹空いてるのかと思って」
「さすがサクラ。酒ばっかりであんまり食べなんだよねぇ」
「もう、空きっ腹にお酒はダメよ!」
「今度からは気をつけるよ」
先生が椅子に座り、温かいお茶を淹れて横に置く。
美味しそうに鮭のお茶漬けを啜り、ほっと息を吐く。
「こういうの、良いよねぇ」
目を細めって嬉しそうに笑う先生。
先生は小さい頃に御両親を亡くしていると師匠に聞いたことがある。
長年失っていた家庭の温かさを懐かしく感じているのかもしれない。
──私が先生と一緒になったらいつでもそれを与えてあげれるのかな。
思わずそんなことを考えてしまい、慌てて頭を横に振る。
「わ、私もう寝るから!」
「うん。ありがとね。おやすみ」
「おやすみなさい・・・」
にっこり微笑む先生の顔をまっすぐ見れなくて、目を逸らしながら挨拶をして自分の部屋に戻った。
ベッドに横になってもなかなか寝つくことが出来なくて、ずっと先生のことを考えている。
子供の頃から守ってくれた大きな背中。
2人が居なくなってもずっと側に居てくれた先生。
一緒に住むようになって告白されて、恥ずかしくて避けてはいたけど嫌だなんて思ったことはない。
逆に居心地が良くて、誰にもこの隣を渡したくなくて・・・。
そこまで考えて顔に手を当てて足をジタバタ動かして悶える。
「私、カカシ先生のこと好きじゃない・・・」
私は今日初めてのため息を吐いた。
自分の部屋から出てコソコソと隠れるように玄関に忍足で向かう。
「あれ、サクラ。今日も早く出るの?」
もう1つの部屋のドアがタイミングよく開いて話しかけてきた声に大袈裟なほど肩が跳ねる。
きごちなく笑って振り向く。
「う、うん。まだ師匠に頼まれてたことが終わってなくて」
「ふ〜ん。大変だね。朝食は食べたのか?」
「うん。それじゃあ行ってきます!」
「あ、うん。行ってらっしゃい・・・」
先生の声を背中で聞きながら振り返らず玄関を閉めた。
「・・・お腹空いた」
小さく鳴るお腹を摩りながらため息を吐いた。
先生に告白されてから数日。
いつも通りの先生と違い、私は先生を避けていた。
朝は今日みたいに早く家を出たり、夜は一緒に食べるけど前みたいに喋れなくて、片付けが終わったらすぐに自分の部屋に戻る。
だって・・・気まずいじゃない!
今までただの上司と思っていたのにいきなり男の顔をするんだもん!
あの目で見つめられたら・・・。
顔が熱くなり、拳を握って机を叩く。
「サクラ」
低い声で名前を呼ばれ、大袈裟なほど肩が跳ねる。
その声は背筋が凍るような感覚で。
「あんた、いい度胸だね。大事な書類をグシャグシャにしてさ」
「し、師匠・・・」
恐る恐る顔を向けると、頬杖を付いて綺麗な顔でこちらを見るのは、医療忍術の師匠にして木ノ葉の長、綱手様。
微笑んではいるけど、すごい怒っているのが分かる。
師匠の言葉通り、書類整理をしていた紙は拳を叩きつけたおかげでグシャグシャになっていた。
「どうも仕事に集中出来てないみたいだねぇ」
「す、すみません・・・」
これは鉄槌がくだると素直に謝ると、師匠はニッコリと微笑み。
「今日中にここに書かれた書類を探してこい!」
「はいぃぃ!!」
ドンっと机を叩いた綱手様が差し出す紙を受け取って慌てて部屋を飛び出した。
「はぁー・・・あれは当分機嫌悪いなぁ・・・」
資料室に着いて書類を探す。
たくさんある書類の中から目的の紙を探すのは骨が折れそうだ。
これもそれも、いきなり告白してきたカカシ先生が悪いのだ。
頭の中で先生に八つ当たりをしていると、出入り口の方からよく知っている声が聞こえて耳を澄ます。
「サクラいる?」「奥の部屋にいますよ」と同じように書類整理をしていたイズモさんの声が聞こえ近づいてくる足音。
「あ、いたいた」
「か、カカシ先生・・・」
部屋の中を覗いて私と目が合うと嬉しそうに笑うので思わずときめいてしまった。
「よく私がここにいるって分かりましたね」
「執務室に寄ったら綱手様が教えてくれてね」
師匠・・・。
きっとカカシ先生が私に告白したことは風の噂で知っているだろう。
きっと私を揶揄うために教えたんだ。
先生と出来るだけ目を合わせないよう書類を手に取り忙しいふりをする。
「で、何か用ですか?」
「うん。今日飲み会になったから帰り遅くなるんだよね。だからちゃんと戸締りしといて」
「分かりました・・・」
しゅんと肩を落とす。
顔は合わせれないけど、いないと思うと寂しくなる。
気づいたら先生が側に立っていて、頭をポンっと撫でてくる。
「出来るだけ早く帰るから」
何で考えてることが分かったんだろう。
頬が赤くなるのが分かり、頭に乗る先生の手を振り払う。
「別にゆっくりしてくればいいじゃない!私も久しぶりに1人になれるんだし」
「ふ〜ん?そっか」
意地悪気に微笑んだ先生はまた私の頭をポンポンと撫でて部屋を出ていった。
なんでこう素直になれないんだろうか、と自分の性格を恨んだ。
****
その日の夕飯は昨日の残り物。
椅子に座って黙々と食べる。
チラッと先生の席を見るももちろん先生は飲み会でおらず、つまらなくて何回もため息を吐いていた。
それからお風呂に入り、ソファーの上で膝を抱えてTVを見る。
今話題の恋愛ドラマが流れているのに先生のことで頭がいっぱいで全然頭に入ってこない。
今日何度目かのため息を吐いた時、玄関の方がガチャガチャと音が聞こえてきて背筋を伸ばす。
「ただ〜いま」と控えめな声に、私が寝てると思っているのだろう。
ソファーから立ち上がって玄関に向かう。
「・・・おかえりなさい」
「あれ〜、サクラまだ起きてたの?」
「うん。だってまだ23時前だし」
「あ〜そっかそっか〜」
いつもより間延びした声に変だなって眉間に皺を寄せていると、
「サクラ〜」
先生に抱きしめられていた。
いきなりのことに思考が止まる。
先生の匂いと一緒にアルコールの匂い。
「・・・え!?ちょ、ちょっと先生!」
「ん〜、サクラ良い匂いする」
先生は私の頭に顔を埋めて匂いを嗅いでくるので恥ずかしくて涙が滲む。
「や、やだ!やめて!」
「やだ?」
「やだ!恥ずかしい!」
「恥ずかしがるサクラも可愛い」
チュッと頭に柔らかい物と音に耳まで赤くなる。
「も、先生!!」
「あはは、ごめ〜んね。酔い覚ましてくるよ」
胸を押すと簡単に体が離れる。
頬を膨らませて睨むと、先生は笑いながら洗面所の中に入っていった。
あれは私が避けてるのを知ってて揶揄ったな。
私は先生がいる洗面所を睨んでキッチンに向かった。
****
「ふ〜・・・、あれ?」
ものの数分で浴室から出てきてタオルで頭をガシガシ拭きながらリビングに戻ってきた先生は、テーブルに置いてあるのを見つける。
「お茶漬け、作ってくれたのか?」
「うん。先生が飲み会行った次の日の朝、いつもお茶碗が洗ってあったからお腹空いてるのかと思って」
「さすがサクラ。酒ばっかりであんまり食べなんだよねぇ」
「もう、空きっ腹にお酒はダメよ!」
「今度からは気をつけるよ」
先生が椅子に座り、温かいお茶を淹れて横に置く。
美味しそうに鮭のお茶漬けを啜り、ほっと息を吐く。
「こういうの、良いよねぇ」
目を細めって嬉しそうに笑う先生。
先生は小さい頃に御両親を亡くしていると師匠に聞いたことがある。
長年失っていた家庭の温かさを懐かしく感じているのかもしれない。
──私が先生と一緒になったらいつでもそれを与えてあげれるのかな。
思わずそんなことを考えてしまい、慌てて頭を横に振る。
「わ、私もう寝るから!」
「うん。ありがとね。おやすみ」
「おやすみなさい・・・」
にっこり微笑む先生の顔をまっすぐ見れなくて、目を逸らしながら挨拶をして自分の部屋に戻った。
ベッドに横になってもなかなか寝つくことが出来なくて、ずっと先生のことを考えている。
子供の頃から守ってくれた大きな背中。
2人が居なくなってもずっと側に居てくれた先生。
一緒に住むようになって告白されて、恥ずかしくて避けてはいたけど嫌だなんて思ったことはない。
逆に居心地が良くて、誰にもこの隣を渡したくなくて・・・。
そこまで考えて顔に手を当てて足をジタバタ動かして悶える。
「私、カカシ先生のこと好きじゃない・・・」
私は今日初めてのため息を吐いた。
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