このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

離さないよ

「ん゛んー・・・」

カーテンの隙間から差し込む光が顔に当たり、眩しさで目が覚める。
うっすらと目を開け、そこはよく知っている天井。
頭がボーとし、取り敢えず起きようとすると頭が鈍く痛む。

「いってぇ・・・」

これもよく知っている痛み。
酒の飲み過ぎによる頭痛。
気分も悪いし、完全に二日酔いだ。
本来なら悪酔いしないのだが、任務終わりの打ち上げだったのと、サクラのことが気掛かりで飲みすぎて撃沈。

サクラの名前に昨夜のことを思い出す。
昨日長期の任務を終え、一緒に行っていた仲間と居酒屋で打ち上げ。
今すぐにでもサクラを探しに行きたかったが断ることも出来ず、酒を飲みまくり。
クタクタの体を引きずってサクラの気配を辿って行ったら見知らぬ男に肩を掴まれているサクラを見つけて。
男に牽制をして、サクラの手を引っ張って、
それから、それから──。

「・・・思い出せない」

ベッドの上で頭を抱えて記憶を漁るもそれ以降が全く思い出せない。
久しぶりのサクラの手の柔らかさと熱さだけはしっかり覚えているのに。
暫く唸っていると、部屋の鍵とドアの開く音が聞こえた。
袋を置く音、こちらに近づいてくる足音。

「あ、起きてる」

ひょこ、と顔を覗かせたのは恋人だった。
あの夜、怒らせて以来ずっと顔を見ていなかった大好きな薄紅の少女。

「・・・サクラ?」
「なに?」

腰に手を当ててこちらを見てくるサクラ。
その表情に怒りを感じない。
あんなに怒っていたのに、どうして・・・。

「サクラ・・・」
「うん、誰にも渡したくないサクラちゃんですよ?」

そう、サクラはニヤリと笑った。
何を言っているんだ?と首を傾げていると、昨日のことがフラッシュバックのように蘇る。
部屋にサクラを連れ込んで後ろから抱きしめ、縋るように離れたくないと・・・。

全部を思い出して顔を真っ赤になり汗が吹き出す。
今まで年上の男として余裕なフリをしていたのに全部水の泡になってしまった。
サクラは手を組んで嬉しそうに昨夜のことを思い出している。

「ふふ!先生が離れたくないぐらい私のことが大好きなんて思わなかったわ」
「う・・・」
「ねぇ。誰にも渡したくないぐらい私のこと好き?私と会えない間、どんな気持ちだった?」
「揶揄うのはよしてよ・・・」
「あら。いつも先生に揶揄われてるんだからお互い様でしょ?こんな絶好のチャンスはないんだから!」
「サクラぁ・・・」

グッと拳を握るサクラ。
昨日の自分が恥ずかしくて手で顔を隠すと、それをサクラによって外される。

「先生かわいい」

嬉しそうに笑うサクラが可愛くて悔しくて、その手を逆に掴んで引き寄せる。

「きゃっ!」

サクラはバランスをベッドに座るオレの胸元に倒れ込んできて抱き止める。

「男に可愛いはないんじゃない?」
「だって可愛いんだもん。昨日の先生はもっと可愛かったけど!」
「はー・・・もう酒飲むの控えよう」

楽しそうに笑うサクラに顔を見られないように肩に顔を埋める。
久しぶりのサクラの体、匂いに安らいでいく。
それぐらいサクラが好きで、離れたくない。


「・・・サクラ」
「なに?」

オレたちは抱き合ったまま話す。

「昨日と、あの日はごめん」

謝ると抱きしめるサクラの体が小さく揺れる。

「本当にあれは謝っても許されることじゃない。でもちゃんと謝りたかった。本当にごめん」
「・・・うん」

小さく鼻を啜る音が聞こえて胸が締め付けられる。

「あの人とはもう会ってないし、これからも会う気はない。綱手様にも伝えてある」
「・・・いいの?また指名されるかもなのに?」
「オレがあの人と会うのは嫌だろ?」
「うん・・・」
「サクラに辛い思いをさせるぐらいなら何度だって断るよ。・・・まぁ、一番ひどいことをしたオレが言えることじゃないんだけどね」

はは、と自嘲気味に笑うと背中に回る手に服を強く握られる。

「・・・本当ごめん。オレ、サクラに甘えてた。サクラはずっと側に居てくれる、なんて。本当自分を殴ってやりたいよ。約束は覚えないし忘れて他の女の人といるなんて本当最低だ」
「・・・・・・」
「サクラに会えない間、ずっとサクラのことを考えてた。もう今までみたいに笑ってくれなくても、もうオレに気持ちが無くなってるのかもしれなくても、最後にちゃんとサクラに会いたかった。会って、謝って、また好きになって貰えるように頑張るって言いたかった」

肩から頭を起こし、サクラの頬に手を添えて上を向かせると翡翠の瞳は涙で潤んでいた。

「もうオレのこと嫌い?」

情けなく問いかけると、ぶんぶん、と頭を横に振るサクラ。
その反応に心の底からホッ、とする。

「サクラはどうしたい?」

サクラはオレの問いかけにギュッと唇を噛み締め。

「・・・いっぱい抱きしめて、いっぱい好きって言って」

両目から大粒の涙を流しながら願うサクラをオレは思い切り抱きしめてベッドに押し倒した。

「──好きだよ。サクラが好きだ。愛してる。もう離さない、誰にも渡さない」
「・・・うん!」

嬉しそうに泣きながら頷くサクラ。
そんなサクラが愛おしくて、顔中にキスを、そして唇にキスをする。
今まで出来なかった分、長く。
少し顔を離すと、その瞳は先ほどまでの潤みじゃなくなっていた。
色っぽい表情に我慢出来なくなってしまうのはしょうがないだろ?

「離れてた分サクラを抱きたい。いい?」

聞くとサクラは耳まで真っ赤にして、小さく頷く。
オレは満面の笑みになり、また唇を塞いでサクラの服に手をかけた。



****



「ねぇ、先生」
「ん?」

事を終えてサクラの綺麗な髪を触っていると、ウトウトしていたサクラが話しかけてくる。

「今度の休み、この間出来なかったデートしましょう」
「もちろんいいよ」
「忘れないでよ」
「もう忘れません・・・なんなら1時間前から待っとくよ」
「じゃあ私より先に来てなかったら今度こそ別れるからね」
「え゛!!」

思わず変な声出て、サクラがジトっと見てくる。

「なに?出来ないの?」
「え、いや、もしかしたら起きれないかもしれないな〜って、あ、だったら前日からサクラ泊まりに来たら?そしたら忘れないし遅刻もしないし」

いいアイデアと提案すると、サクラは呆れたように笑う。

「もう。本当先生は私がいないとダメね」
「そうだよ?だから一生サクラが面倒見てね」
「えー?しょうがないなー」

面倒くさそうに言うが、その声色は嬉しそうで、オレの胸元に顔を埋めてすり寄る。
オレもこの温もりをもう二度と離さないと、滑らかな腰に手を回してピッタリくっ付いた。


2/2ページ