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クリスマス

「ねぇ、カカシ先生。24日って空いてます?」
「え?」

ここは火影の執務室。
サクラが書類を持って部屋を訪れ、オレはその書類を確認して印を押していたときに突然聞かれた。


ーー24日って・・・


「もしかして仕事で忙しい?」

返答をしないオレにサクラは首を傾げて問いかけてくる。

「あ、いや、シカマルもテマリがいるからその日は定時で上がるつもりだよ」

オレは内心焦るのを隠し、最近砂の姫を迎え入れた部屋にいない頼れる部下の名前を出す。

「じゃあその日は先生の部屋に行ってもいい?」
「え?」


オレはまた同じ言葉を言うと、サクラは口元に手を当ててクスクスと笑い出した。


「もう、先生。さっきからえ?、しか言ってないわよ」
「いや、だって・・・」

慌てるオレにサクラはまだ笑っている。

「その日はいのもナルトも恋人と過ごすからって断られちゃって。だから、独り身同士カカシ先生とクリスマスパーティしたいなって」



なるほど残り物か、と心の中で納得しつつ少しガッカリした。

いのはサイと、ナルトは日向と付き合うようになった。
サクラはというと、少女から大人になり可愛いから綺麗が似合う女性になった。
愛想もいい彼女を男が放っておくわけがないのだが、何故かサクラは誰とも付き合わずにいた。
それはきっと、贖罪の旅へと出た初恋の男を忘れられないのだろう。


「いいよ。他に予定もないし」

オレはニコッと笑って書類を差し出すと、サクラは花が咲いたように笑って受け取る。

「じゃあご飯作って行くから、ちゃんと部屋で待っててね」

はい、はいと返事をすると、にこやかに笑って手を振り執務室を出ていった。



オレはふー、と息を吐いて背もたれに体重をかける。
歴代の火影が座ってきた椅子は年代を感じギシギシと音をたてた。


24日まであと数日。
そして目の前には日に日に増えていく書類の山。
約束をきちんと守るには徹夜を覚悟しないといけないな、オレとシカマルは。
大きくため息をついて書類を手に取ると同時にドアが開き、徹夜仲間となる部下が帰ってきた。






****





24日当日。

なんとか仕事を無事定時に終わらせ、クタクタのシカマルを見送ってオレも部屋へと向かう。
すっかり日が落ちた里を歩いていると、イルミネーションでいつもと違う灯りを灯していた。
戦争やら色々あったが、なんとか乗り越えてこうやって日常を取り戻せたことに頬を緩ませながら歩く。



部屋に帰りつき、軽く掃除をする。
時々サクラは遊びにきていたが、今日のことを考えると落ち着かなくなり立ったり座ったりとウロチョロしてしまう。
そうしていると、部屋のインターホンが鳴り心臓が跳ねる。

「はいはーい」

外に聞こえるように返事をし、玄関のドアノブを回す前に息を吐いた。
ドアを開けると、約束通りそこには鼻の頭を真っ赤にしたサクラが立っていた。
その手には大きな荷物を抱えて。


「おじゃましまーす」

そう言ってサクラはドアを潜り器用に靴を脱いで部屋へと入る。
荷物をキッチンの台に乗せるとサクラは息を吐いた。

「そんなに荷物があったんならサクラの部屋でも良かったんじゃないか?」

壁にもたれ腕を組んでいるオレに、サクラは腰に手を当てて振り返る。

「私の部屋じゃ狭いもの。それに邪魔が入りそうだし」


ん?


オレがサクラの言葉に頭をハテナにしてる間にサクラは荷物を広げていく。
そしてある物をテーブルに置いた。
それは透明なドーム状をした置物で、その中では雪に見立てた粉が舞い、飾られた小さいモミの木が入っていた。

「へえ。今時こんなものあるんだ」
「綺麗でしょ。てゆうかカカシ先生、今時とか言わないでよ。おじさんっぽい」
「もうおじさんですよー」

オレは椅子に座り不貞腐れるように頬杖をついてサクラを見る。
サクラは笑いながら持ち込んだタッパーを開くといい匂いが漂ってきた。
それを手際良く皿に盛り付けて運んでくる。

皿には、こんがり焼き色が美味しそうなチキンにポテトサラダに野菜、コーンスープを後からサクラが持ってきて座る。


「「いただきます」」

手を合わせてこれもサクラが持参したナイフとフォークで切り分けてチキンを1口食べる。

「ん、美味しいよ」

柔らかく、オレ好みの味付けに止まらなくなる。
サクラもホッとして嬉しそうに食べ始める。



あっ、と思い出してオレが席を立ってキッチンへ向かうとサクラは不思議そうに見てくる。
そしてオレが両手に持った物を見てパァと華やいだ。

「それどうしたの?」

それは巷で人気の入手困難のスパークリングワイン。
オレはサクラが来ると聞いて人伝に頼んでいたものだ。

「前にサクラが飲んでみたいって言ってたのを思い出してさ。知り合いに頼んどいたんだよ」

ビンのコルクを抜いて、この為に買ったお洒落なグラスに注いでサクラ渡す。

「サクラもお酒飲める歳になったからな。いつか一緒に飲みたいって思ってたんだよ」

グラスを掲げるとサクラも同じようにして合わせるとカチンといい音を立てる。


サクラは綱手のように豪快には飲まず、チョビチョビと飲んでいた。

「スパークリングワインって初めて飲んだけど飲みやすいのね。甘くて美味しい」
「ワインよりかは飲みやすいね。でも度数は低くないから飲み過ぎるなよ」

そういうとサクラは「は〜い」と滅多に使わない伸びのある返事をしてグラスに注ぐ。
これは、気をつけて見ないとだな。





お酒を交わしながらご飯を食べ終わると、飲みすぎたのかサクラはソファーでグテンとしていた。
「も〜〜お腹いっぱい!」
「ああ、本当美味しかった。下忍のときとは比べ物にならないな」
「あ〜!何か言いたげじゃないですか、六代目!」

サクラはうつ伏せになり上半身を起こして睨んでくる。

「毒見役として火がちゃんと通ってないカボチャを食べさせられたり、明らかに塩と砂糖を間違えたものを食べさせられたり」
「毒見じゃなくて味見役!ちゃんと先生が教えてくれたからここまで成長出来たんですー」

頬も膨らませうつ伏せになる姿は下忍時代を彷彿とさせて懐かしくなる。
生意気だった少女は気づいたらお酒を飲めるぐらいの大人になっていて感慨にふける。
そうしていると、何かを思い出したサクラがガバッと起き上がる


「先生!ケーキあるけどまだ入りそう?」
「ん?オレは大丈夫だけど、サクラお腹いっぱいって言ってなかった?」
「ふふん!女の子には別腹っていうのがあるのよ」

そう言ってサクラは足取り軽やかに冷蔵庫に向かう。



そして切り分けて持ってきたのは、チョコレートケーキだった。

「もしかして・・・ケーキも作ってくれたのか?」

そう言うと少し照れて頷く。

「うん。先生甘いの苦手でしょ?生クリームよりチョコの方がいいかなって」
「悪いな・・・料理だけでも大変だったのにケーキも作らせて」

オレが眉を下げると、サクラは手をぶんぶんと横に振って慌てる。

「ううん!お菓子作りは昔から好きだったし、料理もそこまで大変じゃなかったわ!それより早く食べましょ」
「あぁ」

そして1口食べると、ほろ苦いチョコの中にほんの少しの甘さを感じて頬が緩む。
それは砂糖の甘さではない。

「うん、美味しい」

目を細めてサクラを見つめると、サクラの頬に赤みが増してケーキをかきこんだ。


ーーねぇサクラ、その赤みはアルコールのせい?





ケーキを食べ終え、2人でTVを観ながらソファーでくつろぐ。
するとサクラが鞄の中をゴソゴソ探していると、綺麗にラッピングされたものを取り出し渡してくる。

「はい、先生。クリスマスプレゼント」
「え」

まさかプレゼントがあるとは思っておらず、受け取るのを躊躇っているとグイっと押しつけられる。
早く開けろという目で見られ、戸惑いながらラッピングを開けるとそこには深い緑のマフラーが入っていた。

「これ・・・」

まさかマフラーまで編んでくれたのだろうか、という目を向けるとサクラは手を横に振る。

「違う違う!さすがにマフラー編む時間まではなかったわ。それに手編みなんて渡したら重いでしょ?」

そんなことない、と言いたがったが「なんで?」と聞かれたら返答に困るので、オレは渡されたマフラーを首に巻いた。

「似合う?」
「うん!お店で見つけたとき、先生に似合いそうって思ってたんだ」

嬉しそうにマフラーを見てくるサクラを見るとオレも嬉しくなる。
でも。

「ごめん、オレ、サクラにプレゼント用意してない」

忍になった頃は戦争真っ只中でクリスマスとは無縁の生活を送っていた。
だんだんクリスマスにも慣れてきたが、プレゼントというものが頭になかった。


「やだ、別にいいわよ。私が渡したかっただけだし」

しょぼくれながらマフラーを外すオレにサクラは苦笑する。

「でもさぁ・・・ご飯もケーキ作って貰ってプレゼントまで・・・サクラ、何かオレにしてもらいたいこととかないの?」

そういうとサクラの体がピクリと揺れた。

「・・・してもらいたいこと?」
「うん。欲しいものとか、買える範囲だったらなんでも」

オレが笑いかけると、サクラは何か言いにくそうにモジモジして何回か小さく口を開く。
そんな高い物なのか?、と内心焦っているとようやくサクラが口を開く。




「・・・・・・じゃあ、・・・ちょうだい」
「え?何を?」

虫がなくような声でちゃんと聞こえず、聞き返すとサクラは真っ赤な顔をしてオレを見てきた。


「カカシ先生のこと、ちょうだい」



オレは自分の耳を疑った。


目を見開き止まっているオレの胸にサクラが飛び込んできた。
その柔らかい感触が現実だと思い知らされ、サクラは離すまいと背中にしがみついた腕を強くする。


「ーーすき」
「サクラ・・・」
「ずっと、カカシ先生のことが好き」

胸に顔を埋めているサクラの体が震えていることに気がついた。
オレがそっとサクラの背中に手を回すと、ビクリとサクラの体跳ねた。

「サクラ、顔あげて」

そう言うと、そろりと顔を上げるサクラの瞳は濡れていて頬を伝っていた。
オレは頬を緩めて、顔を傾けて近づける。
唇が合わさる瞬間、サクラの目は涙が止まり大きく開いているのが見えた。
軽く唇を合わせ、また赤く可愛らしい唇を啄む。



何回かくり返し顔を離すと、サクラはトロンとした顔をして惚けていた。


「カカシ先生・・・」

名前を呼ばれて我慢出来ずにまた唇を合わせるとサクラから甘い吐息が溢れる。


「サクラ」

「オレもサクラが好きだよ」


甘いキスに酔いしれていたサクラは、だんだんと意識が覚醒してきたのか目を丸くして口を開けてパクパクとさせている。


「え・・・・・・え?」

暫く慌てているサクラの観察していると、ようやくオレの言葉を理解出来たのかニヤけるのを我慢したような顔になって吹きそうになる。


「ほ・・・本当・・・?本当に、私のこと好きなの?」
「うん、サクラが好き」

そう言うと顔を破顔させ、オレはサクラの頬を撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。


「だからさ」

オレの言葉に目を開けたサクラの耳元に顔を寄せて囁く。


「オレにもサクラをちょうだい?」

するとサクラは顔を真っ赤にさせて、小さく頷きオレの背中に手を回してくれた。
その可愛いらしい返答にオレの顔は最大級にニヤけていると思う。


顔を耳元から離してエメラルドの瞳と見つめ合い、先程よりも深い愛をサクラに捧げた。

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