short.1
墓地の中でその人は毎日のようにある人のお墓の前に立っている。
何をするでもなく、ポケットに手を入れてただ立っているのだ。
私は猫背の男にそっと近づいて、後ろからお墓に書かれた名前を読む。
「のはら、リンさん」
「ビックリした。どうかしたか?」
先生はビックリしてないくせに、目を見開いて眉を下げて笑う。
「先生は、リンさんが好きだったの?」
「うん」
先生はお墓を見て少し微笑みながら肯定する。
先生らしくて辛くて胸が痛い。
何年も先生の側にいて分かったことがある。
先生は気さくに笑いかけてくるのに絶対自分の中に入ってくることを許さない。
だからかよく先生が女の人といるのを見かけるのにいつも違う人だった。
たぶん相手がもっと先生を知りたいと近づこうとすればそれを感じ取って突き放すのだろう。
私たち3人は他の人たちよりは先生に近い。
最初の生徒だし、仲間を大事にする先生だから。
でも一定の距離は保っている感じはする。
プライベートは絶対明かさないし、色々聞こうとしてもいつも話を逸らされる。
私はどこかで先生には大事な人がいたのではないかと考えていた。
そしてその人はもうこの世にいなくて。
だから先生は特別な人を作らないんだ。
だってまた失ったときが辛いから。
時々先生は笑いながらどこか遠いところを見てるような瞳をしていた。
多分他の人は気づかないぐらいの小さな変化。
私がそれに気づいたとき。
そんな小さなことも分かるぐらい先生が好きなんだと気づいた。
私も先生の特別になりたいって思うようになった。
でも私はなれない。
「ねぇ、カカシ先生」
「ん?」
お墓を見ていた先生はこっちを見る。
深い、黒にも見える灰色の瞳。
その瞳に私は映ってる?
「私が先生のことが好きって言ったらどうする?」
何事にも動じない先生の瞳が丸く見開かれる。
少しして冗談だと思ったのか小さく笑うが、私が真剣だと分かって先生は困った顔をする。
その表情に私は頑張って笑う。
「なんてね!動揺する先生を見たかっただけ。それじゃあね!」
えへへ、と笑って先生を置き去りにしてその場から走った。
引き止める声は、無かった。
****
それから先生と街中で会ったり任務が一緒になっても普段通りに過ごす。
告白をしてなくて、されてもなくて。
いつも通りの上司と部下を演じる。
普段通りを装う私たちに不思議に思う人はいなかった。
それはいつもいる七班のみんなでさえも。
そんな日々を暫く過ごして。
私は1人、リンさんのお墓の前に来て座っている。
膝を抱えて、何も喋らない墓に話しかける。
「リンさんが羨ましい。私の知らない先生の子供時代を知ってて、先生の心にずっといれて」
つぅ、と彫られた名前を指でなぞる。
そして大きくため息を吐くと。
「サクラ」
全く人の気配がなかったのにいきなり後ろから名前を呼ばれて大袈裟なほど肩が跳ねる。
恐る恐る振り返ると、顔の半分以上を隠したよく知っていて1番会いたくなかった人が立っていた。
私は慌てて立ち上がって逃げようとしたけどすぐに腕を掴まれてそれは叶わなかった。
私たちはその状態のまま無言になる。
その沈黙を破ったのは先生だった。
「オレはリンが好きだよ」
「・・・知ってます」
2回目。
また胸がズキズキして泣きそう。
「でもその好きは仲間としてだ。それ以上の感情はない」
「・・・・・・」
私は先生を見ることも返事も出来なくて、腕を掴んでいる手を見る。
私と違って大きくでゴツゴツしていて。
指先に付いてる小さな傷は新しかったり古かったり。
それは指だけじゃなくて体中にあるだろう。
先生がずっと戦ってきた証。
その中にリンさんを守って出来た傷もあるんだろうか。
「サクラ」
「・・・はい」
また呼ばれ、今度は顔を上げて先生の目を見て返事をする。
「オレがお前を好きだと言ったらどうする?」
「・・・は?」
突拍子もない言葉に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
冗談だと思えばあの時の私のように真剣な顔で。
期待をして高鳴る胸を押さえる。
「す、好きって、どういう意味でですか?」
「んー、異性として」
「こ、この前は告白されて困った顔してたじゃない」
「ま、そうなんだけどね。サクラに告白されてオレも結構考えたのよ?ただの生徒で部下で。小生意気でおせっかいで、泥だらけになって2人に追いつこうとする姿をずっと見てきた。そんなお前を恋愛対象に見たことはなかったんだよね」
「・・・なら、なんで」
──なんで好きって言うの。
言葉にならない質問に先生は答える。
「本当、何でだろうね。でも、誰よりもお前を見てきたこの場所を他のやつに渡したくないって思っちゃったんだよね」
先生の手が頬に添えられて、微笑む先生から目を逸らせない。
「で、どうする?」
──そんなの、決まってる。
何をするでもなく、ポケットに手を入れてただ立っているのだ。
私は猫背の男にそっと近づいて、後ろからお墓に書かれた名前を読む。
「のはら、リンさん」
「ビックリした。どうかしたか?」
先生はビックリしてないくせに、目を見開いて眉を下げて笑う。
「先生は、リンさんが好きだったの?」
「うん」
先生はお墓を見て少し微笑みながら肯定する。
先生らしくて辛くて胸が痛い。
何年も先生の側にいて分かったことがある。
先生は気さくに笑いかけてくるのに絶対自分の中に入ってくることを許さない。
だからかよく先生が女の人といるのを見かけるのにいつも違う人だった。
たぶん相手がもっと先生を知りたいと近づこうとすればそれを感じ取って突き放すのだろう。
私たち3人は他の人たちよりは先生に近い。
最初の生徒だし、仲間を大事にする先生だから。
でも一定の距離は保っている感じはする。
プライベートは絶対明かさないし、色々聞こうとしてもいつも話を逸らされる。
私はどこかで先生には大事な人がいたのではないかと考えていた。
そしてその人はもうこの世にいなくて。
だから先生は特別な人を作らないんだ。
だってまた失ったときが辛いから。
時々先生は笑いながらどこか遠いところを見てるような瞳をしていた。
多分他の人は気づかないぐらいの小さな変化。
私がそれに気づいたとき。
そんな小さなことも分かるぐらい先生が好きなんだと気づいた。
私も先生の特別になりたいって思うようになった。
でも私はなれない。
「ねぇ、カカシ先生」
「ん?」
お墓を見ていた先生はこっちを見る。
深い、黒にも見える灰色の瞳。
その瞳に私は映ってる?
「私が先生のことが好きって言ったらどうする?」
何事にも動じない先生の瞳が丸く見開かれる。
少しして冗談だと思ったのか小さく笑うが、私が真剣だと分かって先生は困った顔をする。
その表情に私は頑張って笑う。
「なんてね!動揺する先生を見たかっただけ。それじゃあね!」
えへへ、と笑って先生を置き去りにしてその場から走った。
引き止める声は、無かった。
****
それから先生と街中で会ったり任務が一緒になっても普段通りに過ごす。
告白をしてなくて、されてもなくて。
いつも通りの上司と部下を演じる。
普段通りを装う私たちに不思議に思う人はいなかった。
それはいつもいる七班のみんなでさえも。
そんな日々を暫く過ごして。
私は1人、リンさんのお墓の前に来て座っている。
膝を抱えて、何も喋らない墓に話しかける。
「リンさんが羨ましい。私の知らない先生の子供時代を知ってて、先生の心にずっといれて」
つぅ、と彫られた名前を指でなぞる。
そして大きくため息を吐くと。
「サクラ」
全く人の気配がなかったのにいきなり後ろから名前を呼ばれて大袈裟なほど肩が跳ねる。
恐る恐る振り返ると、顔の半分以上を隠したよく知っていて1番会いたくなかった人が立っていた。
私は慌てて立ち上がって逃げようとしたけどすぐに腕を掴まれてそれは叶わなかった。
私たちはその状態のまま無言になる。
その沈黙を破ったのは先生だった。
「オレはリンが好きだよ」
「・・・知ってます」
2回目。
また胸がズキズキして泣きそう。
「でもその好きは仲間としてだ。それ以上の感情はない」
「・・・・・・」
私は先生を見ることも返事も出来なくて、腕を掴んでいる手を見る。
私と違って大きくでゴツゴツしていて。
指先に付いてる小さな傷は新しかったり古かったり。
それは指だけじゃなくて体中にあるだろう。
先生がずっと戦ってきた証。
その中にリンさんを守って出来た傷もあるんだろうか。
「サクラ」
「・・・はい」
また呼ばれ、今度は顔を上げて先生の目を見て返事をする。
「オレがお前を好きだと言ったらどうする?」
「・・・は?」
突拍子もない言葉に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
冗談だと思えばあの時の私のように真剣な顔で。
期待をして高鳴る胸を押さえる。
「す、好きって、どういう意味でですか?」
「んー、異性として」
「こ、この前は告白されて困った顔してたじゃない」
「ま、そうなんだけどね。サクラに告白されてオレも結構考えたのよ?ただの生徒で部下で。小生意気でおせっかいで、泥だらけになって2人に追いつこうとする姿をずっと見てきた。そんなお前を恋愛対象に見たことはなかったんだよね」
「・・・なら、なんで」
──なんで好きって言うの。
言葉にならない質問に先生は答える。
「本当、何でだろうね。でも、誰よりもお前を見てきたこの場所を他のやつに渡したくないって思っちゃったんだよね」
先生の手が頬に添えられて、微笑む先生から目を逸らせない。
「で、どうする?」
──そんなの、決まってる。
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