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short.1

「サクラ、ポッキーゲームをしよう」

唐突のお誘いに顔を顰めながら振り返ると、我が師がにこにこ笑いながらポッキーの箱を持っている。

「嫌です」
「えー、なんでー?」

──なんでだと?

ポッキーゲーム。
2人で1本のポッキーの端と端から食べ進め、最後まで折れなかったらキス、という恋人同士がするゲーム。
そう、恋人。
私たちは恋人ではなくただの師弟関係。
なのに、そのゲームをしようと言っているのだこの男は。

「嫌ったら嫌」

プイっと顔を背けて歩く。
先生は私の後を付いてくる。

「どうしてもダメ?」
「ダメ」

私はまだキスをしたことがない。
もし最後まで離さなかったらこれが初めてになってしまう。
それだけは絶対阻止しなくてはならない。

「じゃあこれはあげられないなぁ」

意味深な言葉に振り向くと、先生は何かの紙をピラピラと振っている。
気になる、気になるけど・・・。
私の足は気づいたら止まっていて、先生の持ってる紙を凝視する。

「サクラのお気に入りの甘味処の店員さんと仲良くなってね。あんみつ1ヶ月無料券貰ったんだ。もしサクラがゲームしてくれるならこの券を──」
「やります!」

先生の言葉を最後まで聞かずに券を持つ手を両手で握る。
先生はキラキラ目を輝かせる私に、ニコリと微笑んだ。


「じゃあ、はいどうぞ」

カカシ先生がパクリとポッキーを咥えて「ん」と顔を前に出す。
私は顔が引き攣る。
ゲームを始めるには私からポッキーを咥えにいかなくてはいけなくなった。
早く、と言いたそうに口に咥えたポッキーをプラプラ上下に振り出す。
私は覚悟を決めて先生に顔を近づけて咥える。

途中で折ってやればいいんだ。
そう思ってシャクシャク食べていると、間近にある片目しか見えていない先生の目が妖しく細まる。
そして先生の食べるスピードがいきなり上がった。
気づいたらお互いの唇まであと少し。

──キスしちゃう!

思わずギュッと目を瞑ると、ポキッと近くで音がする。
訪れるであろう感触は来ず、恐る恐る目を開けると口布を付けて、にっこり微笑むカカシ先生。

「ありがとな」
「え」
「紅からこのゲームが面白いって言われたんだけど、面白いっていうより美味しいだね」
「そ、そうね・・・」

私は飛び跳ねる心臓を上から押さえる。

「はい、これ約束の券」
「ありがとう・・・」
「じゃ、また明日〜」

先生は用は済んだとヒラヒラと手を振って去って行った。
本当に先生はただこのゲームが気になって、そこに私がいたから。
特に意味はなくて。
そう、意味は・・・ない。


そう、よね・・・?



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