short.1
「お、お見合い!?」
仕事や任務で夜遅くなったり朝早かったりすることが多くなり、半年前に一人暮らしを始めた。
父の誕生日も近いこともあって、久しぶりに顔を見せようと実家に帰ってきて3人で夕ご飯を食べているときだった。
母からの唐突のお見合い話に椅子から立ち上がる。
「そ。お父さんの知り合いに仲人するのが好きな人がいてね。それで何回見合いしても断ってばかりの人がいるんですって。本人は結婚に気乗りじゃないらしいんだけど、もういい歳だからそろそろ落ち着かせたいみたいなのよ」
「色々ツッコミどころ万歳だけどちょっと待ってよ・・・2人は娘をそんな人に嫁がせてもいいわけ!?いい歳ってことは年が離れてるってことなのよ?」
「別に悪い人じゃないって言ってたし、離れてるっていっても30代だからまだ若いわよ」
「私、まだ18なんだけど・・・」
「なら結婚する予定の相手でもいるの?」
「う・・・」
母の言葉に言葉を失う。
周りがどんどん恋人を作ったり結婚したりする中、長年想ってきたサスケくんとは結局なにも起こらず、仕事一筋になり恋愛が面倒になって恋人を作ろうとしてこなかった。
怠惰のせいでこんなことになるとは・・・。
「まぁいいじゃないか。お父さんの顔に免じて会ってみるだけでもしようじゃないか」
「お父さんまで・・・」
2人とも見合いにノリノリで、こうなったら何言っても無駄だということは知っている。
こうなれば自慢の怪力で岩でも砕いてあっちから断らせればいいのよ。
うんうん、と私は頷いて椅子に座り直した。
****
私はあの日の納得した自分を殴りたい気持ちでいっぱいだった。
私が落ち込んでいるのを他所に、仲人と両親、そして見合い相手は話に盛り上がっていた。
「いやー、まさか娘の見合い相手が火影様だとは思いませんでしたよ!」
「私もサクラとお見合いをする日が来るとは思わなくて驚きました」
はは、と笑うのは木ノ葉隠れの長、六代目火影・はたけカカシ。
隠す必要のなくなった両目で楽しそうに笑い、いつもとは違ってビシッとスーツを着ている師を思い切り睨んでいると目が合ってドキッとする。
「サクラ、これ食べてみたら?きっと好きなやつだよ」
「あ、いただきます・・・」
先生に勧められた和菓子を食べるとあんこが私好みで美味しい。
勿体無くてちびちび食べていると視線を感じて顔を上げれば、先生がニコニコ笑ってくるので恥ずかしくて頬が赤くなる。
「美味しかったならオレのもあげる」
「え、でも・・・」
「甘いの好きじゃないし。それにサクラの美味しそうに食べる可愛い顔見たいからさ」
「ば・・・っ!」
──なんて恥ずかしいこと言うの!
馬鹿じゃないの、といつもの癖で言いそうになるのを慌てて引っ込める。
仮にも里の長にそんなことを言ってはいけない。
ここは執務室でも病院でもないのだから。
こっちの気苦労も知らずにニコニコ笑う男が憎らしい。
「まぁまぁ、教え子さんだからカカシさんも気心知れてるのね。ここのお店は綺麗な中庭があるから、若いお2人で散歩してきたらどうかしら」
仲人さんは手を合わせて嬉しそうに笑う。
今までどんなお見合いが行われてきたのか。
「そうですね。どうする?サクラ」
「あ、はい」
だんだん足が痺れてきたからそろそろ立ちたかった。
机に手を置いて立ち上がるとやはり痺れていて、しかも着慣れない着物でフラッと体が傾く。
やばい、と思ったら腰に手が回され、気づいたら先生に体を支えられていた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう先生・・・」
久しぶりの間近の先生の顔に頬が熱くなる。
そのまま先生は私の手を取って中庭に向かった。
「綺麗だね」
「はい」
そのまま手を繋いで中庭を散策する。
私が着物だからかゆっくり歩いてくれる先生。
近くで見ると分かる、任務服や火影服の時とは違って身体の骨格がハッキリと分かり、スラッとしていて細身に見えるのにちゃんと鍛えられていて、何か変にドキドキしてしまう。
「ま、サクラのほうが綺麗だけどね」
「はい!?」
突然の褒め言葉に驚くなというほうが無理だ。
「着物。サクラは赤が似合うね」
「え、あ、着物・・・ありがとう」
母がこの日のために用意した、所々に桜が描かれている私もお気に入りの赤の振袖。
自分のことかと思って自惚れてしまって恥ずかしい。
「サクラもだよ。本当綺麗になったよね」
顔を覗き込んできて微笑まれる。
この男は女の人が何を言えば喜ぶのか熟知してそれにまんまと引っかかってしまった。
それが悔しくて思い切り先生の腕を叩くと「いてっ」と小さく痛がる。
そろそろこんな茶番も終わりにしなくては。
「このお見合い、先生の方から断ってよね」
「え?」
「私から断るとお父さんに迷惑かかりそうだし、何回も断ってるんでしょ?」
だから私にまで話が来たのだ。
そうでなかったらこんな子供ではなく同じ年代の大人の女性と結婚話になっているだろうから。
「まあ、そうなんだけどね・・・」
珍しく歯切れが悪い先生に変なことを言ってしまったのかと不安になる。
「・・・なぁ、サクラ」
「なに?」
顔を覗くと真剣な表情の先生。
「お前が良かったらなんだけど──」
****
「サクラー、荷物これで終わり?」
あれから数日。
私と先生は何故か同棲することになった。
引っ越し屋さんが家具やら段ボールやらを運んでくれて先生が部屋に運んでくれる。
私は段ボールを1つ開けて、中から第七班の結成時に4人で撮った写真が入った写真立てを手に取る。
子供で無垢で、まだ何も知らずに無邪気に笑っている私。
今と見た目が変わらず、額当てで左目を隠しているカカシ先生。
まだ担当上忍と下忍だった頃の私たち。
「・・・ねぇ、カカシ先生」
「なぁに?」
段ボールを床に置いた先生に話しかける。
「私たち、なんでこうなったのかしら」
お見合い話は破綻になってたはずなのに。
「まぁ、こういうのもいいんじゃない?」
床に座る私の隣にしゃがんで、素顔を隠さなくなった先生は私の頬にキスをした。
仕事や任務で夜遅くなったり朝早かったりすることが多くなり、半年前に一人暮らしを始めた。
父の誕生日も近いこともあって、久しぶりに顔を見せようと実家に帰ってきて3人で夕ご飯を食べているときだった。
母からの唐突のお見合い話に椅子から立ち上がる。
「そ。お父さんの知り合いに仲人するのが好きな人がいてね。それで何回見合いしても断ってばかりの人がいるんですって。本人は結婚に気乗りじゃないらしいんだけど、もういい歳だからそろそろ落ち着かせたいみたいなのよ」
「色々ツッコミどころ万歳だけどちょっと待ってよ・・・2人は娘をそんな人に嫁がせてもいいわけ!?いい歳ってことは年が離れてるってことなのよ?」
「別に悪い人じゃないって言ってたし、離れてるっていっても30代だからまだ若いわよ」
「私、まだ18なんだけど・・・」
「なら結婚する予定の相手でもいるの?」
「う・・・」
母の言葉に言葉を失う。
周りがどんどん恋人を作ったり結婚したりする中、長年想ってきたサスケくんとは結局なにも起こらず、仕事一筋になり恋愛が面倒になって恋人を作ろうとしてこなかった。
怠惰のせいでこんなことになるとは・・・。
「まぁいいじゃないか。お父さんの顔に免じて会ってみるだけでもしようじゃないか」
「お父さんまで・・・」
2人とも見合いにノリノリで、こうなったら何言っても無駄だということは知っている。
こうなれば自慢の怪力で岩でも砕いてあっちから断らせればいいのよ。
うんうん、と私は頷いて椅子に座り直した。
****
私はあの日の納得した自分を殴りたい気持ちでいっぱいだった。
私が落ち込んでいるのを他所に、仲人と両親、そして見合い相手は話に盛り上がっていた。
「いやー、まさか娘の見合い相手が火影様だとは思いませんでしたよ!」
「私もサクラとお見合いをする日が来るとは思わなくて驚きました」
はは、と笑うのは木ノ葉隠れの長、六代目火影・はたけカカシ。
隠す必要のなくなった両目で楽しそうに笑い、いつもとは違ってビシッとスーツを着ている師を思い切り睨んでいると目が合ってドキッとする。
「サクラ、これ食べてみたら?きっと好きなやつだよ」
「あ、いただきます・・・」
先生に勧められた和菓子を食べるとあんこが私好みで美味しい。
勿体無くてちびちび食べていると視線を感じて顔を上げれば、先生がニコニコ笑ってくるので恥ずかしくて頬が赤くなる。
「美味しかったならオレのもあげる」
「え、でも・・・」
「甘いの好きじゃないし。それにサクラの美味しそうに食べる可愛い顔見たいからさ」
「ば・・・っ!」
──なんて恥ずかしいこと言うの!
馬鹿じゃないの、といつもの癖で言いそうになるのを慌てて引っ込める。
仮にも里の長にそんなことを言ってはいけない。
ここは執務室でも病院でもないのだから。
こっちの気苦労も知らずにニコニコ笑う男が憎らしい。
「まぁまぁ、教え子さんだからカカシさんも気心知れてるのね。ここのお店は綺麗な中庭があるから、若いお2人で散歩してきたらどうかしら」
仲人さんは手を合わせて嬉しそうに笑う。
今までどんなお見合いが行われてきたのか。
「そうですね。どうする?サクラ」
「あ、はい」
だんだん足が痺れてきたからそろそろ立ちたかった。
机に手を置いて立ち上がるとやはり痺れていて、しかも着慣れない着物でフラッと体が傾く。
やばい、と思ったら腰に手が回され、気づいたら先生に体を支えられていた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう先生・・・」
久しぶりの間近の先生の顔に頬が熱くなる。
そのまま先生は私の手を取って中庭に向かった。
「綺麗だね」
「はい」
そのまま手を繋いで中庭を散策する。
私が着物だからかゆっくり歩いてくれる先生。
近くで見ると分かる、任務服や火影服の時とは違って身体の骨格がハッキリと分かり、スラッとしていて細身に見えるのにちゃんと鍛えられていて、何か変にドキドキしてしまう。
「ま、サクラのほうが綺麗だけどね」
「はい!?」
突然の褒め言葉に驚くなというほうが無理だ。
「着物。サクラは赤が似合うね」
「え、あ、着物・・・ありがとう」
母がこの日のために用意した、所々に桜が描かれている私もお気に入りの赤の振袖。
自分のことかと思って自惚れてしまって恥ずかしい。
「サクラもだよ。本当綺麗になったよね」
顔を覗き込んできて微笑まれる。
この男は女の人が何を言えば喜ぶのか熟知してそれにまんまと引っかかってしまった。
それが悔しくて思い切り先生の腕を叩くと「いてっ」と小さく痛がる。
そろそろこんな茶番も終わりにしなくては。
「このお見合い、先生の方から断ってよね」
「え?」
「私から断るとお父さんに迷惑かかりそうだし、何回も断ってるんでしょ?」
だから私にまで話が来たのだ。
そうでなかったらこんな子供ではなく同じ年代の大人の女性と結婚話になっているだろうから。
「まあ、そうなんだけどね・・・」
珍しく歯切れが悪い先生に変なことを言ってしまったのかと不安になる。
「・・・なぁ、サクラ」
「なに?」
顔を覗くと真剣な表情の先生。
「お前が良かったらなんだけど──」
****
「サクラー、荷物これで終わり?」
あれから数日。
私と先生は何故か同棲することになった。
引っ越し屋さんが家具やら段ボールやらを運んでくれて先生が部屋に運んでくれる。
私は段ボールを1つ開けて、中から第七班の結成時に4人で撮った写真が入った写真立てを手に取る。
子供で無垢で、まだ何も知らずに無邪気に笑っている私。
今と見た目が変わらず、額当てで左目を隠しているカカシ先生。
まだ担当上忍と下忍だった頃の私たち。
「・・・ねぇ、カカシ先生」
「なぁに?」
段ボールを床に置いた先生に話しかける。
「私たち、なんでこうなったのかしら」
お見合い話は破綻になってたはずなのに。
「まぁ、こういうのもいいんじゃない?」
床に座る私の隣にしゃがんで、素顔を隠さなくなった先生は私の頬にキスをした。
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