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湯煙忍法帖

「火影様」

後ろから呼ぶ声に大袈裟な程肩が跳ねる。
恐る恐る振り向けば、微笑んでいるが漂う気配は間反対の、元生徒で部下で、誰よりも大事で、少女より女性と言う方が似合うほどに成長した愛おしい人。

「・・・やぁ、サクラ」

きごちなく笑いかけると、にこりと笑う。
この顔はヤバいな。

「サクラも散歩?」

ピクっ。
サクラの片眉が上がるのを見逃さなかった。
これは本気で怒ってる。

「火影様はまた執務室抜け出して"散歩"ですか?」
「様はやめてよ・・・シカマルに聞いたの?」
「ええ。お散歩してたらたまたま手配書に載ってる奴が襲ってきて、自己防衛のために倒した。そう、偶然が重なって」
「・・・サクラ怒ってる?」
「いいえ?普通なら執務室にいるはずの火影様が護衛も付けずに1人で散歩してたって私には関係ありませんもの」
「サクラぁ・・・」

他人行儀のように話し、腕を組んで顔を背けるサクラにオレは情けない声が出る。
散歩と称して数々の任務をこなしてきたことを怒っているのだろう。
だってデスクワークばっかりだと肩とか腰が痛くなるんだよ?
そんな言い訳すらも見抜かれてるだろう、吊り上がる翡翠の瞳に見つめられたらもう何も言えない。
だって彼女の怒りはいつもオレへの心配から来ているのだから。

「ごめーんね?心配かけちゃって」
「別に!もうお年寄りはさっさと引きこもって若い私たちを使えばいいのよ!」
「言うねぇ」

悪態をつかれるのは慣れている。
素直に言えないところも愛しているから。
オレは膨れるサクラの頬に手を添える。

「これからは出来るだけ気をつけるから」
「・・・出来るだけ?」
「それは勘弁してちょーだいよ。オレにデスクワークは向いてないんだって」
「ふふ。先生らしいわ。今でも先生が火影してるのが不思議でならないもの」
「本当にねぇ。オレもそう思うよ」

オレ達は見つめ合って笑い。
手を繋いでサクラが手を引いて歩く。
下忍時代、よくこうやって歩くのが遅いオレの手をサクラが引っ張って里に帰っていた。
しかし今は特別な繋ぎ方で。

同じようで変わっていく。
そんな里と教え子たちをこれからも見守っていきたい。



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