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任務もなく待機所にいるのにも飽きて建物の中をブラブラ歩いていると、窓にもたれて外を見ているアスマを見つける。

「よぉ」
「おぉ」

壁にもたれかかってアスマの横に立つ。
オレたちは暫く話さなかったのだが、アスマがいつもと違う気がして横目で見るとある事に気づく。

「タバコじゃなくないか、それ」
「あぁ、これか?」

アスマ咥えていたものを口から出す。

「飴だよ、飴」
「なんでまた」

猿飛アスマがヘビースモーカーなのは誰もが知っていることだ。
タバコを切らした時のこいつは誰かを殺してきたんじゃないかと思うほどの殺気を醸し出している。
それぐらいの中毒者が似合わない飴玉を舐めているなんて。

「あー・・・まぁ、お前には言っとくか」

また珍しく歯切れの悪いアスマ。
何かあったのかと身構えていると。

「紅にオレの子供が出来たんだよ」
「──へ」

全考えていたなかった答えに変な声が出てしまった。

「それは、おめでとう。紅にも伝えといて」
「あぁ」

前から2人が付き合っていたことは知っていたが。
まさか子供とは。
だからあのヘビースモーカーが禁煙したのか。
紅が止めろとでも言ったのだろう。

「子供ねぇ・・・オレたちももうそんな年なのか」
「まあな。あいつらももう16だからな」
「早いねぇ・・・」

オレが16の時は・・・あぁ、暗部にいたっけか。
3人が死んで先が見えない暗闇をずっと1人で歩いて。
まさかオレが子供たちの面倒を見ることになるなんて思わなかったけど。
三代目にガイやこいつらが進言してくれなかったら未だにオレは暗闇にいたんだろう。
オレは色んな人たちに救われてる。
だから同じ暗闇に彷徨っているアイツを助けなくてはいけない、2人と。

「暁のこともあるからまだ公言するつもりはないからよ」
「りょーかい。これでも口は固いよ」
「どーだか」

はっ、と笑う笑うアスマ。
そしてまた外を見る。
1人になりたいのだろうか、そろそろ退散しようかねと考えていると。

「カカシ」
「何?」
「お前もそろそろ落ち着いたらどうだ?」

茶化されているのかと思ったがアスマの顔は真剣だった。

「オレにも家庭作れって?いいよオレは・・・作る気はない」
「それはリンのことがあるからか?」

アスマの言葉にピクリと反応する。
あのことを知っている同期はこの話題を避けていることを知っている。

「・・・別に、そういうわけじゃないよ」
「なら」
「オレに誰かを大事にするが出来るとは思えない。オレはアイツらの分もこの世の先を見届けると決めたんだ。それに大事な教え子も出来た。そいつらを立派な忍育てるのがオレの幸せだよ」
「・・・たく、頑なだな」

アスマは呆れたようにため息を吐くのでオレは笑う。

「そんなお前に子供が産まれたら抱かせてやるよ。あまりの可愛さに自分の子供が欲しくなるだろうよ」
「アスマに似てないことを願うよ」
「言ってろ」

アスマは背を向けて笑いながら片手を上げて去っていく。



これがアスマとの最後の会話になるとは梅雨しらず。
アスマは産まれてくる我が子の顔を見ることも抱くことも出来ずこの世を去った。





****



「よぉ」

よく晴れたら秋空。
オレはアスマの墓に声をかける。
返事は返ってこない。
返ってきたら怖いが。
オレは持ってきた花を供える。

アスマ。
お前が死んだ後色々あったんだぞ。
お前んとこの3人と暁を倒しに行ったり、大戦が始まって・・・。
あぁ、これはお前も知ってたな。
そのあと、マダラと思ってたやつがオビトでさぁ・・・。
本当あの時は度肝を抜かれたよ。
その後もカグヤが出てきて世界を救って・・・。
あの1年で結構寿命縮まったと思うぞ。
でもま、あの時は頑張ったから今があるんだよな。



思いを馳せていると気持ちの良い風がサァと吹く。
すると。

「あ、ほかげさま!」

後ろから呼ばれて振り返ると、紅とその娘、3歳になったミライが駆け寄ってくる。
そのままオレの足にダイブして、顔を上げると満面の笑み。

「ミライ。また大きくなったな」

オレはミライの脇に手を入れて持ち上げる。
前より重たくなっていて成長を感じる。

「カカシ、来てたのね」
「まあね」

その後ろから紅がゆっくり近づいてくる。
ミライがアスマに話しかけているのを微笑ましく見ていると、「あっ」と呟く声が聞こえた。
そっちを見ると、手桶を持ったサクラが近づいてくる。
それを見た紅は思い切り睨まれる。

「カカシ・・・あんた、身重の妻に持たせるなんて最低だわ」
「ち、違います紅先生!私が持って行くって言ったんです!」
「サクラちゃん・・・今からそんなに気を遣ってたら疲れるわよ?」
「大丈夫です。家ではものすごいコキ使ってますから!」
「さすがね。何かあったらすぐに私に言いなさい」
「はい!ありがとうございます」

ふふふふ、と女2人が怪しく笑うのを苦笑するしかない。
サクラから手桶を受け取ると、アスマと話していたミライがサクラに気づいて嬉しそうに笑う。

「サクラちゃん!」
「ミライちゃん、元気にしてた?」
「うん!ね、ね、あかちゃん、さわらせて!」
「いいわよ」

よいしょ、とサクラがミライの前に座ると、ミライは大きなお腹を嬉しそうに触る。
サクラのお腹が大きくなってきてから2人が会った時の習慣のようになっている。
この光景を見ていると、まだ産まれていないのに2人目が欲しくなる。
ミライが満足したようでサクラが立ち上ろうとするので体を支えると「ありがとう」と微笑むサクラの顔はもうお母さんだった。

「せんせ、そろそろ」
「そうだな」

サクラが服を引っ張りながら小さく呟くので頷く。
それでも現役を退いたとは言っても元は上忍のくノ一。
どんなに小さくても聞こえたらしい。

「あら。もう少しゆっくりしていけば?」
「家族水入らずを邪魔するほど野暮じゃないよ。アスマとは充分話して・・・あ、」
「どうしたの?」
「誕生日祝うの忘れてた」

はは、と頭を掻くオレにサクラは呆れたようにため息を吐き、紅は「相変わらずね」と苦笑する。
オレが墓の前でしゃがむとミライも同じようにしゃがむ。

「アスマ。誕生日おめでとう。来年はウチの子見せに来るから楽しみにしとけ」

ミライの頭をくしゃり、と撫でて立ち上がる。

「じゃ、またな2人とも」
「さようなら、紅先生、ミライちゃん」
「えぇ。体には気をつけるのよ」
「はい」
「バイバーイ!」

ミライが紅の隣で大きく手を振る。
それを肩越しに見ながら墓地を出る。
これから3人だけの誕生日が始まるだろう。




「ねぇ、先生」
「ん?」

手を繋いで歩いていると、ふふ、と笑いながらサクラが話しかけてくる。

「さっき振り返ったらね。紅先生とミライちゃんの隣にアスマ先生が見えた気がしたの」
「へぇ・・・帰ってきてんのかね、アイツ」
「そうかも!今頃3人でお話ししてるのかなぁ。先生にも何か話してたのかしら」
「あー・・・だとしたら『そらみろ』、かもねぇ」
「なにそれ?」

昔のアスマとの会話を知らないサクラは首をかしげるので、オレは曖昧に笑ってサクラの腰に手を回し、2人の暖かい家へと向かったのだった。


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