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同居生活

「うーん・・・」

任務と病院の仕事も休みの今日、私は不動産屋の前に貼られているチラシを見て唸っていた。
中忍になりある程度稼げるようになったし、帰りが深夜になったり早朝に家を出ることが多くなって家族に迷惑をかけてるなって思うようになった。
そして私は一人暮らしをすることにした。
2人に相談したらお母さんは「いいんじゃない?」、お父さんは「寂しくなるから嫌だ」と反対のことを言ってきた。
一人娘だから溺愛してくれるのは嬉しいけど、いつか結婚したら出て行くんだから、早いから遅いかの違いだ。
一人暮らしを決意してようやくの休み。
出来るだけ予算を抑えるとワンルームのアパートになるんだけど、本好きが災いして気になった本はすぐ買ってしまうので、自分の部屋には本のタワーが出来ている。
師匠に弟子入りしてからは医療の分厚い本も増えた。
本は絶対持っていきたいけど、あの量だと古い家は床が抜けてしまうかもしれない。
それに親からの一人暮らしの条件でちゃんとセキュリティーがちゃんとしたところ、と言われた。
あるのとナシじゃ家賃に差がある。
将来のために貯金はしたいし、本にもこれから貢ぐためには家賃と食費は抑えたい。
私はチラシを見ながらため息を吐く。

「やっぱり高いなぁ・・・」
「何が?」
「ひっ!」

いきなり耳元に後ろから話しかけられて変な声が出てしまった。
慌てて振り返って見ればよく知っている人物だった。

「か、カカシ先生!気配消して近づくの止めてって言ってるじゃないですか!!」
「あぁ、ごめーんね?サクラの反応が可愛くて、つい」
「・・・セクハラとして師匠に訴えますよ」
「あ、止めて。ただでさえ忙しいのに更に任務入れられそう。で、サクラちゃんは何見てたわけ?」
「これですよ。一人暮らししようと思って」
「・・・一人暮らし?」
「はい。もう中忍になって稼げるようになったので自立しようかと思ったんですけど、まだペーパーの私の給料じゃセキュリティーがしっかりした所は厳しくて」

本のこととか親の条件を話すと、「ふむ」と先生は何かを考えてる顔をする。

「なら、オレと住まない?」
「は!?」

突然の提案に素っ頓狂な声が出てしまった。

「オレもアパートの更新あるし、そろそろ広いとこに引っ越そうかなと思ってね。2LDKでオレが多めに払えば1人より負担が少ないんじゃないか?」
「で、でも、担当上忍だったからってそんな甘えるわけにも・・・」
「別にいいって。ただし条件がある」
「・・・条件?」

先生は人差し指を立てて真剣な顔をするので、無意識に喉が鳴った。

「ご飯とか掃除はサクラが担当」
「・・・それだけ?」
「そ。オレは任務で家を空けてることが多いから掃除が行き届かなくてね。あ、食費ももちろん出すよ」
「う・・・」

すごい好条件に心の天秤が少しずつ傾く。
先生のことはよく知ってる人だけど、それでも大人の男の人で。
今まで意識してなかったけど否応なしに考えてしまう。
腕を組んで唸っていると、「それに」と先生が言葉を続ける。

「もうずっと誰かの手料理食べてなくてね・・・温かいご飯食べたいんだよねぇ」

先生は少し寂しそうに笑うから、私の母性が反応して胸がキュンッとなる。
覚悟を決めるしかない。

「・・・分かりました。一緒に住まわせてください」
「りょーかい。よろしくね、サクラ」
「よろしくお願いします・・・」


私たちは不動産屋の前で握手をする変な2人組として通りかがる人々に見られていた。



****



それから先生との同居生活が始まった。
先生は言っていた通り常に忙しそうで、任務で2、3日不在で帰ってきたと思ったらまた任務。
里にいるときもいつも誰かと難しい話をしているのを見かけていた。
それでも任務じゃない時はどんなに忙しくても夜は帰ってきてくれて一緒にご飯を食べる。
仕事と任務の合間に料理の本を見て先生がいない時に特訓をして、そのおかげでだんだん料理が得意になってきて。
先生が嬉しそうにご飯を食べているのを見ると私も嬉しくなった。





一緒に暮らすようになって1ヶ月。
師匠に言われて資料整理をしながら今日のご飯を考えている時だった。
部屋の外を走る音が聞こえて煩いなって思ったら。

「サクラちゃん!!」

ナルトが勢いよく部屋に飛び込んできた。

「ちょっとナルト!ビックリするじゃない!」
「それどころじゃないってばよ!!」

いつものように怒ろうとすると、ナルトは私の肩を力強く掴んでくる。
ビックリして目を見開くと、何故か怖い顔をしたナルト。

「な、なによ・・・」

ナルトのこんな顔見たことがなかった。
ナルトは言いにくそうに口を開いて。

「・・・サクラちゃん、カカシ先生と同棲してるって本当?」








「カカシ先生!!!」

私は上忍待機所のドアを勢いよく開ける。
中には何人か上忍がいて、その中に驚く紅先生とアスマ先生の向かいに座る目的の人物がいた。

「やー、サクラ。どうかした?」

のほほん、と片手を上げて微笑む先生にズカズカと近寄る。
そして引っ張ってきたナルトを投げ捨てる。

「カカシ先生、どういうことですか」
「なにが?」

先生は目を回して潰れているナルトに目を向けず、ニコニコと笑ってくる。

「先生が私と同棲してるって言いふらしてるってナルトから聞いたんですけど」
「うん」
「・・・同棲じゃなくて同居ですよね」
「似たようなものじゃない?」


ブチッ。


「全然違うでしょ!?同棲は恋人がするものなの!私たち付き合ってないじゃない!」
「じゃあ付き合おうか」




「は?」


私は口をポカンと開けて固まる。
たぶん周りもみんな同じ顔をしてるだろう。
先生は私の手をぎゅっと握ってくる。
いつもとは逆で先生が私を見上げてくる形で、いつもと違う先生に心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。

「オレと付き合ってよサクラ」
「ほ、本気・・・?」
「本気本気」
「その言い方が全然そう聞こえないのよ・・・」
「これでも緊張してるんだよ」

先生の手が私の頬に添えられる。
その手はいつもより熱い。

「・・・先生、私のこと好きなの?」
「そうだよ。ずっと好きだった。・・・サクラは?」
「そんな急に言われても分からないわよ・・・今までそんなふうに先生のこと見たことないもん」
「ならこれからは見てくれる?」

先生の真剣な目に、私は小さく頷くと嬉しそうに笑う先生。
なんだか可愛いって思ってたら、周りからひやかす声が聞こえてきてハッとする。
そうだ。
ここは外で上忍待機所で。
私は顔を真っ赤にして先生の手を振り解いてナルトを掴んでドアに向かう。

「あ、サクラー。今日は秋刀魚がいいかなー。あとデザートはサクラちゃんで」
「!!変なこと言わないでよ馬鹿!!」





その日の夜、いつも通り先生と食卓を囲む。
先生のご要望通り、秋刀魚の塩焼きを。
あ、デザートは用意する気はないけどね!!
いつものように美味しそうにご飯を食べる先生だけど、私を見るその瞳はいつもと違って落ち着かなくて。


私たちの不思議な生活の名前が変わる日が来るのはそんなに遠くないのかもしれない。


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