このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

short.1

最近サクラがおかしい。

下忍時代はよく戯れるようにくっ付いてきていたが、綱手様に弟子入りをしてからは思春期も重なって距離を置くようになった。
女の子は難しいなぁ、と父親のような気持ちになっていた時もあった。
しかしある日、昔のように慕ってくれるようになって嬉しく思っていた。
唯一里に残っていた子だし、2人がいない分甘やかしてやろう。
なんて思っていたのだが。
最近のサクラはオレの一歩後ろを歩く。
オレとしては隣を歩いてほしいと思うのだが、中忍になり礼節を重んじるようになっちゃったのかなぁと少し寂しく思っていたのだが、どうやら違うらしい。
チラッと横目でサクラを見た時、何故か周りを気にしていた。
何かを見張っているような感じで。
オレと目が合うと愛想笑いをする。
不思議に思っていたが、ただそれだけだったので特段気にすることもなかった。


この間のことも少し気になる。
サクラが中忍になり、綱手様の許可がおりてオレの隊にサクラを入れて他の隊と合同で遠征をすることになった。
オレは総隊長として取りまとめ、サクラは相変わらずオレの1歩後ろで隊長の仕事を見て覚える。
中忍になるということは部隊長を任せられる時がくる。
綱手様に弟子入りしたとはいえオレの弟子でもある。
オレに教えれることは何でも教えてあげたい。

他の隊の上忍と今後のことを話しながら歩いていると、前から別の隊のくノ一2人が近づいてくる。
連日の雨で地面がぬかるみ、それに足を取られた1人が目の前でバランスを崩す。
ポケットから手を出し、腕を掴んで転ばないよう助ける。

「大丈夫?」
「はたけ上忍・・・!?あ、は、はい!」
「気をつけて」
「はい!すみません!ありがとうございます!!」

くノ一は深々と頭を下げて友人と去って行く。
すぐに後ろから黄色い声が聞こえてきて、元気だなぁ、と思っていると背中から鋭い視線が突き刺さる。
後ろを見ればサクラがにっこりと笑っている。
が、漂う気配は殺気と間違いそうになるほど。
何故サクラがそんな気配を飛ばされるのか心当たりがなく、首を傾げながら今後のことを男と相談し、一通り話し終えて去って行く上忍を見送る。

「先生はお優しいですね」

今まで無言を徹底させていたサクラに話しかけられたと思ったら棘のある言葉。

「何が?」

思い当たる節がない。
さっきまで被っていた猫を脱いで、いつものサクラになっていた。
やはりこっちの方がサクラっぽい。

「女の子が転びそうだったら誰でも助けるんですか?」
「目の前で転ばれて怪我されたら困るし。サクラだって助けるだろ?」
「それは、そうですけど・・・」

医療忍者のサクラだって手を差し出そうとしていたのは知っていた。
なのにサクラの機嫌が未だに悪い理由が分からない。
眉間に皺を寄せて目を吊り上げて、可愛い顔が台無しだな、と思いながら、あることを思いつく。

「サクラ」
「・・・何ですか」

「もしかして生理?」





「馬鹿!デリカシーなさすぎよ!!」
「うぐ・・・」

サクラは思い切りオレの鳩尾に拳をねじ込んできてその場に崩れ落ちる。
サクラは足を踏み鳴らして去って行く。
オレたちの関係を知っている奴らは呆れたように笑い、それを知らない奴らは驚いた顔をしてオレたちを交互に見る。
そりゃ中忍が上忍を殴ったのだからそういう反応をするだろうな。
でもこれはサクラの一種の信愛行動。
オレに気を許しているからこそだ。
今だって離れたところで怒った顔をしながらチラチラとこちらを窺っている。
本当可愛いな、うちの子は。
安心させるために立ち上がり、サクラの方へとゆっくりと向かった。



****



それからサクラの不思議な行動に度々遭遇しながらも深く考えずに日々が過ぎて行った。
久しぶりの休みの日、ご飯は何を食べようかと商店街を歩く。
どうせならご飯作るか、と八百屋の前で立ち止まり、丸々と太った茄子を手に取る。


「カカシ先生!」

後ろから声をかけられて振り返ると、本屋の紙袋を大事そうに持ったサクラが近づいてくる。

「サクラ。サクラも今日休み?」
「はい。先生も?」
「うん、そう。外食ばっかりだった久しぶりに作ろうかなって」
「先生・・・そんな生活してたら体壊すわよ」
「はは。ご飯作る時間もなくてね。それに1人分だと作る気力も湧かないんだよねぇ」

情けなく笑いながら茄子を触っていると、隣で何故か顎に手を当てて考えているサクラ。
暫く様子を見ていると、パッと輝いた顔でこちらに笑いかけてくる。

「なら私がご飯作ってあげる!」
「え?」
「先生何食べたい?茄子の味噌汁好きだったわよね。私作れるから先生秋刀魚焼いてくれる?」

サクラはオレの返事を聞かず、オレの手にある茄子を奪い取って他の食材を見だす。
意気揚々とするサクラを見ていると断ることも出来ず、まぁいいか、とオレはサクラの後ろを付いて行く。



それからオレの部屋へと一緒に向い、キッチンに買った食材を広げていく。
単身者用のアパートだから2人もキッチンに並ぶと狭い。
だから時々体が当たるのはしょうがない。
その度にサクラが体を硬らせるのが気になる。
やはりおじさんと至近距離にいるのは嫌なんだろうか、と出来るだけ距離を取る。
その時のサクラの少し寂しそうな顔に気づかずに。



「「いただきます」」

2人で手分けして作った料理をテーブルの上に並べ床に座り手を合わせる。

「先生の秋刀魚おいしー!よく炭火でこんなに上手に出来るわね」
「慣れてるからね。サクラの茄子の味噌汁もちょうどいい塩梅で美味しいよ」
「ふふ、ありがと!先生好みに練習しといて良かったわ」
「ん?なんで?」
「え!?な、なんとなくよ!」
「ふーん?」

サクラは慌てたようにご飯をかきこむ。
そんなサクラを見ながら味噌汁をズズッと飲んでいるとあることに気づき器をテーブルに置く。

「ご飯粒付いてるぞ」

サクラの口の横にご飯粒が付いてることに気づき、おかしそうに笑って手を伸ばしてそれを取って自分で食べる。
そこで子供扱いしたことを怒るかなと身構えていると、サクラの反応がない。
サクラの様子を窺えば、眉を下げて顔を真っ赤にして固まっている。
その表情にオレはすごく見覚えがあった。
いつもサスケに向けていた顔。
そこでようやく最近のサクラの不可思議な行動に納得がいった。
いつの間にかサクラの恋愛対象が変わっていたらしい。

「せ、せんせ・・・?」

サクラの戸惑う声。
気づけばまた手を伸ばしてサクラの髪や頬を触っていたらしい。
その手で唇を触れるとサクラの身体が強張るのが分かる。


──もっと触ったらこの子はどんな反応をしてくれるのだろうか。


気づいたら身体をサクラの方へと乗り出していた。


62/179ページ