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「アスマは天使っていると思うか」

子供のお守りを終えて上忍待機所に現れたアスマを捕まえたカカシの最初の一言がこれだった。

「・・・頭がおかしくなったのか」
「オレは正常だ。で、どう思う」

やばい奴に捕まったと逃げようと思ったが、それは許されない。
現に出入り口がある方向にカカシが座っている。
アスマは諦めて煙草に火を付けて煙を吐き出す。


「──で、何だって」
「・・・最近さ、サクラの背中に天使の羽みたいなのが見えるんだよ」

アスマは神妙そうに話すカカシの肩に手を置き。

「付いていってやるから病院行くぞ」
「違うって言ってんでしょ。それに病院はもう行った」

行ったのか・・・、とアスマは苦笑する。

「脳にも眼にも異常はないって言われてさ・・・、じゃあ、あれは何なんだ?」
「さあなぁ・・・オレは医者じゃねぇから分からん」
「だよなぁ・・・」

頭が項垂れるカカシ。
暫く観察していると、カカシは徐に立ち上がり「悪かったな」と言ってトボトボと去っていった。
どうにかしてやりたいがそんな病気聞いたことがない。
アスマは頭を掻いていると、カカシと入れ違いに紅が部屋に入ってくる。

「カカシどうしたわけ?なんかボーと歩いてたけど」

カカシが先程まで座っていたところに紅が座る。

「あぁ、なんかサクラに天使の羽が見えるんだと」
「・・・天使の羽?」

紅は眉間に皺を寄せて首を傾げた。



****



「カカシ先生遅い!!」

昨日、任務が休みの今日に修行を付けてくれとサクラに言われて第三演習場につくと、腰に手を当ててこちらを睨んでくる。
昨日アスマに話したことが頭から離れなくて眠れず、今日は本当に寝坊して遅刻をしてしまった。

「いやー、すまんすまん」
「もう、早く始めましょう」

サクラが構えるので、カカシもイチャパラをポーチにしまう。
サクラはポーチから手裏剣を取り出しカカシに向かって投げ、それを避ける。
その隙にサクラは踏み込み、拳を打ち込む。
それを受け流すと今度は回し蹴り。
その細い足を掴んでグルグルと回して思い切り投げ飛ばす。
サクラがナルト達より軽いことを忘れて飛ばしたら思ったより遠くまで飛んでしまい、林の中へと悲鳴と共に突っ込んで行った。
暫く様子を見ているとサクラがボロボロで林の中から出てくる。
自慢の髪には葉っぱや木の枝が絡まっている。

「ひどい・・・!」
「悪い悪い。葉っぱ取ってやるからおいで」

地面に胡座をかいて座り、涙目のサクラに手招きをして足の上に座らせる。
綺麗な髪から葉っぱを丁寧に取り除いていく。
サクラの髪をこんなふうに触る機会がなかったが、サラサラしていて触っていて気持ちが良い。


「なぁ、サクラ」
「なに?」
「何で休みの日までこんなに頑張るんだ?」

葉っぱを取りながら聞くと、サクラは顔を上げて空を見る。

「だってそうしないと2人に追いつけないんだもん」
「そんなことないでしょ。サクラだって最初に比べたら・・・」
「そんな気休めやめてよ、先生」

サクラは振り向いて瞳を空からカカシへと移す。
真っ直ぐ見つめてくるその瞳に、カカシは動けなくなる。

「・・・波の国で再不斬にカカシ先生が捕まったとき、私動けなかった。何も出来なかった」
「サクラはちゃんとタズナさんを守ってただろ?あいつらはオレの命令を無視しただけだ」
「それでも!」

語気を強めるサクラに目を見張る。

「それでも・・・私も先生を助けたかったのよ。ナルトやサスケくんだけじゃなくて、カカシ先生も大事な仲間なんだから」
「サクラ・・・ありがとな」

頭を撫でてやると、サクラはポツリと呟く。

「・・・私、みんなを守れるようになりたい。いつまでも3人の後ろにいるんじゃなくて、隣に立ちたいの」
「うん、サクラなら出来るよ」
「なんで言い切れるのよ」

サクラは口を尖らせて睨むのでカカシは笑い、自身の左目を指差す。

「オレのこの目は未来が見えるんだぞ?サクラはオレなんかより強くなって2人の隣に立つ日がくるよ」
「・・・嘘」
「ほんと、ほんと」

いつものように笑うと、サクラは呆れたように笑い、カカシの胸にもたれかかってくる。

「じゃあそうなるようにちゃんと特訓付き合ってよ?」
「もちろん」

カカシが頷くとサクラは立ち上がるのでカカシも少し痺れた足をサクラに気づかれないように背を向けて整える。


(オレも守りたい、か)

サクラの言葉に頬が緩む。
後ろのサクラを見て目を見張った。
サクラの背中に、先程までなかった天使の羽が見えるではないか。
ゴシゴシ目を擦っても消えない。
放心状態になっているとサクラは不思議そうに見てくる。

「カカシ先生、どうかした?」
「・・・なぁ、サクラ。今まで見えなかったのに、その人の背中に天使の羽が見えるようになるってどういうことだと思う?」
「天使の羽?」

突拍子のない質問にサクラは首をかしげ、暫く考えて。

「天使の羽は聞いたことないけど、その人の周りがキラキラし出すってのは聞いたことはあるわ」
「どうしてか分かるか?」

カカシは真剣な顔をして聞くと、サクラはおかしそうに笑う。

「だってそれって、その人のことが好きになったからだもん」
「──へ」

サクラの答えに変な声が出る。
そんなカカシを気にすることもなく、サクラはウットリとした顔で自分の世界に入る。

「素敵よねぇ・・・その人だけ特別に見えるってことは、運命の相手ってことじゃない!?私もいつかサスケくんのことがそんな風に見えるのかしら」

指を組んで頬を染めていたサクラは、口布の色が変わるぐらい顔から大量の汗をかいているカカシにビックリする。

「ど、どうしたのカカシ先生」
「え!?あ、いや、なんでも・・・」

サクラは自分のハンカチを取り出してカカシの汗を拭く。
至近距離にサクラの顔がきて、カカシは顔を真っ赤にしてサクラから離れようと後ろに数歩下がる。
今までサクラとこの距離にいてもなんとも思わなかったのに、意識し出した途端これだ。
カカシは不審がるサクラに愛想笑いをしながら心を落ち着かせる。

「あー、そろそろ日が暮れるな。暗くなる前に解散しよう。じゃ!」
「え、あ、ちょっと、カカシ先生!」

サクラが慌てて呼び止めるも、そこには風に舞う木ノ葉しか残っておらず。
サクラは顔を上げて空を見る。


「日が暮れるって・・・まだお昼よ?」


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