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里をブラブラ歩いている時、長身の銀髪の男の後ろ姿が目に入り頬が緩む。
私は師であり恋人である男にいつものように。

「カカシ先生!」

背中に思い切り飛びつく。
飛びつかれた男はビックリしたように勢いよく振り向き。
顔を見た私たちは固まった。

「えっと・・・」

その男は困ったように笑う。
カカシ先生と思って飛びついた男は全く知らない男の人だったのだ。
私は顔を真っ赤にして離れる。

「す、すみません!背格好が似てたので恋人だと思ってしまって・・・」
「あぁ、気にしなくていいよ。それよりもさっきの・・・」

「サクラ!」

男の人の言葉を待っていると、後ろから大声で呼ばれて振り返れば恋人が焦った顔をして近づいてくる。

「カカシ先生」

私は頬を綻ばして先生の名を呼ぶ。
いつもなら私に優しく微笑みかけてくれるのに、先生は私の肩を引き寄せて強張った表情で男の人を見ている。

「先生?」

こんな先生を見たことがなかったので不安にかられる。
男の人は気にするでもなく先生に微笑み。

「ただいま、カカシ」
「・・・え」
「・・・帰ってきてるなら連絡してくれる?父さん」
「え、え、え?」

私はこの状況が全く理解出来なくてカカシ先生と男の人を交互に見る。
何で気づかなかったのかと思うぐらい・・・この2人、瓜二つだ。
体中から出てくる冷や汗が尋常ではない。
そんな私に気づいたカカシ先生が男の人に手を向ける。

「サクラ。ええと、この人はオレの父。父さん、この子は恋人のサクラ」

先生に紹介されて背筋を伸ばして腰を折る。

「は、初めまして!春野サクラといいます」
「初めまして。はたけサクモです。ようやく会えた」
「・・・ようやく?」

サクモさんの言葉が気になって顔を上げると、にっこりと笑いかけてくれる。
それはいつも先生が私たちに向けてくれる大好きな笑顔と同じだった。

「カカシに恋人がいることはオビトくんとリンちゃんから聞いてたのに一向に紹介しようとしなくてね」
「たく、あいつら・・・」

先生は頭を抱えてため息を吐く。
先生の親友の2人とは何回か会ってはいたけど、親と会う話は全然なくて、ちょっと不安になっていた。
私がまだ子供だから親には合わせれないのかなって。

「父さんが旅行ばっかりで里にいないからでしょ。いたとしてもこっちは任務とかで忙しくて時間合わないって分かってるだろ」
「はは、悪い悪い。現役を退いてからは趣味の温泉巡りでずっと外に出てたんだよ。今日も半年ぶりぐらいかな?」
「たく・・・急にフラッといなくなったと思ったらフラッと帰ってくるし、連絡してっていつもいつも・・・」
「カカシは相変わらずだな」

サクモさんは悪びれもなくまた笑い、先生はため息を吐く。
いつもは不真面目な先生がお父さんに対してはこうなんだ、と不思議な感じがしたな。
会話に入れず2人のことを見ていると、サクモさんと目が合ったので背筋が伸びる。

「ええと、サクラさん。良かったらこれからウチに来ない?」
「──え?」



****



「おじゃま、します・・・」

あれから気づいたら先生の実家にお邪魔することになっていた。

「どうぞー、汚いけどごめんね」
「いえ!」

サクモさんは申し訳なさそうに笑って窓を開けて換気をし出す。
手伝った方がいいのか迷っていると、後ろから大きなため息が聞こえて振り返る。

「先生?」
「・・・ごめん。本当はちゃんとした場を設けるつもりだったんだけど」

先生は申し訳なそうにするのが犬がしょんぼりしているように見えて可愛い。
私は先生にしゃがむように手で促すと素直にしゃがむ。

「先生の育った家に来れて私は嬉しい」

先生のふわふわしている銀の髪を撫でると、先生は私の胸に顔を埋めてぎゅーっと抱き締めてくる。

「なんでそんな可愛いこと言うの」
「ふふ。今は先生の方が可愛いわよ?」
「男に可愛いとか言わないでもらえる?」

可愛いと言われてむっ、としている先生を笑っていると。

「おーい、イチャついてないでお茶飲もう」
「はっ!せ、先生離して!」

すっかりサクモさんを忘れてしまい、慌てて先生の肩を離そうとする。

「イチャついてるって分かってるならもう少し放っといてくれる?」
「もう、先生!!」

更に強く抱きしめてくる先生に恥ずかしくなって思い切り頭を叩いた。



****



「サクラさん、カカシの子供のころの写真見るかい?」
「え」
「是非!」
「ちょっと・・・」

お茶を飲みながら話をしていると、思いついたようにサクモさんは立ち上がって部屋の奥へと行き、戻ってきたら分厚い本を持っていた。
机の上で開かれたその中を見ると、今より若いサクモさんに抱かれた小さいカカシ先生。
今と同じで眠たそうな目で可愛い。
他の写真もサクモさんにべったりくっ付いているのが多かった。

「カカシがまだ物心付く前に母親が亡くなってね。それからは男手一つで育てて任務で1人にさせることが多かったから、家に帰るといつも甘えてくるのが可愛くて」
「確かに可愛いですね」

頬を緩ませる私たちにカカシ先生は居心地が悪くなったのかどこかに行ってしまった。
ページを捲っていくと、子供のオビトさんとリンさんの3人で写っているのが目に入る。

「あぁ、その2人とはアカデミー前からいつも一緒でね。文句を言っていたけど楽しそうにしていたのを覚えてるよ」
「・・・今も仲良しですもんね」

ヤキモチを焼いてしまうぐらいに。
恋人になって部下の時じゃ見れなかった顔を向けてくれるようにはなったけど。
特別なあの2人には勝てないって思うようになってしまった。
だってカカシ先生の人生のほとんどを一緒に過ごしてるんだもん。
出会って4年の私が勝てるわけないって分かってるけど──。

少し落ち込んでしまったのが分かったのか、サクモさんは軽く頭を撫でて立ち上がりキッチンへと消えていった。
その撫で方がカカシ先生と似ていて、親子なんだなって少し気が軽くなった。



****



「暗くなるからそろそろ帰りなさい」

肩を優しく叩かれてハッと意識を戻す。
先生の写真に没頭していたらもう夕方になっていた。
サクモさんに呼ばれて周りを見れば先生が見当たらない。

「あれ、先生は・・・」
「あそこ」

サクモさんは面白そうに指差す。
その方向を見ると、カカシ先生が縁側で寝入っていた。
いつも寝顔を見ているのに、今はいつもより幼く見えるのは気のせいだろうか。

「任務で疲れてただろうに。悪いことしたね」

先生を見つめるサクモさんの瞳は優しくて。
その時、ふ、と思い出した。

「そういえばサクモさん、今日はどこに泊まられるんですか?」
「ん?ここだよ」
「でも、掃除が・・・」
「大丈夫、カカシがもうしてくれてるよ」
「え?」

サクモさんの言葉に周りを見れば、来た時より部屋が綺麗になっていた。
たぶん布団も新しくシーツが付け替えられているのだろう。
私がアルバムに夢中になってる間に・・・。
しゃがんで先生の眠る顔を覗く。
こんなに近くで喋っても起きる気配がない。
昨日まで長期の任務に出てたから疲労が顔に出てる。

「言ってくれたら私もしたのに・・・」
「1人で何でもしてしまうからね。甘えるのが苦手なんだよ、この子は。でもね」

情けない顔で見上げる。

「今日のカカシを見て安心したよ。あんなに優しい顔を誰かに向けるのは初めて見たよ」
「・・・え」
「オビトくんとリンちゃんのことは確かに特別だろうけど、それでも踏み込んで欲しくないところがあるようにオレは見えた。でもサクラさんには対してはそれがなかった。それだけ君が大事なんだろう」

そんな風に先生は思ってくれているんだろうか。
嬉しくて泣きそうになってると、頭を優しく撫でられる。

「不器用な息子で悪いね。こんなんだけど、付き合ってやってくれるかい?」
「・・・はい!」

私は涙を滲ませて笑うと、サクモさんも微笑んでくれる。

「さて、そろそろカカシを起こさないと暗くなってしまう」
「はい。先生、起きて」

私が肩を揺さぶると、ゆっくりと先生の眼が開く。

「・・・ん。寝てた?」
「うん。暗くなるからそろそろ帰りましょう」
「そうだね・・・」

先生は腕を伸ばして背伸びをする。
そして立ち上がり、私に手を差し伸べてくれるのでその手を取って私も立ち上がる。







「それじゃあ、帰るよ」
「おじゃましました」
「またいつでもおいで」
「はい」

外に出ると、秋の心地よい風が吹く。
サクモさんに見送られ、先生と並んで中心街に続く坂を下る。


「掃除するなら声かけてくれたら良かったのに」
「んー、サクラがアルバムに夢中になってて暇だったからやっただけだよ」

──嘘ばっかり。

へらっと、笑う先生に口を尖らせる。

「次掃除しに来る時は私も誘ってね」
「別にいいんだぞ?オレが好きでやってるだけだし」
「いいの!私もしたいのよ」

手を繋いでいた手を引っ張って、2人で笑いながら坂を駆け降りた。





その日、夢を見た。
カカシ先生の実家で私と先生、サクモさんの3人で楽しそうに話していて。
サクモさんの腕の中にはカカシ先生にそっくりな赤ん坊が抱っこされていた。


いつか来る、未来のように思えた。


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