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任務という名の子供たちのお世話が休みの今日。
個人の任務も珍しく入っていなかった為、久々に惰眠を貪っていた。

ポカポカ陽気に眠気が助長され、昼を過ぎても布団から出ることが出来なかった。
昼ごはんはいいかなーって思いながらまた夢の世界へ落ちようとしていたその時。

ピンポーンと来客を知らせる音が響いた。
どうせセールスか何かだろうと無視を決め込んだのだが、応答がないと分かるとそいつはベルを連打してきた。
布団を頭から被り居留守を貫こうとしたが、鳴り止まない音に我慢の限界が来て玄関へと向い勢いよくドアを開けた。



「きゃあ!」

驚いた声に聞き覚えがある。
目線を下げるとそこには薄紅色の髪の少女が立っていた。

「・・・サクラ」
「ちょっと先生!危ないでしょ!!」

サクラは上目遣いでオレを睨んでくる。
その手には大きく膨らんだ風呂敷を持っていた。


「何しに来たの・・・?」
「ちょっとね。お邪魔しまーす」

サクラはドアを開けるオレの腕の下を潜り部屋へと入る。
オレは遅れてサクラの後を追い部屋に入ると、右にはたきを手にしたサクラが立っていた。
サクラの足元にある広げられた風呂敷の中には色々な掃除道具が入っている。



「カカシ先生!大掃除よ!!」

サクラは持っていたはたきをオレに押し付けて、起きたままのグシャグシャになったベッドシーツや毛布を体いっぱいに持って洗面所へと向かう。
オレははたきを手にしたまま固まっていたが、ようやく頭が働いて洗面所に行くと、サクラは毛布を洗濯機に詰めていた。

「サ、サクラ。何でオレの部屋の大掃除するの?」

毛布を詰め終え、棚の上にある洗剤を取ろうと爪先立ちするサクラに代わり取って渡す。
「ありがとう」と言って洗剤を入れて洗濯機を回す。



「カカシ先生、今年の汚れは今年落とさないといけないのよ」
「う、うん」
「・・・この間遊びにきたとき、棚の上に1年以上の埃が溜まってたわよ」

ジトーとした目で見てくるサクラから目を逸らす。
任務で忙しくて掃除する暇などないし、休みに掃除をするヤル気など元から持っていない。
夜の相手をしてくれる人はいても、掃除をしてくれる恋人はいない。

この間、3人がご飯を食べにきた時に目敏く見つけてこの日を計画していたのだろう。


「せっかくの休みなんだから、ちゃっちゃとやるわよ!次いつ休みか分からないんだから」
「せっかくの休みなんだから休みたいんだけど…」
「そんなこと言ってるからいつまでも出来ないのよ!!」

サクラはオレの背中を押して洗面所を出る。
オレは諦めて手に持ったはたきで長年の汚れを落とし始めた。






空が青からオレンジになる頃。

サクラの指示でなんとか今日中に掃除を終えることが出来た。
元から物が少ないから掃除するところもなかったが。

綺麗になったカーテンをつけ終え、オレはキッチンにいるサクラに声をかける。

「サクラー。終わったよー」
「お疲れ様ー。カレーもちょうど出来たよ」

そう言ってサクラは皿をテーブルに並べる。
カレーのいい匂いにお腹がグゥとなって、サクラに笑われた。
そういえば、朝も昼も食べてなかったな。


椅子に座って手を合わせて揃って「いただきます」と言ってご飯を食べる。

「・・・どう?」

サクラは眉を下げてこちらを見てくる。

「美味しいよ」

ニッコリ笑って二口目を食べると、安心したのかサクラもカレーを口に運ぶ。

「サクラ料理出来たんだな」
「最近お母さんに習ってるの。サスケくんの胃袋掴まないといけないもの!」
「ふーん」

ガッツポーズをするサクラに、オレは素っ気なく返す。
オレの為じゃないと思ったら味が変わった気がした。

「これからは先生が味見してね」
「何でオレが」
「大掃除手伝ってあげたでしょー」

大掃除をしに来た本当の理由が分かってため息をつく。



他愛もない話をし、お互いカレーのおかわりをして満腹になったオレ達はソファーに座り込んだ。

「はー、お腹いっぱい!」
「本当。美味しかったよ」
「えへへー。また作りにくるからね!今度は肉じゃがかなー」
「先生、和食好きだから楽しみだなー」


ソファーの背もたれにもたれかかって寛いでいると、サクラは前屈みなり膝に肘を置いて頬杖をしてこちらを見てくる。

「・・・なに?」

意味ありげに視線に思わず聞く。

「先生さぁ、彼女作らないの?」
「何、急に」
「だってさぁ、先生掃除しないでしょ?また部屋汚くなると思ったら嫌なんだもん」

だから彼女作って掃除してもらえってことか。


「じゃあさ」

オレはサクラの手を取る。

「サクラがこれからも掃除しに来ればいいじゃん」
「え?」

オレはマスク越しにサクラの手にキスをする。
サクラの顔が一気に真っ赤になったのを見て微笑む。

「他の人が掃除してもサクラ気になると思うんだよねー。それだったらサクラが掃除しにきて、ご飯作ったらいいんじゃない?」
「う・・・でも・・・」

サクラの顔が左右に動いてて可愛い。


「サクラは嫌?」
「い・・・嫌じゃない・・・けど・・・」

頬を染めて、オレと目が合わないようにしている。
そんなサクラを見てると愛しく思える。
そしてある欲がムクムクと湧いてしまった。




「ねぇ、サクラ。サスケじゃなくてオレだけにご飯を作ってほしい」

サクラはポカンとした顔をしていたが、暫くして意味を理解したのか勢いよく頭を下げた。
顔は見えないが、覗き見える耳が髪よりも赤くなっているのが分かる。
本当可愛い。

「どう?」

顔を覗き込むと、サクラはビクッとなって目が泳ぎ、オレを睨んだあとに頭が小さく縦に動いた。

「いいの?」
「・・・・・・うん」

オレは満面の笑みを浮かべてサクラを抱きしめる。
サクラから短い悲鳴が聞こえたが気にしない。

「ねぇ、サクラ」
「・・・なに?」
「チューしていい?」



「は?」

少し間が空いた。
その間にマスクを下げ顔を近づける。

「ちょ、ちょっと!先生!!」
「チューしたい」

オレの肩を押さえるサクラを無視して近づき、お互いの唇まであと数センチ。




「むぐ」

オレが感じたのは柔らかい唇ではなく、手のひらだった。
サクラは唇がくっ付く前に手を差し込んでキスを阻んだ。

「むぐぐぐぐ(なにすんの)」

「だ、だめよ!ファーストキスは初デートの帰りって決めてるんだから!!」

サクラは顔を真っ赤にしてオレを睨みながら引き剥がそうとしている。
何だその子供みたいな夢は、って思ったが子供だった。

今までの女はオレが言えばすぐに受け入れてくれたのになぁと思いつつ、無理に迫ってサクラに嫌われるのはごめんだ。
これも惚れた弱みなんだろう。


「分かったよ」

サクラの手を掴んで体を離す。
手は掴んだままでいるとまたサクラの目線が泳ぎ出した。
チラチラとオレの口元を見ているのに気づいた。
初めて素顔を見せたからかと、サクラの反応に口元が緩む。


ーーああ、本当サクラは可愛い。

オレはまた抱きつくと、「ぎゃ!」と可愛くない悲鳴が上がってハハッと笑った。
笑ったことにオレの胸をドンドン叩くが、さらに強く抱きしめると諦めた手は恐る恐る背中を掴む。
予想していなかった反応に心が掴まれて、顔に血が集まる。
顔が見えない状態で良かったと、サクラの肩に顔を埋め微笑した。





次の休みもサクラは家に来るだろう。
なかなか出てこないオレに、今日みたいにベルを連打する。
寝起きの体を引きずってドアを開けると、サクラは眉間に皺を寄せる。
その格好は今日よりも可愛い服で粧し込んで。
オレとしてはスカートが短いワンピースがいいなぁ。
そしてサクラは怒ってこう言うだろう。


『先生、まだ寝てたの!?早く準備してよ!今日はーー』



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