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short.1

それは突然だった。

任務終わり、私はいつも図書館に行ってそこにある中庭のベンチに座って本を読むのが日課になっていた。
気持ちが良い風と葉が揺れる音を聞きながら本を読む。
幸せな時間。



──だった。



いつからか、毎日私がそこにいると知ってから同じように毎日現れる男。
それは背中を丸めてボサボサの銀の髪を靡かせ、毎日遅刻をしてくる我が師。
先生は任務の報告書を提出した足で図書館に来て、何も言わず私の隣に座って邪魔をするでもなくただ座って過ごす。
そして私が帰ろうとすると一緒に立ち上がって、何も言わず私を家まで送る、というか付いてくる。
何でここにいるのかすごく気になるけど、邪魔をしてこないのでまぁいいかと本に集中する。

そんな時、中庭に突風が吹く。

「いたっ」

風で舞ったゴミが目の中に入り擦る。

「擦るな。見してみろ」

今まで喋らなかった先生はそう言って私の顔を掴んで目を覗き込む。
今までこんなに近くに先生の顔が来たことがない。
どこを見たらいいのか分からず目が泳いでいると。


いきなり先生に唇を塞がれた。


口布越しではあったけど。
何が起こったのか分からずにいると、顔を離した先生は何事もなかったかのように立ち上がり去っていった。
呆然とする私を置いて。



****



それからも先生は変わらなかった。

集合場所にはいつも通り遅刻してきて、任務ではテキパキ指示を出してきて。
私が上手く出来たら頭を撫でて誉めてくる。
そう。
何もかもがいつも通り。

あの日から先生は中庭に来なくなった。

別に約束をしてるわけじゃないけど。
いつもやってきては隣に座ってくるから、私は無意識に隣を空けるようになった。
そして空いたままの隣が気になって、あれだけ好きだった本が進まなくなった。







「あの」

いつも通りベンチに座り、ぼーと本を見ていると声をかけられ、顔をあげるとそこには見知らぬ青年が立っていた。

「いつもここで本読まれてますよね」
「えっと・・・」
「あ、すみません、いきなり・・・。いつも図書館の窓からあなたがここに座って本を読んでいるのが見えていたので気になってしまって」

青年は照れたように頬をかく。
まさか見られていたとは思わなくて少し頬が赤くなる。

「良ければ隣に座ってもいいですか?」

青年はチラッと空いている隣を見る。

「あ・・・」

私は隣に座る師の横顔を思い出す。
別に約束はしていない。
してない、けど・・・。

「すみません。待ち合わせをしてるので」
「あぁ、そういえばいつも隣に座ってる方いらっしゃいますね。・・・恋人とか?」
「え!?ち、違います!先生です!」
「先生・・・仲がよろしいんですね」

青年はにこりと笑う。
身なりからして忍者ではなさそう。
一般人なら先生のことを知らないのかもしれない。

「まぁ、それなりに・・・」

あのキスは仲がいいから?弟子に向けての?

「それじゃあまた今度にしますね。その時は本のことお話しましょう」
「はい。ごめんなさい」

青年は謝る私に手を振って立ち去る。
間近にあんなに爽やかな男の人はいないからドキドキしてしまった。
近くにいる男といえば、騒がしい奴とクールでかっこいい少年と、強いけどだらしない年上の男の人・・・。
私はそっと自分の唇に指を当てる。


──先生は何でキスなんかしたの?


いくら考えても分からないことにため息を吐く。
そのとき、視線を感じて周りを見渡す。
青年も立ち去り誰もいないと思ったけど、外と中庭を繋ぐ出入り口に見たことのある背格好が見えた。
あれは里から支給されるベスト。
基本的に忍はアカデミーの中にある図書室に行くことが多い。
巻物やらなんやらがこっちより多いからだ。
どちらかというと、図書館は一般向け。
だから下忍ならともかく中忍・上忍がこっちにくることほぼない。
でも、私は誰よりも忙しいくせにここに来て本を読まないベストを来た男を知っている。



****



ある日。
男はのそっと外から中庭を覗く。

「・・・あれ?」

男は首を傾げながら中に入ると。

「何やってるんですか」
「うぉっ!」

男は上忍らしからぬ驚き方をする。
声がした方向を見れば、入り口から死角になっているところで不機嫌そうにしている少女。

「サクラ・・・ビックリした。気配を消すの上手になったな」
「ありがとうございます。それで先生は何やってるんですか」
「あー・・・ちょっと本を読もうとね?」
「本も持ってないのに?」

私がジトっと睨めば、明後日を見る先生。
その手は相変わらずポケットに突っ込まれている。
愛読書のイチャパラはポーチの中に入っているだろうが、わざわざここで読むものでもないだろう。

「そういうサクラこそ何やってるんだ?いつもベンチに座ってるのに」
「先生を待ってたんですよ」
「え〜?先生たまたま来たから、今日来るか分からないだろ?」
「嘘」
「嘘って・・・」

私が真っ直ぐ見つめると、先生は困ったように笑う。

「私知ってるのよ。ずっと外から中庭覗いてたわよね。何見てたの」
「・・・・・・」

先生は私から目を逸らす。

「私を見に来てたんでしょ」
「分かってて聞いてくるの?」
「そうよ。でもいくら考えても分からないことがあるわ」
「・・・なに?」

「何でキスしたの?」

あの日のこと。
私はいくら考えても分からなかった。
ううん。
分かってたけどこの男の口から聞かないとダメだ。
先生は私の質問に目が泳ぎ、頭をかく。

「カカシ先生、私のこと好きなの?」

「・・・好きだよ」
「それは先生として?」
「いいや、男として」

ようやく先生は真っ直ぐ目を見てくれた。
のらりくらりと逃げていた先生をようやく捕まえれた気がした。


「なんでいつも中庭に来てたの?」
「サクラと居たかったから」
「なんでいつも家まで送ってくれたの?」
「サクラが心配だったから」
「なんで中庭覗いてたの?」
「サクラに変な虫が付かないように」

「なんで、キスしたの?」

先生がそっと私の頬に手を添える。

「サクラとキスがしたかったから」

先生は片方の手で口布をそっと下げると、顔をゆっくり近づける。
私は自然と目を閉じて。


柔らかい唇に唇を塞がれた。


そっと、顔が離れる。
至近距離に来る、初めて見る先生の端正な素顔。
初めての時とは違って布1枚隔てない先生の少しカサついていて温かい唇。


私はまた分からないことが出来た。
なんで先生とキスしても嫌じゃないんだろう。
私が好きなのはサスケくんなのに。


カカシ先生は私の考えを見透かしたように笑って、またキスをした。


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