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幾年越しの夢








サクラはオレの腕の中で幸せそうに笑って、二度と翡翠の瞳が開くことはなかった。







サクラを失ってからオレは周りが心配するほど任務に出ていた。
任務が終わればすぐに任務。
ガイや綱手様からは休めと言われたが、休んだりなんかしたら思い出してしまう。
あの薄紅の少女を。
無理やり休みを取らされても木の上で一日中ボーと過ごす。
部屋にいると彼女の匂いを思い出してしまうから。
あれから薬を飲まないと寝れなくなった。
目を瞑るとサクラとの楽しかったことを思い出してしまうから。
夢から覚めたときにもう彼女がいないことに気づいてしまうから。
なら強い薬を飲んで夢を見なければいい。
少しでもこの辛い日々から逃れるように。




それから世界はマダラとオビトによって危機に陥った。
オレは第3部隊長に選ばれ、落ち込む暇もないほどに駆け回る。
穢土転生によって蘇ったかつての敵や味方と闘い、人々が無限月詠にかかり、カグラが現れオレとナルトとサスケで世界を救った。


大戦が終わってオレは六代目火影に就任した。
戦争で里は荒れ、その復興に寝る間も惜しんで働いた。
補佐役のシカマルのおかげでだいぶ助かってはいるが、食事はだいたい兵糧丸で済ませているため体重は3kgは体感で痩せている。
そんな時、彼女の顔が浮かぶ。

『カカシ先生!またご飯食べてないでしょ!私の目は誤魔化せないわよ!』

腰に手を当てて顔を顰める少女の顔を思い出し小さく笑う。
綱手様に弟子入りしてから体調管理に厳しくなったサクラはいつも目を光らせていた。
背もたれに体重をかけると椅子がギシリと悲鳴を上げる。
オレは天井を見上げて息を吐く。

「シカマル。悪いんだけど少し仮眠してくるよ」
「分かりました」

オレは椅子から立ち上がり、部屋の奥の仮眠室のベッドに横になる。
腕を顔に乗せて目を瞑る。
あれから1年は経った。
心も落ち着いて彼女のことを色々思い出すようになった。
こんなオレが火影になったと知ったら彼女はどう思うだろうか。
きっと、だらしないオレに務まるとは思えないと呆れながら言うな。
それでも彼女は暖かく見守ってくれるだろう。
オレはそんな彼女を想いながら夢の中へと落ちていった。








それから数年後。
しっかり土台を作り、火影に憧れ世界を救った英雄にその座を譲り渡した。
火影の任から解放されたオレは先の大戦で身体を壊した親友と、悪友の忘れ形見と温泉の旅に出ることになった。
愛読書の舞台となった場所を巡り温泉で今までの疲れを取って。
時折木ノ葉に帰って、サクラの墓の前で旅の思い出話を聞かせた。
それがオレの楽しみだった。






それからまた数年経ち、オレは現役を退いた。
かつて父と過ごした家に戻り、庭から見える平和な木ノ葉を見ながら余生を過ごしていた。
ナルトたちは親になり孫も出来た。
そんな子供たちを可愛いながら、もしサクラとの間に子供が出来ていたらすごく可愛かったんだろうなと想いを馳せる。
サクラがいなくなって40年。
こんなに長生きすると思わなかった。
友と師の代わりに里を守り、子供たちに、最愛の人と出会い失った。
絶望して何度この世を去りたいと思ったことか。
でも彼女は寿命以外の死を絶対許さない。
だからもうすぐ彼女に逢える。
早く逢いに行かないと、1つのことにのめり込むと他のことを忘れる彼女のことだ。
新しい人生に夢中になってオレのことなんか忘れてしまうかもしれない。
でもそうなっても絶対思い出させてやる。
次の人生は君と今世の分も一緒に過ごすと決めているから。













****



時々虚しくなる時がある。

母はオレが物心付く前に亡くなっているから寂しいと思わないし、その分父がオレを愛してくれた。
友人にも恵まれた。
オレに何かとつっかかるのと、オレに好意を抱いている2人の幼馴染。
高校では変なオカッパに絡まれたり。
充実した人生なのに。
心に穴が空いていてずっと寒い。
それが何なのか、オレは分からなかった。

大学を卒業して、やることもなかったので父の真似をして教師になった。
子供は好きではなかったが、何故かオレにハマっていた。


それから教師になって数年後。
オレの人生は一変した。

目の前に現れた少年たち。
2人を見た瞬間オレは思い出した。
命をかけて闘い里と仲間を守った人生のことを。
そして、最愛の人のことを。
少年たちも前世を覚えていて、よく懐いてくれた。
しかし、そこに彼女はいない。
これは探しに行くと言ったのに忘れていた罰なのか。

彼女も生まれ変わっているのか。
どこにいるのか。
覚えているのか。

もし平和な時代で幸せに生きているなら邪魔をしない方がいいんじゃないか。
そう思うと足が動かなかった。




それから1年後の桜が舞う季節。
彼女を思い出しながら新たな新入生を迎える準備をする。
ふと、見覚えのない生徒が歩いているのが目に入った瞬間、動悸が早くなる。
特段目立つような子じゃない。
なのにすごく気になって、その場を他の人に任せて彼女に付いて行った。

彼女はふらり、と校舎裏に向かう。
確かそこには1本の桜が生えていた。
校舎の影から隠れて覗くと、そこには満開の桜を愛でる少女がいた。
普通の茶色の髪で、あの時とは違う。
でもその髪が風で舞ったとき、陽に当たってピンク色に見えた。

思わず足を踏み出してしまい、足音に気づいた彼女が振り返った。
その時やっと真正面から見た瞳。
何度も見てきた猫のように吊り上がった瞳。
何度、オレみたいに垂れ目になりたいと無理やり下げるのを止めて、その瞳の愛らしさを語ったことか。
薄紅の髪でも翡翠の瞳でなくても分かる。
彼女はサクラの生まれ変わりなのだと。

オレは言葉を発そうしたが出来なかった。
何故なら彼女の大きな瞳から大粒の涙がこぼれていたから。

「サク・・・」

そう呼びかけると同時に彼女はオレの胸に思い切り飛び込んで来た。
彼女の肩を掴むと、震えていて。

「んせ・・・カカシ先生・・・!!」

何十年も頭の中で思い出していた声。
ようやく聞けたことが嬉しくて、オレは思い切り彼女の身体を掻き抱いた。
いつ人がくるかも分からない場所でオレたちは思い切り泣いていた。





「・・・大丈夫か」
「はい・・・すみません。でもどうしよう、入学式が」

彼女はぐちゃぐちゃの顔で入学に挑まなくてはいけないことに不安があったようで。

「まだ時間もあるから、とりあえずオレの部屋においで」
「え!あ、はい・・・」

一瞬躊躇した彼女をオレの教科準備室に連れて行った。
そこには洗面所があるから顔を洗えるし、ここにはあまり人が立ち寄らない。
あまり、というのは少年たちのことなんだが。

「あの・・・ありがとうございました」

少女は貸したタオルで顔を拭く。
目は赤いが腫れておらず、この状態なら入学式に挑めるはずだろう。
しかし、その前に確認したいことがある。

「そこ、座って」

オレは目の前にあるパイプ椅子に彼女を薦める。
素直に座って、やっと落ち着いて彼女と正面から対峙することが出来た。

「単刀直入に言う。君には前世・・・忍としての記憶はあるのか」

その言葉に彼女の肩は跳ね、目を見開く。

「先生、にも・・・あるんですか?」
「あぁ。去年、あの子たちに出会ったときに思い出した」
「あの子・・・たち・・・」

それだけ言えば分かったのか、彼女は顔を綻ばせる。
容姿は変わってもその笑顔は変わらないらしい。

「君の前世の名前は春野サクラ。合ってるか?」
「はい・・・とゆうか、今の名前もそうです」
「サクラもか・・・オレも変わらない。はたけカカシだ」

幾年ぶりに声に出す『サクラ』。
こんなにも胸を高鳴らせるのか。

「私、今まで忘れてて・・・さっき先生に会った時に思い出してきたので全部ではないんですけど・・・私、任務で死んでますよね」

真っ直ぐと本人から自分の死を言われるとは、と苦笑してしまう。

「・・・そうだよ。オレの腕の中で死んだんだ」
「そう・・・。先生は?ちゃんと生きたのよね?」
「生きたよ。お前に後で煩く言われないように70まで生きた」
「ふふ、よく分かってるじゃない。そっか。良かった」

だんだんと敬語が取れてきて、昔のサクラと話しているようだった。
自分の死後、オレがちゃんと生きていたことに安堵して微笑むサクラの頬に手を添える。

「良くないよ」
「え?」
「お前が死んで、オレがどれだけ苦しんだと思う。もうお前がいない世界にどれだけ絶望したと思ってる」
「先生・・・」
「サクラに触りたい。サクラから来て」

情けなく懇願すると、サクラは立ち上がってオレに覆い被さるように抱きついてくる。
オレも背中に腕を回して首に鼻を埋める。

「あったかい・・・サクラの匂いがする」
「変態みたい」
「いいでしょ。40年ぶりのサクラの体なんだから」
「うん・・・」

サクラはぎゅっと抱きついてくるので、オレも隙間なくサクラを強く抱きしめる。


暫くサクラを堪能していると、サクラがオレの肩に手を置くので少し身体を離す。
少し上にあるサクラの顔を覗くと、その瞳は赤く潤んでいて。
オレはサクラの頭に手を添え引き寄せる。
サクラの瞳がゆっくりと閉じるのを見ながらオレたちは唇を合わせた。
長く、長く。
40年、いやそれ以上。
離れていた時を埋めるかのようにその可愛らしい唇を貪った。

「ん・・・ふぅ・・・っ」

サクラの口から苦しそうな息が漏れて、名残惜しいが唇を離す。
サクラは頬を真っ赤に染めて唇を濡らしていた。
思わず押し倒して続きをしたくなったが、ちゃんと我慢する。
もし誰かに見られてまた離れ離れにでもされたら今度こそ気が狂うだろう。

「もう離さない」
「うん・・・離さないで」

オレたちは微笑み合い、時間までたくさんキスをした。





それから入学式が終わって、サクラに合わせたい人がいると呼びつけた。
サクラの目の前に現れたその人物達を見てまた泣き出す。
その2人は、オレに前世を思い出させてくれた昔も今も大事な生徒。
サクラは2人に抱きつき、人目もはばからず大声で泣く。
まるで卒業式のように。
ナルトも泣き出し、2人でワンワン泣くのをサスケは困ったようにしていた。

オレは側で泣きながら笑う3人を懐かしく見る。
前世では叶わなかった光景。
サスケが戻ってきてもオレたちは揃ったことにはならなかった。
大事な1人が欠けていたから。
オレは今はない額当てで左目を隠すようにして笑う。

「やっと、戻ったね」






それからオレたちはあの頃を取り戻すように一緒にいるようになった。
サクラは休み時間や放課後に準備室にやってきて過ごす。
ナルトとサスケも暇があればやってくる。
オレとしてはサクラと2人だけで過ごしたいのだが、サクラはそうではないらしい。
サクラと仲良くする2人に嫉妬して今すぐにでも追い出したかったが、サクラが嬉しそうにしているのを見るといつも諦めてしまう。
オレもあの頃のように過ごせて嬉しいのだけれど。


それから月日は流れ、ナルトは体育の先生を目指す為、サスケは親の会社を支える為、それぞれの道へと進路を決め卒業していった。
一気に2人も居なくなると寂しくなる。
だがようやくサクラとの2人きりの時間。
それもあと1年のタイムリミット付きだが。

「あーぁ、今頃2人は夢の国かぁ」

サクラは隣に座るオレの肩にもたれかかり、逐一卒業旅行の写真を送りつけてくるナルトからのメッセージを見てため息を吐く。

「サクラも卒業旅行で友達と行けばいいじゃないか」
「うん・・・」

サクラが1年後にはもう居ないことを想像すると辛くなるが、二度と会えなくなるわけではない。
サクラの頭を撫でるも、未だに晴れない表情。

「カカシ先生」
「ん?」
「昔、私のお墓の前で旅の話してくれてたでしょ?」

サクラはナルトに返事をしながら何気なく聞いてくるので目を見開く。

「・・・聞いてたのか」
「ぼんやりとだけど思い出したの。お墓の前に座ってガイ先生とミライちゃんとの旅の楽しそうに話してたのを横で聞いてたよ。身の程知らずの野党が襲ってきてガイ先生が1人で倒しちゃった話とか」
「そんなこともあったなー。そうか、聞いてたのか・・・良かった」

無口になってしまったサクラにずっと喋りかけていたあの頃。
どこかで聞いてくれているだろうかと思っていたが、ずっと隣にいてくれていたなんて。
こんなに嬉しいことはない。

「でね、楽しそうに話す先生を思い出したら私も先生と旅行に行きたいなって」
「旅行?」
「うん。もう世界を回る旅なんて出来ないけど、先生と思い出を作りたいなって」

サクラは頬を染めてチラッとこちらを見てくる。
なんて可愛いんだ。


「ならちょうど良かったかな」
「え?」

ポカンとするサクラに笑いかけて、ソファーから立ち上がり机の上に置いてあった雑誌を手に取って戻る。

「ほら、これ」

サクラに印を付けていた雑誌を手渡す。

「え?・・・え、これって・・・」

サクラがオレと雑誌を何度も見るのがおかしくて笑う。
それは昔の時代のことをまとめた雑誌で、あるページに大きく木ノ葉の色褪せた写真が載っていた。
他にも砂や水など、何ページにも渡って特集されていたのを偶然にも見つけたのだ。

「どうも昔、忍に興味があった人が木ノ葉の一部を残して資料館を建てたらしい。で、またそれに興味を持った人が雑誌に載せたってわけ」

サクラは懐かしそうにページを捲る。
あれから何百年も経ってあの時代の面影は無くなってしまった。
木ノ葉がどこにあったのかすら分からなくて困っていた時にこれを見つけたのだ。

「で、4人でここに行かないか?」

オレが資料館がある住所を指差すと、サクラは困った顔をする。

「でも、日帰りで行けないわ・・・」

交通機関が整備されて足で移動しなくて良くなったが、それでもオレたちがいるところからじゃ泊まりじゃないと難しい。
それにサクラは高校生で、そんな簡単に遠出は出来ない。

「うん。だから、1年後のサクラの卒業祝いに行こう」
「そっか・・・!」

ようやくオレの意図が分かったらしく、サクラは満面の笑みで大きく頷く。
楽しみだなー、と雑誌を見ながら想いを馳せているサクラの手を取る。
そしてポケットから手のひらサイズの箱を取り出して開けると、サクラはその中に入っているのを見て瞠目する。
オレは小さく笑ってそれを手に取り、サクラの左手の薬指にはめるとピッタリ収まる。
サクラは口を閉じることも忘れて、自身の指で輝くそれを見つめる。


「サクラ」

名前を呼ぶと、サクラは口に力を入れて涙が溢れないように我慢していた。

「17歳の誕生日おめでとう。前はこの年を祝う前にお前は居なくなったからね。この日をずっと待ってた」

あと数ヶ月で誕生日を迎えるサクラの為に、サクラに似合うだろうと翡翠の石が付いた指輪を用意していた。
しかしそれは開かれることなく引き出しの奥に仕舞われたままだった。
その指輪は今、時を越えてサクラの白い指で輝いている。

「今はまだ籍は入れられないから婚約って形だけど。サクラが卒業する時に結婚しよう」

泣くのを我慢するサクラの頬を撫でると、とうとう溢れ出す涙を指で拭う。
サクラは喋れないのか何度も大きく頷いてオレの胸に飛び込んでくる。
失っていた温かさを噛み締めながら、オレも目尻に涙を滲ませて抱きしめた。




「2人が知ったらビックリするかしら?」

暫くオレの胸の中で泣いていたサクラは、落ち着いて胸に寄りかかって自身の指で輝く翡翠の指輪を嬉しそうに見つめる。

「んー、ビックリよりはショックじゃない?」
「どうして?」

サクラはキョトンとした顔で見上げてくるので、2人の淡い恋心に気付いてないな、と苦笑する。

「相変わらずだな」
「なにそれ」
「別に?」

揶揄って笑うとサクラは頬を膨らませる。
オレは誤魔化すように昔と変わらない可愛い額にキスをする。
例え気づいたとしても譲るつもりはない。
もう2度と、この手を離すつもりはないから。



****



それから1年後、サクラは医者になるために大学に進学を決めて今日卒業する。
下級生と同級生、何十人にも告白されて断っているサクラを祝いに来たナルトとサスケと離れて見る。
サクラの指にはめられた指輪を見せつけられ、相手は誰かと聞いたのだろう。
みな驚いた顔をしてオレの方を見るので、オレは勝ち誇った顔で微笑む。
男たちの肩を落として帰っていく姿に笑いそうになるのを堪えながら見ていた。
隣に立つサスケはそんなオレを見て小さく罵倒するが聞こえないフリをする。

暫くするとオレの側に卒業する女学生が数名、いや10人以上が近づいてきた。
どうやら男たちからサクラと結婚することを聞いたらしく、それは本当なのかと頬を染めて詰め寄ってくる。
オレは満面の笑みで頷くと、彼女たちは涙を溜めて走り去って行った。
1人は男を、1人は女を玉砕させる晴れやかな場所とは思えない泥沼ぶりに、ナルトは遠い目をしていた。


「カカシ先生」

数多の男たちを振っていたサクラが花束を抱えて近づいてくる。
その目は何故か責めるように睨んでくる。

「終わった?」
「はい。先生、さっき女の子たちに言い寄られてましたよね」
「言い寄られたなんて。サクラと結婚するのかって聞かれただけだよ」

サクラは隣に立つナルトを睨むと、ナルトはすぐに顔を逸らす。
生まれ変わってもすぐに顔に出るのは変わらないらしい。
オレはため息を吐いてサクラの頭を撫でる。

「例え言い寄られても断るに決まってるでしょ?こんな可愛いお嫁さんさんがいるんだから」
「・・・どうかしら」

サクラは顔を逸らすが、お嫁さん発言に口角が上がっているのを見逃さなかった。

「ほら、サクラのご両親に挨拶して指輪買いに行こう」

指輪。
その言葉にサクラは完全に嫉妬を忘れて嬉しそうにうなずくから思わず吹き出す。
オレたちは手を繋いで、みんなが見てる中歩く。
きっと明日ぐらいに校長に呼び出されるんだろうなぁ。
今日まで手を出さなかったのだからそこは褒めてほしい。

「終わったら連絡してってばよ!卒業祝いと今度の旅行の話しすっから!」
「はーい!」

ナルトが手を振りながら叫び、サクラも振り返って大きく返事をする。
そしてサクラの両親の元へ向かうのに少しばかり緊張しているオレをサクラは笑った。



****



それから家族と仲間内で小さな結婚式をして。
4人で電車を乗り継ぎ、木ノ葉があった場所に向かった。
資料館には写真屋のおじさんが撮った写真が至る所に飾られていた。
創設期の写真はあまりなかったが、三代目の時代からだんだんと増えていく。
一族ごとに纏めらたコーナーがあり、うちはを再興した話が聞きたいとサスケはサクラに捕まっていた。
サクラは自分の知らないことを埋めようと根掘り葉掘り質問責めにして、昔のようにサスケをぐったりとさせていた。
その後は七代目火影コーナーでナルトと楽しそうに話していた。
「六道仙人の子供の生まれ変わりだったんだってばよ!」「はぁ?」と声が聞こえて、それだけ言っても分からないでしょ、と呆れて笑う。
よくあれで火影になれたなぁ、と昔の気苦労したことを思い出しながら綱手様のコーナーを通りかかると、そこに五代目の弟子としてシズネと3人で写るかつてのサクラの写真を見つけた。
もう見ることは出来ないと思っていたサクラの照れて笑う顔。
いないサクラの写真を見て涙を堪えていたあの時の自分に伝えたい。
ちゃんとまた逢えるからと。


それから静かになって周りを見渡すと、サクラがある場所をじっと見ていた。
そこは六代目火影、オレの年表だった。
どこから見つけたのかミナト班のときの写真や3人が草むしりの任務の監視役をサボっているところを撮られた写真だったり、火影として職務を真っ当しているときのだったり。
サクラは食い入るように写真を見つめ、その横顔はどこか寂しそうだった。
サクラはここに来てから時折そんな顔をする。
それは自分の死後の仲間たちの写真。
本当ならサクラもそこにいて楽しそうに、幸せそうに笑っていただろう。
そんなサクラの横に立つと、サクラは微笑んでまた写真を見る。

「この写真欲しいのよね。焼き増しして貰えないかしら」

サクラはオレの火影就任時に綱手様と2人で写っている写真を指差す。

「なんでまた」
「私の知らない先生を持っておきたくて」

サクラはまた寂しそうに写真を見つめるからサクラの肩を引き寄せる。

「これからはサクラしか知らないオレがいるのに?」

オレの言葉にパチクリしたサクラは破顔して笑い出す。
涙を拭いながら笑うサクラに、隠し持っていたものを渡す。


「はい、これ」
「なにこれ。記念写真?」

サクラは渡されたアルバムの名前を見て捲る。
パラパラと捲っていた手があるページで止まり、サクラの顔はみるみる嬉しそうに綻び出す。
サクラはオレを満面の笑みで見てくるので、オレも頷きながら微笑む。

「ナルトー!サスケくーん!こっち来て!」

各々写真を見ていた2人はサクラに呼ばれて来る。
サクラの後ろからアルバムを覗き込んだ2人も嬉しそうに笑う。

それは、下忍が上忍の元に付いた時に写真屋さんが撮ってくれる写真。
アスマの班や紅の班、そして──。
真ん中で可愛く笑うサクラ、右と左にお互い意識して仏頂面のナルトとサスケの頭を押さえて困ったように笑うオレ。


オレたちの絆が始まった日の写真──。


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