このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

幾年越しの夢

「──クラ、サクラ・・・!!」

頬に温かいものが落ちてきて、重たい瞼を開けるとそこには初めて見るカカシ先生の泣き顔。
私はちゃんと見たくて先生の口布を下げようと手を伸ばすと私の手は血に染まっていて先生の頬を汚す。
その血は私のもの。

「もう少しで医療班が到着するから頑張れ・・・!」

先生は目を閉じそうな私の頬を叩く。
でも医療に携わる身だもの。
もうダメだって分かる。
貫かれた腹部の痛みを感じなくなった。
身体を動かすことも出来ない。

ふと、先生の二の腕に目が止まる。
その腕は深々と傷を負っていて、そこからは今もなお血が溢れる。
きっと私を攻撃した敵を手にかけた時に負傷したのだろう。
治したいのにもうチャクラを練ることが出来ない。
それに、だんだん視界がぼやけてくる。

「ねぇ・・・せんせ・・・?」
「なんだ・・・!?」
「もし、生まれ変わったら・・・ちゃんと、見つけてくれる・・・?」
「──っ!!・・・あぁ、当たり前だろ?何年かかっても絶対見つけるよ」

もう先生の表情は分からないけれど、声だけで先生が苦しそうに笑っているのが分かる。

「ありがとう・・・大好きよ、カカシ先生・・・」
「あぁ、オレも愛してるよサクラ・・・」

唇に柔らかいものを感じて口角が上がる。
大好きな人の腕の中で死ねる。
私はそんな幸せの中、遠くなる最愛の人の呼ぶ声を聞きながら瞼を閉じた。



****



私はある場所に立っていた。
緑の葉を茂らす森林の中を進むと開けた場所にある1本の大きな桜の木。
私はそれを見上げて微笑む。

「──サクラ」

後ろから呼ばれて振り返ると、長身の男が微笑みながら近づいてくる。

「カカシ先生」

先生は私の隣に立ち、同じように桜を見上げる。

「先生、この桜の木覚えてる?」
「もちろん」

顔を上げて聞くと、先生は微笑んでくれたので私は嬉しくて笑う。


ここはかつて木ノ葉があった場所。
戦乱の時代から幾年か経ち平和な時代になった。
物好きな人もいたらしく、私たちが生きた証を残したいと木ノ葉の一部を残した。
そこは里の為に命を落とした英雄たちの名が刻まれた慰霊碑がある第三演習場。
私は桜の木から慰霊碑の前へと歩きしゃがむ。
時間の流れで名前が薄くなって読みづらくなっている。
1つ1つ刻まれた名前をなぞっていくと、その中に見覚えのある名前を見つける。

『春野サクラ』

私はその名前を不思議な気分で見ていた。
自分が死んで刻まれた名前を見ている自分。
この名前が刻まれたとき、かつての仲間達は、隣に立つ男はどんな気持ちで見ていたのだろうか。
私は立ち上がり、隣にある別の石碑を見る。
それは慰霊碑よりわずかに新しい、歴代の火影の名が刻まれたものだった。
初代、二代目、私たちを暖かく見守ってくれた三代目、四代目。
私にみんなを守る力をくれた師匠、五代目。
そして。
六代目にかつての師、七代目に友の名が刻まれている。
話には聞いてはいたけれど、何か変な感じがしてむず痒い。

「本当に火影になってたのね、カカシ先生」
「なに、信じてなかったの?」
「だってあのだらしない人が里を取りまとめてたなんて、見なきゃ信じれないもの」

クスクス笑う私に先生は頭をかく。

「でも本当に見たかったなぁ。先生の火影姿」
「サクラ・・・」

私は先生の名前が刻まれた所をなぞる。
私は先生の勇姿を見る前に死んだ。
大事な2人の大事な時を祝うことが出来なかった。
それが唯一の心残り。


「・・・オレも、サクラの花嫁姿見たかったな」

先生の言葉にムッと頬を膨らませる。

「なに。今の私じゃ不満だったってこと?そりゃ今の私は昔より地味ですけど」

昔の私はピンクの髪に緑の瞳とまさに春を思わせる容姿だった。
しかし今の私は茶色の瞳に、陽に透かすとピンクにも見える茶髪。
あの時の派手さはなにもない。
先生だって色素の薄い髪と瞳。
前世と同じで口元に黒子はあるものの、目に傷もなければ他里に名を轟かせた写輪眼だってない。

「違うって。サクラのウエディングドレス、すごく綺麗で素敵だった。でも・・・」

先生はむくれる私に苦笑する。

「いのちゃんや綱手様、仲間に囲まれながら幸せそうに笑うサクラの白無垢姿も見たかったなって・・・」

先生は寂しそうに笑って私の頬を撫でる。
私が死んでから先生は恋人を作らなかったと聞いた。
優秀な遺伝子を残す為にたくさんの見合い話だってあっただろう。
それでも先生は1人を貫いた。
先生は私のいない世界で何を思って生きていたのだろう。
私は頬を撫でる先生の手を取る。
あの時とか違う手なのに、懐かしさを感じる大きな手。

「私はまた先生と出逢えて、先生と結婚が出来ただけで充分幸せよ」
「サクラ・・・」

先生は優しく抱きしめてくれて、私はその背中に腕を回す。


3年前まで私は前世の記憶がなかった。
憧れの高校に入学することに浮かれてだいぶ早く学校に着いてしまって、1人で敷地内を歩いていると惹かれるように校舎裏へと向かった。
そこには大きな1本の桜の木が立っていて見惚れていると、後ろから足音がして。
振り返ればスーツを着た長身の男の人が立っていた。
初めて見る人なのに。名前だって知らないのに。
私は気づいたらボロボロと泣き出して。
そして私たちは抱きしめ合っていた。
まだ15年しか生きていないのに、もう長いことこの身体に触れていない気がした。
その温かさを噛み締めていたら頭上から鼻をすする音が聞こえて、また涙が溢れた。
それからだんだんと前世の記憶を取り戻して、みんなに隠れて付き合って私の卒業と共に籍を入れた。


そして今、卒業旅行で私たちはかつて木ノ葉があった場所に来たのだ。
もうほとんど面影はないけど、大事なこの場所だけは残っててくれて良かった。

「でもここにサスケくんの名前が無いのはつまらないわ」
「そこの資料館にいっぱい名前あったでしょ。アイツ色々やったからな」

先生は後ろの方を指すと、そこには火影塔を模した資料館がある。
彼は里を抜けて他里を巻き込む騒動を招いたが、ナルトと和解し里に戻されることを許されてうちはの復興を果たしたらしい。
先生は忍界大戦から見事復興を果たし、後に賢帝と称されていることに何とも言えない表情をしていた。
ナルトは先生の後を引き継ぎ、かなり文明を発展させた。
あのスッカスカな頭に火影としての仕事を叩き込むのは大変だっただろう。
それから何代にも火影が引き継がれ、平和な世界になって忍の時代は終わりを迎えた。
今の体ではチャクラを練ることは出来ない。

あの頃のことは今でも鮮明に思い出せる。
いのと喧嘩をして。
ナルトとサスケくん、カカシ先生と任務に向かってボロボロになって。
師匠に弟子入りしてみんなを守る力を付けて。
そして、先生と恋人になって。
叶うことならば、またあの頃に戻ってみんなと過ごしたい。
でももう叶わぬ願い。
親友も叱ってくれる師匠ももういないけれど。
隣にまた愛しい人がいるだけで。
それだけで幸せだ。

隣に立つ先生の顔を見上げていると、気づいた先生も幸せそうに笑ってくれる。
すると、遠くから私たちを呼ぶ声が聞こえる。
そこには金髪にも見える明るい髪に漆黒の髪の少年。
幻ではなく、同じように生まれ変わった友たち。
先生と初めて会ったときに1学年上の2人を紹介されて、私たちはまた抱きしめ合って泣いた。
私とナルトが大声で泣いていたから人だかりが出来ていたけど。

今日は4人で思い出の場所を巡った。
これから一楽の味を引き継いだラーメン屋さんに行くことになっている。

「行くか」
「うん」

先生が右手を差し出して来るので私は左手で繋ぐ。
薬指には先生とお揃いの結婚指輪が輝く。
先生と手を繋いで歩きながら後ろを振り返る。
2つの石碑と桜の木が私たちを見送ってくれる。
その時、桜の木の根本で私と先生の幻影が見えた気がした。
私は小さく微笑み過去に想いを馳せながら、愛しい人たちと共に未来へと歩く。



****



『カカシ先生』
『ん?』

私は第三演習場の丸太の近くにしゃがんで後ろに立つ先生に話しかける。

『これね、いのから貰った特別な桜の苗木なの』
『特別?』
『そう。特別な手法で育てられたらしくて、何百年も枯れることはないんだって』
『そりゃすごいな』

先生も私の隣にしゃがみ、私はスコップで穴を掘って苗木を埋める。

『でもなんでここに埋めるんだ?』
『ここは私たち七班にとって大事な場所でしょ?だからここに埋めて、この木が大きくなったら4人で見に来るの』

私は微笑むと、先生はおかしそうに笑って私の鼻の頭に付いた土を拭う。

『それじゃあ、その時まで生きとかないとだな』
『そうよ!先生が一番年寄りなんだから長生きしてもらわないと!』
『恩師にその言い方はないんじゃない?』

先生は眉を下げて笑うので私はニシシ、と笑う。

『でも死んでもいいの』
『え、なんで』

私は隣にしゃがむ先生の胸に飛び込む。

『この木はずっと枯れない。そしたら生まれ変わってまた4人で見に来ればいいのよ』

胸元から顔を上げれば先生は幸せそうに笑って私の頭を優しく撫でてくれる。

『そうだな。その時はみんなを見つけなきゃな』
『うん!絶対探し出して、また4人で──』


1/2ページ