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short.1

私は泣いていた。
サスケくんを止めることも出来ず。
ナルトに縋ることしか出来ず。
私はただ泣くことしか出来なかった。


「──サクラ」

後ろから呼ばれて振り返ると、私と一緒で置いていかれたカカシ先生が眉を下げて苦しそうにしている。

「ごめん。ごめんな、サクラ」

先生は何よりもチームワークを大事にしていた。
何よりも仲間を大事にしていた。
その大事なものが壊れてしまった。
止めることが出来なかった。
サスケくんの闇を取り払うことが出来なかった。
私を1人にしてしまった。
先生は申し訳なさそうにする。

私は先生を見て不安でいっぱいだった。
このまま先生が私と距離を取ってしまいそうで。
そうなったら私は1人になってしまう。
私は先生の腰に抱きつくと、先生は驚いている。

「カカシ先生はどこにも行かないで」
「サクラ・・・」
「ずっと側にいて・・・!」

啜り泣きながら先生の腰に縋り付くと、先生は優しく私の頭を撫でてくれる。

「いいよ。ずっとサクラの側にいる」



****



あれから数年。
私は中忍になった。
誰もいない七班の、私だけ。

「サクラ」

第三演習場の丸太に寄りかかり、楽しかったあの頃を思い出していると後ろから呼ばれて振り返る。
そこには先生が微笑んで立っていた。

「カカシ先生」

私は丸太から体を離し先生に駆け寄る。

「おかえりなさい」
「ただいま」

あの頃より身長が伸びて、少し顔を上げればすぐに先生と目が合う。
そんな私の頭を先生は撫でてくれて、気持ちよくて目を細める。

「火影様に聞いたよ。中忍になったんだってな。おめでとう」
「ありがとう。いのとチョウジのおかげよ。これで同期全員──」

そこでハッ、として言葉に詰まる。
同期全員。
そこにあの2人は含まれていない。
そのことを察した先生は何も言わず。

「悪いな」
「え?」
「中忍試験。見守れなくて」
「仕方がないわよ。綱手様から直々の任務に出てたんだから」
「うん。それでも、ごめんな」

先生が謝っているのは中忍試験のことだけじゃない。
あのときサスケくんを止めて戻らせていたなら、第七班全員で中忍になれたかもしれない。
先生は未だに私に謝り続ける。
私はそれに気づかないふりをして。

「それならこれからあんみつ奢ってよ」
「もちろん」

昔からの上目遣いでおねだりすると、先生はすぐに了承する。
そして左手を差し出してきて、私は自然とその手を取った。
あの日から始まった特別な手の繋ぎ方。
あの頃とは違う、指を絡めた大人の繋ぎ方。



──ねぇ先生。
私たちの関係って何なんだろう。



****



「ご馳走様でした!美味しかったわ」
「それは良かった。2人前も食べて美味しくないって言われたら先生泣いちゃうぞ」

軽く薄くなった財布を撫でてポケットにしまう。

「女の子は別腹があるから仕方がないの」
「太るぞ?」

私にとって一番の禁句を。
思い切り先生の横腹を殴ると「いたた」と大袈裟に痛がる先生。
頬を膨らませる私を笑う先生。

「すっかり暗くなっちゃったな。送るよ」
「──うん」

私たちはまた手を繋いで歩き出す。
先生はあの日からすごく甘くなった。
側から見たら私たちは仲の良い恋人同士に見えるんだろうけど。
私たちは付き合っていない。
ただの依存関係。
それでも休みの日は一緒にいてくれる。
デートに行ったり、先生の部屋で2人で過ごしたり。
本当に恋人になった気がしてしまう。

でもそれだけ。
身体の関係にはならないし、キスもしない。
先生からしたら泣く子供をあやす感覚なんだろう。
数年経って身体が女らしくなってきても意識されない。
私は先生の部屋で泊まったことがない。
帰るのが面倒だから泊まりたいと言っても、子供の我儘だと笑われ家に送られる。
今日もそう。

気づいたら私だけが意識してる。



****



それからすぐに私の家に着く。
と言っても、親に見られるわけにもいかないからすぐ近くの路地裏で別れる。
先生はちゃんと家に入るまで見届けてくれるけど。

「送ってくれてありがとう」
「いーえ。サクラ、明日は暇?」
「明日?午前中なら・・・」
「なら明日も会おう。中忍祝いに何か買ってやるよ」
「え、別にいいわよ。あんみつも奢ってもらったし」

お祝いのつもりでたくさん食べたんだけど。

「あんみつはいつも奢ってるでしょ。初めての生徒のめでたいことぐらい祝わせてよ」

先生は微笑みながら頭を撫でてくれる。
唯一残った、ただ1人の生徒。
そんな生徒がこんな想いを抱いてるなんて知らないだろうな。
そう思ったら胸の辺りがモヤモヤしてきた。

「何でもいいから欲しいもの考えといてよ」
「・・・何でも?」
「何でも。でもすごい高いのとかは勘弁してね」

無難にアクセサリーとかだったら助かるなぁ、と先生は腕を組んで情けなく笑う。
私はスカートを握りしめる。

「なら、今ちょうだい」
「え、今?」

先生のベストを掴んで震える手を隠す。


「キス、して」


先生の目が丸く見開く。
顔が熱い。
絶対先生に赤いのがバレてる。
瞳も緊張で潤む。
先生は眉間に皺を寄せて、ベストから私の手を剥がす。

「キスは好きな人としなさい」

それは初めての拒絶。
私は唇を噛み締める。

「わ、私、先生のこと好きよ」
「それは先生としてだ。男としてじゃない」
「分からないじゃない!」
「なら、オレがセックスしたいって言ったらするのか」

直接的な表現に赤くなるのは子供の証拠。
張本人は表情を変えず見下ろしてきて、私の答えを待っている。
私はまだそういう行為をしたことがない。
何て言ったらいいのか分からず固まっていると、先生が小さく笑う。

「無理だろ。それは勘違いなんだよ。ほら、早く家に入りなさい」

先生は私の背中を叩いて促す。
私は結局何も言えず家に入り、暫く1人で泣いたのだった。



****



次の日の朝。
私はカカシ先生の部屋の前にいた。
昨日の今日で合わないといけないと思ったら憂鬱だったけど、約束を反故するのは自分が許せない。
息を整えて部屋のインターホンを鳴らす。



出ない。
今は朝の10時。
あの人なら寝てる可能性は充分にある。
私はドアノブを捻ると、それは簡単に開く。
先生が鍵をかけない人だと知った時は驚いた。
気配はすぐに気づくから大丈夫、と言っていたけれど。
私がベッドの横に立っても微動だにせず寝息を立てている。
それは私が先生の範囲にいても許されているから。

私はベッドに上がり、寝ている先生に覆い被さる。
それでも起きようとしない。
私は寝る時ですら外さない口布をそっと剥がす。
今まで頑なに見せてくれなかった素顔。
それが簡単に見れて拍子抜けした。
口布の下は薄い唇、その横に黒子。
何故隠してるのかが分からないほどの整った顔。
里の女の人が見たら絶対惚れるだろう。
それは私も。
完全に中身だけじゃなく外見も好きになってしまった。

私は先生が寝ているのをいいことにその唇に顔を近づけてる。

あと少し、そう思った時。
唇とは違う柔らかさに口が覆われる。

「ダメだって言っただろ」

口を覆う手が外され、半分しか開いていない目が諫める。
先生は俯く私の背中を支え上半身を起こす。
いつも寝起き悪いくせにすぐ起きれるということは、ずっと起きてて寝たフリをしてたんだ。
私がどう行動するのか。

「サクラ」

いつもより少し低い声に肩が揺れる。

「サクラ、それは恋じゃない。依存を勘違いしてるんだ」
「──わよ」
「え?」

ボソッと呟いたからか先生にはよく聞こえなかったらしく、顔を近づける。
私は先生の胸ぐらを掴んで無理やりキスをした。
少しだけ唇を合わせて、離す時にリップ音が鳴って頬が染まる。

「勘違いなんかでキスしたいなんて思わないわよ!」
「サク・・・」
「私は先生が好き。最初は依存からの安心感だったのかもしれないけど。ずっと側にいたいって、先生を見るだけでドキドキする。私だけを見てほしいって思ったの」

我慢していたことを吐き出したら涙もどんどん溢れてくる。
それを拭っていると、気づいたら向かいに座る先生に抱きしめられていた。

「せんせ・・・」
「うん」

先生は何も言わずただ抱きしめてくるので、私は恐る恐る背中に腕を回す。

「なんか今すごい嬉しい気持ちで満たされてる」
「え?」
「サクラは寂しいからオレに縋ってると思ってたから。だからオレがサクラを想う気持ちは隠そうって思って」
「え、え?」

なんか、それって──。

先生に抱きついた状態状況が全く理解出来ないでいると、頬に手を添えられて上を向かされる。
先生と目が合うと、今までにない、愛しいものを見るような顔をしていた。

「オレもサクラのことが前から好きだったよ」

先生はそう言って私がしたように軽くキスをして、唇が離れて至近距離で目が合い、さっきより深く、何度も何度もキスをされる。

「ふ・・・、っ!」

初めてのキスで何回も口付けをされて息が続かない。
先生の二の腕を叩くとようやく解放される。
瞳が潤み、肩で息をする。
先生はというと息が乱れておらず、私の口から垂れる涎を指で拭う。

「どう?」
「どうって・・・」
「オレとキス、したかったんでしょ?」

ふっ、と先生は顔を真っ赤にする私を小さく笑う。
圧倒的な経験の差に、私は頬を膨らませてそっぽを向く。

「なに、どうしたの」
「別に!」

先生はクスクス笑いながら、頬に手を当てて顔を元に戻される。

「どうしたら機嫌よくしてくれる?」

額を合わせて先生の瞳と間近で合う。
ダークグレーと紅の色違いの瞳。
私をずっと見てくれてた大好きな瞳。

「・・・もう1回キスしてくれたら治るかも」
「可愛いお願いだな」

そう言って先生はまた何回もキスをしてくれた。



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