short.1
「サクラ、好きだから付き合って」
最近、先生と会うと挨拶のように告白してくるようになった。
ヘラヘラと笑いながら言ってくるもんだから真剣見が感じられなくて、いつも振っていたんだけど。
毎日毎日と言われ続ければ、私の切れやすい堪忍袋はすぐ切れた。
「もう鬱陶しい!!そんなに私に付き合って欲しいなら梅干し買ってきてよ!!」
「梅干し?」
「そう!火の国でものすごく美味しいって評判の梅干しがあるの。でも一般人がおいそれと買える値段じゃないし、どこで売ってるのか分からない。神出鬼没で同じ場所に来るわけじゃないらしいの」
「サクラはそれが食べたいの?」
「えぇ!人生で1回は食べてみたいわ。ほっぺが溢れそうになるほどの美味しさで、食べたら普通の梅干しには戻れないって噂よ」
私は頬に手を添えて、まだ見ぬ梅干しを想像してうっとりする。
先生は顎に手を当てて何か考えているようだった。
「それ買ってきたら付き合ってくれる?」
「買ってこれたらね!」
私は腰に手を当てて鼻を鳴らす。
上忍のお給金ならすぐに買えるだろうが、それだけ任務に繰り出されているということだ。
任務が終わったら次の任務。
先生が上忍としての活動を再開してからのんびり休んでいるところなんて見たことがない。
いつ、どこに出てくるか分からない。
1日で見つかるわけがないのだ。
私はそれが分かって無理難題を吹っかけている。
先生が本気じゃないと思っているから。
先生は私ににっこりと笑いかけて。
「分かった。じゃあ買ってくるよ」
そう言ってカカシ先生は里から居なくなった。
『梅干し買ってきます』とふざけた書き置きと、里抜けではないという証拠にパックンを置いて。
里一の忍がいきなり姿を消してもちろん里を大慌てしたが、先生の性格を知っている綱手様は様子見という判断をくだした。
先生のことだから気づいたら戻ってくるだろうと。
私はその話を聞いて顔が真っ青になった。
私の浅はかな約束を先生は果たそうとして、里を巻き込んでしまった。
そして先生が一番信頼しているパックンを置いていったのは、きっと私の考えを読んだからだろう。
責任を感じた私が先生を追いかけるかもしれない。
そしたら私は完全に抜け忍になる。
それを防ぐためなのか、パックンは帰るところがないと私の家に居座り四六時中側にいるようになった。
そして人語を話せるパックンは、先生は無茶なことはしないと私を安心させてくれた。
それになによりも助けられた。
それから数日おきに先生の忍犬が1匹ずつ先生の伝言と共に帰郷するようになった。
それは毎回『まだ帰れない』、ただそれだけ。
先生が無事だという安心感は得られるけど、忍犬が現れるたび私の不安はどんどん膨らんでいく。
もう帰ってきていいと伝えたいけど、先生は転々としているから今どこにいるのか犬達も分からないらしい。
だから犬たちは帰る場所がなくて、私の部屋はどんどん犬に占拠されていく。
一番最初から居座るパックンは私より寛ぎ始めた。
「小娘、安心せい。ヘラっとした顔で帰ってくるぞ、奴は」
それが毎日寝る時のパックンの言葉だった。
それを聞いて、明日こそ先生は帰ってくるって信じて眠れるのだ。
それから先生がいなくなって1ヶ月。
最後の忍犬が帰郷した。
ブルはカカシ先生が書いたと思われる紙を咥えていたが、雨で濡れたのか文字が滲んで何て書いてあるか分からなかった。
ブルは申し訳なさそうにするので、私は安心させるように頭を撫でた。
これでもう先生からの連絡手段がない。
ただ先生が帰ってくるのを待つしかない。
私は胸が張り裂けそうになりながら日々を過ごしていた。
それから3日後。
「ただいまサクラ」
先生は私の目の前に突然現れた。
ヘラっと笑っているが、身なりはボロボロで。
私は怒った顔で先生に近づいて。
思い切り鳩尾に拳をねじ込んだ。
「げほ・・・なにすんの・・・」
「先生こそ何してんのよ!みんなに迷惑かけて!」
「何って、サクラの梅干しを・・・」
「そんなのどうだっていい!!」
えー、と笑う先生が顔を上げるとギョッとした顔をする。
「え、サクラ。何で泣いてるの」
「知らない!」
私は先生に背中を向けて涙を止めるために目を擦る。
先生は後ろから私の頭に手を置いて撫でてくる。
「ごめんね、心配かけて」
「・・・本当よ」
「でもウチの子たちから伝言聞いてたでしょ?ブルの時に、もうすぐ帰るって紙渡したんだけど」
「雨で滲んで読めなかった!」
「あらら。そういやあの後降ってたな。ブルは恥ずかしがり屋だからオレたちじゃないと喋らないんだよ」
対策が必要だったなー、と先生の声を聞きながら、やっとほっと出来た気がする。
「サクラ」
優しい声に呼ばれて振り返ると、先生は紙袋を差し出してくる。
中身を覗くと私が頼んだお店の判が押された梅干しが入っていた。
「いやね、ブルしかいないから一旦帰って出直すかー、って野宿出来る場所探してたらさ、山の中で怪我してる老人見つけてね。その人を家に連れてったら、まさかのその梅干し作ってる人だったんだよ。で、暫くお手伝いして、お礼に梅干し貰った。人助けはするもんだね」
良いことは返ってくるって証明されたよー、と腕を組んで呑気に笑う先生。
この1ヶ月、どれだけ私が心配してたと思ってるんだ。
「で、約束通り梅干し持って帰ったよ。サクラも守ってくれるよね?」
先生は嬉しそうに顔を覗き込んでくる。
その顔が更に私の不機嫌度を上げる。
「嫌」
「え、なんで」
カカシは身を挺して約束を守ってくれた。
この後、火影の怖いお灸が待っている。
師匠より先に会いに来てくれたのは嬉しい、けど。
「ちゃんと告白して」
「今まで何回もしたでしょ」
先生は呆れたように笑うので、私はキッと睨む。
「いつも本気じゃなかった。ヘラヘラして私が振っても大丈夫なようにして。私が欲しいならちゃんと真剣に来てよ!」
ここは里の中心にある広場。
つまり様々な人が行き交っていて、何事かとこちらを見てくる人々。
私は顔を真っ赤にして先生を睨むと、先生は頭を掻いて息を吐いた。
「ほんと、サクラには敵わないねぇ」
先生はそう言って1歩近づいて私を抱きしめてくる。
不意打ちで先生の腕の中に閉じ込められて、私は腕を突っ張るものびくともしない。
「せ、せんせ・・・」
「好きだよ」
先生は身を屈めて、私の耳元で囁く。
いつもより低く身体に響くようなその声に、背中がゾクゾクした。
「サクラが笑ってくれるならこの身を投げ出しでも、サクラのお願いを守るためなら何でもしてあげたくなるほどサクラが好きだよ」
ようやく先生の真っ直ぐな告白に顔が見れなくて目が右往左往する。
「・・・それで私が泣いたら意味ないでしょ」
「はは、たしかに」
先生は頭を掻いて情けなく笑う。
私は上目遣いをして微笑んで。
「勝手に居なくならないって約束するなら付き合ってあげる」
「うん・・・もう絶対サクラから離れない」
先生は満面の笑みで私を優しく抱きしめる。
私も先生の背中に腕を回して、久しぶりの先生の体温と匂いを感じていた。
──衆人に見られていることも忘れて。
冷やかす声が聴こえて慌てて先生から離れる。
「わ、私休みだから帰るわ」
「ならオレも」
「先生はこれから火影様のところでしょ!これからしこたま怒られてきなさい!」
「はい・・・」
あの鬼のように怖い綱手様を想像したのか、先生は肩をすくめてトボトボ歩き出す。
私はそんな背中に声をかける。
「カカシせんせー!」
先生はのそりと振り返る。
「終わったら私の部屋にきて!忍犬待ってるから!」
「アイツらだけー?」
先生はすっかり不貞腐れていて、私は苦笑する。
「終わるの待ってるから。そしたら先生の好きにしていいわよ!」
他の人に聞かれるなんてもう気にしない。
少し大きな声でそう言うと、先生はすごく嬉しそうに笑って私に手を振ってスキップでもしそうな雰囲気で向かっていった。
この後自分の身に何が起きるのか想像したくないけど。
先生が無事に帰って来てくれたし。
約束の梅干しも持って来てくれたし。
あれだけ有頂天になってたら師匠の小言にも耐えられるだろ。
私は温かいお茶を先生に準備するために急いで帰路に向かったのだった。
最近、先生と会うと挨拶のように告白してくるようになった。
ヘラヘラと笑いながら言ってくるもんだから真剣見が感じられなくて、いつも振っていたんだけど。
毎日毎日と言われ続ければ、私の切れやすい堪忍袋はすぐ切れた。
「もう鬱陶しい!!そんなに私に付き合って欲しいなら梅干し買ってきてよ!!」
「梅干し?」
「そう!火の国でものすごく美味しいって評判の梅干しがあるの。でも一般人がおいそれと買える値段じゃないし、どこで売ってるのか分からない。神出鬼没で同じ場所に来るわけじゃないらしいの」
「サクラはそれが食べたいの?」
「えぇ!人生で1回は食べてみたいわ。ほっぺが溢れそうになるほどの美味しさで、食べたら普通の梅干しには戻れないって噂よ」
私は頬に手を添えて、まだ見ぬ梅干しを想像してうっとりする。
先生は顎に手を当てて何か考えているようだった。
「それ買ってきたら付き合ってくれる?」
「買ってこれたらね!」
私は腰に手を当てて鼻を鳴らす。
上忍のお給金ならすぐに買えるだろうが、それだけ任務に繰り出されているということだ。
任務が終わったら次の任務。
先生が上忍としての活動を再開してからのんびり休んでいるところなんて見たことがない。
いつ、どこに出てくるか分からない。
1日で見つかるわけがないのだ。
私はそれが分かって無理難題を吹っかけている。
先生が本気じゃないと思っているから。
先生は私ににっこりと笑いかけて。
「分かった。じゃあ買ってくるよ」
そう言ってカカシ先生は里から居なくなった。
『梅干し買ってきます』とふざけた書き置きと、里抜けではないという証拠にパックンを置いて。
里一の忍がいきなり姿を消してもちろん里を大慌てしたが、先生の性格を知っている綱手様は様子見という判断をくだした。
先生のことだから気づいたら戻ってくるだろうと。
私はその話を聞いて顔が真っ青になった。
私の浅はかな約束を先生は果たそうとして、里を巻き込んでしまった。
そして先生が一番信頼しているパックンを置いていったのは、きっと私の考えを読んだからだろう。
責任を感じた私が先生を追いかけるかもしれない。
そしたら私は完全に抜け忍になる。
それを防ぐためなのか、パックンは帰るところがないと私の家に居座り四六時中側にいるようになった。
そして人語を話せるパックンは、先生は無茶なことはしないと私を安心させてくれた。
それになによりも助けられた。
それから数日おきに先生の忍犬が1匹ずつ先生の伝言と共に帰郷するようになった。
それは毎回『まだ帰れない』、ただそれだけ。
先生が無事だという安心感は得られるけど、忍犬が現れるたび私の不安はどんどん膨らんでいく。
もう帰ってきていいと伝えたいけど、先生は転々としているから今どこにいるのか犬達も分からないらしい。
だから犬たちは帰る場所がなくて、私の部屋はどんどん犬に占拠されていく。
一番最初から居座るパックンは私より寛ぎ始めた。
「小娘、安心せい。ヘラっとした顔で帰ってくるぞ、奴は」
それが毎日寝る時のパックンの言葉だった。
それを聞いて、明日こそ先生は帰ってくるって信じて眠れるのだ。
それから先生がいなくなって1ヶ月。
最後の忍犬が帰郷した。
ブルはカカシ先生が書いたと思われる紙を咥えていたが、雨で濡れたのか文字が滲んで何て書いてあるか分からなかった。
ブルは申し訳なさそうにするので、私は安心させるように頭を撫でた。
これでもう先生からの連絡手段がない。
ただ先生が帰ってくるのを待つしかない。
私は胸が張り裂けそうになりながら日々を過ごしていた。
それから3日後。
「ただいまサクラ」
先生は私の目の前に突然現れた。
ヘラっと笑っているが、身なりはボロボロで。
私は怒った顔で先生に近づいて。
思い切り鳩尾に拳をねじ込んだ。
「げほ・・・なにすんの・・・」
「先生こそ何してんのよ!みんなに迷惑かけて!」
「何って、サクラの梅干しを・・・」
「そんなのどうだっていい!!」
えー、と笑う先生が顔を上げるとギョッとした顔をする。
「え、サクラ。何で泣いてるの」
「知らない!」
私は先生に背中を向けて涙を止めるために目を擦る。
先生は後ろから私の頭に手を置いて撫でてくる。
「ごめんね、心配かけて」
「・・・本当よ」
「でもウチの子たちから伝言聞いてたでしょ?ブルの時に、もうすぐ帰るって紙渡したんだけど」
「雨で滲んで読めなかった!」
「あらら。そういやあの後降ってたな。ブルは恥ずかしがり屋だからオレたちじゃないと喋らないんだよ」
対策が必要だったなー、と先生の声を聞きながら、やっとほっと出来た気がする。
「サクラ」
優しい声に呼ばれて振り返ると、先生は紙袋を差し出してくる。
中身を覗くと私が頼んだお店の判が押された梅干しが入っていた。
「いやね、ブルしかいないから一旦帰って出直すかー、って野宿出来る場所探してたらさ、山の中で怪我してる老人見つけてね。その人を家に連れてったら、まさかのその梅干し作ってる人だったんだよ。で、暫くお手伝いして、お礼に梅干し貰った。人助けはするもんだね」
良いことは返ってくるって証明されたよー、と腕を組んで呑気に笑う先生。
この1ヶ月、どれだけ私が心配してたと思ってるんだ。
「で、約束通り梅干し持って帰ったよ。サクラも守ってくれるよね?」
先生は嬉しそうに顔を覗き込んでくる。
その顔が更に私の不機嫌度を上げる。
「嫌」
「え、なんで」
カカシは身を挺して約束を守ってくれた。
この後、火影の怖いお灸が待っている。
師匠より先に会いに来てくれたのは嬉しい、けど。
「ちゃんと告白して」
「今まで何回もしたでしょ」
先生は呆れたように笑うので、私はキッと睨む。
「いつも本気じゃなかった。ヘラヘラして私が振っても大丈夫なようにして。私が欲しいならちゃんと真剣に来てよ!」
ここは里の中心にある広場。
つまり様々な人が行き交っていて、何事かとこちらを見てくる人々。
私は顔を真っ赤にして先生を睨むと、先生は頭を掻いて息を吐いた。
「ほんと、サクラには敵わないねぇ」
先生はそう言って1歩近づいて私を抱きしめてくる。
不意打ちで先生の腕の中に閉じ込められて、私は腕を突っ張るものびくともしない。
「せ、せんせ・・・」
「好きだよ」
先生は身を屈めて、私の耳元で囁く。
いつもより低く身体に響くようなその声に、背中がゾクゾクした。
「サクラが笑ってくれるならこの身を投げ出しでも、サクラのお願いを守るためなら何でもしてあげたくなるほどサクラが好きだよ」
ようやく先生の真っ直ぐな告白に顔が見れなくて目が右往左往する。
「・・・それで私が泣いたら意味ないでしょ」
「はは、たしかに」
先生は頭を掻いて情けなく笑う。
私は上目遣いをして微笑んで。
「勝手に居なくならないって約束するなら付き合ってあげる」
「うん・・・もう絶対サクラから離れない」
先生は満面の笑みで私を優しく抱きしめる。
私も先生の背中に腕を回して、久しぶりの先生の体温と匂いを感じていた。
──衆人に見られていることも忘れて。
冷やかす声が聴こえて慌てて先生から離れる。
「わ、私休みだから帰るわ」
「ならオレも」
「先生はこれから火影様のところでしょ!これからしこたま怒られてきなさい!」
「はい・・・」
あの鬼のように怖い綱手様を想像したのか、先生は肩をすくめてトボトボ歩き出す。
私はそんな背中に声をかける。
「カカシせんせー!」
先生はのそりと振り返る。
「終わったら私の部屋にきて!忍犬待ってるから!」
「アイツらだけー?」
先生はすっかり不貞腐れていて、私は苦笑する。
「終わるの待ってるから。そしたら先生の好きにしていいわよ!」
他の人に聞かれるなんてもう気にしない。
少し大きな声でそう言うと、先生はすごく嬉しそうに笑って私に手を振ってスキップでもしそうな雰囲気で向かっていった。
この後自分の身に何が起きるのか想像したくないけど。
先生が無事に帰って来てくれたし。
約束の梅干しも持って来てくれたし。
あれだけ有頂天になってたら師匠の小言にも耐えられるだろ。
私は温かいお茶を先生に準備するために急いで帰路に向かったのだった。
90/179ページ