short.1
「サークラ」
少し低い、聞き慣れた声と同時に後ろから大きな手のひらが肩に触れて心臓が跳ねる。
「これから一緒に飯でもどう?最近あんまり話出来てないだろ」
ゆっくり振り返ると、先生はいつもの安心させる笑顔を私に向けてくる。
でもその笑顔はいつからか更に落ち着かなくさせてるのだけど。
「ごめんなさい。師匠に呼ばれてて」
「あらら。残念」
「そ、それじゃ」
このやり取りも何回目だろうか。
私は嘘の約束で先生のお誘いを断り、その場から逃げるように走り去った。
カカシは去っていくサクラの背中を見つめてため息を吐いた。
****
いつから先生をこんな風に意識するようになったのか。
それは分からないけど、いつも私を見守ってくれる優しい笑顔に惹かれるようになった。
でもそれに気づいた時、すごい苦しくて真っ直ぐ先生の顔を見れなくなった。
こんなことなら気づかなければ良かったのに、と何度も思ったっけ。
あれから真っ直ぐ家に帰らずに図書館で勉強をしていたらすっかり暗くなってしまった。
集中すると周りが見えなくなるのが悪い癖だ。
お母さんに怒られるな、と思いながら急いで人混みを歩いていると。
「──でしょ」
聞き覚えのある声が聞こえてピクリと反応する。
否応なしに反応してしまうのが嫌になるが、やはり声を聴くと嬉しくなる。
どこだろう、と探していると、前方に人混みの中でも分かる1つ飛び抜けた銀色の頭を見つける。
その人物はだんだん近づいてきて、無意識に緩む頬を引き締めて、人混みの中何とか先生に近づいて。
「カカシせん──」
私は固まった。
だって。
先生が知らない女の人といたから。
「サクラ」
カカシ先生は目の前に現れた私に驚きながらも微笑む。
私はというと、女性の腰に回された先生の手から目が離せないでいた。
「カカシさん、お知り合い?」
女性の声にハッとなる。
黒髪美人でスタイルも良く、落ち着いた雰囲気の彼女は先生を見る。
「あぁ。オレの生徒だよ」
「まぁ。可愛らしい方」
女性は私に優しく微笑む。
男ならこの微笑みにすぐに心を奪われるだろう。
先生もその1人だと思うと悔しくて奥歯を噛み締める。
「サクラ。早く帰らないと親御さん心配するぞ」
「はい・・・」
先生はいかにも教師みたいに注意する。
いつもなら送るって言ってくれるのに。
この人の方が優先順位が高いのだ。
そりゃ私はただの生徒だし。
別れた後、この2人が何をするのかなんて分からないほど幼くない。
私はどれだけ先生のことを想っても生徒以上になれない。
だんだん暗い気持ちになってきて、知らずに涙が頬を流れる。
「サク」
「失礼します!」
先生の言葉を遮り頭を下げて、その場を駆け出す。
これ以上2人といたくなかったから。
私は無我夢中で家へと走った。
****
それから私は先生を避けるようになった。
里で会っても一定の距離を保って近づかない。
先生もあの時の涙のことは聞いてこないし、私が距離を取っていることを察して前みたいに接してこなくなった。
これでいい。
このまま生徒のままでいいんだ。
「サクラちゃん、顔色悪くない?」
第七班での任務に向かうため、橋の上で待ち合わせをしていた時。
私とサイとナルトがいて、後はヤマト隊長を待つのみ。
珍しく遅れている隊長を待っていると、隣に立つナルトが顔を覗き込んでくる。
「そう?最近遅くまで本読んでるから少し寝不足なのよね」
寝不足なのは本当。
ここ暫くあまり寝れていない。
その原因はもちろんあの人で。
「いつもに増してブス3割ま──」
「馬鹿サイ!あ、あはは・・・体調悪くなったらすぐ言ってくれってばよ」
いつものサイの空気の読まない発言にナルトは慌てて口を塞ぐ。
いつもの私ならナルトもまとめてぶん殴るんだけど、そんな元気もない。
そんな私の様子に2人は心配そうに見てくる。
「ごめん、ごめん!遅くなったね」
ヤマト隊長の慌てた声に顔を上げてると。
「あれ、カカシ先生も行くのか?」
「簡単な任務だけど、暇だから付いていくことにした」
「なんだよ、それ」
ナルトはおかしそうに笑いながらも嬉しそうにする。
一瞬先生と目が合って慌てて目を逸らした。
その時、フラっと目眩がして何とか足を踏ん張る。
私は皆に気づかれないように息を整えて、隊長の合図で出発した。
****
今日は木ノ葉の近くにある小さな集落で野盗による盗みが多発しているとの依頼だった。
木に隠れて現れるのを待ち、拘束をする。
抜け忍だったら手こずっただろうけど、ただの野盗だったからすぐに終わった。
こっちは凄腕の忍だらけだからね。
任務の報告を済ませる時、気が緩んだのか目の前が真っ暗になった。
やばい、と思いつつも体が言うことを聞かなくて。
ナルトの叫び声を最後に意識を失った。
****
「ん・・・」
重たい瞼を開けるとそこは見知らぬ天井。
どこだろう、と気怠い頭を働かそうとすると。
「起きた?」
よく知っているが聞こえてきて、ゆっくりその方向を顔を向けると、ベッドの横で椅子に座り本を片手に持つ先生と目が合う。
「あ・・・」
「サクラ、任務終わったら倒れたんだよ。気持ちよさそうに眠ってたから病院には連れて行かなかったけど、サクラの家に連れ帰ったら親御さんビックリするだろうから、オレの家に運んだ」
先生は本をパタンと閉じて私と向き合う。
久しぶりに先生の顔を真正面から見るから心臓が高鳴る。
「体調は?」
「大丈夫です・・・迷惑かけてごめんなさい」
「それは3人にもちゃんと言いなさい。みんな心配してた。それと、体調が悪いなら無理して任務に出るな。そのせいで味方を危険な目に合わせるかもしれないだろう」
「はい・・・」
カカシ先生は怒鳴らない。
静かに諭すように怒るから逆に精神にくる。
「本当すみませんでした。あの、私帰ります」
居心地が悪くて慌てて起き上がってベッドから降りたらまたフラっと目眩がする。
先生は私の腕を掴んで支えてくれる。
「ふらついてる。まだ寝てなさい」
「大丈夫です」
「サクラ」
少し低めの声で呼ばれ肩が震える。
「なによ・・・」
「サクラ?」
「先生、私の気持ち気づいてるんでしょ。応えるつもりないならもう構わないで!」
今まで我慢してた想いをついに言ってしまった。
私は先生の手を振り解いて、逃げるように踵を返し部屋を出ようとする。
しかしまた腕を掴まれて勢いよく引っ張られる。
「ぶっ」
勢いよく先生の胸元に鼻を打って変な声が出る。
気づいたら私は先生の逞しい腕で抱きしめられていた。
状況を理解した瞬間、顔がすごい熱くなるのを感じた。
離れようともがくのに、それを許さないというように更に強くなる腕。
「や、やだ、離して」
「だめ」
耳元にかかる息に心臓が爆発しそうなほどバクバクしている。
絶対先生にバレてる。
「気付いてたよ。だから距離を置こうとした。サクラの想いは勘違いだと思ったから」
先生の言葉が心に刺さる。
やっぱり私の想いは迷惑なんだって、改めて思わされて苦しくなる。
「でもさ。サクラに触れなくなって気付いたんだよね」
「・・・何を」
「オレがサクラを手放したくないってことに」
顔を上げて瞠目すると、先生は眉を下げて苦笑する。
「このまま先生として過ごして、サクラが他の男のものになると思ったら嫌だと思ったんだよね。それで、オレもサクラが好きなんだって気づいた」
大きな手が頬に添えられ、大好きなあの顔で微笑んでくれて。
親指が拭うように動いて、泣いてることに気づいた。
「だから、オレの恋人になってくれない?」
私の答えなんて分かってるくせに。
素直に言うのはなんか悔しいから。
「・・・しょうがないから、なってあげます」
「それはありがとう」
私たちは暫く見つめ合って噴き出す。
真っ直ぐ伝えれない私たちらしくて。
先生は添えていた手で引き寄せて。
私たちはキスをした。
初めてのキスは少ししょっぱかった。
少し低い、聞き慣れた声と同時に後ろから大きな手のひらが肩に触れて心臓が跳ねる。
「これから一緒に飯でもどう?最近あんまり話出来てないだろ」
ゆっくり振り返ると、先生はいつもの安心させる笑顔を私に向けてくる。
でもその笑顔はいつからか更に落ち着かなくさせてるのだけど。
「ごめんなさい。師匠に呼ばれてて」
「あらら。残念」
「そ、それじゃ」
このやり取りも何回目だろうか。
私は嘘の約束で先生のお誘いを断り、その場から逃げるように走り去った。
カカシは去っていくサクラの背中を見つめてため息を吐いた。
****
いつから先生をこんな風に意識するようになったのか。
それは分からないけど、いつも私を見守ってくれる優しい笑顔に惹かれるようになった。
でもそれに気づいた時、すごい苦しくて真っ直ぐ先生の顔を見れなくなった。
こんなことなら気づかなければ良かったのに、と何度も思ったっけ。
あれから真っ直ぐ家に帰らずに図書館で勉強をしていたらすっかり暗くなってしまった。
集中すると周りが見えなくなるのが悪い癖だ。
お母さんに怒られるな、と思いながら急いで人混みを歩いていると。
「──でしょ」
聞き覚えのある声が聞こえてピクリと反応する。
否応なしに反応してしまうのが嫌になるが、やはり声を聴くと嬉しくなる。
どこだろう、と探していると、前方に人混みの中でも分かる1つ飛び抜けた銀色の頭を見つける。
その人物はだんだん近づいてきて、無意識に緩む頬を引き締めて、人混みの中何とか先生に近づいて。
「カカシせん──」
私は固まった。
だって。
先生が知らない女の人といたから。
「サクラ」
カカシ先生は目の前に現れた私に驚きながらも微笑む。
私はというと、女性の腰に回された先生の手から目が離せないでいた。
「カカシさん、お知り合い?」
女性の声にハッとなる。
黒髪美人でスタイルも良く、落ち着いた雰囲気の彼女は先生を見る。
「あぁ。オレの生徒だよ」
「まぁ。可愛らしい方」
女性は私に優しく微笑む。
男ならこの微笑みにすぐに心を奪われるだろう。
先生もその1人だと思うと悔しくて奥歯を噛み締める。
「サクラ。早く帰らないと親御さん心配するぞ」
「はい・・・」
先生はいかにも教師みたいに注意する。
いつもなら送るって言ってくれるのに。
この人の方が優先順位が高いのだ。
そりゃ私はただの生徒だし。
別れた後、この2人が何をするのかなんて分からないほど幼くない。
私はどれだけ先生のことを想っても生徒以上になれない。
だんだん暗い気持ちになってきて、知らずに涙が頬を流れる。
「サク」
「失礼します!」
先生の言葉を遮り頭を下げて、その場を駆け出す。
これ以上2人といたくなかったから。
私は無我夢中で家へと走った。
****
それから私は先生を避けるようになった。
里で会っても一定の距離を保って近づかない。
先生もあの時の涙のことは聞いてこないし、私が距離を取っていることを察して前みたいに接してこなくなった。
これでいい。
このまま生徒のままでいいんだ。
「サクラちゃん、顔色悪くない?」
第七班での任務に向かうため、橋の上で待ち合わせをしていた時。
私とサイとナルトがいて、後はヤマト隊長を待つのみ。
珍しく遅れている隊長を待っていると、隣に立つナルトが顔を覗き込んでくる。
「そう?最近遅くまで本読んでるから少し寝不足なのよね」
寝不足なのは本当。
ここ暫くあまり寝れていない。
その原因はもちろんあの人で。
「いつもに増してブス3割ま──」
「馬鹿サイ!あ、あはは・・・体調悪くなったらすぐ言ってくれってばよ」
いつものサイの空気の読まない発言にナルトは慌てて口を塞ぐ。
いつもの私ならナルトもまとめてぶん殴るんだけど、そんな元気もない。
そんな私の様子に2人は心配そうに見てくる。
「ごめん、ごめん!遅くなったね」
ヤマト隊長の慌てた声に顔を上げてると。
「あれ、カカシ先生も行くのか?」
「簡単な任務だけど、暇だから付いていくことにした」
「なんだよ、それ」
ナルトはおかしそうに笑いながらも嬉しそうにする。
一瞬先生と目が合って慌てて目を逸らした。
その時、フラっと目眩がして何とか足を踏ん張る。
私は皆に気づかれないように息を整えて、隊長の合図で出発した。
****
今日は木ノ葉の近くにある小さな集落で野盗による盗みが多発しているとの依頼だった。
木に隠れて現れるのを待ち、拘束をする。
抜け忍だったら手こずっただろうけど、ただの野盗だったからすぐに終わった。
こっちは凄腕の忍だらけだからね。
任務の報告を済ませる時、気が緩んだのか目の前が真っ暗になった。
やばい、と思いつつも体が言うことを聞かなくて。
ナルトの叫び声を最後に意識を失った。
****
「ん・・・」
重たい瞼を開けるとそこは見知らぬ天井。
どこだろう、と気怠い頭を働かそうとすると。
「起きた?」
よく知っているが聞こえてきて、ゆっくりその方向を顔を向けると、ベッドの横で椅子に座り本を片手に持つ先生と目が合う。
「あ・・・」
「サクラ、任務終わったら倒れたんだよ。気持ちよさそうに眠ってたから病院には連れて行かなかったけど、サクラの家に連れ帰ったら親御さんビックリするだろうから、オレの家に運んだ」
先生は本をパタンと閉じて私と向き合う。
久しぶりに先生の顔を真正面から見るから心臓が高鳴る。
「体調は?」
「大丈夫です・・・迷惑かけてごめんなさい」
「それは3人にもちゃんと言いなさい。みんな心配してた。それと、体調が悪いなら無理して任務に出るな。そのせいで味方を危険な目に合わせるかもしれないだろう」
「はい・・・」
カカシ先生は怒鳴らない。
静かに諭すように怒るから逆に精神にくる。
「本当すみませんでした。あの、私帰ります」
居心地が悪くて慌てて起き上がってベッドから降りたらまたフラっと目眩がする。
先生は私の腕を掴んで支えてくれる。
「ふらついてる。まだ寝てなさい」
「大丈夫です」
「サクラ」
少し低めの声で呼ばれ肩が震える。
「なによ・・・」
「サクラ?」
「先生、私の気持ち気づいてるんでしょ。応えるつもりないならもう構わないで!」
今まで我慢してた想いをついに言ってしまった。
私は先生の手を振り解いて、逃げるように踵を返し部屋を出ようとする。
しかしまた腕を掴まれて勢いよく引っ張られる。
「ぶっ」
勢いよく先生の胸元に鼻を打って変な声が出る。
気づいたら私は先生の逞しい腕で抱きしめられていた。
状況を理解した瞬間、顔がすごい熱くなるのを感じた。
離れようともがくのに、それを許さないというように更に強くなる腕。
「や、やだ、離して」
「だめ」
耳元にかかる息に心臓が爆発しそうなほどバクバクしている。
絶対先生にバレてる。
「気付いてたよ。だから距離を置こうとした。サクラの想いは勘違いだと思ったから」
先生の言葉が心に刺さる。
やっぱり私の想いは迷惑なんだって、改めて思わされて苦しくなる。
「でもさ。サクラに触れなくなって気付いたんだよね」
「・・・何を」
「オレがサクラを手放したくないってことに」
顔を上げて瞠目すると、先生は眉を下げて苦笑する。
「このまま先生として過ごして、サクラが他の男のものになると思ったら嫌だと思ったんだよね。それで、オレもサクラが好きなんだって気づいた」
大きな手が頬に添えられ、大好きなあの顔で微笑んでくれて。
親指が拭うように動いて、泣いてることに気づいた。
「だから、オレの恋人になってくれない?」
私の答えなんて分かってるくせに。
素直に言うのはなんか悔しいから。
「・・・しょうがないから、なってあげます」
「それはありがとう」
私たちは暫く見つめ合って噴き出す。
真っ直ぐ伝えれない私たちらしくて。
先生は添えていた手で引き寄せて。
私たちはキスをした。
初めてのキスは少ししょっぱかった。
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