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short.2

「オレはどっかでアイツは死なないんだと思ってたんだよな」

黒い服を見に纏ったゲンマは空に昇る煙を見ながら千本を咥えてポツリと呟いた。
隣に立つ紅はその言葉に微笑み、同じように空を見上げる。

「私もよ。幾つも戦場を駆け抜けて他里に異名を轟かせて。そして世界を救って里を護って。本当、1度死んだとは思えないほどの生命力よね」
「ま、さすがに寿命には勝てなかったみたいだけどな。きっと先に逝ったやつらに茶化されてんじゃねーか」
「間違いなくね。アスマなんか『お前が火影なんて天変地異が起きるんじゃないか』って言ってそうだわ」
「確かになー。他人に興味がなかったアイツが火影だったとは未だに信じられねーよ」

本人がいないことをいいことに2人はおかしそうに笑う。

「同期、オレとお前だけになっちまったな」
「そうね。早くみんなに会いたいものだわ」
「あんたが会いたいのは旦那だろ?」
「当たり前よ。お父さんがいない寂しさを味合わせたミライの分も殴らないといけないもの」
「はっ。ほんと、女ってのはいくつになっても怖いもんだな」






「サクラちゃん」

ゲンマと紅がいた場所とは違うところで昇る煙を見ていたサクラは呼ばれて後ろを振り返ると、喪服姿のナルトが立っていた。
やはり彼には黒より白や明るい色が似合う。
ナルトの後ろには初恋のサスケも立っていた。

「・・・いっちゃったわね、カカシ先生」

サクラは顔を戻してまた空を見上げるとナルトはグッと喉を詰まらせている。
空を思わせる青い瞳の目尻は赤く、式中ずっと泣いていてヒナタにハンカチを当てがわれていたのを見ていた。
世界の英雄にして火影をしていた男とは思えないほどの情けなさに、悲しみより笑いが込み上げてきていた。

「そうだ、ナルト。ありがとうね、代わりに式場用意してくれて」
「何言ってんだだってばよ!オレたちの先生で火影だったカカシ先生のために用意するのは当たり前だって!」
「ふふ。でも、オレなんかにこんな大きな葬式は勿体無いとか何とか言ってそうよね」

カカシの葬儀は火影岩が見える大広間で行われた。
第四次忍界大戦で傷ついた里を復興させた立役者として、葬儀には忍以外に一般の住民たちが大勢参列した。
きっと空の上に気恥ずかしそうにしているカカシを想像して小さく笑う。

「・・・大丈夫か、サクラ」

心配そうに声をかけてくれるサスケに、本当丸くなったなぁと嬉しくなる。
昔のサスケなら心配してくれることもなかったもの。

「大丈夫よ。もう十分泣いたもの」

背筋を伸ばして微笑み、また空へと昇る煙を見上げる。
灰色の煙はあの人の髪を思い出させる。
あの人と出会った四十数年。
結婚して一緒に暮らし、子供という宝物も授かった。
あの人が六代目火影に就任して休む暇もないぐらい忙しいのに、それでもちゃんと夜にはどんなに遅くなっても帰ってきてくれて、家族を大事にしてくれた。
火影をナルトに渡してからは更に家族のことを大事にしてくれるようになり、孫と遊ぶカカシは普通のおじいちゃんで、とても楽しそうだった。

そしてカカシは70歳を迎え。
彼は天命に従い旅立っていった。
大きな病気もせず大往生。
最後の時は子供たちが気を使って2人きりにしてくれて、最後の会話をしてカカシは皺くちゃな手でサクラの手を握って幸せそうに笑い、2度と目を開けることはなかった。

「カカシ先生がね、幸せだったって」
「えっ?」
「私たちの先生になれて、子供たちに出会えてすごく幸せだったって」
「!!」

サクラの言葉にナルトは我慢出来なくなり両目からボロボロと涙を溢す。

「信じられる?あれだけ自分の幸せを願わなくて。いつでも死んでもいいって思ってた人が、幸せだったって言って息を引き取ったのよ」

あの時のことを思い出して、白い頬に一筋の涙が流れる。
もう枯れたと思っていたのに、まだこの体は泣くことを諦めていないらしい。

「ザグラ゛ぢゃん゛・・・」

名前を呼ばれてそちらを見れば、ナルトは涙だけではなく鼻からも流して顔をぐちゃぐちゃにしていた。
そんな顔を見て思わず吹き出す。
大人になってもこの顔は変わらないらしい。

「ちょっとナルト。顔がすごいことになってるわよ」
「だ、だってさ・・・!」
「おいナルト。その汚い顔をすぐにどうにかしろ」
「あんなこと言われて泣かない方がおかしいんだっての!お前の心は凍ってるんじゃねーのか?」
「はぁ?」
「あら。そんなことないわよ。サスケくん、式中に瞳潤ませてたの私見たわよ?」

サクラの言葉にサスケは目を丸くし、ナルトはぐちゃぐちゃな顔でにんまりと笑った。

「・・・へぇ?お前にも人の心があったんだな!」
「・・・くそっ」

ナルトに弱みを知られて顔を逸らすサスケの耳は真っ赤に染まっていた。
サクラはおかしそうに笑って顔を上げ、里のどこからでも見ることのできる火影岩を見る。
綱手とナルトに挟まれた、もう見ることの出来ないカカシの顔にまたサクラの瞳が潤む。

「・・・サクラ」

それに気づいたサスケがサクラの肩に触れようとした時、サクラはサスケに向かって手のひらを突き出して静止させる。

「ありがとう。でもカカシ先生に言われてるの。未亡人になった私の心につけ込んでくるからサスケくんには気をつけなさいって」
「・・・・・・・・・は?」

呆気に取られたサスケにナルトは大笑いする。

「ははははは!!サスケ、してやられたな!さすがカカシ先生!」
「・・・ちっ、カカシの野郎。黙れナルト」
「あははははは!・・・ゲホゲホ!」

笑い過ぎて咳き込むナルトを呆れたように見るサスケ。
そんな2人を見てサクラは昔を思い出す。
下忍時代もこうやって歪み合う2人の間にサクラが入って、そんな3人を後ろから見守ってくれていた存在。

「ねー。私たちってこんなんでいいのかな」
「えー?何がー?」
「だって私たちもう50にもなるのに、こうやって馬鹿やって戯れて笑い合って。本当にこれで良いのかしら」

サクラの言葉にナルトはニカっと笑い、サスケも小さく笑う。

「いいんじゃないか?」
「そーそー!オレ達第七班はこうじゃないと!きっとカカシ先生も浮かばれないってばよ」
「そっか・・・そうよね!」

ようやく心の底から笑ったサクラの笑顔は昔から全く変わらず、彼女が笑えばみんな頑張れた。
彼女がいたからこそ第七班は壊れずに何十年もあり続けれたのだ。
暫く3人で話していると遠くからサクラをママと呼ぶ女性の声が聞こえてくる。

「・・・そろそろ行かなくちゃ」
「あーあ!明日も頑張らなくっちゃなー」

大きく背伸びをして歩くナルトの後を追うサスケ。
その2つの背中を見て思い出す。

「あ!ねえ、先生から言伝があったのよ」
「え?なに?」

カカシの名前に一緒に振り向く2人。
サクラはこほん、と咳払いをする。

「えー、『お前らも70まで生きろよ。早く来たら許さないからな』、ですって」

カカシの真似をするサクラ。
ナルトとサスケは目をぱちくりとさせ、3人で顔を見合わせて思い切り吹き出す。

「やっぱりカカシ先生もカカシ先生だってばよ!!」



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