簪
「サクラちゃん!」
綱手様のおつかいで里を歩いていると、後ろからナルトに呼び止められる。
今日は休みだから修行をすると言っていたから身なりがボロボロで、顔に土が付いていた。
私は笑いながらハンカチを取り出して土を取ってあげる。
「で、なに?」
嬉しそうにお礼を言うナルト。
呼び止めた理由を思い出し、「あ、そうそう!」と手を叩く。
「明日お祭りあるだろ?あのさ・・・、一緒に行かない?去年はオレってば里に居なかったからさ、今年こそは一緒に・・・」
「あー・・・」
頬を染めるナルトのお誘いに何て言ったらいいか考えていると。
「残念だけど、それは無理かなぁ」
後ろから手が伸びると共に耳元に聞こえる聞き慣れた声。
そしてそのままその腕でぎゅう、と抱きしめられる。
そんなことをする人は1人しか知らない。
「カカシ先生!気配消して近づくの止めてって言ってるでしょ!」
「だって驚くサクラが可愛いんだもの」
高鳴る心臓を誤魔化すために悪態をつくものの、勿論見抜いている先生は私を更に抱きしめて頬擦りをしてくる。
そんな2人をナルトはジトっと睨み、カカシ先生はナルトに微笑む。
「サクラは諦めて他の子達と行ってきなさい」
「・・・カカシ先生ずるいってばよ。あの時も譲ってあげたんだから今年はオレに譲ってくれてもいいじゃんか!」
「あの後ちゃんとお前の希望通りラーメン奢ってやっただろう?」
「これとそれは別だってばよ!デートだって聞いてなかったし!」
「デートって言って譲ったか?」
「譲るわけねーだろ!」
「ほらみろ」
ガルルル、と今にも噛みつきそうなナルトに呆れたように言う先生。
私のことなのに身動きが取れないからまさに板挟み。
「ま、あの時は嘘だったけど、今は本当だから」
先生は私の手を取り、指を絡ませてナルトに見せつける。
ナルトは言葉を詰まらせ、私は強制的に仲を見せつけるような形を取られ頬が赤くなる。
「ううー・・・」
ナルトは唸り、今にも泣きそうな顔をする。
「な、ナルト!お祭りは一緒に行けないけど、今度デートしてあげるから。ね?」
「本当サクラちゃん!?」
この場を何とかするべくそう言うと、顰めっ面だったナルトの顔が一瞬でパァと輝く。
肩を掴んでいる手が少し痛かったけど。
「本当、本当。ね、だからお祭りは諦めて?」
「だったらしゃーねーな!じゃあ楽しみにしてるから!」
ナルトは嬉しそうに大きく腕を振って去っていった。
しかしまだ災難は続いている。
「サークーラーちゃーん?今のはどういうことかな?」
後ろから顔を覗き込んで微笑むカカシ先生。
その目の奥は笑っていないけど。
「だってそうしないと収拾がつかなかったじゃない」
「だからって恋人の目の前で他の男をデートに誘うか?」
「もう!これ以上何か言うなら明日のお祭りはナルトと行くからね!」
「ぐ・・・」
キッと睨みながらそう言うと先生は言葉を詰まらせる。
「・・・分かった。でもオレも一緒に行くからな」
「それ、絶対ナルト納得しないと思うわ・・・」
ナルトのあの浮かれ様。
絶対また一触即発ありそうだ。
好意を寄せてくれるのは嬉しいんだけど、その好意はもう受け取れない。
だって、この人のことを好きになってしまったから。
「それはナルトと要相談。だから明日、楽しみにしてる」
「・・・うん」
クルッと体を反転させられ、抱きしめられる。
私も先生の大きな背中に手を回し、衆人の目に晒されているのも忘れて暫くそうしていた。
****
お祭りの日。
ピンポーン
家のインターホンが鳴り、ドアが開く。
「いらっしゃい」
ドアを開けて愛おしそうに微笑んでくる先生と目が合わせれなくて俯く。
私は数年前に先生が買ってくれた赤い浴衣を着ている。
毎年着て毎年こんな風に見られているのに、いつまで経っても慣れない。
どうぞ、と部屋の中に促され、下駄を脱いで入る。
「先生ちょっとお茶貰ってもいい?外暑くて汗かいちゃった」
「あぁ、いいよ。勝手にコップ使って」
私はキッチンへ、先生は寝室に向かう。
いつものように棚からコップを取り出し、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
キンキンに冷えたお茶を飲んで一息つく。
今日は一段と暑いから冷たい飲み物は美味しい。
成人してたらこういうお祭りの日にビールなんて飲んだら美味しいんだろうなぁ、とそんなことを考えながらお茶を飲んでいると、
全く気配が無かったのにいきなり肩に手が置かれて肩が跳ねる。
「──簪、付けてくれたんだ」
耳元にかかる呼気に体がブルリ、と震える。
「う、うん・・・16になったから、似合うかなって・・・」
「そうか。もう16か」
あのデートで貰った簪を今日初めて付けた。
肩にかかる髪を1つに纏めて簪で止めたのだけど、短くて上手く出来ずに後毛が出てしまう。
先生は後ろからその後毛を指に絡めて弄ってきて、その指が首に当たるたびに背中がゾクゾクする。
くすぐったくて後ろを振り向くと、狙ってたかのようにキスをされ、唇が離れる。
「すごく似合ってる」
低く囁かれ、嬉しそうに微笑まれて心臓が破裂しそうなほど早鐘を打っている。
「じゃあそろそろ行こうか」
手を差し伸べられ、頷いてその手を取り私たちは外に出た。
「先生は今年浴衣着ないの?」
去年は深緑の浴衣を着ていたのに、今はいつもの任務服を着ている。
「うーん、サクラと浴衣デートも捨て難いんだけど、浴衣だとオレって分からないみたいなんだよね」
「ダメなの?」
「うん。こんなに可愛いサクラはもうオレのモノだって周りに教えないといけないからね。分からないと意味ないでしょ?」
隣を歩く私に先生は愛おしそうに目を細めて微笑みかけてくる。
一瞬で耳まで真っ赤に染まった私を先生は揶揄ってくるので横腹に一発入れといてやった。
それから手を繋いで歩いていると、先生は何回も知り合いに声をかけられる。
背丈が高いのもあるんだろうけど。
どこか人を引き寄せてしまうのだ。
それに顔を半分以上隠していても分かる端正な顔立ち。
声をかけてくるのはほとんどが先生と同世代のくノ一。
色気ムンムンのお姉様方に隣で膨れていると、必ず先生は手を強く握って私を安心させてくれる。
途中で浴衣姿の紅先生とアスマ先生で会い、先生たちはお互いに茶化しながら別れた。
茶化しあってる時の先生たちは子供のようで、普段頼りになる大人の時とは違っていて面白かった。
それから祭り会場に着き、屋台を見て回る。
あの時のように目移りしていると、チョコバナナが目に入り、先生は毎年お馴染みのラムネを買って座れる場所まで移動する。
口を開けてバナナを咥えと、変に視線を感じて横を見る。
すると何故か先生がこちらをじっと見ていた。
「・・・なに?何か変だった?」
「いいや?ただ──えろいなと思って」
「はっ!?」
顎に手を当ててイヤらしい笑みを浮かべる先生。
「いいねぇ、サクラとバナナ。今度買っておこうかな」
「食べません!」
少ないとはいえ周りに人はいるのに変なことを言うなんて!
頬を膨らませて顔を逸らすと、喉の奥で笑う声が聞こえた。
今年から始まったメインイベントの花火がそろそろ打ち上がる。
花火を見ようと人が押し寄せてきていた。
「もう良いところで花火見れそうにないわね・・・」
せっかくの花火デートなのに。
少し肩を落としていると、先生に手を引かれてお祭り会場を後にする。
「カカシ先生?」
「花火が良く見える場所があるんだ」
****
カカシ先生に付いていくと、そこは里を一望出来る高台の公園に着く。
確かにここだったら花火がちゃんと見れそうだ。
「もう少しかな?ねぇ、カカシせん──」
後ろにいる先生に顔を向けようとすると、いきなり後ろから抱きしめられた。
「せ、先生?」
戸惑う私の左手を取って持ち上げる。
そして、薬指に銀の輪っかを通す。
「・・・え?」
月夜に照らされて光輝く銀の指輪に驚いていると、体から手が離れ、向き合うように回転させられる。
「──昔、男が女の人に簪を送るのはプロポーズを意味したらしい」
「へ・・・」
先生の手が私の髪へと伸び、簪に触れる。
「そして今の時代、プロポーズには銀の指輪を渡す。つまりオレは2回、サクラにプロポーズをしたことになるな」
「カカシ、先生・・・」
ちゃんと見ていたはずなのに、だんだん先生の顔がぼやけてくる。
私を見下ろしていた先生は片膝をついて見上げてくる。
「オレは上忍で、危険な任務ばかりできっとこれからも心配かけると思う。それでも、オレはサクラの側に居たいし、サクラにはオレの側に居てほしい」
「サクラ。オレと結婚してください」
「う、ひく・・・」
ちゃんと返事をしたいのに。
言葉に詰まって出ない。
涙を止めようと擦ると、立ち上がった先生にその手を止められる。
「こら、綺麗な目が腫れるでしょ」
「ひぅ・・・」
「はは。ほらサクラ。そろそろ返事聞かせて?」
顔を覗き込んでくる瞳が少し不安そうに揺れてる。
私の答えなんて分かってるくせに。
私は先生の口布を下げて、唇を塞いだ。
軽く合わせて、唇を離す。
「・・・お願いします」
眉を下げて照れながら言うと、また唇が塞がれる。
「ん、ふ・・・」
舌が激しく絡み合い、唇が離れた時には口の端から涎が垂れていた。
そのまま先生は抱きしめて、私の肩に頭を乗せる。
「はー・・・嬉しくて死にそう」
「死なれたら困るんですけど」
「うん・・・だって簪渡した時からこの時を待ってたから」
「え、あの時まだ付き合ってなかったじゃない」
「オレはその時からお前が好きだったんだよ」
驚いて体を少し離すと、先生は微笑む。
この簪を貰ったとき、私もその時から先生が好きだった。
でも私はまだ12歳で、子供だから相手にされないと思っていたのに。
思わぬ言葉に、にやけそうになる顔を横に背ける。
「・・・ロリコンだったのね」
「うーん、どうだろ。サクラ以外は目に入らなかったから。ただサクラが12歳だったってだけだし」
背ける顔を無理やり元に戻されて目を合わせられる。
「好きだよサクラ。今までも、これからも」
「・・・私も。カカシ先生が大好き」
近づいてくる顔にゆっくりと目を閉じたとき、遠くから花火の打ち上がる音が聞こえた。
綱手様のおつかいで里を歩いていると、後ろからナルトに呼び止められる。
今日は休みだから修行をすると言っていたから身なりがボロボロで、顔に土が付いていた。
私は笑いながらハンカチを取り出して土を取ってあげる。
「で、なに?」
嬉しそうにお礼を言うナルト。
呼び止めた理由を思い出し、「あ、そうそう!」と手を叩く。
「明日お祭りあるだろ?あのさ・・・、一緒に行かない?去年はオレってば里に居なかったからさ、今年こそは一緒に・・・」
「あー・・・」
頬を染めるナルトのお誘いに何て言ったらいいか考えていると。
「残念だけど、それは無理かなぁ」
後ろから手が伸びると共に耳元に聞こえる聞き慣れた声。
そしてそのままその腕でぎゅう、と抱きしめられる。
そんなことをする人は1人しか知らない。
「カカシ先生!気配消して近づくの止めてって言ってるでしょ!」
「だって驚くサクラが可愛いんだもの」
高鳴る心臓を誤魔化すために悪態をつくものの、勿論見抜いている先生は私を更に抱きしめて頬擦りをしてくる。
そんな2人をナルトはジトっと睨み、カカシ先生はナルトに微笑む。
「サクラは諦めて他の子達と行ってきなさい」
「・・・カカシ先生ずるいってばよ。あの時も譲ってあげたんだから今年はオレに譲ってくれてもいいじゃんか!」
「あの後ちゃんとお前の希望通りラーメン奢ってやっただろう?」
「これとそれは別だってばよ!デートだって聞いてなかったし!」
「デートって言って譲ったか?」
「譲るわけねーだろ!」
「ほらみろ」
ガルルル、と今にも噛みつきそうなナルトに呆れたように言う先生。
私のことなのに身動きが取れないからまさに板挟み。
「ま、あの時は嘘だったけど、今は本当だから」
先生は私の手を取り、指を絡ませてナルトに見せつける。
ナルトは言葉を詰まらせ、私は強制的に仲を見せつけるような形を取られ頬が赤くなる。
「ううー・・・」
ナルトは唸り、今にも泣きそうな顔をする。
「な、ナルト!お祭りは一緒に行けないけど、今度デートしてあげるから。ね?」
「本当サクラちゃん!?」
この場を何とかするべくそう言うと、顰めっ面だったナルトの顔が一瞬でパァと輝く。
肩を掴んでいる手が少し痛かったけど。
「本当、本当。ね、だからお祭りは諦めて?」
「だったらしゃーねーな!じゃあ楽しみにしてるから!」
ナルトは嬉しそうに大きく腕を振って去っていった。
しかしまだ災難は続いている。
「サークーラーちゃーん?今のはどういうことかな?」
後ろから顔を覗き込んで微笑むカカシ先生。
その目の奥は笑っていないけど。
「だってそうしないと収拾がつかなかったじゃない」
「だからって恋人の目の前で他の男をデートに誘うか?」
「もう!これ以上何か言うなら明日のお祭りはナルトと行くからね!」
「ぐ・・・」
キッと睨みながらそう言うと先生は言葉を詰まらせる。
「・・・分かった。でもオレも一緒に行くからな」
「それ、絶対ナルト納得しないと思うわ・・・」
ナルトのあの浮かれ様。
絶対また一触即発ありそうだ。
好意を寄せてくれるのは嬉しいんだけど、その好意はもう受け取れない。
だって、この人のことを好きになってしまったから。
「それはナルトと要相談。だから明日、楽しみにしてる」
「・・・うん」
クルッと体を反転させられ、抱きしめられる。
私も先生の大きな背中に手を回し、衆人の目に晒されているのも忘れて暫くそうしていた。
****
お祭りの日。
ピンポーン
家のインターホンが鳴り、ドアが開く。
「いらっしゃい」
ドアを開けて愛おしそうに微笑んでくる先生と目が合わせれなくて俯く。
私は数年前に先生が買ってくれた赤い浴衣を着ている。
毎年着て毎年こんな風に見られているのに、いつまで経っても慣れない。
どうぞ、と部屋の中に促され、下駄を脱いで入る。
「先生ちょっとお茶貰ってもいい?外暑くて汗かいちゃった」
「あぁ、いいよ。勝手にコップ使って」
私はキッチンへ、先生は寝室に向かう。
いつものように棚からコップを取り出し、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
キンキンに冷えたお茶を飲んで一息つく。
今日は一段と暑いから冷たい飲み物は美味しい。
成人してたらこういうお祭りの日にビールなんて飲んだら美味しいんだろうなぁ、とそんなことを考えながらお茶を飲んでいると、
全く気配が無かったのにいきなり肩に手が置かれて肩が跳ねる。
「──簪、付けてくれたんだ」
耳元にかかる呼気に体がブルリ、と震える。
「う、うん・・・16になったから、似合うかなって・・・」
「そうか。もう16か」
あのデートで貰った簪を今日初めて付けた。
肩にかかる髪を1つに纏めて簪で止めたのだけど、短くて上手く出来ずに後毛が出てしまう。
先生は後ろからその後毛を指に絡めて弄ってきて、その指が首に当たるたびに背中がゾクゾクする。
くすぐったくて後ろを振り向くと、狙ってたかのようにキスをされ、唇が離れる。
「すごく似合ってる」
低く囁かれ、嬉しそうに微笑まれて心臓が破裂しそうなほど早鐘を打っている。
「じゃあそろそろ行こうか」
手を差し伸べられ、頷いてその手を取り私たちは外に出た。
「先生は今年浴衣着ないの?」
去年は深緑の浴衣を着ていたのに、今はいつもの任務服を着ている。
「うーん、サクラと浴衣デートも捨て難いんだけど、浴衣だとオレって分からないみたいなんだよね」
「ダメなの?」
「うん。こんなに可愛いサクラはもうオレのモノだって周りに教えないといけないからね。分からないと意味ないでしょ?」
隣を歩く私に先生は愛おしそうに目を細めて微笑みかけてくる。
一瞬で耳まで真っ赤に染まった私を先生は揶揄ってくるので横腹に一発入れといてやった。
それから手を繋いで歩いていると、先生は何回も知り合いに声をかけられる。
背丈が高いのもあるんだろうけど。
どこか人を引き寄せてしまうのだ。
それに顔を半分以上隠していても分かる端正な顔立ち。
声をかけてくるのはほとんどが先生と同世代のくノ一。
色気ムンムンのお姉様方に隣で膨れていると、必ず先生は手を強く握って私を安心させてくれる。
途中で浴衣姿の紅先生とアスマ先生で会い、先生たちはお互いに茶化しながら別れた。
茶化しあってる時の先生たちは子供のようで、普段頼りになる大人の時とは違っていて面白かった。
それから祭り会場に着き、屋台を見て回る。
あの時のように目移りしていると、チョコバナナが目に入り、先生は毎年お馴染みのラムネを買って座れる場所まで移動する。
口を開けてバナナを咥えと、変に視線を感じて横を見る。
すると何故か先生がこちらをじっと見ていた。
「・・・なに?何か変だった?」
「いいや?ただ──えろいなと思って」
「はっ!?」
顎に手を当ててイヤらしい笑みを浮かべる先生。
「いいねぇ、サクラとバナナ。今度買っておこうかな」
「食べません!」
少ないとはいえ周りに人はいるのに変なことを言うなんて!
頬を膨らませて顔を逸らすと、喉の奥で笑う声が聞こえた。
今年から始まったメインイベントの花火がそろそろ打ち上がる。
花火を見ようと人が押し寄せてきていた。
「もう良いところで花火見れそうにないわね・・・」
せっかくの花火デートなのに。
少し肩を落としていると、先生に手を引かれてお祭り会場を後にする。
「カカシ先生?」
「花火が良く見える場所があるんだ」
****
カカシ先生に付いていくと、そこは里を一望出来る高台の公園に着く。
確かにここだったら花火がちゃんと見れそうだ。
「もう少しかな?ねぇ、カカシせん──」
後ろにいる先生に顔を向けようとすると、いきなり後ろから抱きしめられた。
「せ、先生?」
戸惑う私の左手を取って持ち上げる。
そして、薬指に銀の輪っかを通す。
「・・・え?」
月夜に照らされて光輝く銀の指輪に驚いていると、体から手が離れ、向き合うように回転させられる。
「──昔、男が女の人に簪を送るのはプロポーズを意味したらしい」
「へ・・・」
先生の手が私の髪へと伸び、簪に触れる。
「そして今の時代、プロポーズには銀の指輪を渡す。つまりオレは2回、サクラにプロポーズをしたことになるな」
「カカシ、先生・・・」
ちゃんと見ていたはずなのに、だんだん先生の顔がぼやけてくる。
私を見下ろしていた先生は片膝をついて見上げてくる。
「オレは上忍で、危険な任務ばかりできっとこれからも心配かけると思う。それでも、オレはサクラの側に居たいし、サクラにはオレの側に居てほしい」
「サクラ。オレと結婚してください」
「う、ひく・・・」
ちゃんと返事をしたいのに。
言葉に詰まって出ない。
涙を止めようと擦ると、立ち上がった先生にその手を止められる。
「こら、綺麗な目が腫れるでしょ」
「ひぅ・・・」
「はは。ほらサクラ。そろそろ返事聞かせて?」
顔を覗き込んでくる瞳が少し不安そうに揺れてる。
私の答えなんて分かってるくせに。
私は先生の口布を下げて、唇を塞いだ。
軽く合わせて、唇を離す。
「・・・お願いします」
眉を下げて照れながら言うと、また唇が塞がれる。
「ん、ふ・・・」
舌が激しく絡み合い、唇が離れた時には口の端から涎が垂れていた。
そのまま先生は抱きしめて、私の肩に頭を乗せる。
「はー・・・嬉しくて死にそう」
「死なれたら困るんですけど」
「うん・・・だって簪渡した時からこの時を待ってたから」
「え、あの時まだ付き合ってなかったじゃない」
「オレはその時からお前が好きだったんだよ」
驚いて体を少し離すと、先生は微笑む。
この簪を貰ったとき、私もその時から先生が好きだった。
でも私はまだ12歳で、子供だから相手にされないと思っていたのに。
思わぬ言葉に、にやけそうになる顔を横に背ける。
「・・・ロリコンだったのね」
「うーん、どうだろ。サクラ以外は目に入らなかったから。ただサクラが12歳だったってだけだし」
背ける顔を無理やり元に戻されて目を合わせられる。
「好きだよサクラ。今までも、これからも」
「・・・私も。カカシ先生が大好き」
近づいてくる顔にゆっくりと目を閉じたとき、遠くから花火の打ち上がる音が聞こえた。
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