簪
「なぁ、なぁ、サクラちゃん!」
「なに?」
任務が終わって里に帰りついた時。
今回の任務の反省どころなどを先生が話していた時に右に立つナルトが話しかけてくる。
「明日お祭りあるんだって!シカマルとかキバの班のみんなで行かない?」
「いいわよ?」
「やったー!」
「サスケくんは?サスケくんも明日のお祭り行かない?」
左にいるサスケくんに話しかける。
犬猿の2人の真ん中が私の定位置。
「行かない」
「そう・・・」
「サクラちゃん、サスケなんか誘う必要ないってばよ!ぼっちのサスケくんは家で寂しく過ごすんだってよ!」
「あぁ?何だとウスラトンカチ」
「やんのか!」
「もう、私を挟んで喧嘩しないでよ」
右と左で睨む合う男たちに私は嘆くと。
「おーい、君たち。先生がありがたーい助言してるのにお喋りするってどういうことかな?」
本を片手に喋っていた先生は呆れたように見てくる。
「だってカカシ先生ってば、いつも同じこと言うからつまんねーってばよ」
「それはお前たちが同じこと繰り返してるからでしょーが。特にナルト。お前は毎回1人で突っ走り過ぎだ。少しは2人みたいに頭を使いなさい」
「ふっ」
「サスケ!何笑ってやがんだ!」
「あー、もう。お前らは本当チームワークを学ばないね。はい、解散」
カカシ先生はナルトとサスケくんの頭を本で軽く叩いて号令を出す。
サスケくんは鼻を鳴らして1人帰っていった。
「何だってばよサスケのやつ!あ、カカシ先生!」
「ん?」
サスケくんを見ていた先生がナルトに呼ばれて振り向く。
「カカシ先生も明日のお祭り一緒に行かない?」
「お祭り?あ〜、そういやガイと紅たちに誘われてたような・・・」
「え!!」
思わず心の声が口から出てしまい、慌てて塞ぐがもう遅い。
ナルトとカカシ先生が目を丸くしてこちらを見てくるので顔が熱くなる。
「あ、あはは。私もそろそろ帰ります。ナルトまた明日!先生もまたね!」
私は矢継ぎ早に話して返事を聞かずにその場を駆け出した。
「なぁナルト」
「ん?」
カカシは小さくなっていくサクラを見ながらナルトに話しかける。
****
次の日の夕方。
もう少しでお祭りが始まる。
それなのに私はベッドの上でグダグダと寝転がっている。
「はぁ・・・」
昨日から何度目かのため息。
「・・・先生ともお祭り行きたかったな」
──私の恋が別の人に向いていることに気づいたのはいつだろうか。
いつも守ってくれる背中に安心感とは別の想いを覚えるようになったのはいつだろうか。
「はぁ・・・」
またため息。
落ち込んだってどうにもならないのに。
そんな時、来客を知らせる呼び鈴が家の中に響く。
「はいはい」とお母さんの声とドアを開ける音が聞こえ、知り合いなのか楽しそうに話しているのが聞こえてくる。
「サクラー!あんたお祭り行くんでしょ?迎えに来てくれたわよー」
「えー?」
大声で呼ぶ声に私も不満げに大声で返事をする。
待ち合わせまでまだ時間はあるのに。
ナルトが待ちきれずに呼びに来たのだろうか。
ドアノブに手をかけた時に自分の格好が部屋着のままだと気づいたが、別にナルトならいいかとそのまま部屋を出る。
「ナルトー、別に迎えに来なくてもいいっての」
文句を言いながら玄関に向い、来客の顔を見て──。
「よっ」
「か、カカシ先生!?」
思わぬ人物に目を見開く。
いつものように片手を上げているが、格好は任務服ではなく深緑のストラップの入った浴衣。
袖の中に腕を入れて、先生なのに先生じゃないみたいで落ち着かない。
「先生どうしたの!」
「んー?サクラとお祭り行きたいなぁと思ってね」
「え、ガイ先生達と行くって・・・」
「あー、いいのいいの。せっかくのお祭りに男と居ても楽しくないしね。どうせなら可愛い女の子のほうが良いでしょ」
「かわ・・・!」
いきなりそんなこと言われたら目が合わせれないじゃない。
頬に手を添えて熱が治るのを待つ。 先生はおかしそうに笑い、終始話を聞いていたお母さんは何か察した顔をしていた。
「で、どう?先生とお祭り行ってくれる?」
「うん、うん!行く!」
ぴょんぴょん、とその場で飛び跳ねると先生も嬉しそうに笑う。
「なら行こうか」
「うん!」
私はそのまま玄関にある自分の靴を履こうとすると、後ろにいたお母さんに呼び止められる。
「あんたそんな格好で行くつもり?」
「え?」
私はそんな格好と言われて首から下を見て動揺する。
すっかり気分が上がって忘れていたが、今の自分はTシャツに短パン。
近所ならまだしも人がたくさんいるお祭りに着ていく格好ではない。
それにこの格好を好きな人に見られてしまった・・・!
「わ、わわ!ごめん、先生待ってて!お母さん、浴衣どこ!?」
「ないわよ。あんたが昨日着ないって言ったんでしょ」
「そんなー!」
私はその場で地団駄を踏む。
せっかく先生とのお祭りなのに!
落ち込むわたしの後ろで先生がおかしそうに喉の奥で笑う。
「サクラ。お祭りの前にちょっと寄ってもいいか?」
「・・・え?」
****
「せ、先生、本当に良いの・・・?」
あれから先生に連れて行かれたのは浴衣や着物などが売っているお店。
しかもよくお祭り前に簡単に浴衣が着られるように安く売られているセットのじゃなくて、1つ1つがしっかりしてて、値札を見なくても高い物だって分かる。
先生と年配の店員さんにあれよあれよ、と私に似合うのを着せられ、赤い生地に白い薔薇が描かれた浴衣、それに似合う髪飾りまで買ってもらい、少し大人っぽい仕上がりになった。
「いいのいいの。女の子の服を選ぶのって男冥利に尽きるんだぞ?」
「・・・そうなの?」
「そうなの」
私の装いに先生は満足そうに頷く。
「でもこれ、高かったんじゃないの?」
「そんなことは気にしなくていいから。先生は上忍だからお金はたくさんあるの。ほら、お祭り行くぞ」
困った顔をしていると先生は手を差し出して微笑む。
私も眉を下げて笑い、先生の手を取ってお祭り会場に向かった。
「わー!すごい人!」
大きなお祭りで、毎年里中の人が集まる。
屋台もいっぱい出てて目移りしてしまう。
「こら、気をつけないと迷子になるぞ」
気になる屋台の方に行こうとすると、先生が手を強く握る。
「何が食べたい?先生が奢ってあげよう」
「え、えっとね、じゃあ、かき氷・・・」
「かき氷ね」
屋台を指を刺すと先生は顔を近づけて同じ方を見る。
人が多くて声が聞こえにくいからしょうがないんだけど。
否応なしにも心臓が跳ねてしまう。
そのまま先生に手を引かれてかき氷を買ってもらい、人並みから逸れた座れる場所に連れて行かれる。
「おいし〜」
シロップがたくさんかかったいちご味のかき氷は熱った体を冷やしていく。
先生は一緒に買ったラムネを。
「あー、あま」
「甘いの苦手なら買わなきゃ良かったのに」
「こうも暑いと炭酸が飲みたくなるもんなんだよ」
「分かるけど。それならビール飲めば良かったじゃない」
「サクラがいるのにそんなの飲めないでしょ」
先生の言葉の意味が分からなくて首を傾げる。
任務が終わった後に先生の奢りで一楽に行ったときはよくお酒飲んでたのに。
頭にハテナを浮かべていると、「分からないならいいよ」と頭を撫でられた。
「あー!サクラちゃんとカカシ先生!」
それからまた屋台に戻って輪投げをしていると、ナルトやキバ、同期のメンバーに偶然にも会う。
しかも来ないと言っていたサスケくんまで。
いのが嬉しそうに腕を組んでいた。
不機嫌そうな顔をしているからに無理やり連れてこられたのだろう。
先生とのお祭りに浮かれていて忘れていたが、ナルトに連絡していなかった。
「ごめんナルト。すっかり連絡するの忘れてた」
手を合わせて謝ると、ナルトは手を大きく横に振って笑う。
「いーていーて!昨日カカシ先生からサクラちゃん来ないって言われてたし」
「え?」
ナルトの言葉に目をパチクリさせて先生を見ると苦笑していた。
「サクラちゃんが走って帰ったあと、『明日サクラを祭りに誘うから』って。オレの方が先だったのにさー」
「すまんすまん。このお礼は必ずしてやるから」
「あ!なら一楽のトッピング全種盛りな!」
「はいはい」
先生はナルトの頭をポンポンと叩く。
「なぁなぁ!せっかく会えたんだから一緒に回らない?」
「残念だけどそれはダメ」
「なんで!」
「サクラとのデートを邪魔されたくないから」
「デ・・・!?」
「デートぉ!!?」
思いもよらぬワードに言葉を失う。
ナルトは目玉が飛び出るじゃないかと思うぐらい見開いていた。
「なんだよそれ!オレってば聞いてねーぞ!」
「あー、もうナルトいい加減にしろ。めんどくせーなー」
「ほら行くぞバカ」
右腕をシカマルに、左腕をキバに掴まれ、大声で叫びながらナルト達は人混みの中に消えていった。
「本当ナルトは元気だねぇ。あの2人にもお礼しないとな」
「せ、せんせ・・・」
「ん?」
ナルト達が去って行った方を見ている先生の袖を引っ張る。
「で、デートって・・・」
「オレはそのつもりで誘ったんだけど、嫌だった?」
「う、ううん!」
嬉しいことを言われて嫌なはずがない。
思い切り頭を横に振ると「頭取れるぞ」とおかしそうに笑って頭を撫でてくれる。
私はこの大きくて優しい手が大好きだ。
「そろそろ行くか」
「うん」
先生が手を差し出し、私はその手を思い切り握った。
それから手裏剣投げの屋台で大きなウサギのぬいぐるみがあるのを見つけ、先生が代わりに取ってくれた。
もちろん1回で。
店主は泣きそうな顔をしてたけど。
私はそれを両腕で無くさないように思い切り抱きしめながら先生の隣を歩きながら家路へと向かう。
「それ持とうか?」
「ううん。自分で持っておきたいの」
嬉しそうにぎゅー、と抱きしめていると、前から来る人とぶつからないように肩を引き寄せてくれる。
さりげなくこういうことを出来るのはそれなりに女の人とお付き合いがあったからなんだろう。
嬉しかった気持ちがちょっと落ち込んだ。
「どうかした?足痛いか?」
「ううん、大丈夫」
小さな変化にも気づいてくれる先生が好き。
例えこの恋が実らなくても。
それから先生に家まで送ってもらう。
「ありがとう、先生」
「いーえ、こちらこそ。サクラとのデート楽しかったよ」
本当簡単に言うんだから。
意味なんてないって分かってても微笑んでそんなこと言われたら顔が赤くなる。
先生にバレないようにぬいぐるみで隠す。
「あ、そうだ。忘れてた」
何かを思い出した先生は袖の中をゴソゴソ探り。
「これサクラに」
取り出したのはプレゼント用にラッピングされた袋。
うさぎを先生に預け、袋を開けて中に入っていたのを取り出して目を見開く。
「これって・・・」
とんぼ玉に桜が描かれた上品な簪。
「浴衣選んでる時に見つけてね。サクラに似合いそうだなぁって」
「で、でも浴衣も買ってもらったのに、貰えないわ・・・!」
「サクラが貰ってくれないと困る」
眉を下げて笑う先生に、私は手の中にある簪をぎゅう、と握る。
「ありがとうカカシ先生・・・」
「うん」
涙を滲ませて笑うと先生も笑ってくれる。
「でもちょっと私には大人っぽくない?」
よく見えるように家から漏れる光に照らす。
上品で大人っぽくて、12歳の私にはまだ無相応な気がする。
「来年か再来年か、それまた5年後か。その簪が自分に似合いそうだなって思ったら付けて見せてよ」
「え?」
「その浴衣に合うように買ったんだから。あと数年は着れるんじゃない?」
にこり、と微笑む先生。
「見せるだけ?」
「まさか。今日みたいにデートしてちょーだいよ」
そんなすぐみたいに言うけど。
きっとこれが似合うのって当分先よ?
その時も居てくれるの?
嬉しくて頬が緩んでしまう。
「私が大人になった時ってきっとものすごく美人になってるわよ?そしたら他の男が放っておかないわ。おじさんの先生はその男達に勝てるわけ?」
「おじさん・・・ま、何とかして勝ち取るよ。オレの大事なお姫様をそこいらの奴に渡す気はないからね」
照れ隠しに行った言葉に先生が肩を落として落ち込むので申し訳なるも、そんな姿に笑いが溢れる。
「なら、ちゃんと先生も他の女の人に目移りしないで待っててよ?」
「もちろん。楽しみにしてる」
先生が小指を差し出してくるので、私も小指を絡ませて指切りをする。
私はずっと先生の側にいれるんだと嬉しくてなってウサギを抱きしめて家への階段を駆け上る。
「じゃあまた明日ね、カカシ先生!」
「あぁ。腹出して風邪ひくなよ」
「ナルトじゃないんだからしないわよ!」
いー、と歯を見せると先生は「はは」と笑いながら私が家に入るのを見届けてくれる。
私は手を振って家の中に入り、ベランダまで走る。
サンダルを履いてベランダに出ると、気づいた先生が眉を下げて笑って手を振ってくれる。
私も振り返すと、先生は背を向けて人波の中に入っていった。
私は見えなくなるまで先生を見届けてから部屋に戻り、ベッドに寝そべって簪を見て、約束を思い出して嬉しくて悶える。
あぁ、早くその日が来ないかな。
「なに?」
任務が終わって里に帰りついた時。
今回の任務の反省どころなどを先生が話していた時に右に立つナルトが話しかけてくる。
「明日お祭りあるんだって!シカマルとかキバの班のみんなで行かない?」
「いいわよ?」
「やったー!」
「サスケくんは?サスケくんも明日のお祭り行かない?」
左にいるサスケくんに話しかける。
犬猿の2人の真ん中が私の定位置。
「行かない」
「そう・・・」
「サクラちゃん、サスケなんか誘う必要ないってばよ!ぼっちのサスケくんは家で寂しく過ごすんだってよ!」
「あぁ?何だとウスラトンカチ」
「やんのか!」
「もう、私を挟んで喧嘩しないでよ」
右と左で睨む合う男たちに私は嘆くと。
「おーい、君たち。先生がありがたーい助言してるのにお喋りするってどういうことかな?」
本を片手に喋っていた先生は呆れたように見てくる。
「だってカカシ先生ってば、いつも同じこと言うからつまんねーってばよ」
「それはお前たちが同じこと繰り返してるからでしょーが。特にナルト。お前は毎回1人で突っ走り過ぎだ。少しは2人みたいに頭を使いなさい」
「ふっ」
「サスケ!何笑ってやがんだ!」
「あー、もう。お前らは本当チームワークを学ばないね。はい、解散」
カカシ先生はナルトとサスケくんの頭を本で軽く叩いて号令を出す。
サスケくんは鼻を鳴らして1人帰っていった。
「何だってばよサスケのやつ!あ、カカシ先生!」
「ん?」
サスケくんを見ていた先生がナルトに呼ばれて振り向く。
「カカシ先生も明日のお祭り一緒に行かない?」
「お祭り?あ〜、そういやガイと紅たちに誘われてたような・・・」
「え!!」
思わず心の声が口から出てしまい、慌てて塞ぐがもう遅い。
ナルトとカカシ先生が目を丸くしてこちらを見てくるので顔が熱くなる。
「あ、あはは。私もそろそろ帰ります。ナルトまた明日!先生もまたね!」
私は矢継ぎ早に話して返事を聞かずにその場を駆け出した。
「なぁナルト」
「ん?」
カカシは小さくなっていくサクラを見ながらナルトに話しかける。
****
次の日の夕方。
もう少しでお祭りが始まる。
それなのに私はベッドの上でグダグダと寝転がっている。
「はぁ・・・」
昨日から何度目かのため息。
「・・・先生ともお祭り行きたかったな」
──私の恋が別の人に向いていることに気づいたのはいつだろうか。
いつも守ってくれる背中に安心感とは別の想いを覚えるようになったのはいつだろうか。
「はぁ・・・」
またため息。
落ち込んだってどうにもならないのに。
そんな時、来客を知らせる呼び鈴が家の中に響く。
「はいはい」とお母さんの声とドアを開ける音が聞こえ、知り合いなのか楽しそうに話しているのが聞こえてくる。
「サクラー!あんたお祭り行くんでしょ?迎えに来てくれたわよー」
「えー?」
大声で呼ぶ声に私も不満げに大声で返事をする。
待ち合わせまでまだ時間はあるのに。
ナルトが待ちきれずに呼びに来たのだろうか。
ドアノブに手をかけた時に自分の格好が部屋着のままだと気づいたが、別にナルトならいいかとそのまま部屋を出る。
「ナルトー、別に迎えに来なくてもいいっての」
文句を言いながら玄関に向い、来客の顔を見て──。
「よっ」
「か、カカシ先生!?」
思わぬ人物に目を見開く。
いつものように片手を上げているが、格好は任務服ではなく深緑のストラップの入った浴衣。
袖の中に腕を入れて、先生なのに先生じゃないみたいで落ち着かない。
「先生どうしたの!」
「んー?サクラとお祭り行きたいなぁと思ってね」
「え、ガイ先生達と行くって・・・」
「あー、いいのいいの。せっかくのお祭りに男と居ても楽しくないしね。どうせなら可愛い女の子のほうが良いでしょ」
「かわ・・・!」
いきなりそんなこと言われたら目が合わせれないじゃない。
頬に手を添えて熱が治るのを待つ。 先生はおかしそうに笑い、終始話を聞いていたお母さんは何か察した顔をしていた。
「で、どう?先生とお祭り行ってくれる?」
「うん、うん!行く!」
ぴょんぴょん、とその場で飛び跳ねると先生も嬉しそうに笑う。
「なら行こうか」
「うん!」
私はそのまま玄関にある自分の靴を履こうとすると、後ろにいたお母さんに呼び止められる。
「あんたそんな格好で行くつもり?」
「え?」
私はそんな格好と言われて首から下を見て動揺する。
すっかり気分が上がって忘れていたが、今の自分はTシャツに短パン。
近所ならまだしも人がたくさんいるお祭りに着ていく格好ではない。
それにこの格好を好きな人に見られてしまった・・・!
「わ、わわ!ごめん、先生待ってて!お母さん、浴衣どこ!?」
「ないわよ。あんたが昨日着ないって言ったんでしょ」
「そんなー!」
私はその場で地団駄を踏む。
せっかく先生とのお祭りなのに!
落ち込むわたしの後ろで先生がおかしそうに喉の奥で笑う。
「サクラ。お祭りの前にちょっと寄ってもいいか?」
「・・・え?」
****
「せ、先生、本当に良いの・・・?」
あれから先生に連れて行かれたのは浴衣や着物などが売っているお店。
しかもよくお祭り前に簡単に浴衣が着られるように安く売られているセットのじゃなくて、1つ1つがしっかりしてて、値札を見なくても高い物だって分かる。
先生と年配の店員さんにあれよあれよ、と私に似合うのを着せられ、赤い生地に白い薔薇が描かれた浴衣、それに似合う髪飾りまで買ってもらい、少し大人っぽい仕上がりになった。
「いいのいいの。女の子の服を選ぶのって男冥利に尽きるんだぞ?」
「・・・そうなの?」
「そうなの」
私の装いに先生は満足そうに頷く。
「でもこれ、高かったんじゃないの?」
「そんなことは気にしなくていいから。先生は上忍だからお金はたくさんあるの。ほら、お祭り行くぞ」
困った顔をしていると先生は手を差し出して微笑む。
私も眉を下げて笑い、先生の手を取ってお祭り会場に向かった。
「わー!すごい人!」
大きなお祭りで、毎年里中の人が集まる。
屋台もいっぱい出てて目移りしてしまう。
「こら、気をつけないと迷子になるぞ」
気になる屋台の方に行こうとすると、先生が手を強く握る。
「何が食べたい?先生が奢ってあげよう」
「え、えっとね、じゃあ、かき氷・・・」
「かき氷ね」
屋台を指を刺すと先生は顔を近づけて同じ方を見る。
人が多くて声が聞こえにくいからしょうがないんだけど。
否応なしにも心臓が跳ねてしまう。
そのまま先生に手を引かれてかき氷を買ってもらい、人並みから逸れた座れる場所に連れて行かれる。
「おいし〜」
シロップがたくさんかかったいちご味のかき氷は熱った体を冷やしていく。
先生は一緒に買ったラムネを。
「あー、あま」
「甘いの苦手なら買わなきゃ良かったのに」
「こうも暑いと炭酸が飲みたくなるもんなんだよ」
「分かるけど。それならビール飲めば良かったじゃない」
「サクラがいるのにそんなの飲めないでしょ」
先生の言葉の意味が分からなくて首を傾げる。
任務が終わった後に先生の奢りで一楽に行ったときはよくお酒飲んでたのに。
頭にハテナを浮かべていると、「分からないならいいよ」と頭を撫でられた。
「あー!サクラちゃんとカカシ先生!」
それからまた屋台に戻って輪投げをしていると、ナルトやキバ、同期のメンバーに偶然にも会う。
しかも来ないと言っていたサスケくんまで。
いのが嬉しそうに腕を組んでいた。
不機嫌そうな顔をしているからに無理やり連れてこられたのだろう。
先生とのお祭りに浮かれていて忘れていたが、ナルトに連絡していなかった。
「ごめんナルト。すっかり連絡するの忘れてた」
手を合わせて謝ると、ナルトは手を大きく横に振って笑う。
「いーていーて!昨日カカシ先生からサクラちゃん来ないって言われてたし」
「え?」
ナルトの言葉に目をパチクリさせて先生を見ると苦笑していた。
「サクラちゃんが走って帰ったあと、『明日サクラを祭りに誘うから』って。オレの方が先だったのにさー」
「すまんすまん。このお礼は必ずしてやるから」
「あ!なら一楽のトッピング全種盛りな!」
「はいはい」
先生はナルトの頭をポンポンと叩く。
「なぁなぁ!せっかく会えたんだから一緒に回らない?」
「残念だけどそれはダメ」
「なんで!」
「サクラとのデートを邪魔されたくないから」
「デ・・・!?」
「デートぉ!!?」
思いもよらぬワードに言葉を失う。
ナルトは目玉が飛び出るじゃないかと思うぐらい見開いていた。
「なんだよそれ!オレってば聞いてねーぞ!」
「あー、もうナルトいい加減にしろ。めんどくせーなー」
「ほら行くぞバカ」
右腕をシカマルに、左腕をキバに掴まれ、大声で叫びながらナルト達は人混みの中に消えていった。
「本当ナルトは元気だねぇ。あの2人にもお礼しないとな」
「せ、せんせ・・・」
「ん?」
ナルト達が去って行った方を見ている先生の袖を引っ張る。
「で、デートって・・・」
「オレはそのつもりで誘ったんだけど、嫌だった?」
「う、ううん!」
嬉しいことを言われて嫌なはずがない。
思い切り頭を横に振ると「頭取れるぞ」とおかしそうに笑って頭を撫でてくれる。
私はこの大きくて優しい手が大好きだ。
「そろそろ行くか」
「うん」
先生が手を差し出し、私はその手を思い切り握った。
それから手裏剣投げの屋台で大きなウサギのぬいぐるみがあるのを見つけ、先生が代わりに取ってくれた。
もちろん1回で。
店主は泣きそうな顔をしてたけど。
私はそれを両腕で無くさないように思い切り抱きしめながら先生の隣を歩きながら家路へと向かう。
「それ持とうか?」
「ううん。自分で持っておきたいの」
嬉しそうにぎゅー、と抱きしめていると、前から来る人とぶつからないように肩を引き寄せてくれる。
さりげなくこういうことを出来るのはそれなりに女の人とお付き合いがあったからなんだろう。
嬉しかった気持ちがちょっと落ち込んだ。
「どうかした?足痛いか?」
「ううん、大丈夫」
小さな変化にも気づいてくれる先生が好き。
例えこの恋が実らなくても。
それから先生に家まで送ってもらう。
「ありがとう、先生」
「いーえ、こちらこそ。サクラとのデート楽しかったよ」
本当簡単に言うんだから。
意味なんてないって分かってても微笑んでそんなこと言われたら顔が赤くなる。
先生にバレないようにぬいぐるみで隠す。
「あ、そうだ。忘れてた」
何かを思い出した先生は袖の中をゴソゴソ探り。
「これサクラに」
取り出したのはプレゼント用にラッピングされた袋。
うさぎを先生に預け、袋を開けて中に入っていたのを取り出して目を見開く。
「これって・・・」
とんぼ玉に桜が描かれた上品な簪。
「浴衣選んでる時に見つけてね。サクラに似合いそうだなぁって」
「で、でも浴衣も買ってもらったのに、貰えないわ・・・!」
「サクラが貰ってくれないと困る」
眉を下げて笑う先生に、私は手の中にある簪をぎゅう、と握る。
「ありがとうカカシ先生・・・」
「うん」
涙を滲ませて笑うと先生も笑ってくれる。
「でもちょっと私には大人っぽくない?」
よく見えるように家から漏れる光に照らす。
上品で大人っぽくて、12歳の私にはまだ無相応な気がする。
「来年か再来年か、それまた5年後か。その簪が自分に似合いそうだなって思ったら付けて見せてよ」
「え?」
「その浴衣に合うように買ったんだから。あと数年は着れるんじゃない?」
にこり、と微笑む先生。
「見せるだけ?」
「まさか。今日みたいにデートしてちょーだいよ」
そんなすぐみたいに言うけど。
きっとこれが似合うのって当分先よ?
その時も居てくれるの?
嬉しくて頬が緩んでしまう。
「私が大人になった時ってきっとものすごく美人になってるわよ?そしたら他の男が放っておかないわ。おじさんの先生はその男達に勝てるわけ?」
「おじさん・・・ま、何とかして勝ち取るよ。オレの大事なお姫様をそこいらの奴に渡す気はないからね」
照れ隠しに行った言葉に先生が肩を落として落ち込むので申し訳なるも、そんな姿に笑いが溢れる。
「なら、ちゃんと先生も他の女の人に目移りしないで待っててよ?」
「もちろん。楽しみにしてる」
先生が小指を差し出してくるので、私も小指を絡ませて指切りをする。
私はずっと先生の側にいれるんだと嬉しくてなってウサギを抱きしめて家への階段を駆け上る。
「じゃあまた明日ね、カカシ先生!」
「あぁ。腹出して風邪ひくなよ」
「ナルトじゃないんだからしないわよ!」
いー、と歯を見せると先生は「はは」と笑いながら私が家に入るのを見届けてくれる。
私は手を振って家の中に入り、ベランダまで走る。
サンダルを履いてベランダに出ると、気づいた先生が眉を下げて笑って手を振ってくれる。
私も振り返すと、先生は背を向けて人波の中に入っていった。
私は見えなくなるまで先生を見届けてから部屋に戻り、ベッドに寝そべって簪を見て、約束を思い出して嬉しくて悶える。
あぁ、早くその日が来ないかな。
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