short.2
任務終わり、気力も何も残っておらずトボトボと家路を歩いていると、偶々通りかかった公園のベンチに見知った髪色の少女を見つけた。
「サクラちゃん!」
「・・・ナルト」
駆け寄ってくるナルトの姿にサクラは弱々しく微笑む。
その顔にはいつもの元気さがなく心配になる。
「どうかした?元気ないけどさ」
「うん・・・」
サクラは曖昧に返事をしてそれ以上言わず、ナルトは隣に腰掛けて待っていると。
「ナルト」
「なに?」
「私、赤ちゃん出来たの」
「え!?」
サクラの言葉にナルトは思わず立ち上がり、サクラは苦笑する。
「だ、誰の・・・」
「カカシ先生」
目を伏せながらハッキリとした言葉を口にしたサクラに、2人が身体の関係にあるという噂を知っているナルトは何と言ったらいいのか分からず黙ってしまう。
「・・・カカシ先生は知ってるの?」
「ううん。言ってない」
「なんで!?」
「だって迷惑でしょ?付き合ってもいない、何人もいるオトモダチの1人が赤ちゃん出来たから責任取れって言ってきたら。ただでさえ元教え子で面倒なのに」
「そんなこと・・・」
ない、とはハッキリ言えなかった。
人が良さそうに笑いながら心の中に誰も入れようとせず本心を見せない男の考えていることが分からなかったから。
「私、今日里を出ることにしたの」
「えっ」
「綱手様に相談したの。呆れられたけど、長期の任務ってことにしてもらえて遠い小さい村で産んで育てることにした」
「・・・戻ってくるんだよね?」
「さぁ。どうかしら」
サクラは空を見ながら笑う。
その横顔から1人で育てるという強い意志が伝わってくる。
もう彼女と会えない、でも自分には止める権利はない。
あるとしたら──。
「じゃあね、ナルト」
サクラはナルトの返事も聞かずにその場を立ち去った。
夜、自分の部屋で里を出る準備をしていると後ろの窓が突然開く音がした。
鍵を閉めることを忘れていたことに気づいて小さく、それでも相手に聞こえるようため息を吐く。
いつも窓から入ってくる男のために鍵を開けっぱなしにしているのが習慣となっていた。
「何か用ですか、カカシ先生」
振り返らず、荷物を詰めながら窓から動かない男に聞く。
「ナルトから聞いた」
「あのバカ・・・」
カカシの言葉にサクラは頭を抱える。
そりゃ黙ってろと言ってないし、あいつが大人しくしてるとは思えなかったけど。
サクラは綱手からの提案後、すぐに行動に移した。
いきなりの引き継ぎにいのには怒られたけど、理由を話したら涙ぐみながら祝福してくれた。
ナルトも次会ったら同じように、戸惑いながら祝福をしてくれるだろう。
──ならこの男は?
サクラは何を言われるか分かっている。
だから拒絶の言葉が耳に入る前に急いで荷物を纏めて背負う。
「じゃあね、先生」
ナルトと同じ言葉で違う重みを贈る。
これで2人の関係は終わったのだ。
部屋を出るサクラを引き止める言葉はなかった。
****
あれからサクラは夜のうちに里を出て、綱手の紹介である村で過ごすようになった。
小さな集落なだけあって皆人当たりが良く、身重のサクラの事情を聞かなくても快く迎え入れてくれた。
医療忍術を学んでいたこともあり、体調が良い時には医師として住人と交流を深めていた。
住人の中に、サクラより少し年上の女性がいてお腹に新たな命を宿していた。
同じ妊婦として色々話しているうちに仲良くなり、2人目の子供ということで初めてのサクラに色々教えてくれた。
頼もしい存在ではあるが、仲睦まじい夫婦と子供を見ているとその眩しい光景から目を逸らしたくなってしまう。
──もし、自分の気持ちを真っ直ぐ伝えていたら。もし、あの人から逃げなかったらこんな景色が私にもあったのだろうか。
そんなあるはずのない未来を考えてしまう自分に笑い、だんだん大きくなるお腹を愛おしく撫でる。
別にいいじゃないか、好きな人との子供がここにいるだけで。
それだけで幸せなのだから。
サクラは目尻を拭い、お腹の赤ちゃんに心配かけないように笑みを浮かべた。
それから出産を迎え、無事に銀髪の女の子が産まれた。
自分から産まれてきた、カカシにそっくりな子。
サクラは産声を上げる娘を強く抱きしめた。
心配しているであろう綱手に産まれたことを記した文を出し、次の日の朝、帰ってきた伝書鷹の脚に括り付けられた文を読んで瞠目する。
『心配かけまいとしていたが、カカシが1ヶ月前から消息不明』
サクラの顔面から血の気が引いた。
思わず探しに行きたくなったが、自分の両腕の重さに想いを飲み込み、ギュッと娘を抱きしめた。
不安が伝わったのか、心配そうにサクラに手を伸ばすので、その小さな手を握りしめて微笑む。
──大丈夫、大丈夫。カカシ先生だもの。
サクラは娘を抱えて、村で1番高い丘に行く。
そして木ノ葉がある方を見て目を瞑り、カカシの安全を祈っていると。
「その子がオレの子?」
近くの茂みからいきなり声が聞こえ、距離を取って警戒する。
今のこの子を守れるのは自分しかいない。
いつでも逃げれるように身構えていると、茂みが揺れて現れた人影に体から力が抜ける。
何故なら先ほどの文で行方不明と書かれていたカカシがボロボロの身なりで現れたから。
「か、カカシ先生!?なんでここにいるの!?」
「なんでって、その子とサクラに会いに来たに決まってるでしょ。綱手様がサクラがいる場所教えてくれないから、別の任務で崖から落ちて川に流されるフリして抜け出してきちゃった。なかなか見つからないから大変だったよ」
はは、と悪びれもなく笑うカカシに、サクラは拳にチャクラを溜めて思い切り頭に拳を落とした。
「この、バカ!」
「バカって、ひどいなぁ」
「バカにバカって言って何が悪いのよ!こんな、里に迷惑かけて、抜け忍と見做されて暗部を送られたら・・・」
「だいじょーぶ。綱手様にはちょこちょこ文送ってたし」
「え!?でも師匠から消息不明って・・・」
「サクラがこんなバカなことして呆れてたからね。仕返しじゃない?」
まぁオレも怒られたけど、と笑うカカシにサクラは呆気に取られる。
そんなサクラを気にせずカカシは2人の頭を撫でる。
久しぶりの優しくて大きな大好きな手。
里を出ると決めてから泣かないようにしていたのに。
我慢できなくなって翡翠の瞳からボロボロと涙が溢れる。
まだハッキリ見えていないはずなのに、ちゃんと父親と分かっているのか赤子はカカシの顔を見て笑みを浮かべた。
「一緒に帰ろう。オレたちの家に」
サクラはしゃくり上げながら頷くとカカシは2人を優しく抱き寄せた。
「もう離さないよ」
「サクラちゃん!」
「・・・ナルト」
駆け寄ってくるナルトの姿にサクラは弱々しく微笑む。
その顔にはいつもの元気さがなく心配になる。
「どうかした?元気ないけどさ」
「うん・・・」
サクラは曖昧に返事をしてそれ以上言わず、ナルトは隣に腰掛けて待っていると。
「ナルト」
「なに?」
「私、赤ちゃん出来たの」
「え!?」
サクラの言葉にナルトは思わず立ち上がり、サクラは苦笑する。
「だ、誰の・・・」
「カカシ先生」
目を伏せながらハッキリとした言葉を口にしたサクラに、2人が身体の関係にあるという噂を知っているナルトは何と言ったらいいのか分からず黙ってしまう。
「・・・カカシ先生は知ってるの?」
「ううん。言ってない」
「なんで!?」
「だって迷惑でしょ?付き合ってもいない、何人もいるオトモダチの1人が赤ちゃん出来たから責任取れって言ってきたら。ただでさえ元教え子で面倒なのに」
「そんなこと・・・」
ない、とはハッキリ言えなかった。
人が良さそうに笑いながら心の中に誰も入れようとせず本心を見せない男の考えていることが分からなかったから。
「私、今日里を出ることにしたの」
「えっ」
「綱手様に相談したの。呆れられたけど、長期の任務ってことにしてもらえて遠い小さい村で産んで育てることにした」
「・・・戻ってくるんだよね?」
「さぁ。どうかしら」
サクラは空を見ながら笑う。
その横顔から1人で育てるという強い意志が伝わってくる。
もう彼女と会えない、でも自分には止める権利はない。
あるとしたら──。
「じゃあね、ナルト」
サクラはナルトの返事も聞かずにその場を立ち去った。
夜、自分の部屋で里を出る準備をしていると後ろの窓が突然開く音がした。
鍵を閉めることを忘れていたことに気づいて小さく、それでも相手に聞こえるようため息を吐く。
いつも窓から入ってくる男のために鍵を開けっぱなしにしているのが習慣となっていた。
「何か用ですか、カカシ先生」
振り返らず、荷物を詰めながら窓から動かない男に聞く。
「ナルトから聞いた」
「あのバカ・・・」
カカシの言葉にサクラは頭を抱える。
そりゃ黙ってろと言ってないし、あいつが大人しくしてるとは思えなかったけど。
サクラは綱手からの提案後、すぐに行動に移した。
いきなりの引き継ぎにいのには怒られたけど、理由を話したら涙ぐみながら祝福してくれた。
ナルトも次会ったら同じように、戸惑いながら祝福をしてくれるだろう。
──ならこの男は?
サクラは何を言われるか分かっている。
だから拒絶の言葉が耳に入る前に急いで荷物を纏めて背負う。
「じゃあね、先生」
ナルトと同じ言葉で違う重みを贈る。
これで2人の関係は終わったのだ。
部屋を出るサクラを引き止める言葉はなかった。
****
あれからサクラは夜のうちに里を出て、綱手の紹介である村で過ごすようになった。
小さな集落なだけあって皆人当たりが良く、身重のサクラの事情を聞かなくても快く迎え入れてくれた。
医療忍術を学んでいたこともあり、体調が良い時には医師として住人と交流を深めていた。
住人の中に、サクラより少し年上の女性がいてお腹に新たな命を宿していた。
同じ妊婦として色々話しているうちに仲良くなり、2人目の子供ということで初めてのサクラに色々教えてくれた。
頼もしい存在ではあるが、仲睦まじい夫婦と子供を見ているとその眩しい光景から目を逸らしたくなってしまう。
──もし、自分の気持ちを真っ直ぐ伝えていたら。もし、あの人から逃げなかったらこんな景色が私にもあったのだろうか。
そんなあるはずのない未来を考えてしまう自分に笑い、だんだん大きくなるお腹を愛おしく撫でる。
別にいいじゃないか、好きな人との子供がここにいるだけで。
それだけで幸せなのだから。
サクラは目尻を拭い、お腹の赤ちゃんに心配かけないように笑みを浮かべた。
それから出産を迎え、無事に銀髪の女の子が産まれた。
自分から産まれてきた、カカシにそっくりな子。
サクラは産声を上げる娘を強く抱きしめた。
心配しているであろう綱手に産まれたことを記した文を出し、次の日の朝、帰ってきた伝書鷹の脚に括り付けられた文を読んで瞠目する。
『心配かけまいとしていたが、カカシが1ヶ月前から消息不明』
サクラの顔面から血の気が引いた。
思わず探しに行きたくなったが、自分の両腕の重さに想いを飲み込み、ギュッと娘を抱きしめた。
不安が伝わったのか、心配そうにサクラに手を伸ばすので、その小さな手を握りしめて微笑む。
──大丈夫、大丈夫。カカシ先生だもの。
サクラは娘を抱えて、村で1番高い丘に行く。
そして木ノ葉がある方を見て目を瞑り、カカシの安全を祈っていると。
「その子がオレの子?」
近くの茂みからいきなり声が聞こえ、距離を取って警戒する。
今のこの子を守れるのは自分しかいない。
いつでも逃げれるように身構えていると、茂みが揺れて現れた人影に体から力が抜ける。
何故なら先ほどの文で行方不明と書かれていたカカシがボロボロの身なりで現れたから。
「か、カカシ先生!?なんでここにいるの!?」
「なんでって、その子とサクラに会いに来たに決まってるでしょ。綱手様がサクラがいる場所教えてくれないから、別の任務で崖から落ちて川に流されるフリして抜け出してきちゃった。なかなか見つからないから大変だったよ」
はは、と悪びれもなく笑うカカシに、サクラは拳にチャクラを溜めて思い切り頭に拳を落とした。
「この、バカ!」
「バカって、ひどいなぁ」
「バカにバカって言って何が悪いのよ!こんな、里に迷惑かけて、抜け忍と見做されて暗部を送られたら・・・」
「だいじょーぶ。綱手様にはちょこちょこ文送ってたし」
「え!?でも師匠から消息不明って・・・」
「サクラがこんなバカなことして呆れてたからね。仕返しじゃない?」
まぁオレも怒られたけど、と笑うカカシにサクラは呆気に取られる。
そんなサクラを気にせずカカシは2人の頭を撫でる。
久しぶりの優しくて大きな大好きな手。
里を出ると決めてから泣かないようにしていたのに。
我慢できなくなって翡翠の瞳からボロボロと涙が溢れる。
まだハッキリ見えていないはずなのに、ちゃんと父親と分かっているのか赤子はカカシの顔を見て笑みを浮かべた。
「一緒に帰ろう。オレたちの家に」
サクラはしゃくり上げながら頷くとカカシは2人を優しく抱き寄せた。
「もう離さないよ」
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