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short.2

ある日、私は執務室を訪れた。
唐突に現れた私にカカシ先生とシカマルは驚いたような顔をしている。
恐らくそれは私の暗い顔のせいかもしれない。
2人は目配らせをし、シカマルは何も言わず部屋を出ていき、部屋の中で私たち2人きりになる。
チラッと顔を上げると、先生は火影でも上司でもない、恋人の顔で微笑んで私の話を待っている。
その顔が辛くてギュッとスカートを掴み、重い口を開く。

「別れて欲しいの」

先生は‪目を瞬かせ、怖い顔をする。

「だめ」
「どうして・・・」
「サクラこそ何でそんなこと急に言い出すんだ」
「それは・・・」

先生の質問に言葉を詰まらせ、目を真っ直ぐ見れなくて顔を逸らす。
私と先生が恋人になって半年が経つ。
私たちが出会って6年が経ち、それだけ長くいればお互いに居心地が良くて、側にいるのが当たり前になっていた。
ある日、先生に唐突に付き合おうかと言われて、当たり前のように承諾した。
それから手を繋いてデートしたら家で2人きりで過ごしたり。
変わったのに何も変わらないのが好きだった。

でも、私たちは何していない。
キスも、それ以上のことも。
最初は何ともなかったけど、半年ともなると不安に駆られてしまう。
それに、この間くノ一達が噂しているのが聞こえてしまった。

『六代目が女性と親しそうにしていた』

それだけだったらただの噂だと切り捨てられたのに。
でも先日、仕事から帰っていると繁華街で先生が知らない女性と仲睦まじく歩いているのを見てしまい、あまりのショックにその夜は身体中から水分が無くなるのではないかと思うぐらい泣き続けた。
それから色々考えて覚悟を決めたのだ。
先生に好きな人が出来たなら身を引こうと。
だけどそのことを先生に言っても素直に言うはずがないと踏んだから自分から別れ話を切り出したのに。
こうなったら。

「・・・他に好きな人が出来たの」
「──誰だ」
「えっ」

聞いたことのない声の低さに顔を上げると、冷たい目がこちらを射抜いていて冷や汗が流れる。

「だ、誰でもいいでしょ」
「教えれないなら別れないよ」
「〜〜もういい!!」

それ以上先生の瞳に見つめられると心の中を見透かされそうで、私は執務室を飛び出した。


私は別の作戦を実行することにした。
どうやら私はモテるらしい。
そのことに気づいたのはナルトが修行の旅から帰ってきて暫くした頃。
病院の同僚や患者さんから親しそうにしていた男は誰だと詰め寄られたことが何回かあった。
何年も里を離れて背格好が変わったことでナルトだと気づかない人が多いらしくて、ナルトだと言えば男達は何とも言えない顔をしていた。
それを何回か繰り返していれば自分は異性に好意をもたれるタイプなんだと気付く。
今回は申し訳ないけど先生と別れるためにその人を利用させてもらおうと考えた。


それから数日、男が私の網に引っかかってくれた。
やきもち焼きのカカシ先生と付き合うようになってから男の人とできるだけ親しくならないように距離を取るようになっていたから、少しのボディタッチと笑顔でコロリと転がってくれた。
心の中で何度も謝罪をし、その人と食事に行くことになった。
私と先生が付き合っていることは公にしていないから、男はデレデレと自分を中心に話をして私は愛想笑いをする。
これで気をよくして仲良くなれば別れる口実に──。
そんなことを考えていると、いきなり後ろから強い力で腕を掴まれて蹌踉ける。
ビックリして振り返ると、そこには怖い顔をして男を睨む先生が立っていた。
さすが火影といったところなのか、全く気配を感じなくて私たちが目を丸くしていると先生は何も言わずに私を抱き抱えて屋根の上に飛んだ。

そのまま部屋に連れ込まれ、玄関に入るなり壁に押し付けられて無理やりファーストキスを奪われる。
荒々しいその唇に、頭がクラクラして立っていられなくなっていると腰に腕が回り支えられる。
ようやく唇が離れた時、私は肩で息をしているのに先生は全く息が乱れていなくて変わらない冷たい目で見下ろしていた。

「アイツが好きなのか」
「そ、そうよ・・・」
「そうは見えなかったけど」
「これから好きになるの!」
「なんでそうまでして別れたがる」

責める先生の目に耐えれなくて重い口を開く。

「先生のためよ!他に好きな人が出来たって言ってくれないから。ちゃんと言ってくれたら、こんなこと・・・」

私は唇を噛み締めて涙が溢れないように我慢していると、

「・・・サクラは何のことを言ってるんだ?」
「え?」

先生の言葉に顔を上げると本当に分からないといった顔をしていた。
お互い首を傾げ、くノ一がしていた噂のことを話すと先生は呆れたように笑った。

「あれは水影だよ」
「え!?」
「木ノ葉の情勢を間近で見たいけどあのままの姿だとみんなが気を遣ってしまうだろ?だから変化してたんだ。で、何かあったら困るからオレが付き合ってたってわけ。不信がられないように仲良く見られるようにね」
「そう、だったんだ・・・」

ほっと胸を撫で下ろすと、頬を両手で持ち上げられて顔を上げさせられる。

「なんでそんなこと気になったの?」
「え・・・」
「サクラなら直接聞くでしょ。なんでこんな自分が身を引くようなことしたわけ?」
「そ、それは・・・」

顔を逸らしたくても挟まれているから無理で目だけ動かす。
先生の言うとおり、自分の性格からだったら真っ直ぐ問い詰めて吐かせていただろう。
でもそうしなかったのは、もし問い詰めて自分に気持ちがないと、もう好きじゃないって言われるのが怖かったから。
それならその言葉を聞かされる前に逃げようと思ったのだ。
好きな人が自分から離れていかれるのが怖かったんだ。
だってそれだけカカシ先生のことが好きだから。
でもこんなことを言うなんて恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じる。
それが分かったのか先生が小さく笑うのが分かり、目線を戻すと先生は嬉しそうに笑って顔を近づける。
先程は突然のことでよく見れなかったけど、至近距離の灰青の瞳に心拍数が早くなる。
キスしそうなところまで先生の顔がきて、先生の吐息を感じる。

「ねぇサクラ、教えて?」


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