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short.2

里の中を歩いていると人混みの中に見覚えのある薄紅色の髪を見つける。
人を探しているのか、周りを見ながら歩いている部下であり幼い恋人。
それが自分なら良いな、とニヤけながら気配を消して、まだ気づかないサクラを後ろから抱きしめた。

「サークラ!何やってんの」

肩が大きく跳ねる。
そしていつものように可愛らしく怒った顔を向けてくれると思いきや。
振り返ったサクラの顔は今まで見たことのない、カカシを蔑むように睨んでいた。
驚いて体を離すと、サクラは眉間に皺を寄せて舌打ちまでしてくる始末。
何でこんなにサクラが怒っているのか全く分からなかった。

──いや。

「もしかして、昨日の夜のこと怒ってる?嫌がるサクラを押さえつけて◯◯とか××したからか?でもあれはサクラが可愛いから悪いんだぞ?」

真昼の、しかも公衆の面前で卑猥な言葉を口にしたカカシに、サクラは唖然としてゴミ屑を見るような目を向けられた。
どうしたものか、と頭を捻っていると、いきなり後ろから背中を思い切り殴られた。
驚いて振り向くと、涙を溜めて真っ赤な顔で怒った顔をしているナルトだった。

「カカシ先生の馬鹿!!サスケくんになんてこと言ってるのよ!!」

怒鳴るナルトにまた驚く。
ナルトに怒られたことではなく、その内容だ。
いつもの彼からはありえない女言葉。
しかも今、誰にと言った?

「・・・ナルト、頭大丈夫か?こいつはサスケじゃなくてサクラだぞ?」

ナルトを見ながらサクラを指差すと、またサクラに舌打ちをされた。

「サクラは私よ!私たち入れ替わったの!!」



「・・・・・・は?」



****



あれからカカシたちはアカデミーの一室を借りて深刻な顔をしていた。

「・・・つまり、3人で階段から転げ落ちて、気づいたら人格が入れ替わっていたと」

組んだ指の上に顎を乗せて、真剣な顔でナルトの容姿をしたサクラに聞くと何度も頷く。
サクラの格好をしたサスケは椅子に踏ん反り返り、普段からはあり得ない行動だ。

「・・・ナルトが公園の階段から落ちそうになって、私とサスケくんが咄嗟に腕を掴んだけど結局3人一瞬に落ちちゃったの。そして気づいたら入れ替わってて・・・」

膝をピッタリくっ付けて、大人しく座る姿はガサツなナルトには一朝一夕でできることではない。
それに──。

「いやー!ただ歩いてただけで女の子にチヤホヤされてお菓子もくれてさー!ずっとこのままでもいいんじゃねー?あ、サスケ、これラブレターだってば」

満面の笑みで嫌いな甘いお菓子を食べるサスケ、いやナルトはラブレターを眉間に皺を寄せたサスケに渡す。
この光景を見せられて冗談でしたと言われる方が無理だ。
カカシは頭を抱えてため息を吐く。

「・・・この状態の3人を病院に連れて行っても治る保障がないからなぁ・・・」
「そんなぁ・・・!じゃあどうするのよカカシ先生!」

サクラはカカシの服を掴んで縋り、目を潤ませる。
いつもならこんな可愛いサクラを見たらマスクの下はだらしないほど緩むのに、今縋っているのはナルトの見た目をしたサクラだ。
まったく興奮しない。
サクラの中身と見た目があってこそ最高に可愛いのだと実感した。

「安心しろ。1つだけ解決策がある」
「・・・解決策?」



****



4人は知り合いに捕まらないように人目を気にしながら歩き、小高い公園にたどり着いた。

「・・・ねぇ、先生。本当にするの・・・?」

サクラは顔を上げて、不安そうに横に立つカカシを見る。
カカシはそんなサクラの頭を撫でて安心させる。

「こうなった原因が3人一緒に落ちたからなら、また一緒に落ちたら元に戻るかもしれないだろ?」
「そう、だけど・・・」

サクラは階段の下を見て喉を鳴らす。
あの時は必死だったから見る余裕はなかったが、自分の意思で落ちると思ったらあまりの高さに足が怯む。
そんなサクラの手をカカシは優しく握る。

「怖いならオレも一緒に落ちてあげるから。それなら怖くないか?」
「うん・・・」

カカシの微笑みに、サクラはほっとして頷いた。
4人は手を繋いで一列に並ぶ。

「それじゃ行くぞ。3、2、1、0!」

カカシの合図に皆が階段の上から飛んだ。





「ん、んぅ・・・」

強い衝撃に意識を失っていたサクラは目を覚ます。
あちこち体が痛い。
何で痛いんだっけ、と考えて、さっきみんなで飛び降りたことを思い出して起き上がる。

「やった、これで・・・!」

サクラは自分のところどころ傷が出来ている手を見る。
その手は白く、子供の手・・・

「戻ってない!え、私サスケくんになってる!?」

慌てて立ち上がり、自分の格好を確認する。
自慢のロングヘアは黒髪に、赤いチャイナ服は紺色の半袖に白い半ズボン。
誰がどう見てもサスケだった。
確かに入れ替わったけど、戻ってないと意味がない。

「う・・・」

近くから唸り声が聞こえ見ると、ナルトが頭を抱えて起きあがろうとしてた。

「ナルト・・・?」

恐る恐る声をかけると、いつも笑顔の少年は私を見て眉間に皺を寄せる。

「・・・お前、誰だ」
「今度はサスケくんがナルトになってる!」
「まさか、お前サクラか・・・?あのくそ教師。戻ってねえじゃねえか」

チッ、と舌打ちをするサスケ。
サスケがナルトということは。

「わー!オレってばカカシ先生になってるー!!背たっけー!あ!つまり素顔見放題ってことじゃね?」

サスケの後ろに倒れていたカカシは起き上がると元気そうに飛び跳ねていた。
サクラがサスケ、サスケがナルト、ナルトがカカシ。
と、いうことは・・・。

「ふふ、ふふふふ・・・」

サクラの後ろで不気味が笑い声が聞こえ振り向くと、薄紅色の髪の少女が座って自分の手を見ていた。

「サクラだ・・・サクラの体だ・・・これでサクラに普段は嫌がられるあんなことやそんなことが出来る・・・」
「か、カカシ先生・・・?」

不穏なことを言っているカカシにサクラが声をかけると、カカシはにっこり微笑んで立ち上がるなり、

「オレはこれから用事があるから、これにてドロン」

今までカカシがいたところには煙が立ち込め、一瞬で居なくなった。
あっという間の出来事にサクラは唖然とする。

──あの男、今何て言った?
私の体であんなことやそんなこと・・・?


「ちょっとおぉぉぉぉ!!待ちなさいよ、カカシ先生ーーーー!!」






任務終わりのいのとシカマル、チョウジとアスマは不思議な光景を目にしていた。
満面の笑みで軽やかに屋根の上を飛ぶサクラと、それをすごい形相で追いかけるサスケとナルト。
そしてガイと楽しそうに肩を組んで歩いているカカシを。



中身が上忍とはいえ、器は体力のないサクラの体。
すぐにサクラとサスケに捕まったカカシと、ガイに勝負を挑まれて全力で楽しみ素顔を見るという最初の目的を忘れたナルトは、また階段から転がり落ちて無事に元に戻ったとか。


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