short.2
「──シ。カカシ、起きなさい」
すごく懐かしい声がする。
もう十何年も聞いていない、大好きだった声。
ゆっくりと眼を開けると、外からの陽に眩しさに顰める。
「おはよう。ようやく起きたね」
「父さん・・・」
目を開けるとそこには自分に似た父親がこちらを覗いて微笑んでいた。
目を擦りながら体を起こす。
「今何時・・・」
「8時半。珍しいな、カカシが寝坊するなんて。朝食用意してるから早く食べてしまいなさい」
「うん・・・」
父さんは肩から落ちたエプロンを直してキッチンに向かう。
それは亡くなった母が買ってくれたという、花柄のピンクのエプロン。
いい歳した男が着るにはどうなのか、と昔聞いたことがあるが「母さんがくれたものだから」と惚気話を聞かされてそれっきりだ。
ベッドから降りて洗面所で歯を磨く。
眠た気な眼で鏡に映る自分を見る。
──そういえば起きた時、変なこと考えてたな。
父さんの声が懐かしいとかどうとか。
うーん、と唸りながら時間がないことを思い出して水を口に含んで吐き出した。
それから急いで準備をして家を出る。
時間までまだあるな、と屋根の上を飛ばずに里の中を歩いていると。
「あー!カカシせんせー!」
後ろから大きな声で呼ばれて振り向くと、太陽でキラキラと輝く金色の髪の男2人。
「ミナト先生、ナルト」
「おはよう、カカシ」
「おはようございます。珍しいですね、先生がまだ執務室にいないの」
「ん。全員でちょっと寝坊しちゃってね。まぁたまにはこんな日もね」
先生はポンと隣のナルトの頭を撫でる。
彼にソックリな見た目だがランランと目を輝かせる活発な瞳は母親譲りだ。
「なぁなぁカカシ先生!今度千鳥教えてくれってばよ!」
昔、ミナト先生に言われてナルトに忍術を教えてから何故かカカシ先生と呼ばれるようになった。
最初は違和感があったがいつの間にかそれが普通になっていて嫌な気はしない。
「お前には螺旋丸があるでしょーが」
「螺旋丸だけじゃダメなんだってばよ!なぁなぁ、良いだろ?」
「こらナルト。カカシを困らせるのは止めなさい」
「てっ!」
ミナト先生がナルトの頭を軽く殴る。
ナルトは頭を摩りながら不満気に口を尖らせる。
「だって、サクラちゃんが・・・」
「"サクラちゃん"?」
初めて聞く名前に聞き返すと、ナルトは満面の笑みになる。
「同じ班の女の子!アカデミーの頃から好きな女の子で、同じ班になれてさー!毎日すっごい楽しいんだ!」
「へぇ」
ナルトは今年の春から下忍として任務に出ることになり、スリーマンセルで組んだ中に好きな子がいるらしい。
小さい時からずっとオレの後ろを着いてきていた少年の恋バナを聞く日が来たのか…と少し感慨深くなる。
そしてそのサクラちゃんにも好きな人がいるらしく、それがイタチの弟のサスケらしい。
ナルトはサスケが気に入らないらしくずっと文句を言っている。
サスケには前にオレの術の千鳥を教えたことがある。
暗部の任務で使った話をイタチから聞いたらしく、教えろよと偉そうにお願いしてきたのだ。
イタチが褒めていた術を使いたいという、なかなかに重症なブラコンだ。
確かに生意気でオレを呼び捨てしてくるが、可愛いところもあって憎めない。
そんなことを考えていると。
「あ!サスケ!」
ナルトがオレの後ろに向かって大声で呼ぶ。
振り向くと、こちらに気づいて嫌そうな顔をするサスケとオレの同期のオビトがいた。
オビトがこちらに向かってくるので、一緒にいたサスケも嫌々付いてくる。
「よー。こんなところで集まってどうしたんだよ」
「これからオレとカカシは仕事だよ。そっちも2人で歩いてるなんて珍しいね?」
「オレがばーちゃんに捕まって、ちょうどサスケが通ったから一緒に世間話に付き合って貰ってたんですよ。いやー、同じ一族ってのは楽だよなー」
「・・・チッ」
オビトがサスケの背中をバシッと叩くとサスケは心底嫌そうに舌打ちをする。
うちは一族は里の一画で町のように一族纏まって住んでいるので、同じうちはのサスケはちょくちょくオビトにこき使われている。
このサスケが素直に従うのはイタチに強く念押しされているらしく、オビトはそれを都合よく使っているということだ。
「なぁなぁオビト先生!」
「何だよ」
「今日の任務はオレがサスケより活躍出来るやつだよな!」
「はぁ?今日は迷い猫の任務だっての」
「迷い猫ー!?そんなんより敵をボコスカ殴るやつがいいってばよ!」
「ナルト」
ミナト先生が低い声で名前を呼ぶと、ナルトは肩を跳ねさせて恐る恐る振り向く。
「ナルト、何度も話したよね。任務はどの任務でも大事で依頼人の信頼で任せてもらってるものなんだよ。君たち下忍はまだまだなんだから、地道にコツコツと任務を積んでいきなさいって」
「・・・・・・」
あまり怒らないミナト先生に諭されて、ナルトは頬を膨らませる。
火影として簡単な任務を無碍に扱うのは許せなかったのだろう。
不満気な顔のナルトに先生は失笑してサスケを見る。
「ごめんね、サスケくん。この子、サスケくんが気になって気になってしょうがないみたいなんだよね」
「!!気になってなんかないっての!父ちゃんのアホ!」
「おいナルト!ミナト先生になんて口聞いてんだ!」
「ぎゃん!!」
顔を真っ赤にしてミナト先生に歯向かうナルトに、オビトは思い切りゲンコツを食らわせる。
ナルトはしゃがみこんで頭を押さえながら悶えていると。
「あー!こんなところにいた!!」
甲高い大声に全員がその方向を見ると、珍しいピンク色の髪の少女がズンズンと足を鳴らすように近づいてくる。
顔を上げたナルトの顔がパァ!と輝く。
「サクラちゃん!」
あぁ、この子が"サクラちゃん"。
薄紅色の髪と新緑の葉のような瞳。
まさに名は体を表していた。
少女はナルトを睨んでミナト先生に頭を下げる。
「おはようございます。火影様」
「おはよう、サクラちゃん」
ニコニコ先生は笑って挨拶を返す。
そして少女はオレを見て、すぐに目を逸らして頭を下げる。
「おはようございます」
「・・・オハヨウ」
礼儀正しいのか一応挨拶はするがその瞳はいかにも怪しい人を見る目だった。
まぁ分かるけどね。
「おー、サクラどうしたんだ?」
「どうしたじゃないですよ!待ち合わせの時間になっても誰も来ないから探しにきたんじゃないですか!」
「・・・あれ?もうそんな時間か?悪いなーサクラ」
「もう・・・オビト先生っていつも時間にルーズなんだから。ほら、早く任務終わらせないと日が暮れますよ」
「よし!お前ら任務に行くぞ!」
「おー!」
オビトの合図にナルトは元気に返事をして、少女とサスケは呆れたようにその後に付いていく。
4人の背中を見送り、ミナト先生は微笑む。
「本当元気だよね、あの子達は。さ、行こうかカカシ」
「・・・はい」
先生が歩き出し、その後を付いて行こうとして振り返る。
ナルトとサスケが喧嘩してそれを止めるオビトと少女。
遠くなるその小さい背中を見て、何故か胸が締め付けられる。
父さんもいて、先生やクシナさん、オビトもイタチもいて。
ナルトは両親と元気に過ごして、サスケも兄と共にいれて。
みんながいて幸せな日々なのに。
胸のどこかに穴が開いているような。
とてつもなく大事なものが手元をすり抜けたような。
そんな感覚を覚えた。
すごく懐かしい声がする。
もう十何年も聞いていない、大好きだった声。
ゆっくりと眼を開けると、外からの陽に眩しさに顰める。
「おはよう。ようやく起きたね」
「父さん・・・」
目を開けるとそこには自分に似た父親がこちらを覗いて微笑んでいた。
目を擦りながら体を起こす。
「今何時・・・」
「8時半。珍しいな、カカシが寝坊するなんて。朝食用意してるから早く食べてしまいなさい」
「うん・・・」
父さんは肩から落ちたエプロンを直してキッチンに向かう。
それは亡くなった母が買ってくれたという、花柄のピンクのエプロン。
いい歳した男が着るにはどうなのか、と昔聞いたことがあるが「母さんがくれたものだから」と惚気話を聞かされてそれっきりだ。
ベッドから降りて洗面所で歯を磨く。
眠た気な眼で鏡に映る自分を見る。
──そういえば起きた時、変なこと考えてたな。
父さんの声が懐かしいとかどうとか。
うーん、と唸りながら時間がないことを思い出して水を口に含んで吐き出した。
それから急いで準備をして家を出る。
時間までまだあるな、と屋根の上を飛ばずに里の中を歩いていると。
「あー!カカシせんせー!」
後ろから大きな声で呼ばれて振り向くと、太陽でキラキラと輝く金色の髪の男2人。
「ミナト先生、ナルト」
「おはよう、カカシ」
「おはようございます。珍しいですね、先生がまだ執務室にいないの」
「ん。全員でちょっと寝坊しちゃってね。まぁたまにはこんな日もね」
先生はポンと隣のナルトの頭を撫でる。
彼にソックリな見た目だがランランと目を輝かせる活発な瞳は母親譲りだ。
「なぁなぁカカシ先生!今度千鳥教えてくれってばよ!」
昔、ミナト先生に言われてナルトに忍術を教えてから何故かカカシ先生と呼ばれるようになった。
最初は違和感があったがいつの間にかそれが普通になっていて嫌な気はしない。
「お前には螺旋丸があるでしょーが」
「螺旋丸だけじゃダメなんだってばよ!なぁなぁ、良いだろ?」
「こらナルト。カカシを困らせるのは止めなさい」
「てっ!」
ミナト先生がナルトの頭を軽く殴る。
ナルトは頭を摩りながら不満気に口を尖らせる。
「だって、サクラちゃんが・・・」
「"サクラちゃん"?」
初めて聞く名前に聞き返すと、ナルトは満面の笑みになる。
「同じ班の女の子!アカデミーの頃から好きな女の子で、同じ班になれてさー!毎日すっごい楽しいんだ!」
「へぇ」
ナルトは今年の春から下忍として任務に出ることになり、スリーマンセルで組んだ中に好きな子がいるらしい。
小さい時からずっとオレの後ろを着いてきていた少年の恋バナを聞く日が来たのか…と少し感慨深くなる。
そしてそのサクラちゃんにも好きな人がいるらしく、それがイタチの弟のサスケらしい。
ナルトはサスケが気に入らないらしくずっと文句を言っている。
サスケには前にオレの術の千鳥を教えたことがある。
暗部の任務で使った話をイタチから聞いたらしく、教えろよと偉そうにお願いしてきたのだ。
イタチが褒めていた術を使いたいという、なかなかに重症なブラコンだ。
確かに生意気でオレを呼び捨てしてくるが、可愛いところもあって憎めない。
そんなことを考えていると。
「あ!サスケ!」
ナルトがオレの後ろに向かって大声で呼ぶ。
振り向くと、こちらに気づいて嫌そうな顔をするサスケとオレの同期のオビトがいた。
オビトがこちらに向かってくるので、一緒にいたサスケも嫌々付いてくる。
「よー。こんなところで集まってどうしたんだよ」
「これからオレとカカシは仕事だよ。そっちも2人で歩いてるなんて珍しいね?」
「オレがばーちゃんに捕まって、ちょうどサスケが通ったから一緒に世間話に付き合って貰ってたんですよ。いやー、同じ一族ってのは楽だよなー」
「・・・チッ」
オビトがサスケの背中をバシッと叩くとサスケは心底嫌そうに舌打ちをする。
うちは一族は里の一画で町のように一族纏まって住んでいるので、同じうちはのサスケはちょくちょくオビトにこき使われている。
このサスケが素直に従うのはイタチに強く念押しされているらしく、オビトはそれを都合よく使っているということだ。
「なぁなぁオビト先生!」
「何だよ」
「今日の任務はオレがサスケより活躍出来るやつだよな!」
「はぁ?今日は迷い猫の任務だっての」
「迷い猫ー!?そんなんより敵をボコスカ殴るやつがいいってばよ!」
「ナルト」
ミナト先生が低い声で名前を呼ぶと、ナルトは肩を跳ねさせて恐る恐る振り向く。
「ナルト、何度も話したよね。任務はどの任務でも大事で依頼人の信頼で任せてもらってるものなんだよ。君たち下忍はまだまだなんだから、地道にコツコツと任務を積んでいきなさいって」
「・・・・・・」
あまり怒らないミナト先生に諭されて、ナルトは頬を膨らませる。
火影として簡単な任務を無碍に扱うのは許せなかったのだろう。
不満気な顔のナルトに先生は失笑してサスケを見る。
「ごめんね、サスケくん。この子、サスケくんが気になって気になってしょうがないみたいなんだよね」
「!!気になってなんかないっての!父ちゃんのアホ!」
「おいナルト!ミナト先生になんて口聞いてんだ!」
「ぎゃん!!」
顔を真っ赤にしてミナト先生に歯向かうナルトに、オビトは思い切りゲンコツを食らわせる。
ナルトはしゃがみこんで頭を押さえながら悶えていると。
「あー!こんなところにいた!!」
甲高い大声に全員がその方向を見ると、珍しいピンク色の髪の少女がズンズンと足を鳴らすように近づいてくる。
顔を上げたナルトの顔がパァ!と輝く。
「サクラちゃん!」
あぁ、この子が"サクラちゃん"。
薄紅色の髪と新緑の葉のような瞳。
まさに名は体を表していた。
少女はナルトを睨んでミナト先生に頭を下げる。
「おはようございます。火影様」
「おはよう、サクラちゃん」
ニコニコ先生は笑って挨拶を返す。
そして少女はオレを見て、すぐに目を逸らして頭を下げる。
「おはようございます」
「・・・オハヨウ」
礼儀正しいのか一応挨拶はするがその瞳はいかにも怪しい人を見る目だった。
まぁ分かるけどね。
「おー、サクラどうしたんだ?」
「どうしたじゃないですよ!待ち合わせの時間になっても誰も来ないから探しにきたんじゃないですか!」
「・・・あれ?もうそんな時間か?悪いなーサクラ」
「もう・・・オビト先生っていつも時間にルーズなんだから。ほら、早く任務終わらせないと日が暮れますよ」
「よし!お前ら任務に行くぞ!」
「おー!」
オビトの合図にナルトは元気に返事をして、少女とサスケは呆れたようにその後に付いていく。
4人の背中を見送り、ミナト先生は微笑む。
「本当元気だよね、あの子達は。さ、行こうかカカシ」
「・・・はい」
先生が歩き出し、その後を付いて行こうとして振り返る。
ナルトとサスケが喧嘩してそれを止めるオビトと少女。
遠くなるその小さい背中を見て、何故か胸が締め付けられる。
父さんもいて、先生やクシナさん、オビトもイタチもいて。
ナルトは両親と元気に過ごして、サスケも兄と共にいれて。
みんながいて幸せな日々なのに。
胸のどこかに穴が開いているような。
とてつもなく大事なものが手元をすり抜けたような。
そんな感覚を覚えた。
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