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short.2

「カカシ先生が好き」
「オレは本気にはならないよ。それでもいいなら」

それが私の告白へのカカシ先生の返事だった。
どういう意味なのかちゃんと聞けば良かったのに、受け入れられたことで浮かれていた私は当時そんなこと考えることもなかった。


その日から恋人同士になり、先生は心臓が落ち着かないほどに恋人として扱ってくれる。
その日に先生の部屋でキスをして初めてを捧げた。
痛くて苦しかったけど、ずっと優しく私のことを考えてくれて、好きな人に大事なものをあげれた幸福感は人生で一番かもしれない。
ナルトやいの、仲間達にも付き合っていることを伝え、驚かれたけどみんな祝福をしてくれた。
すごく幸せで、馬鹿みたいに浮かれていた時だった。

その日は師匠の手伝いで遅くなり、辺りはすっかり暗くなってしまった。
遅い時間に歩くことをお母さんは厳しくて、いつも帰ると小言を言われる。
それは女の子としての心配からだと知っているので、その時だけは素直に叱られる。
帰宅時間で人がたくさんいる中を、足早に人とぶつからないように歩いている時だった。
カカシ先生の声が前の方で聞こえてしまった自分の耳を恨みたい。
人を避けながら恋人の姿を見つけた。 その恋人の手は知らない綺麗な女の人の腰に回っていて、隙間がないほどにピッタリとくっ付いていた。
それは側から見たら仲の良い恋人同士。
目の前の光景に呆然としていると、視線に気付いたのか先生がこちらを見て目が合う。
たった数秒だろうその時間は私にとって1分、いやもっと長く感じた。
心臓が跳ねる音と自分の呼吸音しか聞こえない。

──先生、何か言って。名前を呼んでこっちに来て。

ギュッと胸を掴みながら願うも、先生は目が合ったにも関わらず顔色を変えずに前を向いて、隣の女の人と一緒に逢引き宿に入っていった。
その時ようやくあの時の先生の言葉を理解して、涙を拭いながら自分の家に帰った。



****



「昨日、カカシ先生が女の人と歩いてたのを見た」

あの夜から数日後、カカシ先生もヤマト隊長が別の用で任務に出ることが出来ないということで、部下の私たちは休暇を与えられた。
何もしないと先生のことを考えてしまうから綱手様の手伝いで書類整理をしていると、そこにナルトがやってきてぽつりと呟いた。
その表情は暗く、ナルトもあれを見たのだとすぐに気づき、書類に顔を戻す。
ナルトに真正面から向き合えそうにない。

「・・・そう」
「そう、ってサクラちゃんカカシ先生と付き合ってるんだろ!?」
「そうよ」
「ならなんで・・・」
「私の気持ちを受け止めてくれるから。私の側にいてくれるから。例え私だけじゃなくても、その時間だけは幸せだからいいの」

お互いの休みの日には先生の部屋に行って2人きりで過ごしてくれる。
時には外に一緒に買い物に行ったり、お泊まりをして身体を重ねて抱きしめて寝てくれる。
なんとなく、他の人は先生の部屋を出入りをしてる感じはない。
女の勘だけど。
私だけ、私だけが許された特別。
それだけがあれば少しのことでも目を瞑れる。
それに先生はちゃんと最初に忠告をしてくれた。
数いる相手の1人だとしても、先生の彼女になりたい。

「・・・そんなの、だめだ」
「ナルト?」

ナルトは苦しそうに顔を歪ませて私の手を掴んだ。
驚いて顔を見ると、初めて見る真剣な目にドキッとしてしまった。

「ダメだよサクラちゃん。そんなの幸せじゃない」
「・・・分かってる。それでも私は先生が好きなの」
「オレと付き合ってよ。先生のことが好きでもいい。オレがサクラちゃんのこと幸せにしてみせるから」
「・・・なる、と」

近づいてくる辛そうなナルトの顔。
手を強く掴まれているのもあるけど、そんな顔を見せられたら拒むことができない。
もう少しで唇が合わさるという時、ナルトに人影が現れ襟首を掴み、私から引き剥がすように引っ張った。
首が締まって咳き込むナルトの背中を摩りながら現れた人物の顔を見て、背筋が凍る。

「・・・カカシ先生」
「なーにやってんのお前は。サクラはオレの女だよ」

ナルトは殺気も込めて先生を睨むも、先生は痛くも痒くもないといった顔で微笑する。
私は笑っているのにその瞳の冷たさに言葉が出ない。

「それならちゃんとサクラちゃんを幸せにしてよ」
「お前には関係ないだろ。さっさと出ていけ。これ以上お前の顔を見たら殺しそうだ」

放たれた殺気に私がビクリと肩を震わせる。
上忍の本気の怒気にナルトも反射で一歩下がって悔しそうに顔を歪ませる。

「・・・サクラちゃん、またね」

ナルトは泣きそうな顔で私を見て、先生のことは一瞥することはなく部屋を出ていった。
その背中を見送っている隙に先生が一瞬で近づき、私の首を片手で緩く掴んんできて息を飲む。
顔を見ると、何を考えているのか分からない冷たい瞳。

「サクラ。避けようとしなかったね」
「か、カカシ先生・・・」

何をされるか分からない恐怖に怯える私を見て先生は微笑した。
先生の笑った顔は好きなのに、今は怖さしかない。

「お前が言ったんだろ、今の関係でもいいって。なのに他の男に言い寄られて靡いちゃって。オレへの気持ちはその程度だったわけ?」
「ち、違う。違うわ」
「いいよ。もう何言っても信じられない」
「先生・・・」

先生からの初めての拒絶に我慢していたものが涙から溢れて頬を流れる。
それを先生は甘いものを舐めるかのように頬に舌を這わせて舐めとった。

「もう、よそ見出来ないようにしちゃおうか」

首にグッと力を込めながら冷笑する先生の顔に、そんな顔でも好きだと、もう離れられないと悟って静かに目を閉じた。



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