short.2

「サクラ、この日空いてる?」

それは唐突だった。
同棲してる部屋にカカシが帰ってきたのを出迎えると、疲れた顔でそう言われた。

「空いてるけど、何かあるの?」

ソファーに座るカカシに温かいお茶を差し出すと、カカシはそれを飲んで幸せそうに息を吐いた。
疲弊しているからか、どことなく縁側でお茶を飲むおじいちゃんに見えてしまった。
まだ30代なのにね。
でもそれもしょうがない。
だってこの人は火影で徹夜が当たり前になっているほど里一忙しい人なのだ。

「お偉いさんにパーティとやらに招待されたんだが、何でもパートナー同伴じゃないといけないらしくてね」
「パーティって、西洋の?」
「そ。最近は近代化も進んで外国のものを色々取り入れようとしてんのよ。もうおじさんてんてこまい・・・」
「ふふ。お疲れ様、先生」
「ありがとね。で、サクラにオレのパートナーをお願いしたいんだけど。──恋人として」
「!!」

隣に座っていると前屈みでこちらの顔を覗いてくるカカシに胸がキュンとする。
不意打ちは卑怯だわ。

「・・・私で大丈夫かしら」
「サクラ以上に適任いないでしょ。それにサクラしか恋人いないし」
「・・・いたら握り潰すわよ」
「いませんって・・・で、お返事は?」

カカシは湯呑みを置いてサクラの手を取り指先にキスをする。
すごくキザなのに、なんでこんなにかっこよく見えてしまうんだろうか。

「・・・私で良ければ」
「ありがとう。サクラのドレス楽しみにしてる」

ちゅっと、今度は額にキスをされてイチャイチャタイムに突入するが、サクラの頭の中にはダイエットしかなかった。



****



それから1ヶ月。
今日はあのパーティの日だ。
仕事は休みを取り、化粧やらヘアスタイリングやらで準備に手惑いながら終わったタイミングで部屋のインターホンが鳴った。
パーティ会場に向かうためにカカシが呼びに来てくれることになっている。
誰かも確認せずドアを開けると、そこには高そうな銀色のスーツを着てボサボサの髪もしっかり整えられたカカシが立っていた。
顔はいつものように口布で隠していたけど、カカシじゃないような気がして見惚れていると、カカシもサクラを見て固まっている。
どこかおかしいのだろうか・・・

「せんせ・・・?どこか変?」
「・・・あ、いや、ごめん。綺麗すぎて見惚れてた」
「!!」

口布の上から手を当て目を逸らすカカシ。
サクラの格好はいのに相談して、年上のカカシの隣に立っても違和感のない黒のロングドレス。
オフショルタイプで胸元と袖がレースになっている。
化粧もそれに似合うような普段は付けない赤い口紅を。
少し大人っぽくし過ぎただろうかと不安に思っていたが、髪から覗く耳は赤く、嘘をついていないのが分かり、サクラの顔は真っ赤に染まる。

「あ、ありがとう・・・先生もかっこよくて素敵よ」
「ありがとう・・・それじゃ、行こうか」
「うん・・・」

カカシは照れくさそうに手を差し出し、サクラはその手を取ってパーティ会場へと向かった。




会場は最近出来たという洋風の建物だった。
カカシの腕に手を通してエスコートされながら煌びやかな部屋に入る。
色んな楽器を持っている人たちがいて、どうやらここでダンスをしたりする場所らしい。
未知の世界に惚けていると、知らない曲が流れ始めて、その場に居た男女が部屋の真ん中に集まり出す。
サクラもカカシに手を引かれて向かい合うように手を握られた時、これから何が起きるのかようやく分かった。

「せ、せんせ・・・!私、ダンスなんてしたことないわ・・・!」
「大丈夫。オレに任せて」

小声で何とか訴えるも、カカシはにこりと笑って音楽に合わせて動きだすのでサクラも慌てて足を動かす。
初めてながらも何とか音楽についていき、カカシにエスコートされるままその場で回される。
最初の不安が薄れてきてだんだんと楽しくなり、小声でカカシに話しかける。

「先生、踊れたのね。ビックリしちゃった」
「んー。この建物が出来た時に呼ばれたんだよ。それでその時もこんなふうに踊ってる人がいたから覚えちゃった」
「ふーん・・・写輪眼が無くなっても洞察力は相変わらずすごいのね。・・・その時は誰と参加したの?」
「してないよ。オレ1人。サクラがいるのに他の女の人をエスコートするわけないでしょ」

呆れたように笑うカカシに、サクラは嬉しそうに笑っていればあっという間に曲が終わってしまった。
飲み物貰いに行こう、とまたカカシに手を引かれ、ソファーに座るように促されカカシは1人離れていく。
慣れないヒールで足が痛いのを察したのだろう。
こういうさりげなさがカッコ良いのだ、あの人は。
バーテンダーに話しかけているカカシの背中に見惚れていたら目の前が翳り、顔を上げると見知らぬ男性が立っていた。

「こんにちは」
「こ、こんにちは・・・」

にこり、と人当たりが良さそうに笑う青年にサクラも口角を上げながらこっそり首を傾げた。
どこかで知り合った人だろうかと思って自慢の頭脳を働かせたがヒットせず。
もしかしてカカシの知り合い?偉い人?
下手なことできないわね、と唸っていると、目の前に手が差し出された。
驚いて顔を上げれば青年は先ほどのようににこりと笑った。

「もし良ければ僕とも踊ってくださいませんか?」
「え、あの・・・」

無下にできず、どう断ればいいのか分からずにいると、青年はサクラの手を取って無理やり立たせ、ホールの中央に向かおうとする。
どうしよう、と焦っていると、横から青年の腕を掴む手が現れる。
驚いて顔を向けると、片手にグラスを2つ持ったカカシが怖い顔で青年を睨んでいた。

「オレの連れが何か?」
「・・・いえ、失礼しました。」

すみません、と謝って青年はサクラの手を離して離れて行った。
一体何だったのかと思っていると、今度はカカシがサクラの手を引いて先ほどのソファーに座らされた。
そして渡されたオレンジジュースが入ってグラスを飲んで一息つく。
こういうところのジュースはスーパーのとは違って味が濃い。
きっと高いんだわと思っていると、隣に座っているカカシが深々とため息を吐いた。
あ、これは怒ってるな。

「なんで抵抗しないんだ」
「だ、だって。変に手を出して偉い人だったら、先生の顔に泥塗っちゃうと思ったから・・・」

カカシからの怒気に涙を溜めると、カカシはまたため息を吐く。
それにビクリとすると、カカシはサクラの方に体を傾け首筋に顔を埋めた。
すると首元でチクリと痛みが走った。
傷んだところをカカシはペロリと舐めて顔を離した。
何をされたかなど分からないほど初心ではない。
きっと赤くなっている首元を手で押さえるとカカシは目を細めて笑った。

「これで変な虫近づいてこないでしょ」
「ば、こんな目立つとこにつけて・・・!どうするのよ、隠すのないのに!」
「見えるように付けたんだって」

サクラのドレスは首元ががっつり開いてるからキスマークを隠すことができない。
ずっと手で押さえてたら注目の的だ。
きっ、と睨むとカカシがジャケットを脱いでサクラの肩にかけた。

「男が近づくたびに見えるように脱ぎなさいね」
「・・・そんな露出狂みたいに言わないで!」

バシッと叩くと近くを通りかかった人が驚いてこちらを見たので、何でもないと笑いながらサクラはカカシの腕をつねった。


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