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晴れ晴れとしたある日のこと。
六代目火影であるはたけカカシは阿吽の門の前で立っていた。
その隣にはすっかり大きくなったうずまきナルトと、春野サクラも同じように立ってある門の外を見ていた。
なぜ3人してそうしているのかというと・・・

「あ!」

ナルトの嬉しそうな声に、空を見上げていた顔を前に戻す。
阿吽の門から外へと続く道は一本道で、その奥から黒い人影が現れた。
その影はゆっくりとだがどんどん大きくいき、人物の顔もはっきりとしてくる。
ナルトはその人物に駆け寄り、サクラも続く。
カカシも遅れて歩みを進め、ナルトに体当たりされて文句を言っている少年、いや青年に声をかけた。

「よう。おかえり、サスケ」
「おかえりだってばよ!」
「お帰りなさい、サスケくん」
「・・・・・・あぁ」

すごく顔が顰めっ面だったがそれは照れ隠し。
大きくなっても成長していない教え子が可愛くて頭を撫でてやると、鬱陶しそうに叩き落とされた。
うーん、やっぱり可愛くない。

「じゃ、オレはそろそろ行くよ」
「え!もう行くのかよカカシ先生!」
「オレも火影なの。忙しいんだぞ?シカマルに無理言って抜けさせてもらってんだから。お前も覚悟しとけよ?」
「うへー・・・」

カカシの言葉に辟易するナルトに苦笑する。
次の火影となる青年はカカシとイルカによってスカスカの頭に色んなことを叩き込んでいる。
終わった頃には頭から煙を出している様子に本当に大丈夫なのかと心配になる。
ふと、視線を感じてそちらを見ればサクラが何か言いたそうにこちらを見ていた。
隠して入るが2徹の疲れを見抜かれているようだ。
さすが医療部門のスペシャリスト。
教え子と油断してはならない存在になっていた。
でも今日頑張れば久しぶりに我が家に帰れる。
だから心配するな、という意味を込めてサクラの頭を撫でた。

「じゃあな」

カカシは3人に別れの挨拶をして、暫く背中に感じる1つの視線に気付きながら振り返らずに火影棟へと向かった。



****



その日の夜。
きっちり仕事を終えて我が家に帰り着き、ベッドの上で休んでいると呼び鈴が鳴る。
訪問者を確認することもなくドアを開けると、そこには昼間に会った薄紅色の髪の女性が立っていた。

「こんばんわ、カカシ先生」
「こんばんわ、サクラ」

どうぞ、と促すとサクラは「お邪魔します」と言って部屋の中へと入る。
いつもならソファーに座るのに、サクラは立ったまま。
そしてその顔は昼に会った時とは違って暗い顔をしていた。
何か話があるのだろうと、カカシはキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。

「サクラ、何飲む?コーヒーかお茶か・・・」
「カカシ先生」

珍しく言葉を遮るサクラに振り返ると、神妙な顔をしているサクラ。
その表情を察して冷蔵庫を閉め、サクラに向き合う。

「どうした?」

話を促すも、サクラは下唇を噛み俯いている。
昔よりかは身長は伸びたものの、ナルトやサスケと違い女の子のサクラはカカシにとってまだまだ小さい部類に入る。
意を決して顔を上げたサクラの翡翠の瞳は震えてるいて、何となくサクラは何を言いたいのか分かってしまった。

「・・・あのね、私・・・サスケくんに告白されたの」
「・・・・・・・・・」

カカシは何も言わずにサクラを見下ろす。
普通ならずっと恋焦がれてきた相手から告白されたならば嬉しそうにするはずなのに。
今のサクラは悲痛の表情をしていた。
それは、2人の関係のせいだろう。
カカシとサクラはただの師と教え子ではなかった。
大事な2人が居なくなった寂しさから、お互いが離れていかないように繋いだ身体だけの関係。
誰にも明かさない、カカシの部屋だけで行われる秘め事だ。
それは何年も続いた関係。
長く繋ぎ止めれば依存となり離れられなくなるのは気づいていた。
気づいていながら、カカシはその細く小さい手を離すことができなかった。
そのせいで今、目の前の少女の心は揺らいでいるのだ。
初恋の相手か、初めてを捧げた相手か。

──もう、潮時だな。

「そうか。良かったじゃないか。やっとお前の思いが届くんだ。お前が幸せになれると思ったらオレは嬉しいよ」

にこり、といつもの笑顔を作ると、サクラの顔が苦痛で歪んだ。
握りしめられている赤いスカートに皺が寄ってしまっている。

「しあわせ・・・?私の幸せって何?」
「え?」
「私の幸せを勝手に決めないでよ」
「サクラ、どうし──」
「私、カカシ先生が好きよ」

突然のサクラの告白に驚くも、カカシは暫く目を閉じる。
そして何かを考えて、昔の、初めて会った時のような本音を悟らせない顔をしてカカシはサクラを真っ直ぐ見た。

「・・・オレはお前を幸せに出来ない。サスケにしなさい」
「・・・じゃあなんで先生は私を抱くの?どんな気持ちで私を抱いてたの?」
「・・・・・・・・・」
「・・・こんなに長くいても先生は私に本当の自分見せてくれないのね。先生は私に誰を重ねてるの?」
「っ!!」

サクラの言葉に胸が跳ねた。
その時、かつて目の前の少女のように自分のことが好きだと泣きながら告白してきた時のことを思い出した。
そしてなんの運命か、サクラはその子に似ているのだ。
無意識にその子とサクラを重ねていたことをサクラは見抜いていたらしい。
カカシが何も言えないでいると、サクラは寂しそうに笑って踵を返し、玄関のドアノブを握る。

「分かりました。サスケくんと付き合います。もう先生の部屋には来ません。今までありがとうございました」

さようなら、とサクラは振り返らずに部屋から出ていった。
1人残されたカカシは、眉間に皺を寄せ、握りしめる手から血が滴っていた。



****



それからサクラは宣言した通りサスケと付き合い始め、先の戦争が終わってから贖罪とカグヤの痕跡を探す旅で1年のほとんどを里の外で過ごしているサスケは結婚式が終わるまで里にいるらしい。
里の中を仲睦まじく並んで歩く2人はお似合いのカップルで、サクラの想いを知っている同期たちからは祝福をされて公認の仲となり、そんな2人をカカシは遠く離れた場所から見守っていた。
カカシの時は人目をはばかんで逢瀬を重ねていた。
誰にも話すことのできない、恋人ではない関係。
サクラは陽の下が似合う。
過去に色々あったサスケだが旅の中で変わったらしく、穏やかに笑うサスケの隣で笑うサクラが一番幸せそうで。
それは自分ではさせることのできない笑顔だ。

──これでいい。未練がましく追いかけるな。

カカシは小さく、密かに笑って幸せな光景から逃げるように背を向けて歩き出した。



それから数日後。
カカシの元に綺麗な封書が届いた。
それはうちはサスケと春野サクラの名が綴られた結婚式の招待状。

──まぁ、届くよな。普通。

2人の師なのだから。
カカシはそれをベッドの横にあるサイドテーブルを置いてため息を吐きながらベッドに横になる。
式場はどうやら最近出来たチャペルとかいう海外の結婚式場でするらしい。
海外の文化を取り入れようと誰かが提案をして女性陣を中心に盛り上がっていたのが記憶にある。
昔からある白無垢ではなく、ウェディングドレスというレースがたくさんついたものらしい。
そういうことに疎いカカシは女性陣の熱のこもった演説と色々なドレスの写真が載っているパンフレットを見て「へー」と他人事のように見ていた。
チャペルが完成してからというものの、若者を中心に挙式が執り行われ、サクラもそこで式を行う。
前はあんなにも無関心だったのに、サクラがあのドレスを着ると知っただけで興味が湧いてくる。

──・・・綺麗だろうな。

「サクラ・・・」

もういない彼女を思って名前を呼ぶ。



****



真っ白な世界。
真っ白なドレス。
真っ白な好きな人。

今までここで挙式をした人たちは同じ光景を見てきたのだろう。
今目の前では白い髭を生やした初老の人が神への言葉を口にしている。
神父の後ろには大きくて綺麗なステンドグラスが光で輝いている。
後ろの席には親や親族、仲間達が2人の結婚式のために集まってくれて座っている。
そして隣には子供の頃からずっと恋焦がれてきた初恋の人。
そんな幸せな空間の中でサクラは別のことに意識が囚われていた。

──結局返事こなかったな・・・

あの夜に別れてしまった人。
あれからサスケの告白を受けて婚姻届を出して一緒に住んで、結婚式の準備をすぐに始めた。
それは隣の人が旅に出なければいけないから。
そしてこの式が終わればサクラも一緒に付いていくことになっている。
サクラから提案した時、サスケは一度「良いのか」と聞いてきたことがある。
サクラは笑顔で頷くとサスケは「分かった」とだけ言った。
そんなの良いに決まっている。
新婚早々に離れ離れなんて悲しいし、綱手の許可も得て、親友のいのからは泣きながら祝福された。
それに。
里に居たらあの人に会ってしまうから。

「──新郎。あなたはここにいる新婦を悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も
共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

神父の言葉にハッと意識が現実に戻される。
新郎とは隣にいる彼のことだ。

「──誓います」

はっきりと真っ直ぐな言葉に泣きそうになる。
それは嬉しさからなのか、自分が別の人の未だに心に秘めている罪悪感からか・・・
神父は頷いて今度はサクラのほうを見て同じ言葉を口にする。

「新婦。あなたもまたここにいる新郎を悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も
共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・新婦?」

すぐに返事をしないことに神父が心配そうに声をかけてきて、会場が少しざわついた。
隣からも視線を感じる。
目を閉じで、ふぅ、とため息を吐き、新たに息を吸う。
それは心から彼を追い出して、彼と進む未来を受け入れるかのよう。

──さようなら、カカシ先生。

「・・・はい、ちかい──」


バンッ


いきなり押し開ける音が静まった会場に響く。
皆が驚いて音の発生源である後ろのドアを見ると、そこにはカカシが立っていた。
スーツではなくいつもの忍服で、神聖な場所にはあまり相応しくない格好。
式の途中での乱入者にスタッフはカカシを止めるも、カカシは無視して1人ヴァージンロードをしっかりとした足取りで歩いてくる。
その目は、サクラを真っ直ぐと見て。
ピタリ、と足が止まったのはやはりサクラの前だ。
驚いて目を丸くするサクラをカカシは何も言わずに見下ろす。

「・・・カカシ、先生」

皆が彼の動向を静かに見守っていると、徐にカカシはサクラの手を掴んで引っ張った。

「!?」

カカシは何も言わずにサクラの手を引いて、先ほど歩いたヴァージンロードをかけ走った。
会場は大混乱。
ウェディングドレスを見に纏った新婦を乱入者が連れ去ろうとしているのだから当たり前だ。
サクラは慌てて後ろを振り返ると、サスケは追いかけようとはしてこず、先ほどまで2人で並んでいた場所でただ穏やかに微笑んでいた。
滅多に笑わないサスケがだ。
2人の結婚が決まってから、サスケは時折何か言いたそうにしていたことを勘付いていた。
サスケはサクラの本当の気持ちに気づいていた。
ようやく分かり、サクラは涙を溢しながら「ありがとう」と声には出さずサスケに心からの感謝を込めて。
サクラはドレスの裾をたくし上げてカカシと一緒に式場を後にした。



それから2人は皆の注目を浴びながら里を中を駆け走った。
サクラはただカカシに引っ張られながら、行く先も知らずに。

それから2人がたどり着いたのは、昔サクラが見つけてカカシと2人で来た花畑だ。
肩で息をしながらカカシを見上げると、同じように肩で息を整えてカカシはサクラに向き合う。
その瞳は今まで見たことのない意志が込められていて、サクラは息を飲んだ。

「・・・何してるのよ」
「・・・本当、何してんだろうね。あんなふうに送りだしたってのに」

カカシは自虐的に笑って、そして強い瞳でサクラを見つめる。
サクラの頬にカカシの手が添えられ、綺麗に化粧を施されていたサクラの顔は涙でグチャグチャになっていた。
それでもカカシの目には綺麗に映る。

「──やっぱりお前を手放したくない。お前を幸せに出来ないかもしれない。でもオレは、サクラの隣にいたいんだ」

カカシの心からの本音の言葉にサクラはまたボロボロと泣き出す。
しかしその顔は嬉しそうで自分の手を頬にあるカカシの手に重ねる。

「こんな大騒動起こしたんだから、ちゃんと責任取ってよね」
「うん」
「それに・・・私は先生の隣にいれるだけで幸せだって、ちゃんと気づいてよね」
「・・・うん」

カカシがサクラを抱き締めると、サクラの手がそろそろとカカシの背中に周り、同じように強く抱きしめた。
強風が吹いて様々な色の花びらが2人を祝福するかのように舞い上がる。
視線を落とすとせっかくの綺麗なレースのドレスの裾は土で汚れていた。

「・・・はー、いろんなところに怒られるだろうな。サクラのご両親と、サスケには土下座しないと」
「サスケくんには殺されるかもしれないから気を付けてね?」
「手加減、はしないだろうねぇアイツは。ま、今以上に綺麗なドレスを着たサクラを見るまでは絶対死なないようにしないとな」

ふっ、とカカシは愛おしそうにサクラを見つめて微笑み、サクラの頬に赤みがさす。
今までカカシにこんなふうに見つめられたことはない。
恋人になったというだけでこんなにも変わるものなのか。

カカシがコツン、とサクラの額に自分の額を合わせ、2人は暫く花畑の中で幸せそうに抱き合っていた。



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