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short.2

『ごめん。任務が入った』

それが届いたのは3月27日が終わる数時間前だった。
お風呂を済ませて寛いでいると、窓に何かが当たる音が聞こえる。
窓を開けるとカカシからの式が届いており、綺麗でも下手でもない字で謝罪が書かれていた。
サクラは小さくため息を吐いてカレンダーを見る。
明日の日付、3月28日は自分の誕生日だ。
休みも取って、恋人であるカカシとどんな誕生日を過ごそうかと何日も前から張り切っていたというのに、たった一文で天国から地獄に落とされた気分。
普段なら直接謝りに来るのだけど、それが出来ないほどに急な出発だったのだろう。
これはしょうがない。
カカシは木ノ葉一と謳われる忍で任務に引っ張り凧なのだ。
休みは取れても急に指名が入って赴くことなんて度々あった。

──でも。私の誕生日だったのに。

サクラは唇を噛み締め、カカシの式をグシャリと握りしめた。








次の日、休みだけどどこかに行く気分でもなくて夕方までずっと部屋に引きこもっていたけど、何もすることがなくなって暇を持て余し、里の中をブラブラ歩くことにした。
すれ違うカップルを見て何度目かのため息を吐いていると、後ろから肩を叩かれて振り返ればそこには悪友のいのがイヤらしい笑みを浮かべて立っていた。

「あーらサクラ。あんた今日誕生日なのに1人〜?もしかして彼氏にすっぽかされたわけ〜?」

サクラの恋人が誰かを知っているいのの揶揄う気満々というのが伝わってきて、目を逸らす。

「そうよ」
「・・・え」
「私の誕生日より任務のほうが大事なんですって」

自分で言ってて泣きそうになっていると、自慢の広い額を思い切りデコピンされた。
良い音がしたし、すごくヒリヒリするんだけど!

「いった!何すんのよ!」
「あんた、泣きそうなの我慢してると眉間に皺が寄るのよ」
「泣きそうじゃないわよ!」
「分かった分かった。あんたこの後暇よね?」
「え、暇だけど・・・」
「じゃあ1時間後にナルトの部屋に来なさい」
「は?ナルト?」

なんでここにいないナルト?

「どうせあいつも休みでしょ」
「・・・うん」
「じゃ、そういうことだから。忘れるんじゃないわよ!」
「あ、ちょっと!」

返事も聞かず走り去っていくいのを引き止めることもできず、手が宙を切る。
気を使わせてしまったわ。
ふぅ、とため息を吐きながら、強引だったけどその優しさがありがたかった。
1人だったらせっかくの誕生日が暗いまま終わってしまうところだった。


それからきっかり1時間。
言われた通りナルトの部屋を訪れ、呼び鈴を鳴らす。
しかし誰も出てこず、何なんだとドアノブを捻るとそれは簡単に回った。
不用心すぎるわ、と呆れながらドアを開くと、

パン、パン、パン!!

「きゃあ!!」

突然の発砲音に耳を塞ぎ悲鳴を上げる。
忍なのに思わず目を瞑り、ゆっくりと開くと目の前をカラフルなものが落ちていく。

「「誕生日おめでとーー!!」」
「へ・・・」

そこには、いのとナルトだけではなく同じ班員のサイと、いのの班員のシカマルとチョウジがクラッカーをこちらに向けていた。
驚いて玄関で目をパチクリさせているサクラの手をいのが引いて部屋の中に進んでいく。
部屋の真ん中にあるテーブルの上には、大きなホールケーキケーキがあり、チョコレートの板には白い文字で『サクラ誕生日おめでとう』と書かれていた。

「サクラちゃん、誕生日おめでとうだってばよ!」
「おめでとうございます、サクラ」
「ナルト、サイ・・・ありがとう」

クラッカーを手に持った仲間の2人が祝いの言葉を口にしてくれる。
なんか気恥ずかしくて頬が熱くなる。

「水臭いってばよ。1人ならオレ達に言ってくれたら良かったのに」
「てっきりカカシさんといると思ってたんですけど」
「・・・うん。任務が入ったらしくて」

落ち込むサクラの背中をいのが思い切り叩いてくる。
痛いわよ。

「本当はヒナタのとことテンテンさん達も誘おうと思ったんだけど、任務みたいで居なかったのよね」
「ううん・・・充分よ。ありがとうね、いの」

落ち込むサクラのためにかき集めて準備してくれたのだろう。
悪友であり親友のいのに感謝でいっぱいだ。

「ほらサクラちゃん!みんなでお金出してホールケーキ買ったんだ!サイ電気消せってばよ!」
「はい」
「いくわよー?サンハイ!」

いのの合図で皆が歌い出し、サクラ達は時間を忘れて盛り上がった。



****



「ふう・・・」

みんなで片付けをしていの達と別れ、1人夜が更けたアパートへとの道を歩く。
その手の中にはいのが用意してくれた綺麗な花束。
サクラをイメージしたというピンクと赤の花に頬が緩む。
枯れないように帰ったら花瓶に入れなければ、と思いながら本日何度目かのため息を吐く。
あと数時間で自分の誕生日が終わる。
今日は本当に楽しかった。
でも。
やっぱりカカシと誕生日を過ごしたかったなぁ、とアパートの階段を登ったところで自分の部屋の前に人が立っていることに気づいた。
その人影は誰よりも知ってる。

「おかえり」
「・・・カカシ先生!?」

その人は昨日の夜に任務に出たはずのカカシだ。
慌てて駆け寄るとところどころボロボロで、無茶をしたのだと分かった。
それにまだリュックを背負っていて、終わったその足でここに来たらしい。

「どうして・・・」
「どうしてって、今日サクラ誕生日でしょ。あと少しで終わっちゃうけどね」
「でも、先生が行くってことは難しい任務だったんでしょ・・・」
「んー、そりゃね。でもサクラのために先生頑張っちゃった」

はは、と笑うカカシだが満身創痍なのが伝わってくる。
大きな瞳からポロッと涙が流れてカカシはギョッとする。

「・・・ごめんなさい、先生」
「え?」
「きっと私が落ち込んでるってわかったから無理したんでしょ・・・任務だって分かってるのに・・・」

サクラは花束を抱えたまま両手で顔を隠して静かに泣く。
カカシはそんなサクラを花が潰れないように抱きしめる。

「男はね、好きな女のためなら無理しちゃう生き物なんだよ。それが自分の誕生日に泣くのを我慢してる恋人なら尚更ね」
「・・・・・・・・・」
「サクラ、顔あげて」

カカシに言われて顔を上げると、首に何かをかけられて下を向くと胸元に先ほどまで無かったものが。

「・・・これ」
「前にサクラに似合いそうだなって思って買っといたんだ。だから絶対今日渡したくて」
「・・・ありがとう」
「ほら、明るいところでちゃんと見せて」
「うん・・・」

サクラはまた泣きそうになるのを我慢してカバンから鍵を取り出して回し、ドアを開けてカカシを招き入れる。
そして部屋の電気を付けて目線を下げれば、サクラの胸元で輝く翡翠の宝石が付いた桜のネックレス。
カカシは満足そうに頷いて微笑む。

「やっぱりよく似合ってる。誕生日おめでとう、サクラ」
「ありがとう、カカシ先生・・・」

ネックレスから顔を上げると、カカシが身を屈めて顔を近づけきているのが分かり、目を閉じる。
時計の針が0時を過ぎようとしていたが、2人の誕生日はこれからだ。


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