short.2

「だから、私のこと抱いてください!!」

教え子の1人である少女の言葉に頭が痛くなる。

「何回も言ってるだろ。抱かない」

このやりとりも何回目だろうか。
部屋に無理やり押しかけてきたサクラはとんでもないことをお願いしてくるのだ。
そしてもちろんカカシは断る。
何故なら自分たちは恋人ではない。
ただの上司と部下だ。
そう思っていたのは自分だけだったとカカシが気づいたのはつい最近だった。
いつのまにかサクラの恋慕の相手がサスケからカカシになっていた。
女心は秋の空とよく言ったものだ。
サクラを見ると、カカシの拒絶に下唇を噛みしめ赤いワンピースの裾を皺がつくほどに握りしめている。
サクラのこの姿を見ると自分が悪いように思えてつい謝ってしまいたくなる。
だがこの件に関しては負けてはいけない。

「どうしてよ・・・」
「お前を教え子以上に見れないからだ」

突き放す言い方に今にも泣き出しそうに俯くので様子を伺っていると、サクラは落ち着かせるように深呼吸をして顔を上げる。

「分かりました。今回は諦めます。だからキスして」
「しないって・・・」
「それぐらいいいじゃない。減るものじゃないんだから!」

サクラはベッドに座るカカシの体を勢いよく後ろに押した。
そして寝転がるカカシの頭の横に手をついて上に覆い被さる。
下から見上げるサクラは新鮮で、そして顔を真っ赤にしている顔は年相応で可愛く思えた。
押し倒されても動じないカカシはサクラは悔しくなり、顔の半分を覆っている口布に指をかけた。
あれだけ頑なに見せてくれなかったのに、カカシは抵抗を見せず、それは簡単に現れてサクラは息を飲む。
出っ歯でもたらこ唇でもない、薄い唇とその横にある黒子。
初めて見るカカシの素顔はまさにサクラ好みのイケメンだった。
サクラはカカシの中身だけではなく、外見にも惚れてしまった。

サクラは頬を染め、顔を下げていく。
そして震える唇をカカシの唇に重ねた。
これがサクラにとって初めてのキスだった。
本で舌を入れるキスがあると知識では知っているがやり方が分からない。
サクラは軽くキスをして顔を上げるも、カカシは全く微動だにせず、ただサクラの行動を見ている。
自分はこんなにも心臓が飛び出しそうなのに、カカシの表情は全く変わらないことにサクラの負けん気に火をつけてしまった。
サクラは体を起こし、任務服を一気に脱ぎ捨てた。
スパッツも脱ぎ、身につけるのは下着だけ。
人前で素肌を晒したことがないサクラは白い肌を真っ赤に染めて震えている。
こんなにも自分を曝け出しているのにカカシは何もしてこず、ただじっとサクラを見上げてくるだけ。
これ以上どうしたらいいのか分からず、悔しくて悲しくて、泣きそうなのをカカシに見られたくなくて目を擦っていると、今まで頑なに触れてこようとしなかったカカシの手が腰に触れてビクリと体が跳ねる。
その反応にカカシは薄く笑う。

「この程度で怖がるようじゃ、まだまだオレの相手は難しいねぇ?」
「きゅ、急に触るからビックリしただけよ!」
「へぇ、そう?」

サクラの強がりにカカシはサクラの背を支えながら体を起こす。
そうすれば今までより近い距離にお互いの顔がくる。
なんだかカカシが知らない男の人のような気がしてドキドキしていると、カカシの手が頬に触れ、ゆっくりと近づいてくる。
今まで感じたことのない距離にあるカカシの顔。
サクラは咄嗟にギュッと目を瞑ると、カカシの唇が触れたのは唇ではなく額だった。
驚いて目を開けると、カカシはニヤリと意地悪気に笑ってサクラの唇にカカシの指が触れる。

「オレからキスがしたいと思える女性になってオレを落としてごらん?」
「の、望むところよ!覚悟しときなさい!!」

その言い方にカチンときたサクラはカカシの手を叩き落とし、指を指して宣言してくる。
どちらかというとそれは恋に落とすというよりも戦いを挑むような言い方で。
すごくサクラっぽくてカカシはおかしそうに笑った。


それからカカシとサクラだけの恋の闘いに火蓋が落とされた。
恋愛未経験のサクラと百戦錬磨のカカシ。
一見サクラが不利にも思えるが、こうと決めたら一直線のサクラの愛の弓矢がカカシの胸に突き刺さるのもそう遠くない未来かもしれない。


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