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short.2

「じゃ、今日は解散」
「サスケくん!」

カカシ先生の合図で私はすぐに帰ろうとしているサスケくんを呼び止める。
振り向いたサスケくんの顔がすごく迷惑そうだったけど負けずに言葉を続ける。

「あ、あのね。良かったらこの後一緒に・・・」
「断る」
「・・・だよね」

食い気味に断られて肩を落とす。
遠くなっていく好きな人の背中を見て、自分も帰ろうとすると今度は自分が引き止められる。

「サクラ」
「・・・なぁに?」

気だるく振り返ると、先生は目が合うとすぐに逸らして困ったように頭をかく。

「あー・・・いや、何でもない。気をつけて帰れよ」
「?うん、また明日ねカカシ先生」

手を振ると、先生は何も言わずに同じように手を振ってくる。
いつもはまた明日って言ったら「また明日」と返してくれるのに。
そう思いながら深く考えずにそのまま家に帰った。


──この日の出来事を私は一生後悔することになる。


次の日からカカシ先生は上忍としての任務で1週間ほど第七班から離れることになると橋に現れたイルカ先生から教えられた。
その間もちろん任務には出られないので、私たちは毎日一緒に修行をして先生が帰ってくるのを待っていた。



****


カカシ先生が任務に出て明日で1週間。
今日ぐらいには帰還の連絡来るかな、と演習場で組み手をしているナルトとサスケくんを木陰で休みながら見守っている時だった。
出入り口の方から中忍の人が慌てた様子で入ってきて、今すぐに火影室に行ってくれと言われた。
私たちは首を傾げながら顔を見合わせ、言われた通り火影室に行くと、そこには三代目火影様の他に何故かイルカ先生がいた。

「イルカ先生!何でイルカ先生もいるんだってばよ!」

ナルトが嬉しそうにイルカ先生に駆け寄るも、先生の顔はいつもの眩しい笑顔ではなくて苦しそうに、何か耐えている表情をしていた。
その顔にすごく嫌な予感を覚えたのは私だけではないだろう。

「ナルト、サスケ、サクラ」

重苦しく火影様に名前を呼ばれて背筋が伸びる。

「お前達の師、はたけカカシは・・・戦死した」



──え?
今、なんて・・・?

「な、何言ってんだよ、三代目のじいちゃん・・・」

震える声でナルトはおかしそうに笑うも、三代目もイルカ先生は表情を変えない。
その顔だけで今の言葉が冗談ではないということだ。

「・・・火影様。ここからは私が」
「ふむ・・・」

三代目がキセルを灰皿に叩きつけると共に頷く。
イルカ先生が私達に向き合う。

「・・・カカシさんは、1週間前から他里との戦闘が続く戦地に赴かれたんだ。戦況はこちらが劣勢。カカシさんを含む数人の忍びが増援で行ったものの戦況はひっくり返ることはなく、木ノ葉が負けたんだ」
「・・・そこでカカシは死んだのか」

静かに聞いていたサスケくんがぽつりと呟くとイルカ先生は重々しく頷いた。

「オレを含む部隊が着いた時、カカシさんはボロボロの状態で、仲間の死屍の中たった1人で敵と戦っていた。オレ達を見て敵は引いてくれたんだ。そしてそこでカカシさんはその場で倒れて、腹部に風穴が開いていた。この状態で戦っていたなど信じられないほどの重症だった」

辛そうにその時の状況を伝えてくれるイルカ先生の言葉に、頭から血の気が引いて自分で立っていられずふらつくと、隣に立つサスケくんが支えてくれた。

「・・・大丈夫か」
「う、うん・・・」

何とか返事は出来たものの、頭の中は真っ白だ。
目を動かすとナルトは両目から大粒の涙をボロボロと流していてイルカ先生に背中を摩られていた。

「・・・お前達も時間が必要じゃろ。担当上忍の代わりが決まるまで3人とも待機になったからの。ゆっくり休め」

三代目の言葉に私たちは執務室を出た。
私たちは喋ることなく歩いていると、後ろから追いかけてきたイルカ先生に私だけ呼び止められた。

「・・・大丈夫かサクラ」
「・・・・・・・・・」

せっかく心配してくれるのに、喋ったら涙が溢れてしまいそうで唇を噛み締める。
それが分かったのかイルカ先生は何も言わずに私に手のひらを差し出した。
その上に乗っているのは、死亡した時に身元が分かるようにように付けるドッグタグと鍵。
それを見た時、心臓が嫌な感じに跳ねる。

「・・・オレが駆けつけた時にまだカカシさんの意識があったんだ。それでこの2つをサクラに渡してくれって事づけられたんだよ」
「わたし・・・に・・・」

震える両手を差し出すと乗せてくれる。
よく見ると血痕が付いていて、もうカカシ先生がこの世にいないというのを実感させられた。





私はその足でカカシ先生のアパートに行った。
預かった鍵を差し込む時、緊張で上手く入らなくて大きく息を吐いて鍵を回す。
ドアをゆっくり開けて部屋の中に入ると、部屋に染み込むカカシ先生の匂いを感じて視界が滲んでくる。
部屋の中を見ていると、机の上に手紙があることに気づいた。
そこに『サクラへ』と、カカシ先生の文字が見えて慌てて封筒を手に取る。
私の名前が書いているということは自分宛てということだろう。
震える手で封を開けると1枚の紙が入っていて、それを広げるとそこにはたった一文。


『愛してる、これからもずっと』


綺麗でも下手でもない、右上がりの文字で紡がれた愛の言葉。
ずっと我慢していた涙がボロボロと溢れ始める。
きっと先生はこの任務で自分が死ぬことが分かっていたのだろう。
だから最後に会った日、呼び止めた時にこれを言おうしてそれを止めた。
自分が死んだ時、繋ぎ止めたくなかったからかもしれない。
それでも聞きたかった。
何故私はあの時先生の言葉をちゃんと聞かなかったのか。

「死んだらずっとなんてないのよ・・・カカシ先生・・・」

私は1人、カカシ先生の部屋で赤子のように泣き続けた。


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