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short.2

「里を、出る?」
「うん」

いつものようにカカシの部屋に行くと、殺風景だった部屋が更に片付けられていて物が何も無くなっていた。
驚くサクラに、カカシは淡々と説明をする。

「火影をナルトに譲ってもう1年が経つしね。上に相談して、近くの集落に住むことにしたんだ。何かあればすぐに駆けつけれるようにね」
「どうして・・・別にこのまま里に住めばいいじゃない」
「オレがいたらお前が前に進めないでしょ」

床に座るカカシの横に同じように座るサクラの頬を撫でると、サクラの顔に影が落ちる。

「ごめんな、オレのせいで。でもようやくお前を解放出来る。これからは好きなように生きろ」

カカシの言葉にサクラは下唇を噛む。
カカシとサクラは身体だけの関係だった。
ナルトとサスケ、2人が居なくなった寂しさを埋めるように。
2人が帰ってきてカカシが火影になってからもその関係を切ることが出来なかった。
サクラは、カカシが自分は身を引くからサスケと添い遂げろと言っているのだと理解した。
何も言えずに俯いていると、カカシはサクラの頭を撫でると大きなリュックを背負い、サクラを置いて部屋を出ようと玄関に向かう。
ずっと見てきた少し猫背の背中。
行かないで、と言いたかったのに言えなくて、ドアが閉まる瞬間までずっとその背中を見続けた。



****



それからカカシは集落に身を寄せ、小さいので良いと言ったのに立派な家を与えられ、1人静かな余生を過ごしていた。
地獄のような日々を生き抜き、世界を救い、里の父となり。
色んなことが長いようで短い人生であった。
そして、ようやくあの子を手放すことができた。
後悔していないと言えば嘘になるが、それでもあの子が幸せになれるなら喜んでこの身を引こう。

薄紅色の教え子のことを思い出しながら縁側で黄昏ていると、玄関を叩く音が響いてくる。
呼び鈴がない家なので、「はいはい」と玄関を開けて客人の顔を見てカカシは目を見開く。
そこには誰よりも知っている、先ほどまで考えていた薄紅色の少女、いや、女性が立っていた。

「・・・サクラ」
「お邪魔します」

サクラはそう言って勝手に家の中に入っていく。
その背には、あの日のカカシのように大きなリュックが背負われていた。
カカシが慌てて追いかけると、何故か荷解きを始めているではないか。

「何やってんだサクラ」
「何って?」
「何でこんなところに居るのかって聞いてるんだ!お前はサスケと…!」

珍しく声を荒げるカカシにサクラは立ち上がり、カカシを見てくる。
昔は屈まないと目が合わなかったのに、気がつくと少し顔を傾ければ唇を重ねれる距離に顔がある。
それだけ長い時間を一緒に過ごしてきたということだ。

「カカシ先生。私、先生の思惑通りになんてならないわよ」
「・・・へ?」

唖然とするカカシにサクラは眉と目を吊り上げて睨んでくる。

「私、一度でも我慢して先生の側にいるなんて言った?私、サスケくんの側に居たいなんて言った?」
「それは・・・」
「私が今まで先生の側に居たのは私の意思よ。ずっと先生と居たいと思ったからサスケくんに付いていかなかったの。先生が好きだから、誰よりもカカシ先生を愛してるから側に居たの!私の気持ちも聞かずに勝手に離れていかないでよ!!」

瞳を潤ませ肩で息をするサクラに、カカシは何も唖然とするだけ。

「それが言いたくて仕事をほっぽり出してここに押しかけたの。先生が嫌って言っても出てってなんか──」

サクラが身を翻して背中を向けると、後ろから包み込むように抱きしめられていた。
久しぶりに感じるお互いの体温。
そして背中越しに感じる早いカカシの心臓の鼓動。

「ごめん。ごめんな、サクラ・・・」
「・・・本当よ。本当馬鹿なんだから、カカシ先生は」

悪態を吐きながらも、後ろから聞こえた鼻を啜る音に、サクラの両目からは決壊したように涙が溢れた。


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