short.2
「よっし、任務しゅうりょー!お疲れ様」
「お疲れ様でした」
「お疲れー」
陽が沈んだ頃、任務に出ていた私たちは阿吽の門の前で挨拶をして解散した。
里の皆も仕事場から我が家へと帰ろうとたくさんの人が行き交う中を歩く。
ご飯どうしようか。
長期の任務だったから出発前に冷蔵庫を開けてきてしまった。
任務疲れもあるしご飯を作る気力はない。
任務終わりで身なりがボロボロだから綺麗なお店には入れない。
一楽か居酒屋かなぁ、と唸っていると後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、そこにはカカシ先生が「よっ」と手を上げて立っていた。
「カカシ先生!」
「お疲れ。サクラも任務だったのか?」
「はい。先生も?」
「そ。やっと帰ってきて夕飯どうしようかな〜って思ったらサクラが歩いてるのを見つけてね」
「ふふ。私も夕飯悩んでたんです」
「お、グッドタイミングだったな。一緒に食べに行くか?」
「是非!なら居酒屋?」
「だなー。あ、サクラはお酒飲むなよ?」
「はーい。分かってます。カカシ先生の奢りかしら?」
「いいよ。頑張った子にご褒美として先生が奢ってあげよう」
「やった!」
人の奢りほど嬉しいものはない。
私は嬉しさと空腹から、先生の手を引いていつもの居酒屋へと向かった。
「ごちそーさまでした!」
あれから2時間。
先生の奢りでたらふく料理を食べて、店を出てから先生にお礼を言う。
「どういたしまして。サクラはナルト達と違ってたくさん食べないから先生はすごく助かります」
「あの2人、2人分は食べるものね」
「そうなんだよ・・・しかも遠慮もせずに高いやつばっか頼みやがるし・・・サクラだけだよ良い子なのは」
そう言って先生は私の頭をヨシヨシするように撫でてくる。
皆が成長して七班も解散してからこんなふうに先生に頭を撫でられるのは久しぶりでその心地よさに目を閉じる。
「そろそろ帰りますか。今一人暮らしだったよな」
「はい」
カカシの質問に頷く。
綱手様に弟子入りして中忍になった頃、病院勤務や任務で遅くなることが増えて、両親に迷惑をかけるのは避けたくて病院の近くのアパートで一人暮らしを始めた。
まぁ、それもあるけどお母さんの小言から逃げるためでもある。
「送ってくよ」
「いいわよ!ここからだと先生の家と反対だし、先生も疲れてるでしょ?」
「女の子を1人で帰らせるわけにいかないでしょ。いくらサクラが強いって言ってもね」
「う・・・」
強いから大丈夫と言おうとしたら先に言われてしまった。
こうなっては断る理由もない。
「・・・それじゃあ、お願いします」
「りょーかい。じゃ、行こっか」
先生は先ほどの私のように手を引いて、私のアパートの方角へと歩き出す。
下忍時代、任務や演習でヘトヘトになった私の手をこうやってカカシ先生は手を引いて歩いてくれた。
ナルトとサスケくんは同じようにヘトヘトだったけどそれでも自分の足でちゃんと歩いてて。
自分だけ情けなくて落ち込んでいると「大丈夫。サクラもすぐに自分の足で歩けるよ」と励ましてくれた。
先生の言葉は今のことを言っているようで、未来のことも言ってくれているようで。
その言葉はずっと励まされてここまでやってこれた。
私はカカシ先生の生徒になれたことを今でも誇りに思っている。
そんなことを考えていると、すぐに自分のアパートにたどり着いた。
着くなり先生は「じゃあな」と言って去ろうとするので慌ててベストを掴んで引き止める。
どうした?といった顔で振り向く先生。
何も考えずに引き留めてしまって、一生懸命考えだした言葉は、
「お礼にお茶飲んで行って!」
だった。
渋る先生を何とか部屋に連れ込んでお茶の用意をしていたのだけど、何故か先生は玄関のところで靴も脱がずに突っ立っている。
「カカシ先生、どうしたの?」
「・・・やっぱり帰るよ」
「え!もしかして用事でもあった?」
「いや・・・」
「なら上がっていってよ。ね?」
先生に近づいて首を傾け、昔より近い距離で上目遣いをすると、なぜか眉間に皺を寄せている。
どうしたの、と言おうとしたらいきなり壁に背中を押しつけられ、足の間に先生の足が入り、今まで感じたこと距離感にカカシ先生の顔がある。
突然の出来事に頭が追いつかないでいると、先生は口布を下げて徐に唇を塞いだ。
驚いて反射で口を開くと口内にぬるりとしたものが入ってきてくぐもった声が出る。
そんなのは気にしないとばかりにソレは舌を絡めたり舐めたり吸ったりと好き勝手に動いて翻弄される。
何度も何度も角度を変えて舌が絡み、口の端から涎が垂れているのに拭うことも許されない。
されるがまま口内を犯されていると、服の下に先生の手が入り込んで下着の上から胸に手が置かれてビクリと体が跳ねる。
それが分かったのか先生は唇を離し、手も抜いてただ見下ろしてくる。
何をどうしたらいいのか分からず顔を上げれないでいると、耳元に口が近づいた。
「オレも男なんだよ、サクラ。安易に男を部屋に入れない。いいね?」
いつもより低い声にコクコクと頷くと身体が離れて、ほっと肩を撫で下ろす。
「じゃあね」
ドアノブを回して先生は何でもなかったみたいに部屋を出ていった。
1人部屋に残された私は足に力が入らなくなって床にペタリと座り込み、暫く立ち上がれなかった。
****
あの夜から数日経って。
私はカカシ先生を避けていた。
あんなことがあってどんな顔をすればいいのか分からないし、何であんなことをしたのかと聞くのも怖かった。
でもそんなこと師匠は知らない。
カカシ先生に用事を託けられ、重い足取りで上忍待機所に行ったけど誰もいなくて、もしかして任務かもとアカデミーの受付に向かった。
いつものように受付に座っていたイルカ先生に聞くと、先ほど任務から帰ってきて報告書の書き直しで別室にいると言われた。
そういえば昔から報告書を書くのが苦手と言ってよく手伝わされていたことを思い出しながら教えてもらった部屋の前に辿り着く。
「スー・・・ハー・・・」
何度も深呼吸を繰り返して落ち着かせ、ドアをノックする。
しかし反応はなく、またノックしたけどやはり返事は返ってこない。
居ないのかな、とドアノブを捻り部屋を覗くと、テーブルに俯している銀髪が目に入る。
近づいても起きないから疲れているのだろう。
額当ても外して眠っている先生を見下ろす。
いつもは額当てで逆立っている髪が降りていて、こうして見ると固い髪質ではないらしい。
そっと髪を撫でると、やはり柔らかい。
自分とは違う髪質でどことなく気持ち良い。
起こさないように何度も髪を撫でていると突然その手を掴まれた。
驚いて目を丸くしていると、顔を上げたカカシ先生の瞳に妙な色気があって、その目に射抜かれて動けない。
「あ、えっと・・・」
「──お前は少し不用心だよね」
「・・・え?あっ!」
椅子から立ち上がったカカシ先生に手を掴まれて机の上に押し倒されてしまった。
片手で両手を押さえられているのに身動きができない。
見下ろしてくる先生の顔は静かに怒っていて、見たことのない顔をしていて・・・
──怖い。
「あんなことされた男の髪を触るのはどういうつもり?」
「あ・・・」
あの夜、初めてみた雄の先生の顔を思い出して顔が熱くなる。
先生は私の首に顔を埋めたと思ったら舌が肌の上を滑って肌が粟立つ。
「や!カカシ先生、やめて!」
「そんな顔しても全然説得力ないよ」
──そんな顔ってどんな顔?
聞きたくても獣が今にも獲物を食べようとするような瞳を見てしまい声が出ない。
ゆっくり近づいてくる顔に、私はあの時と違って瞼を閉じた。
「お疲れ様でした」
「お疲れー」
陽が沈んだ頃、任務に出ていた私たちは阿吽の門の前で挨拶をして解散した。
里の皆も仕事場から我が家へと帰ろうとたくさんの人が行き交う中を歩く。
ご飯どうしようか。
長期の任務だったから出発前に冷蔵庫を開けてきてしまった。
任務疲れもあるしご飯を作る気力はない。
任務終わりで身なりがボロボロだから綺麗なお店には入れない。
一楽か居酒屋かなぁ、と唸っていると後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、そこにはカカシ先生が「よっ」と手を上げて立っていた。
「カカシ先生!」
「お疲れ。サクラも任務だったのか?」
「はい。先生も?」
「そ。やっと帰ってきて夕飯どうしようかな〜って思ったらサクラが歩いてるのを見つけてね」
「ふふ。私も夕飯悩んでたんです」
「お、グッドタイミングだったな。一緒に食べに行くか?」
「是非!なら居酒屋?」
「だなー。あ、サクラはお酒飲むなよ?」
「はーい。分かってます。カカシ先生の奢りかしら?」
「いいよ。頑張った子にご褒美として先生が奢ってあげよう」
「やった!」
人の奢りほど嬉しいものはない。
私は嬉しさと空腹から、先生の手を引いていつもの居酒屋へと向かった。
「ごちそーさまでした!」
あれから2時間。
先生の奢りでたらふく料理を食べて、店を出てから先生にお礼を言う。
「どういたしまして。サクラはナルト達と違ってたくさん食べないから先生はすごく助かります」
「あの2人、2人分は食べるものね」
「そうなんだよ・・・しかも遠慮もせずに高いやつばっか頼みやがるし・・・サクラだけだよ良い子なのは」
そう言って先生は私の頭をヨシヨシするように撫でてくる。
皆が成長して七班も解散してからこんなふうに先生に頭を撫でられるのは久しぶりでその心地よさに目を閉じる。
「そろそろ帰りますか。今一人暮らしだったよな」
「はい」
カカシの質問に頷く。
綱手様に弟子入りして中忍になった頃、病院勤務や任務で遅くなることが増えて、両親に迷惑をかけるのは避けたくて病院の近くのアパートで一人暮らしを始めた。
まぁ、それもあるけどお母さんの小言から逃げるためでもある。
「送ってくよ」
「いいわよ!ここからだと先生の家と反対だし、先生も疲れてるでしょ?」
「女の子を1人で帰らせるわけにいかないでしょ。いくらサクラが強いって言ってもね」
「う・・・」
強いから大丈夫と言おうとしたら先に言われてしまった。
こうなっては断る理由もない。
「・・・それじゃあ、お願いします」
「りょーかい。じゃ、行こっか」
先生は先ほどの私のように手を引いて、私のアパートの方角へと歩き出す。
下忍時代、任務や演習でヘトヘトになった私の手をこうやってカカシ先生は手を引いて歩いてくれた。
ナルトとサスケくんは同じようにヘトヘトだったけどそれでも自分の足でちゃんと歩いてて。
自分だけ情けなくて落ち込んでいると「大丈夫。サクラもすぐに自分の足で歩けるよ」と励ましてくれた。
先生の言葉は今のことを言っているようで、未来のことも言ってくれているようで。
その言葉はずっと励まされてここまでやってこれた。
私はカカシ先生の生徒になれたことを今でも誇りに思っている。
そんなことを考えていると、すぐに自分のアパートにたどり着いた。
着くなり先生は「じゃあな」と言って去ろうとするので慌ててベストを掴んで引き止める。
どうした?といった顔で振り向く先生。
何も考えずに引き留めてしまって、一生懸命考えだした言葉は、
「お礼にお茶飲んで行って!」
だった。
渋る先生を何とか部屋に連れ込んでお茶の用意をしていたのだけど、何故か先生は玄関のところで靴も脱がずに突っ立っている。
「カカシ先生、どうしたの?」
「・・・やっぱり帰るよ」
「え!もしかして用事でもあった?」
「いや・・・」
「なら上がっていってよ。ね?」
先生に近づいて首を傾け、昔より近い距離で上目遣いをすると、なぜか眉間に皺を寄せている。
どうしたの、と言おうとしたらいきなり壁に背中を押しつけられ、足の間に先生の足が入り、今まで感じたこと距離感にカカシ先生の顔がある。
突然の出来事に頭が追いつかないでいると、先生は口布を下げて徐に唇を塞いだ。
驚いて反射で口を開くと口内にぬるりとしたものが入ってきてくぐもった声が出る。
そんなのは気にしないとばかりにソレは舌を絡めたり舐めたり吸ったりと好き勝手に動いて翻弄される。
何度も何度も角度を変えて舌が絡み、口の端から涎が垂れているのに拭うことも許されない。
されるがまま口内を犯されていると、服の下に先生の手が入り込んで下着の上から胸に手が置かれてビクリと体が跳ねる。
それが分かったのか先生は唇を離し、手も抜いてただ見下ろしてくる。
何をどうしたらいいのか分からず顔を上げれないでいると、耳元に口が近づいた。
「オレも男なんだよ、サクラ。安易に男を部屋に入れない。いいね?」
いつもより低い声にコクコクと頷くと身体が離れて、ほっと肩を撫で下ろす。
「じゃあね」
ドアノブを回して先生は何でもなかったみたいに部屋を出ていった。
1人部屋に残された私は足に力が入らなくなって床にペタリと座り込み、暫く立ち上がれなかった。
****
あの夜から数日経って。
私はカカシ先生を避けていた。
あんなことがあってどんな顔をすればいいのか分からないし、何であんなことをしたのかと聞くのも怖かった。
でもそんなこと師匠は知らない。
カカシ先生に用事を託けられ、重い足取りで上忍待機所に行ったけど誰もいなくて、もしかして任務かもとアカデミーの受付に向かった。
いつものように受付に座っていたイルカ先生に聞くと、先ほど任務から帰ってきて報告書の書き直しで別室にいると言われた。
そういえば昔から報告書を書くのが苦手と言ってよく手伝わされていたことを思い出しながら教えてもらった部屋の前に辿り着く。
「スー・・・ハー・・・」
何度も深呼吸を繰り返して落ち着かせ、ドアをノックする。
しかし反応はなく、またノックしたけどやはり返事は返ってこない。
居ないのかな、とドアノブを捻り部屋を覗くと、テーブルに俯している銀髪が目に入る。
近づいても起きないから疲れているのだろう。
額当ても外して眠っている先生を見下ろす。
いつもは額当てで逆立っている髪が降りていて、こうして見ると固い髪質ではないらしい。
そっと髪を撫でると、やはり柔らかい。
自分とは違う髪質でどことなく気持ち良い。
起こさないように何度も髪を撫でていると突然その手を掴まれた。
驚いて目を丸くしていると、顔を上げたカカシ先生の瞳に妙な色気があって、その目に射抜かれて動けない。
「あ、えっと・・・」
「──お前は少し不用心だよね」
「・・・え?あっ!」
椅子から立ち上がったカカシ先生に手を掴まれて机の上に押し倒されてしまった。
片手で両手を押さえられているのに身動きができない。
見下ろしてくる先生の顔は静かに怒っていて、見たことのない顔をしていて・・・
──怖い。
「あんなことされた男の髪を触るのはどういうつもり?」
「あ・・・」
あの夜、初めてみた雄の先生の顔を思い出して顔が熱くなる。
先生は私の首に顔を埋めたと思ったら舌が肌の上を滑って肌が粟立つ。
「や!カカシ先生、やめて!」
「そんな顔しても全然説得力ないよ」
──そんな顔ってどんな顔?
聞きたくても獣が今にも獲物を食べようとするような瞳を見てしまい声が出ない。
ゆっくり近づいてくる顔に、私はあの時と違って瞼を閉じた。
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