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short.2

「う、うぅ、カカシせんせぇ・・・」

病院の屋上でナルトとサスケの度を越した喧嘩を見て泣き縋るサクラを貯水槽に座って見下ろしてため息を吐く。

──チームワークどこいったよ・・・

才能がないと思っていた奴が自分を守るほどに強くなっていたことに焦りを感じたサスケによって第七班に亀裂が入り始めた。
中忍試験からサスケの焦燥に気づいていながら何もしてやれず、この事態を招いてしまった。
ナルトもサスケには負けたくない、追いつきたいという気持ちから勝負を引き受けて。
お互いに里の仲間に向けるべきではない力を向けて。
そしてそれをサクラが止めようと間に入った。
既で止めることは出来たものの、もし何か起きていたら。
仲間を傷つける辛さは自分が一番知っているというのに。
教師失格だ、本当に。

オレは自来也様とナルトを託し、啜り泣くサクラの元に飛び降りる。

「サクラ」

名を呼べば目を赤くして涙を浮かべて顔を上げるサクラが、かつての友の顔を思い出させて胸が痛くなる。

「だいじょーぶ!また昔みたいになれるさ」

これ以上サクラの泣き顔を見たくなくて、笑顔を作ってぽん、と頭を撫でる。
そうすればサクラは弱々しくも笑ってくれた。
その時ほど安堵したことはなかった。



しかし、それからずっと安易に口にしたあの言葉を後悔している。
サスケが里を抜けてから、ずっと──




それから月日は流れ、七班は実質解散状態となりオレは上忍としての任務をこなす日々。
サスケとナルトが里を出てからサクラも五代目火影である綱手に弟子入りをしてオレの元を離れた。
それでも大事な教え子には変わりない。
任務の合間に様子を見に行けば、嬉しそうに近寄ってきて話をする。
前ほど会えなくはなったが、それでも少しでも顔を見れれば安心できた。



そんなある日、S級任務でしくじり、重傷を負ってしまう。

「やっちゃったな・・・これは」

任務内容は敵里の忍との戦闘。
情報とは違って多数の敵と遭遇してしまい、仲間は全滅だ。
写輪眼を持つこの体を敵里に渡してはいけない。
自分で処理する方法は心得ている。
腹に空いた穴からドクドクと血は流れ続け、意識も朦朧としてくる。
早くしなければいけないのに、子供の頃や七班での活動の記憶が走馬灯のように頭の中で流れて手が動かない。
楽しかった4人での任務。
歪み合う2人をサクラが間に入って諫め、その後をゆっくりと付いていくと「遅い!」とサクラにサクラに怒られて、前を歩く2人のところに手を引かれて歩く。
忍の世界で生きていく物は必ず暗い所があるのに、サクラはいつも楽しそうに、嬉しそうに任務をこなしていく。
そんなサクラが眩しくて、サクラが笑うとこっちも自然と笑みが溢れる。

──そういえば、ずっとサクラの笑顔を見てないな・・・

あの日からサクラのいつも辛そうにしている顔しか見ていない。
泣いている顔しか覚えてない。
オレはあの子の笑顔が好きなのに──










****



──またサクラの泣く声が聞こえる。
目の前には小さなサクラが声を殺して泣いている。
俯く薄紅の髪に触れようと手を伸ばす。

「笑ってサクラ・・・」




目を開けるとそこは薄暗い世界だった。
働かない頭で目を動かすと、視界にまた薄紅色が目に入る。
無意識にその色に手を伸ばして触れると、その色が勢いよく上に動く。
現れた顔は涙でぐしゃぐしゃのサクラの顔。
 
「カ、カシ、せんせ・・・」
「・・・サクラ?泣いてる、のか・・・?」
「あ、当たり前じゃない!!先生、2週間前に瀕死の状態で担ぎ込まれて、全く目を覚まさなかったんだから!」

驚いて止まっていた涙がまたぼろぼろと溢れ出してサクラの頬に筋を残す。
サクラの言葉から、今いるのは恐らく病院で、電気は付いておらず暗い感じから夜なのだろう。
1人、毎日こうやって暗い部屋でオレが起きるのを泣きながら待っていてくれていたのだと思ったら胸が締め付けられる。

「ごめん・・・心配、かけたな」
「本当よ・・・もう、私を1人にしないで・・・」

頭を撫でるオレの手を取って縋るように懇願してくるサクラ。
まだ12という幼い年齢で1人ぼっちになってしまったサクラの気持ちは良く分かる。
だからオレはこの子を1人にすることが出来ない。
オレは握る白い手を強く握り返す。

「だいじょーぶ・・・もう2度と、サクラを1人にしないよ」


オレたちの歪な絆が始まった日だった。


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