short.2
「は・・・」
狐の面を被った男は暗い森の中を迷うことなく歩く。
日中でも生い茂る木々によって日が当たらないため、夜のような暗さがあるが、夜目が効く男には関係のないことだ。
そして男の服には血が滲んでいる。
昨夜の任務で不覚にも負傷してしまい、仲間たちには大事ないと言ったものの、腹から流れる血は止まることを知らない。
暗部の待機所で応急処置するわけにもいかないので、滅多に人が入ってこない森を選んだというわけだ。
隠れる場所を探すために森の中を歩いていると、光が目に入った。
こんな薄暗い場所で?と疑問に思い、その光へと足を進める。
その場に踏み入れた時、眩しさに目が眩む。
慣れて目を開けると、そこは今までの暗さはどこに行ったのか、太陽に照らされた桜の木が立っていた。
周りを見れば他の木が桜を避ける生えており、そのお陰で桜は太陽を独り占めしてスクスクと立派に育っている。
そして、そこでようやく今が桜の季節なのだと気づいた。
深い闇の中にいると光がどうなっているのか全く分からない。
暫く桜に見惚れていると子供の笑い声が聞こえる。
目線を下に向けると、桜の木の下でピンク色が動いていた。
ピンクの髪に赤い服。
一瞬桜の妖精か何かのようにも見えて目を疑ってしまった。
よく見ればそれは小さい女の子だった。
1人嬉しそうに風で舞った桜の花びらの中でクルクル回っている。
他に友達らしき人影も親もいない。
こんな薄暗いところで1人で遊ぶなど、野犬にでも襲われたらどうするのか。
そう思ってもその美しさに声も出ず足も動かず、ただその少女に見入ってしまった。
ふと、気配に気付いたのか翡翠のような大きな瞳がこちらに向きそうになるので、思わず一瞬で飛んで木の枝に隠れた。
首を傾げる少女はまた桜の花びらと戯れている。
オレは少女が居なくなるまで、腹の痛みも忘れてその光景を見ていた。
オレが魅力されたのは桜なのか、その少女なのか・・・それは未だに分からない。
あれから数年が経ち、任務で立ち寄った集落の近くに立派な桜の木が満開で咲いていた。
それはたった1本、自分こそが主役だと言わんばかりに咲き誇っていた。
それはあの日の桜のようで。
「カカシ先生」
桜の木を見上げているとすぐ横で呼ばれる。
顔を下げるとサクラがこちらを見上げていた。
「ん?」
「カカシ先生ってよく桜の木見てるわよね。好きなの?」
「ん〜、そうだね。昔ちょっとね」
「なになに?もしかして恋バナ?」
目を輝かせ、話すまでこの腕を離さないと強く掴むサクラに頬が引き攣る。
「・・・昔、桜の花びらが舞ってる中心で5、6歳ぐらいの女の子が楽しそうにしててね。あの光景が何年経っても目から離れないんだ」
「・・・先生ってロリコンだったの?」
「いきなり失礼なこと言うね、この子は。別に好きとかじゃないんだけど、言葉にするのは難しいな」
「ふーん?」
思っていた話ではなかったからか、興味のなくなったサクラは地面に落ちている綺麗な花びらを拾い始める。
「それどうするんだ?」
「押し花にするの。綺麗に出来たら栞にして先生にあげる」
「そっか、ありがとう」
ふふ、と笑うサクラにオレも笑みが溢れる。
すると突風が吹き、2人の周りで地面に落ちた花びらが舞う。
「わー!きれー!!」
立ち上がったサクラは楽しそうに桜の花びらの中でクルクル回り出す。
その光景に既視感を覚え、あの時の少女も髪がピンク色で翡翠の瞳だったことを思い出した。
「そっか、そうだったのか・・・」
「何が?」
オレの独り言にサクラはこちらに顔を向けて首を傾げる。
オレは何も答えず、サクラを見て微笑むだけだった。
何年も忘れることのなかったあの光景。
否定しながら、心の隙間にハマった言葉。
あれはオレの初恋だったのかもしれない。
なら、もう見失わないようにその小さな手を離さないでおこう。
狐の面を被った男は暗い森の中を迷うことなく歩く。
日中でも生い茂る木々によって日が当たらないため、夜のような暗さがあるが、夜目が効く男には関係のないことだ。
そして男の服には血が滲んでいる。
昨夜の任務で不覚にも負傷してしまい、仲間たちには大事ないと言ったものの、腹から流れる血は止まることを知らない。
暗部の待機所で応急処置するわけにもいかないので、滅多に人が入ってこない森を選んだというわけだ。
隠れる場所を探すために森の中を歩いていると、光が目に入った。
こんな薄暗い場所で?と疑問に思い、その光へと足を進める。
その場に踏み入れた時、眩しさに目が眩む。
慣れて目を開けると、そこは今までの暗さはどこに行ったのか、太陽に照らされた桜の木が立っていた。
周りを見れば他の木が桜を避ける生えており、そのお陰で桜は太陽を独り占めしてスクスクと立派に育っている。
そして、そこでようやく今が桜の季節なのだと気づいた。
深い闇の中にいると光がどうなっているのか全く分からない。
暫く桜に見惚れていると子供の笑い声が聞こえる。
目線を下に向けると、桜の木の下でピンク色が動いていた。
ピンクの髪に赤い服。
一瞬桜の妖精か何かのようにも見えて目を疑ってしまった。
よく見ればそれは小さい女の子だった。
1人嬉しそうに風で舞った桜の花びらの中でクルクル回っている。
他に友達らしき人影も親もいない。
こんな薄暗いところで1人で遊ぶなど、野犬にでも襲われたらどうするのか。
そう思ってもその美しさに声も出ず足も動かず、ただその少女に見入ってしまった。
ふと、気配に気付いたのか翡翠のような大きな瞳がこちらに向きそうになるので、思わず一瞬で飛んで木の枝に隠れた。
首を傾げる少女はまた桜の花びらと戯れている。
オレは少女が居なくなるまで、腹の痛みも忘れてその光景を見ていた。
オレが魅力されたのは桜なのか、その少女なのか・・・それは未だに分からない。
あれから数年が経ち、任務で立ち寄った集落の近くに立派な桜の木が満開で咲いていた。
それはたった1本、自分こそが主役だと言わんばかりに咲き誇っていた。
それはあの日の桜のようで。
「カカシ先生」
桜の木を見上げているとすぐ横で呼ばれる。
顔を下げるとサクラがこちらを見上げていた。
「ん?」
「カカシ先生ってよく桜の木見てるわよね。好きなの?」
「ん〜、そうだね。昔ちょっとね」
「なになに?もしかして恋バナ?」
目を輝かせ、話すまでこの腕を離さないと強く掴むサクラに頬が引き攣る。
「・・・昔、桜の花びらが舞ってる中心で5、6歳ぐらいの女の子が楽しそうにしててね。あの光景が何年経っても目から離れないんだ」
「・・・先生ってロリコンだったの?」
「いきなり失礼なこと言うね、この子は。別に好きとかじゃないんだけど、言葉にするのは難しいな」
「ふーん?」
思っていた話ではなかったからか、興味のなくなったサクラは地面に落ちている綺麗な花びらを拾い始める。
「それどうするんだ?」
「押し花にするの。綺麗に出来たら栞にして先生にあげる」
「そっか、ありがとう」
ふふ、と笑うサクラにオレも笑みが溢れる。
すると突風が吹き、2人の周りで地面に落ちた花びらが舞う。
「わー!きれー!!」
立ち上がったサクラは楽しそうに桜の花びらの中でクルクル回り出す。
その光景に既視感を覚え、あの時の少女も髪がピンク色で翡翠の瞳だったことを思い出した。
「そっか、そうだったのか・・・」
「何が?」
オレの独り言にサクラはこちらに顔を向けて首を傾げる。
オレは何も答えず、サクラを見て微笑むだけだった。
何年も忘れることのなかったあの光景。
否定しながら、心の隙間にハマった言葉。
あれはオレの初恋だったのかもしれない。
なら、もう見失わないようにその小さな手を離さないでおこう。
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