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short.2

夜の22時。
何とか仕事を終えて家に帰ろうと人が消えた道を歩いていると、通り道である公園にあるベンチの上に見知った髪が見えた。
それはピクリとも動かず、私は慌ててベンチに駆け寄る。
やはりそこには師であり現火影でもあるカカシ先生が倒れていた。
その顔は暗闇でも分かるほど青白く、しかも今は真冬の12月だ。
何かあってはいけないと先生の肩を揺さぶる。
しかしその目は固く瞑られており開く気配はない。
今は夜遅く公園の前を通る人などいないだろう。
仕方ない、と私はカカシ先生を横抱きで自分の家に連れ帰った。


何とか一人暮らしをする我が家に連れ帰るもまだ起きそうもない。
とりあえず床に寝転がし、暖房と毛布をかけて自分はお風呂へと向かった。

ゆっくりお風呂に入ったにも関わらず、その人はまだ床に寝転がっていた。
時刻は23時過ぎ。
このまま年頃の女の部屋に成人男性を泊めるのはいかがなものか。
私はしゃがんでまだ眠りこける先生の肩を揺さぶる。

「ねぇ、六代目」
「・・・・・・・・・」
「・・・ちょっと、先生」
「・・・・・・・・・」
「カカシ先生ってば!」
「なぁに・・・?」

名前を呼ぶと眠そうな声とともに、いつもの半分しか開いていない瞳がこちらを見る。
その目の下には濃いクマがあり、仕事の忙しさが伝わってくる。
しかし、それとこれとは別だ。

「自分の家に帰って寝てよ」
「むり・・・動けない・・・」
「もー・・・」

こんなに憔悴している相手を追い出すこともできず、そして世話好きの性格が災いしてこれ以上無碍にはできなくて。
諦めてクローゼットから予備のお泊まりセットを取り出して、寝転ぶ先生の横に布団を敷く。

「先生、寝るならこっちの布団で寝て」
「ん〜・・・」

先生は目を瞑ったまま虫のように這ったまま動き、毛布の中に体を滑り込ませる。
毛布が捲りあがってしまい、これでは風邪をひいてしまう。
本当昔から世話の焼ける人なんだから、と毛布を手に取り先生の肩にかけたその時。
徐に私の手を先生が掴んだ。
そのまま強く引っ張られ──、気づいた時には先生と口布越しのキスをしていた。
呆然と体を起こすと、先生はふっと不敵に微笑み、目を閉じてすぐに寝息を立て始めた。
今起きた出来事を全く理解できていない私を放置して。

──え、今の、キス、よね。

ようやく頭がそれを理解して一気に血が顔に集まる。

「ねぇ、起きてよ・・・」

カカシ先生の体を揺するも、とんでもないことをしでかした張本人は気持ちよさそうに眠って起きそうもない。
更に強く揺さぶる。

「カカシ先生、起きてよ、起きてったらぁ!!」

耳元でどんなに大声で叫んでも先生は全く起きない。
もう諦めて自分のベッドで眠ろうとするも、先ほどの出来事に悶々としてしまい、ようやく寝れた時には外がうっすら明るくなっている時だった。



****


「・・・あさ」

全く寝れていない頭でベッドから起きると、部屋の真ん中で未だに眠っている我が師。
こっちの寝不足はこの人のせいなのに、気持ちよさそうに眠る顔に腹が立ってくる。

「・・・カカシせんせ、起きないと仕事遅刻するわよ」
「んー・・・やすみ・・・」

側で見下ろしながら声をかけると、起こされて眉間に皺を寄せた先生はモニャモニャと掠れ声で返事をしてまた寝息を立て始めた。
この人の遅刻癖を思い出すと本当か?と疑ってしまったが、本当なら起こすのも可哀想で。
先生はそのまま寝かせることにし、仕事の準備をしてメモと合鍵と朝ごはんを置いて仕事場へと向かった。

病院で仕事をしながらその合間に探し人のシカマルをなんとか見つけて捕まえる。

「ねぇ、シカマル。今日六代目は?」
「今日は休みだぞ。何か用事か?」
「ううん!大丈夫!」

とりあえず朝言っていたことは嘘ではなかったようでホッとする。
あれで本当は仕事でした、と言われたら罪悪感でいっぱいだっただろう。



それから今日の仕事を終え自分の住むアパートに帰り着く。
今日の夕飯は何を作ろうかとカバンから鍵を取り出して回すも手応えがない。
つまり鍵がかかっていないということだ。
恐る恐るドアを開けて部屋に入ると、そこには私のベッドに背を預けて寛いでいるカカシ先生がいた。
口を開けてあんぐりと立ち尽くす私に気づいてこちらに微笑んでくる。

「おかえり〜サクラ」
「・・・なんで」
「え?」
「何でまだいるの!?起きたら鍵はポストに入れて帰ってってメモに書いてたでしょ!」

バシッと机のメモがあったところを叩く。
あれには仕事に行くから私が帰る前には帰っておいてと書いといたはずだ。

「あー、あったねぇ」
「じゃあ帰って!」
「やだ」
「は!?」
「いやー、サクラの部屋が思ったより居心地が良くてさぁ。暫くここに住もうかなって」
「は、はぁ!?ちょっとふざけないでよ!」
「ふざけてないよー。きっと自分の家に帰ってもご飯作らないし、また倒れるかも・・・」

はぁ、と落ち込む姿におせっかい気質の胸が痛む。
そりゃ火影様に何かあったらと思ったら心配だけど。
でも、私たちは元師弟関係とはいえ今は立派な大人の男女だ。
昨日のことだって・・・

「・・・先生、昨日のこと覚えてる?」
「昨日のこと?何かしちゃった?」
「・・・ううん、覚えてないならいいの」

それ以上突っ込むこともできず、
とりあえず2人分の食材を買いに行かないとと肩を落とした。




あれから1週間。
カカシ先生は本当に私の家に入り浸るようになり、仕事が終われば私の部屋に帰ってきて一緒にご飯を食べるという変な同居生活が始まった。
もちろん布団は別だけど。
今日は先生の好きな秋刀魚の塩焼きと茄子の味噌汁、きんぴらといった和風の献立だ。
それを先生は美味しそうに口に運んでいる。

「そういえば、シカマルに最近顔色が良いって言われたから、毎日サクラのご飯食べてるからかなぁって言っといたんだよね」
「ちょ!何を勝手に!」
「えー、ダメだった?別に一緒に住んでるとは言ってないよ?」

悪びれもなく味噌汁を啜る先生に肩を落とす。
あの切れ物が勘付かないはずがないではないか。
いつあの親友にバレるか・・・
諦めて自分も味噌汁を啜る。

「サクラ」
「・・・なに?」
「覚えてるって言ったらどうする?」
「?なにが──」

突然の質問に首を傾げる。
質問の意味を問いただしたくても先生は意味深に笑うだけ。

──覚えてるって何が?

眉間に皺を寄せて記憶から探り出す。
そういえば最近、同じことを先生に聞いたような──

「!!」

ようやく質問の真意が分かり、目を見開いて先生を見る。
私が気づいたと分かっても微笑を崩そうとしない。

「お、覚えてるって、まさか・・・」
「まさか?サクラちゃんは何のことだと思う?」
「〜〜〜!!」

絶対自分から言わずに私から言わせようとしているのが分かる。
いつも先生はこうだ。
良いようにカカシ先生の手のひらで転がされていることが悔しくて、私はその答えを口に出さずにご飯をかきこんだ。


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