short.2
カカシ先生とは恋人関係ではない。
でも私たちは身体を重ねる。
きっかけは覚えてないけど、たぶん2人が里から居なくなってお互い寂しくなったからだと思う。
第七班の絆が始まって8年、私たちは成人になりお酒が飲める歳になった。
みな立場も変わってなかなか会えることが少なくなったけど、時間が合えば集まってお酒を飲んで騒いで。
昔の時間を埋めるようによく4人で集まった。
数ヶ月ぶりにサスケくんが帰郷するということでもちろん私たちはいつもの居酒屋に集まった。
と言ってもカカシ先生はいない。
今日は大事な会合があるとかで不参加だ。
楽しんできて、と言われたけど、1人欠けただけで寂しくなってしまう。
それからお酒を飲みながらお互いの近況を話す。
と言ってもほとんどサスケくんの旅の話を根掘り葉掘り聞いていただけだけど。
久しぶりのサスケくんにナルトはウザ絡みしまくり、酒を煽り。
お開きになった時にはナルトはすっかりデロンデロンに仕上がっていた。
どうしたものか、と悩んでいると、タイミングよく最近長年の恋を成就させてナルトと恋人関係になったヒナタが迎えに来た。
「ナルトくんが迷惑かけてごめんなさい」とすっかりお世話役も板についてきたみたいで、ずっとヒナタのことを見守ってきた友として嬉しい反面、羨ましい気持ちにもなった。
本当なら自分も誰かの特別になってお世話を焼いていたのかもしれないと。
チラッと隣の人を見るとサスケくんもこちらをじっと見ていて心臓が高鳴った。
「送る」
「え、あ、ありがとう・・・って、ちょっと待ってよ!」
思いもよらぬ言葉にときめいている暇もなく、お礼を聞かずに1人歩き出すサスケくんの背中を追いかけた。
それから我が家に向かう道すがら、私たちはまた話に花を咲かせる。
と言っても私が一方的に話してサスケくんが相槌を打ってるだけだけど。
それでも昔はこんなふうに並んで会話することもできなかった。
変わらないと思っていたのに、ちゃんとしっかりと変わっている。
暫く歩いていると、頭の頂点に冷たいものが落ちてきた。
見上げるとそれはパラパラと空から降ってきてだんだんと強くなっていく。
「やだ、雨降ってきちゃった」
「こっちこい」
傘を持ってきていなかった為困っていると、サスケくんに腕を引かれて民家の屋根の下に避難する。
移動する間に雨に濡れてしまって、体や服が濡れてしまった。
私はカバンからハンカチを取り出して髪や腕を拭いていく。
サスケくんも濡れているのに拭く素振りがない。
恐らくハンカチなど持っていないのだろう。
「動かないでね」
そう言って私は背伸びしてサスケくんの髪をハンカチで拭いていく。
最初驚いたように目を丸くしていた右目は、拭いている間もじっとこちらを見てきて落ち着かない。
「えっと・・・もう少しで雨止むかしら」
居心地の悪さに拭くのを止めて空を見上げようとすると横から強く腕を掴まれる。
ビックリして顔を戻すと、何故か近いサスケくんの顔。
反応することもできずに唇を何か柔らかいものが触れる。
それがキスだと分かるまで数十秒かかり、慌てて胸を押して離れる。
「な、なんで・・・」
口を手の甲で押さえて目の前のサスケに問いかける。
サスケくんは何も言わずじっ、と見つめてくるだけ。
晒された片目だけでは何を考えているか分からない。
その時、後ろからジャリッと靴が擦れる音が聞こえてバッとその方向を見ると、そこには傘を差しているカカシ先生が立っていた。
先生は私と同じように目を丸くしていたけど、小さく笑って身を翻し来た方向へと去っていった。
その手には先生が差している傘より少し小さい、女性ものの傘。
それは前に私が先生の家に置いて行った傘だった。
たぶん雨が降ってきたから迎えにきてくれたんだ。
「・・・サクラ」
後ろから聞こえたサスケくんの声に大袈裟なほど肩が跳ねる。
今の、絶対先生に見られた。
──どうしよう、どうしよう。
頭の中がグルグルする。
私はサスケくんの顔が見れず後退り、
「あ、の・・・私、明日、朝早いから!」
そう言ってサスケくんから、先生からも逃げるように雨の中、その場から駆け出した。
それから私たちは変わらなかった。
あのキスのあと、サスケくんは相変わらずで本当に私たちはキスをしたのだろうかと疑いたくなった。
そして、カカシ先生も。
会ってもあの時のことは聞かれず、サスケくんと会っても今までと何も変わらずに会話してて、ナルトも何も疑問に思わなくて。
何を先生に期待していたんだろう、と自分に苦笑した。
あれから何日か経ったけどお互い忙しくて一緒に過ごすことがなくなった。
執務室や里の中ですれ違った時に人の目もあるから世間話とかはしていたけど、2人きりという時間はなくて。
カカシ先生と2人きりの空間になった時、何を言われるのかが分からなくて怖かった。
それに何となくカカシ先生からも2人きりになるのを避けられているような気がした。
忙しいと聞いていたけど家には帰っているとシカマルに会った時に聞いてしまった。
今までは家に帰る時は必ずお誘いを受けていたのにそれがない。
私も、恐らく先生もこれ以上踏み込むことを恐れている。
だけどずっとこのままというわけにもいかない。
早くこの胸のモヤモヤをどうにかしないといけない。
夜、シカマルから先生はもう帰ったと聞いて先生の家に向かう。
何も連絡はしてないけど、したらきっと先生は逃げると思うから。
目的のアパートの部屋の前に着き、何回も深呼吸をする。
部屋の電気は付いていたからもう居留守は使えない。
私は震える指で呼び鈴のボタンを押すと、暫くして現れたカカシ先生は上半身裸だった。
「・・・サクラ」
現れた私に先生は驚きと、見られてはならないものに見られたというような表情だった。
その顔に嫌な予感を感じていると、先生の後ろから白い手が伸びてきて肩に触れる。
「だぁれ〜?この子」
「っ!!」
キャミソールを着た綺麗な女の人は先生の肩に頬をくっ付けて私を見てくる。
こんな夜に半裸の男女が何をしていたのかなど分からないはずがない。
だって、自分だってこの部屋でこの人と同じことをしていたんだから。
私は知らずに涙を流していた。
いきなり泣き出す私に女の人は心配してくれるが私は何も言えず、泣き顔を見られたくなくて手で顔を覆う。
私はカカシ先生は恋人じゃない。
だから私以外にもそういう関係の人がいてもおかしくはない。
でも、それでも──。
声を殺してしゃくり泣く私を見て先生は、
「悪いけど帰ってくれる?」
低い声にビクリと肩が跳ねる。
自分に言われたのだと恐る恐る顔を上げると、先生が言った相手は私ではなくて女性の方だった。
女性もまさか自分に言われるとは思っていなかったからずっと文句を言っていたけど、先生は私しか見ていないから諦めて服を着て部屋を出て行った。
女の人が見えなくなって、先生は私の肩を掴んで部屋に招き入れられた。
後ろで玄関のドアが閉まる音が聞こえ、暗闇の中シンと静かな空間で2人きり。
何を言ったらいいのか分からずにいると先に先生が口を開いた。
「何で泣いてるの?」
「・・・分からない」
「じゃあオレが答えを教えてあげるよ」
先生は屈んで私と目が合うように覗いて頬に触れ、真っ直ぐ見つめてくる。
「サスケにキスされてどうだった?」
「どうって・・・」
「嬉しかった?嫌だった?」
「・・・少し嫌だった」
「じゃあオレとするのは?」
そう言いながら先生は軽くキスをしてくる。
「どう?」
「・・・嫌じゃ、ない」
離れていく先生の顔が恥ずかしくて目を逸らしながら答えると、先生から笑う声が聞こえた。
「ならサクラはオレが好きなんだよ」
「・・・好き?」
「そう」
先生の言葉に目を丸くする。
「・・・じゃあ、先生は?」
「好きだよ、ずっと前からね」
更に驚く私に先生は苦笑いをする。
そんなに驚く?と言ったように。
そりゃ驚くだろう。
だって、私たちはただの身体だけの関係だと思っていたのだから。
「何で言ってくれなかったのよ」
「告白して離れていかれるより、歪な関係でもお前の側に居たかったからな」
何だそれは、と呆れてしまう。
でも大切な人を失い過ぎて大切なものに臆病になっているこの人だから納得してしまう。
「私がサスケくんとキスをして、サスケくんが良いって言ってたらどうしてたの」
「んー、離れる努力はしてただろうなぁ、お前のために。でも辛くて、今まで通り接することは出来なかっただろうな」
上を見て顔を戻した先生は眉を下げて困ったように笑った。
本当自分を犠牲にするこの人らしくて泣けてきてしまう。
そんな人だから私は無意識に惹かれていたのかもしれない。
自分がそばに居て幸せにしてあげたいと。
私は先生の背中に腕を回して強く抱きしめる。
「これからもずっとそばにいてくれる?」
「もちろん。お願いされても、もう離すつもりはないよ」
目を細めて顔を近づけてるカカシ先生に私はゆっくりと目を閉じて。
私たちは誓いのように、長い長いキスをした。
でも私たちは身体を重ねる。
きっかけは覚えてないけど、たぶん2人が里から居なくなってお互い寂しくなったからだと思う。
第七班の絆が始まって8年、私たちは成人になりお酒が飲める歳になった。
みな立場も変わってなかなか会えることが少なくなったけど、時間が合えば集まってお酒を飲んで騒いで。
昔の時間を埋めるようによく4人で集まった。
数ヶ月ぶりにサスケくんが帰郷するということでもちろん私たちはいつもの居酒屋に集まった。
と言ってもカカシ先生はいない。
今日は大事な会合があるとかで不参加だ。
楽しんできて、と言われたけど、1人欠けただけで寂しくなってしまう。
それからお酒を飲みながらお互いの近況を話す。
と言ってもほとんどサスケくんの旅の話を根掘り葉掘り聞いていただけだけど。
久しぶりのサスケくんにナルトはウザ絡みしまくり、酒を煽り。
お開きになった時にはナルトはすっかりデロンデロンに仕上がっていた。
どうしたものか、と悩んでいると、タイミングよく最近長年の恋を成就させてナルトと恋人関係になったヒナタが迎えに来た。
「ナルトくんが迷惑かけてごめんなさい」とすっかりお世話役も板についてきたみたいで、ずっとヒナタのことを見守ってきた友として嬉しい反面、羨ましい気持ちにもなった。
本当なら自分も誰かの特別になってお世話を焼いていたのかもしれないと。
チラッと隣の人を見るとサスケくんもこちらをじっと見ていて心臓が高鳴った。
「送る」
「え、あ、ありがとう・・・って、ちょっと待ってよ!」
思いもよらぬ言葉にときめいている暇もなく、お礼を聞かずに1人歩き出すサスケくんの背中を追いかけた。
それから我が家に向かう道すがら、私たちはまた話に花を咲かせる。
と言っても私が一方的に話してサスケくんが相槌を打ってるだけだけど。
それでも昔はこんなふうに並んで会話することもできなかった。
変わらないと思っていたのに、ちゃんとしっかりと変わっている。
暫く歩いていると、頭の頂点に冷たいものが落ちてきた。
見上げるとそれはパラパラと空から降ってきてだんだんと強くなっていく。
「やだ、雨降ってきちゃった」
「こっちこい」
傘を持ってきていなかった為困っていると、サスケくんに腕を引かれて民家の屋根の下に避難する。
移動する間に雨に濡れてしまって、体や服が濡れてしまった。
私はカバンからハンカチを取り出して髪や腕を拭いていく。
サスケくんも濡れているのに拭く素振りがない。
恐らくハンカチなど持っていないのだろう。
「動かないでね」
そう言って私は背伸びしてサスケくんの髪をハンカチで拭いていく。
最初驚いたように目を丸くしていた右目は、拭いている間もじっとこちらを見てきて落ち着かない。
「えっと・・・もう少しで雨止むかしら」
居心地の悪さに拭くのを止めて空を見上げようとすると横から強く腕を掴まれる。
ビックリして顔を戻すと、何故か近いサスケくんの顔。
反応することもできずに唇を何か柔らかいものが触れる。
それがキスだと分かるまで数十秒かかり、慌てて胸を押して離れる。
「な、なんで・・・」
口を手の甲で押さえて目の前のサスケに問いかける。
サスケくんは何も言わずじっ、と見つめてくるだけ。
晒された片目だけでは何を考えているか分からない。
その時、後ろからジャリッと靴が擦れる音が聞こえてバッとその方向を見ると、そこには傘を差しているカカシ先生が立っていた。
先生は私と同じように目を丸くしていたけど、小さく笑って身を翻し来た方向へと去っていった。
その手には先生が差している傘より少し小さい、女性ものの傘。
それは前に私が先生の家に置いて行った傘だった。
たぶん雨が降ってきたから迎えにきてくれたんだ。
「・・・サクラ」
後ろから聞こえたサスケくんの声に大袈裟なほど肩が跳ねる。
今の、絶対先生に見られた。
──どうしよう、どうしよう。
頭の中がグルグルする。
私はサスケくんの顔が見れず後退り、
「あ、の・・・私、明日、朝早いから!」
そう言ってサスケくんから、先生からも逃げるように雨の中、その場から駆け出した。
それから私たちは変わらなかった。
あのキスのあと、サスケくんは相変わらずで本当に私たちはキスをしたのだろうかと疑いたくなった。
そして、カカシ先生も。
会ってもあの時のことは聞かれず、サスケくんと会っても今までと何も変わらずに会話してて、ナルトも何も疑問に思わなくて。
何を先生に期待していたんだろう、と自分に苦笑した。
あれから何日か経ったけどお互い忙しくて一緒に過ごすことがなくなった。
執務室や里の中ですれ違った時に人の目もあるから世間話とかはしていたけど、2人きりという時間はなくて。
カカシ先生と2人きりの空間になった時、何を言われるのかが分からなくて怖かった。
それに何となくカカシ先生からも2人きりになるのを避けられているような気がした。
忙しいと聞いていたけど家には帰っているとシカマルに会った時に聞いてしまった。
今までは家に帰る時は必ずお誘いを受けていたのにそれがない。
私も、恐らく先生もこれ以上踏み込むことを恐れている。
だけどずっとこのままというわけにもいかない。
早くこの胸のモヤモヤをどうにかしないといけない。
夜、シカマルから先生はもう帰ったと聞いて先生の家に向かう。
何も連絡はしてないけど、したらきっと先生は逃げると思うから。
目的のアパートの部屋の前に着き、何回も深呼吸をする。
部屋の電気は付いていたからもう居留守は使えない。
私は震える指で呼び鈴のボタンを押すと、暫くして現れたカカシ先生は上半身裸だった。
「・・・サクラ」
現れた私に先生は驚きと、見られてはならないものに見られたというような表情だった。
その顔に嫌な予感を感じていると、先生の後ろから白い手が伸びてきて肩に触れる。
「だぁれ〜?この子」
「っ!!」
キャミソールを着た綺麗な女の人は先生の肩に頬をくっ付けて私を見てくる。
こんな夜に半裸の男女が何をしていたのかなど分からないはずがない。
だって、自分だってこの部屋でこの人と同じことをしていたんだから。
私は知らずに涙を流していた。
いきなり泣き出す私に女の人は心配してくれるが私は何も言えず、泣き顔を見られたくなくて手で顔を覆う。
私はカカシ先生は恋人じゃない。
だから私以外にもそういう関係の人がいてもおかしくはない。
でも、それでも──。
声を殺してしゃくり泣く私を見て先生は、
「悪いけど帰ってくれる?」
低い声にビクリと肩が跳ねる。
自分に言われたのだと恐る恐る顔を上げると、先生が言った相手は私ではなくて女性の方だった。
女性もまさか自分に言われるとは思っていなかったからずっと文句を言っていたけど、先生は私しか見ていないから諦めて服を着て部屋を出て行った。
女の人が見えなくなって、先生は私の肩を掴んで部屋に招き入れられた。
後ろで玄関のドアが閉まる音が聞こえ、暗闇の中シンと静かな空間で2人きり。
何を言ったらいいのか分からずにいると先に先生が口を開いた。
「何で泣いてるの?」
「・・・分からない」
「じゃあオレが答えを教えてあげるよ」
先生は屈んで私と目が合うように覗いて頬に触れ、真っ直ぐ見つめてくる。
「サスケにキスされてどうだった?」
「どうって・・・」
「嬉しかった?嫌だった?」
「・・・少し嫌だった」
「じゃあオレとするのは?」
そう言いながら先生は軽くキスをしてくる。
「どう?」
「・・・嫌じゃ、ない」
離れていく先生の顔が恥ずかしくて目を逸らしながら答えると、先生から笑う声が聞こえた。
「ならサクラはオレが好きなんだよ」
「・・・好き?」
「そう」
先生の言葉に目を丸くする。
「・・・じゃあ、先生は?」
「好きだよ、ずっと前からね」
更に驚く私に先生は苦笑いをする。
そんなに驚く?と言ったように。
そりゃ驚くだろう。
だって、私たちはただの身体だけの関係だと思っていたのだから。
「何で言ってくれなかったのよ」
「告白して離れていかれるより、歪な関係でもお前の側に居たかったからな」
何だそれは、と呆れてしまう。
でも大切な人を失い過ぎて大切なものに臆病になっているこの人だから納得してしまう。
「私がサスケくんとキスをして、サスケくんが良いって言ってたらどうしてたの」
「んー、離れる努力はしてただろうなぁ、お前のために。でも辛くて、今まで通り接することは出来なかっただろうな」
上を見て顔を戻した先生は眉を下げて困ったように笑った。
本当自分を犠牲にするこの人らしくて泣けてきてしまう。
そんな人だから私は無意識に惹かれていたのかもしれない。
自分がそばに居て幸せにしてあげたいと。
私は先生の背中に腕を回して強く抱きしめる。
「これからもずっとそばにいてくれる?」
「もちろん。お願いされても、もう離すつもりはないよ」
目を細めて顔を近づけてるカカシ先生に私はゆっくりと目を閉じて。
私たちは誓いのように、長い長いキスをした。
61/159ページ