ファミリー(長編)
「じゃあ、次ここに来る時までにお願い事書いておいてねー」
担任である先生がみんなに聞こえるように言うと、元気いい返事が部屋に響き渡る。
しかしハルカだけは返事をせず、ただ渡された紙を見ていた。
「ねぇ、ママ」
「なぁに?」
幼稚園からの帰り、もう少しで仕事が終わるカカシを2人で迎えに行く。
片手をサクラと繋ぎ、もう片方の手は渡された短冊の紙を。
「なんでたなばたに、おねがいごとするの?」
ハルカの質問にサクラは困ったように顎に手を当てる。
「ん〜・・・どうしてそう思ったの?」
「せんせいがね、おねがいごとかいてって。サンタさんでもないのに」
ハルカは紙を見て首を傾げる。
「だれにおねがいするの?」
「そうね。織姫様と彦星様かな」
「おり・・・?」
「お空にお姫様と王子様がいて、その2人が会う7月7日にお願い事する、っていうのかしら」
まだ3歳のハルカに分かるように答える。
「七夕は強いて言うなら叶えて欲しい願い事ね。お花屋さんになりたいとか、お姫様になりたいとか。そういうお願い事書いてみたら?」
「うん・・・」
ハルカは浮かない顔をしている。
まだ難しかったか、とサクラは苦笑し、カカシの元に向かう。
****
「はたけさん、少し宜しいですか」
火影棟に入ってすぐサクラは書類を持つ知り合いに話しかけられる。
「ハルカ、ちょっと待ってて」
ハルカが頷くとサクラは手を離して仕事の話をし始める。
ハルカは短冊の紙をピラピラと振りながら待つ。
しかし子供は何分もじっとしとくのは苦痛で。
「ママぁ・・・」
「ごめんね、もうちょっと待って」
サクラの服を引っ張って促すも、まだ話が終わってないのでサクラは謝って話を続ける。
ハルカは頬を膨らませて、ある場所が目に入る。
そこはカカシの仕事場へと続く道。
いつもサクラと手を繋いて何度も歩いたから、どうやって部屋に着くのか覚えている。
サクラ譲りの記憶力を持った小さな少女は満面の笑みになり。
「ママ!ハルカ、さきいってる!」
「え!?あ、ちょっと、待ちなさいハルカ!!」
サクラは走り出そうとするハルカの手を掴もうとしたが、父親譲りの瞬発力にその手は空振り、ハルカは思い切り駆け走る。
サクラは相手に謝って急いでハルカを追いかけた。
****
「ここ、どこぉ・・・」
サクラから逃げ切ったハルカは思い切り迷子になっていた。
真っ直ぐ行けば執務室に着くのだが、色々目移りしてしまい、知らない場所に辿り着いてしまった。
「ママぁ、パパぁ・・・」
自分がどうやって来たのかも分からない。
ハルカのダークグレーの瞳からボロボロと涙が溢れだす。
人がいない薄暗い廊下を啜り泣きながら歩いていると。
「何してる」
目の前に黒いのが急に現れ、ハルカはビックリして顔を上げる。
****
「カカシ先生!ハルカここに来てる!?」
執務室のドアが勢いよく開いたと思ったら、サクラが息を切らしながら入ってくる。
いつもなら執務室に来る時はちゃんと分別をつけて"六代目"と呼ぶサクラが。
カカシとシカマルはビックリして目を見開く。
「来てないけど。なに、どうしたの」
カカシは椅子から立ち上がりサクラの側に寄る。
「ごめんなさい。少し手を離したら1人で先生のところに行くって走っちゃって。急いで追いかけたんだけど見当たらなくて」
サクラは今にも泣きそうな顔をして顔に手を当てる。
カカシはそんなサクラの肩を優しく抱きしめる。
「大丈夫だって。それ建物に入ってからだろ?」
サクラはカカシの胸の中で頷く。
「ここに来るなら外には出ないだろうし、厳重に警備されてるここに不審者は入れないよ」
な?、と安心させるよう言うと、サクラはまた頷いてカカシの背中に手を回す。
カカシはサクラの背中を優しく撫でる。
「シカマル、悪いんだけど」
「分かってます。ここに来たらすぐに連絡しますんで」
「うん、お願い」
カカシはマントを脱いでシカマルに渡す。
「私、さっきの場所に戻ってみる!もしかしたら戻ってるかも──」
気を取り戻したサクラはまた勢いよくドアを開けて、視線を廊下の奥に向けたまま固まっている。
「サクラ?」
カカシが不審がると。
「ママ!」
廊下から愛娘の声が聞こえてきて、カカシは慌ててサクラの後ろから廊下を見る。
「あ、パパ!」
そこにはこの騒動を招いた張本人が満面の笑みで笑って抱っこされているではないか。
その抱っこしている人物はというと。
「サスケ!?」
片目を髪で隠し、黒いマントを着たカカシの元教え子の1人。
1年のほとんどを里の外で過ごし、何かあれば帰ってくる。
先日、帰還の報告は受けていたが、まさか迷子の娘と現れるとは。
サスケは片手で抱いていたハルカを降ろす。
ハルカは両手を広げるサクラの胸に飛び込み、サクラはハルカを思い切り抱きしめる。
「やはりお前たちの娘か。1人で泣いていたから連れてきた」
「ありがとう、サスケくん・・・」
サクラは目尻に涙を溜めて、ハルカを抱きしめながらサスケにお礼を言う。
カカシはハルカの頭を小突く。
「こらハルカ。ママに心配かけたらダメだろ」
「ごめんなさぁい・・・」
ハルカはサクラの顔を見ながら謝ると、サクラはよほど安心したのかまたギューとハルカを抱きしめる。
「悪かったな、サスケ」
「ほら・・・ハルカもサスケくんにありがとうして」
サクラは涙を拭い促す。
「ありがとう、サスケくん・・・」
「あぁ」
ハルカはサクラの服を握ってサスケにお礼を言う。
ナルトと違い、滅多に里にいないサスケに人見知りをしているのだろうか、とサクラは思っていると。
「ママ、ハルカきめた」
「え?」
急にハルカがそう言うから何のことか分からずにいると、ハルカはサスケの前まで歩いてしゃがむように手を動かす。
サスケは素直にしゃがむと、ハルカはサスケの顔に手を当てて。
右頬にキスをした。
「がっ!?」
サクラの後ろに立っていたカカシは目の前の光景に変な声を出す。
サスケは目を丸くしてハルカを見ると、とてつもなく見覚えのある笑顔。
それは下忍時代、毎日のようにしつこくアピールをしてきた少女に瓜二つだった。
「ハルカ、サスケくんのおよめさんになる!」
「キャー!いっちゃったー!」とハルカは恥ずかしそうにサクラに胸に飛び込む。
「え、なに、どういうこと?」
「ママいったでしょ?かなえてほしいおねがいごとするって」
サクラはここに来る時の七夕のお願い事のことを思い出す。
「もしかして、それがお嫁さん?」
「うん!」
ハルカは頬を染めて頷く。
どうやら助けてくれたサスケに一目惚れをしたらしい。
まさしくサクラの子供だ。
その顔を見ていたら、昔の自分を見ているようで恥ずかしい気持ちになる。
サクラはチラッとサスケを見ると、何ともしがたい表情をしていた。
友と師の子供にお嫁さん宣言をされたのだから。
すると後ろからものすごい音がして振り返ると、カカシが床に手をついて項垂れていた。
「せ、先生?」
サクラが呼ぶと、カカシは啜り泣き始める。
「サクラだけじゃなくて、ハルカまで誑かすなんて・・・」
「誑かしたことはない」
ふざけたことを言うなとカカシを睨む。
この世の終わりのように落ち込んでいるカカシの耳には入るわけはなく。
「お前には絶対ハルカはやらないからなぁぁぁぁ!!」
とうとう泣き叫び始めるカカシ。
この里で一番強くて尊敬される火影。
その長が今情けなく泣き叫んでいる。
そしてその次の火影となるのがあのウスラトンカチで。
この里はもうダメだな、と蔑んだ目でカカシを見るサスケに頬を染めて擦り寄るハルカ。
サクラは泣くカカシを慰めて。
周囲には火影の泣き叫ぶ声で集まる野次馬が。
その光景に、ずっと蚊帳の外で見ていたシカマルは息を吸い込んで呟く。
「めんどくせぇ・・・」
担任である先生がみんなに聞こえるように言うと、元気いい返事が部屋に響き渡る。
しかしハルカだけは返事をせず、ただ渡された紙を見ていた。
「ねぇ、ママ」
「なぁに?」
幼稚園からの帰り、もう少しで仕事が終わるカカシを2人で迎えに行く。
片手をサクラと繋ぎ、もう片方の手は渡された短冊の紙を。
「なんでたなばたに、おねがいごとするの?」
ハルカの質問にサクラは困ったように顎に手を当てる。
「ん〜・・・どうしてそう思ったの?」
「せんせいがね、おねがいごとかいてって。サンタさんでもないのに」
ハルカは紙を見て首を傾げる。
「だれにおねがいするの?」
「そうね。織姫様と彦星様かな」
「おり・・・?」
「お空にお姫様と王子様がいて、その2人が会う7月7日にお願い事する、っていうのかしら」
まだ3歳のハルカに分かるように答える。
「七夕は強いて言うなら叶えて欲しい願い事ね。お花屋さんになりたいとか、お姫様になりたいとか。そういうお願い事書いてみたら?」
「うん・・・」
ハルカは浮かない顔をしている。
まだ難しかったか、とサクラは苦笑し、カカシの元に向かう。
****
「はたけさん、少し宜しいですか」
火影棟に入ってすぐサクラは書類を持つ知り合いに話しかけられる。
「ハルカ、ちょっと待ってて」
ハルカが頷くとサクラは手を離して仕事の話をし始める。
ハルカは短冊の紙をピラピラと振りながら待つ。
しかし子供は何分もじっとしとくのは苦痛で。
「ママぁ・・・」
「ごめんね、もうちょっと待って」
サクラの服を引っ張って促すも、まだ話が終わってないのでサクラは謝って話を続ける。
ハルカは頬を膨らませて、ある場所が目に入る。
そこはカカシの仕事場へと続く道。
いつもサクラと手を繋いて何度も歩いたから、どうやって部屋に着くのか覚えている。
サクラ譲りの記憶力を持った小さな少女は満面の笑みになり。
「ママ!ハルカ、さきいってる!」
「え!?あ、ちょっと、待ちなさいハルカ!!」
サクラは走り出そうとするハルカの手を掴もうとしたが、父親譲りの瞬発力にその手は空振り、ハルカは思い切り駆け走る。
サクラは相手に謝って急いでハルカを追いかけた。
****
「ここ、どこぉ・・・」
サクラから逃げ切ったハルカは思い切り迷子になっていた。
真っ直ぐ行けば執務室に着くのだが、色々目移りしてしまい、知らない場所に辿り着いてしまった。
「ママぁ、パパぁ・・・」
自分がどうやって来たのかも分からない。
ハルカのダークグレーの瞳からボロボロと涙が溢れだす。
人がいない薄暗い廊下を啜り泣きながら歩いていると。
「何してる」
目の前に黒いのが急に現れ、ハルカはビックリして顔を上げる。
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「カカシ先生!ハルカここに来てる!?」
執務室のドアが勢いよく開いたと思ったら、サクラが息を切らしながら入ってくる。
いつもなら執務室に来る時はちゃんと分別をつけて"六代目"と呼ぶサクラが。
カカシとシカマルはビックリして目を見開く。
「来てないけど。なに、どうしたの」
カカシは椅子から立ち上がりサクラの側に寄る。
「ごめんなさい。少し手を離したら1人で先生のところに行くって走っちゃって。急いで追いかけたんだけど見当たらなくて」
サクラは今にも泣きそうな顔をして顔に手を当てる。
カカシはそんなサクラの肩を優しく抱きしめる。
「大丈夫だって。それ建物に入ってからだろ?」
サクラはカカシの胸の中で頷く。
「ここに来るなら外には出ないだろうし、厳重に警備されてるここに不審者は入れないよ」
な?、と安心させるよう言うと、サクラはまた頷いてカカシの背中に手を回す。
カカシはサクラの背中を優しく撫でる。
「シカマル、悪いんだけど」
「分かってます。ここに来たらすぐに連絡しますんで」
「うん、お願い」
カカシはマントを脱いでシカマルに渡す。
「私、さっきの場所に戻ってみる!もしかしたら戻ってるかも──」
気を取り戻したサクラはまた勢いよくドアを開けて、視線を廊下の奥に向けたまま固まっている。
「サクラ?」
カカシが不審がると。
「ママ!」
廊下から愛娘の声が聞こえてきて、カカシは慌ててサクラの後ろから廊下を見る。
「あ、パパ!」
そこにはこの騒動を招いた張本人が満面の笑みで笑って抱っこされているではないか。
その抱っこしている人物はというと。
「サスケ!?」
片目を髪で隠し、黒いマントを着たカカシの元教え子の1人。
1年のほとんどを里の外で過ごし、何かあれば帰ってくる。
先日、帰還の報告は受けていたが、まさか迷子の娘と現れるとは。
サスケは片手で抱いていたハルカを降ろす。
ハルカは両手を広げるサクラの胸に飛び込み、サクラはハルカを思い切り抱きしめる。
「やはりお前たちの娘か。1人で泣いていたから連れてきた」
「ありがとう、サスケくん・・・」
サクラは目尻に涙を溜めて、ハルカを抱きしめながらサスケにお礼を言う。
カカシはハルカの頭を小突く。
「こらハルカ。ママに心配かけたらダメだろ」
「ごめんなさぁい・・・」
ハルカはサクラの顔を見ながら謝ると、サクラはよほど安心したのかまたギューとハルカを抱きしめる。
「悪かったな、サスケ」
「ほら・・・ハルカもサスケくんにありがとうして」
サクラは涙を拭い促す。
「ありがとう、サスケくん・・・」
「あぁ」
ハルカはサクラの服を握ってサスケにお礼を言う。
ナルトと違い、滅多に里にいないサスケに人見知りをしているのだろうか、とサクラは思っていると。
「ママ、ハルカきめた」
「え?」
急にハルカがそう言うから何のことか分からずにいると、ハルカはサスケの前まで歩いてしゃがむように手を動かす。
サスケは素直にしゃがむと、ハルカはサスケの顔に手を当てて。
右頬にキスをした。
「がっ!?」
サクラの後ろに立っていたカカシは目の前の光景に変な声を出す。
サスケは目を丸くしてハルカを見ると、とてつもなく見覚えのある笑顔。
それは下忍時代、毎日のようにしつこくアピールをしてきた少女に瓜二つだった。
「ハルカ、サスケくんのおよめさんになる!」
「キャー!いっちゃったー!」とハルカは恥ずかしそうにサクラに胸に飛び込む。
「え、なに、どういうこと?」
「ママいったでしょ?かなえてほしいおねがいごとするって」
サクラはここに来る時の七夕のお願い事のことを思い出す。
「もしかして、それがお嫁さん?」
「うん!」
ハルカは頬を染めて頷く。
どうやら助けてくれたサスケに一目惚れをしたらしい。
まさしくサクラの子供だ。
その顔を見ていたら、昔の自分を見ているようで恥ずかしい気持ちになる。
サクラはチラッとサスケを見ると、何ともしがたい表情をしていた。
友と師の子供にお嫁さん宣言をされたのだから。
すると後ろからものすごい音がして振り返ると、カカシが床に手をついて項垂れていた。
「せ、先生?」
サクラが呼ぶと、カカシは啜り泣き始める。
「サクラだけじゃなくて、ハルカまで誑かすなんて・・・」
「誑かしたことはない」
ふざけたことを言うなとカカシを睨む。
この世の終わりのように落ち込んでいるカカシの耳には入るわけはなく。
「お前には絶対ハルカはやらないからなぁぁぁぁ!!」
とうとう泣き叫び始めるカカシ。
この里で一番強くて尊敬される火影。
その長が今情けなく泣き叫んでいる。
そしてその次の火影となるのがあのウスラトンカチで。
この里はもうダメだな、と蔑んだ目でカカシを見るサスケに頬を染めて擦り寄るハルカ。
サクラは泣くカカシを慰めて。
周囲には火影の泣き叫ぶ声で集まる野次馬が。
その光景に、ずっと蚊帳の外で見ていたシカマルは息を吸い込んで呟く。
「めんどくせぇ・・・」